🐺 -beast side-
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#04 第二日目(1)
カーテンの隙間から差し込む太陽の光
あまりの眩しさに私は目を覚ました
朝か
時計を見ると、もうすぐ7時になるところだった
むくりと上体を起こす
不慣れな硬いベッドのせいか、身体中が痛い
私は大きく伸びをし、あまり生活感のない部屋を見渡した
昨日お湯で洗ったインナーが雑に干されているのを、視界の端の方で捉えた
___そうだ、昨日
いや、昨日というか今日______
寝起きの微睡みから一気に現実に引き戻されて、嫌なものが身体中を駆け巡った
五、六時間前の目黒さんの姿と
あの時の感覚が蘇る
気分が悪い
これからも続けなきゃいけないと思うと、本当に吐き気がする
狂ってる
私は干してあったインナーを着た
ほんの少し鉄の匂いがした
やるか
私は昨日着ていた服を抱えながらそっと部屋を出て、顔を洗いにシャワールームへ向かった
そういえば、このゲームは妙に親切だ
もちろん投票とか夜の殺害とかそういう話は全く親切じゃないが
私達が包丁を拝借しに行ったあの部屋には、誰が食べるんだこの量って言いたくなるほど大量の食べ物があるし、キッチンシステムも一通りある
それにシャワールームもあり、まるでホテルかのように綺麗な状態でバスタオルが準備されていた
さらに人狼への配慮なのか、部屋に設置された金庫の中には黒いインナーと黒いTシャツが綺麗に畳まれた状態で入っていた
やつらは何がしたいのだろう
ただ単に、私達にこのゲームをさせたいのだろうか
狂ってる
洗面台の鏡に向かった私は自分の虚像を見つめてみた
◯◯「___酷い顔」
私は硬い蛇口をギュッとひねり、ひんやりと冷えた水で顔を洗った
肌に染み込んだ冷たい水が、心の淀みを綺麗にしてくれている気がしてなんだか心地よかった
顔を上げて鏡に向かった時の私の表情は、さっきよりもすっきりしていた
ふと思い立って、
壁にかかった文字盤の大きい時計に目をやった
7時30分を示していた
___行かなきゃな
私は綺麗に山積みされたタオルを乱暴に手に取り、顔に押し当てた
人間味のない新品のタオルの匂いが鼻を刺激した
行くとはいえ、みんなどこにいるのだろうか
あの広間だろうか
呑気にご飯でも食べているだろうか
それとも実は怖がって部屋から出ていないとか
私は昨日事を為したインナーの上から、自分の服を着た
とりあえず二階かな、お腹も空いたし
行くあてが見つかった私は使用済みのタオルを雑に洗濯機に放り投げ、シャワールームを後にした
シャワールームから真っ直ぐ進んで全員の部屋の前を通り、奥の階段へ向かった
目黒さんの部屋の前を通る時だけ、妙に緊張した
毎回上る度に気持ちの持ちようが異なるこの薄暗い階段を、一歩一歩踏みしめた
階段を上りきった時、あの部屋の扉が開いているのに気づいた
しかも電気もついていた
___誰かいる
私は開いたドアからゆっくり部屋を覗いた
もう既にほとんどの人が集まっていた
居ないのは渡辺さんと岩本さんだけだろうか
みんな思い思いに食事をしている
が、表情はかたい
ラウ「___ンぎゃあ!」
突如現れた私に驚いたのか、ラウールくんがお猿さんみたいな声を上げた
佐久間「何びっくりした」
ラウ「な、なんだぁ、◯◯さんかぁ」
阿部「もっと堂々と入ってきていいんだよ、こっちがびっくりしちゃうから笑」
随分驚かせてしまったみたいだ
というのも、誰が現れて誰が現れないのか、という緊迫感が高まっているのもあるだろう
ドアを閉めながら、少し申し訳なくなって私は軽く頭を下げた
頭を上げてふと右奥の方を見ると、深澤さんと目が合った
さっき覗いた時はかなり深刻そうな顔をしていたが、今私を見る彼はなんだか緊張の糸が切れたような表情をしている
深澤「◯◯もなんか食べなよ、ここ空いてるから」
深澤さんは私を彼の隣の席へ来るよう促した
私はダンボールからまるでパン屋で売られているかのような立派なクロワッサンを手に取り、促された席に座った
私はみんなの様子を伺ってみた
どこか気が張り詰めているようではあるが、普通に会話を交わしている
平気なのだろうか
阿部「俺昨日全然寝れなかったんだよね」
佐久間「マジ?」
阿部「逆に佐久間は寝れたの?」
佐久間「俺ね、超寝た」
阿部「笑、佐久間っぽいね」
佐久間「怖くて絶対寝れねえわとか思ってたけど、気疲れだよね、しんどいわ」
阿部「それはあるね、俺は寝なかった分疲労マックスだわ」
阿部さんは、佐久間さんと仲睦まじく言葉を交わしていた
素直すぎると聞いていた佐久間さんが
意外と平気で嘘をついていることに少し衝撃を受けた
