二人の時間
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ピンポーン
(来た…!)
呼び鈴の音がして駆け足で玄関へと向かう。
ガチャ…
「石井さん、こんばんは!」
「おう」
玄関の扉を開けると、黒っぽい服装に身を包んだ私服姿の石井さんが立っていた。
今日はこれ以上外出しないからか、サングラスは掛けていない。
そう、今日の彼は私の部屋で泊り。
(久しぶりに二人きり…!)
にやける顔を我慢しながら、彼の荷物を預かり奥の部屋へ向かった。
・ ・ ・
夕食と入浴を済ませると、二人ソファーに座ってくつろいでいた。
そこでふと、彼にある物を見せようとしていたことを思い出した。
「そういえばこれ、買いました!」
じゃーん!と言って隣に座る彼に見せたのは、今週の週刊プロレス。
「石井さんのかっこいい写真、載ってましたね!」
ペラペラとページをめくって、1ページに大きく載せられた石井さんの写真を眺める。
優しくて落ち着いた普段の石井さんも好きだけど、ちょっと怖くてかっこいい、試合のときの石井さんも大好き。
雑誌から顔を上げて彼を見ると、表情も変えなければ雑誌を覗こうともしない。
「見てねぇ。」
そうポツリと呟いた。
どうやら自分が載っていることも知らなければ、興味もないようだった。
「…ほ、ほら!この石井さん、すっごくかっこいいですよ!」
彼にそのページを大きく開いて見せるが、「ふぅん」とだけ返された。
(あれ、おかしいな…もっと喜んでもらえると思ったんだけど…)
予想に反して微妙な空気になってしまったことに焦り、慌ててページをめくった。
するとそこには爽やかな笑顔をした飯伏選手の写真が載っていた。
「あっ、この写真もいいですよね。飯伏選手、かっこいい!」
「……」
(石井さんなら絶対に試合で見せない笑顔だなぁ…)
「飯伏選手は笑顔が素敵ですよね。なんていうか、華があるっていうか…」
「………」
すると話を遮るようにして、視界に手が伸びてきた。
「!」
その手は私が持っていた雑誌を取り上げ、側にあったテーブルへと投げやった。
「…石井さん?」
「つまんねぇ。」
彼の表情は言う通り退屈そう…というよりも不機嫌そう。
(もしかして、やきもち…?そうだったら嬉しいけど、石井さんに限ってそれはないかも…。)
「楽しくないですか?」
「楽しくない。」
(そ、即答……)
彼の視線の先は既に私ではなく、つけっぱなしになっていた目の前のテレビに向けられている。
「……」
こんなつもりじゃなかった
今日は久しぶりに二人きりで会えるんだから、本当は…
石井さんに喜んで欲しい、石井さんに笑って欲しい…
日頃会えない寂しさを埋めるような
そんな幸せな時間が過ごせたらいいなって、思ってたのに……
「…だったら、」
私は石井さんの大きな体に抱き着くと、縋るようにぎゅっと彼の服を掴んだ。
「本当はこうしたいなって…会えない間、ずっと思ってました。こういうことも、石井さんにとっては楽しくない…ですか?」
そう言ってしばしの間、彼にぎゅーっとしがみついた。
「……」
「…きゃっ!?」
すると急に両手で腰を掴まれたかと思うと
軽々と持ち上げられ、向かい合うようにして彼の足の上に座らされた。
そのまま彼の太い腕が私の体を包み込み、力強く抱き締められた。
(あったかい…)
彼の大きく分厚い体に包まれる。
自分の鼓動が速くなっているのがわかる。
もしかすると彼にも伝わっているかもしれない。
私は再び彼の体に腕を回し、抱き締め返した。
彼の心臓の脈打つ音がトクトクと聞こえる。
心が落ち着き、思わずスン、と匂いを嗅いだ。
(石井さんの匂い…)
彼の匂いを感じながらしばらく抱き締め合っていると、
夢中になってつい先ほどまでの会話を忘れてしまうところだった。
私は抱き締めていた腕を緩めると、彼の顔を見上げてもう一度尋ねた。
「石井さん…楽しいですか?」
すると彼はフッと笑った。
「…楽しい。」
そう呟くと彼の顔が近づき、静かに口づけられた。
目を閉じた私は、それに応えるよう石井さんの首に腕を回す。
彼の温かな腕の中で、長い夜の始まり感じた。
fin.