深澤「寝れた?」
彼らの会話を聞いてか、クロワッサンをもぐもぐ食べる私の顔を覗き込みながら深澤さんが尋ねてきた
◯◯「あんまりです」
深澤「やっぱりねー」
◯◯「やっぱり?」
深澤「だって___」
深澤さんが何か言いかけた時、ドアが大きく開いた
岩本「__うっす」
阿部「おお」
寝起きで明らかに機嫌が悪そうな岩本さんが現れ、阿部さんは分かりやすい反応をした
きっと安堵しているのだろう
岩本「あれ、俺最後?」
宮舘「いや、まだ翔太と目黒が」
岩本「翔太?翔太ならさっきそこに___」
言い終わる前に、岩本さんの後ろから眠そうな渡辺さんが部屋に入ってきた
渡辺「なんだぁ、みんなここにいたのか」
どうやらみんなを探し回っていたようだ
渡辺「マジで腹減ったわ、なんかいい飯あった?」
みるみるうちに顔が青ざめていく周りの様子などつゆ知らず、渡辺さんは冷蔵庫を漁り始めた
全員食事の手が止まっている
渡辺さん以外誰一人言葉を発しなくなった
渡辺「あれ、みんなどしたの笑」
様子がおかしいのにようやく気づいたようだ
渡辺さんはこの場にいる全員の顔をじっくりと見た
渡辺「___なんで目黒いないの?」
ラウールくんの顔が分かりやすく変わった
そう、目黒さんは、来ない
ラウールくんが椅子を倒す勢いで立ち上がった
まるでこの世の終わりみたいな顔をしている
岩本「ラウール待って、行くな」
ラウール「無理だよそんなの!」
完全にラウールくんは取り乱している
叶いもしない事だが、私は声をかけてみた
◯◯「も__もしかしたら騎士が守ってるかも、寝過ごしてるだけかも」
ラウール「今はそんなの関係ないじゃん!」
ラウールは倒れた椅子をそのままにして駆け出した
私達も慌てて後を追った
ラウール「ああああああああああ!!!!」
私たちが階段を降りきったと同時に、廊下中に悲鳴が響き渡った
それはあまりにも絶望に満ちた叫びだった
目黒さんの部屋の前に駆け寄った
太陽の光と蛍光灯に照らされた暗赤色の体
鈍く輝く刺さったままの包丁
部屋の真ん中で立ち尽くすラウールくん
何故だか急に膝に力が入らなくなった
深澤「___お前っ!大丈夫かよ」
深澤さんが咄嗟に体を支えてくれた
既に知っている光景のはずなのに
改めて見たその光景は残酷さを増していた
昨夜は私じゃない私に身を委ねていたせいか仕方ないという気持ちが強かったが
自我を取り戻した今はとにかく自責の思いに苛まれた
人狼たるもの、こんな調子じゃやっていけないのは重々承知しているはずなのに
佐久間「、う、うわぁああああああ!!」
宮舘「___」
佐久間さんの悲鳴は演技ではないだろう
私達はただ、苦しかった
ラウールくんが振り返った
酷い顔だった
この数分間で一気に歳をとってしまったかのような、そんな顔だった
深澤「ラウ___」
誰も上手く声を掛けることができず、沈黙が訪れた
未だに、血液の匂いが感じられた
その匂いがこの場にいる全員の心を深く抉った
ラウール「___ねえ」
魂が抜けた声でラウールが呟いた
ラウール「シンプルにさぁ___この中の誰かがこれやったってことだよね」
誰も答えない
私は固唾を飲んだ
ラウール「許せない、その人も、このゲームも___」
虚ろな目でラウールくんは私達に訴えかけた
このまま留まるわけにもいかず、私達は部屋から立ち退くことにした
岩本さんはラウールの肩を抱き、その大きな体を支えていた
部屋から一歩廊下側へ踏み出たところで、私達は扉の方を振り返った
全員の視線が注がれる中、103と書かれた扉を岩本さんがゆっくりと閉めた
彼らを繋ぎ止めていた何かがひとつ、途切れた気がした
空気は重かった
とても食事をしに戻るテンションではなかった
口を開いたのは阿部さんだった
阿部「そういえばさ」
空気を読んで控えめな調子で話し出した
阿部「舘様昨日、役職あるって言ってたじゃん」
偶然、いや、必然に、佐久間さんと目が合った
私の目に映る彼は、何かを訴える目をしていた
多分彼の目にも私が同じように映っているだろう
きっと阿部さんは今から宮舘さんに役職を尋ねるだろう
ただ昨日___共有者云々の話をしていたせいで、宮舘さんの役職について全く口裏を合わせていなかった
どうしたらいいのだろう
阿部「役職、なんだったの?それでなんか分かった事とかないの?」
佐久間さんは息を呑んだ
その右手は強く握られている
緊張が伝わった
私はただ、宮舘さんの方を見ていた
信頼、切望、動揺___全ての思いを自分の眼差しに込めた
宮舘「俺は___」
宮舘さんは私達の方をゆっくりと振り返った
宮舘「俺は霊媒師、で、康二は村人陣営だった」
佐久間さんの目には、動揺の色が強く浮かび上がった