🐺 -beast side-
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#03 第一日目(3)
あれから一人で過ごすこと数時間
時計の針はいつの間にか18時半を指していた
投票は19時だが、きっとみんな早く集まるだろうし
なにかしら手が打てるかもしれない
役職あるフリする、みたいな事は宮舘さんとの話で出たが結局どうするかは決めてないし
なんなら肝心のもう一人の人狼の佐久間さんとはまだ一度も話せていない
その時はその時、か
私は重い腰を上げてあの広い吹き抜けの部屋へ向かった
恐る恐る入り口から入ると、もう既にある程度の人数は集まっていた
阿部さん、ラウールさん、向井さん、
そして宮舘さん、佐久間さんといった顔ぶれだ
これから起こりうる事を想像しているのか、向井さんは虚空を見つめている
知的で処理能力が高そうな阿部さんも、流石に深刻そうな顔をしている
とても重たい空気が流れているように見て感じられた
すると、視線を感じたのか、
阿部さんが私の存在に気がついた
阿部「あぁ___◯◯さんか、こっちこっち」
手招きされた私は阿部さんと宮舘さんの間の椅子にゆっくりと腰掛けた
沈黙が訪れた
時計の秒針が刻む音、そして同時に自分の心臓の音が体全体に響き渡る
誰も、何一つ言葉を発しようとしない
私はこれからの立ち振る舞いを考える事にした
___初っ端から村人側が自ら騎士を名乗るなんて事は絶対に有り得ないから騎士はまだ無理だ
占い師は___当たり前だが自分は人狼だから村人側を言い当てる面での齟齬は生じないが
占い師を名乗るには役職も特定する必要がある
だが現時点で人狼側が村人側の役職を推測し特定するにはまだ情報が不十分すぎる
いやー、困ったな
人狼は三人というかなり有利な状況のはずなのに、初手でまあまあ詰んでる
なんにしろ、やった事がないんだから
どうしようか
そうこうしているうちに、部屋には全員が揃っていた
最初に口を開いたのは阿部さんだった
阿部「___あのさ」
全員の視線が阿部さんに注がれた
阿部「みんな、誰が人狼だと思う?」
阿部さんの言葉に、全員の目が泳ぐ
阿部「やっぱり言いにくいよね、なんの情報もなしで投票なんてできっこないからちょっと聞いてみたんだけど___」
確かにそう、情報がないとなにも出来ない
だが流石にこの状況で「こいつだと思います!」って言う人はまず居ないだろう
まだ夜を迎えていないため占い師も動けておらず、これといった証拠は全くないのだから
だからこそ、自分の発言がもしかしたら関係の無い村人を死に至らせてしまう気がして
そして逆に無理に発言すると自分が怪しまれてしまう気がして、誰一人明言できなかった
私もあたかも村人側かのように、言いづらいフリをしていた
投票まで、あと20分を切っていた
ラウ「予備投票とか、どうっすか」
現役高校生のラウールくんが消え入りそうな程小さな声で呟いた
岩本「予備投票?」
渡辺「なんそれ」
ラウ「なんの情報もないままただ闇雲に投票しても___結局村人側が不利になっちゃう可能性が高いから、今現時点で怪しいな〜って思う人せーので指さしてみたりしたらどうかなって」
宮舘「そうすればそこで投票した理由とかそれに対する反応とかで実際に投票する人を絞れるかもしれないってことか」
ラウ「そゆことです」
パチンと指を鳴らした
目黒「へー、頭いいじゃん」
なるほど
下手にうっかり票を集めてしまうよりかはいいかもしれない
それに結果次第では抜け道が見つかるかもしれない
賛成
深澤「やってみる?」
深澤さんの一言で、全員が居住まいを正した
ゴクリ、という誰かが息を呑む音が聞こえた
いくら予備とはいえ、流石に緊張する
ラウールくんが静かに瞼を閉じて深呼吸をした
ラウ「せーーーのっ」
各々が思い思いの人へ人差し指を突き出した
何も考えていなかった私は
とりあえず真正面にいた渡辺さんに指をさした
向井さんに指をさしていた渡辺さんは
はぁ?と言わんばかりの表情で私を睨んだ
とりあえず頭を下げておいた
予備投票の結果は、意外とわかりやすいものだった
向井「___え、えぇぇぇぇええええ!?なんでぇ!?」
どこから出てんだよ、と思うくらい大きな声で向井さんが叫んだ
ラウ「えっと、阿部ちゃんとふっかさん、しょっぴーと◯◯さんに1票ずつ、あと舘さんに2票、それで___康二くんに4票」
向井「お、俺ぇ?なんでなん?俺はちゃうねんて、なあ、なんでなん?」
最も多くの票を集めた向井さんは
立ったり座ったり目黒さんを揺すぶったりして大パニックに陥っている
ていうか私にも票が入っている、ほう、ラウールくん
渡辺「落ち着け」
向井「無理よこんなん!なあしょっぴぃいい」
渡辺「お前今めちゃめちゃすがってるけど俺はお前に入れてんだからな」
岩本「俺も」
向井「はえっ!?照にぃ!?なんでよぉ!?」
さっきまで恐怖で縮こまってたのに今となっては目が血走り、声のボリュームも100倍くらいになっている
ここは内輪の問題か、そっとしておくことにした
佐久間「ちょ、落ち着いて、さ、なんで照と翔太は康二に入れたの?」
久々に佐久間さんの声を聞いた気がした
岩本「俺は」
不貞腐れたような声で岩本さんが話し出した
岩本「シンプルに様子が変だなって思ったから。康二が村人側ならもっと不安になって誰かの所に行くかなって思ったんだけど、なんかずっと一人でしゅんとしてるし」
向井「それはちゃ___」
渡辺「俺もそう」
向井「しょっぴー........!」
向井さんが悲痛な叫びをあげた
渡辺「だっておかしいと思わない?俺今日こいつとトイレで会ったけど、いつもなら飛んでくるくせに目も合わせてこなかったもん、いつもと違う」
◯◯「そんなになんですか?」
向井さんの普段を知らない私は
思わず隣の阿部さんに尋ねていた
阿部「康二は人懐っこくていつも誰かに付きまとってるような人なんだよ」
阿部さんは小声でこちらを見ずに答えた
私はふーんと頷きながらしばらく向井さんの様子を眺めていた
目黒「で康二は誰に入れたの?俺は康二には入れてないけど」
目黒さんが艶やかな髪をかき上げながら尋ねた
康二「俺はだてや、舘さんに入れた」
阿部「あー俺も」
康二「せやろ?阿部ちゃん俺もそう思うねん」
投票では疑われたものの、仲間が見つかった向井さんは安堵の表情を見せている
目黒「なんで?」
康二「落ち着きすぎてんねん!こっちこそおかしいと思わん?」
目黒「俺には普通に見えるけど」
康二「ちゃうねんて!普段はそうや、でも今はちゃうやん?」
阿部「俺もそう考えてる、プラス、シンプルに舘さんが人狼だったら怖いなっていう気持ち」
そうか
私は宮舘さんが普段から彼らに対しても紳士的である事を察した
確かにジェントルマンが人狼だと気持ち的にも怖い気がする
とはいえ宮舘さんが疑われているのはこちらとしてはあまりよろしくない
ちょっかいを出してみる事にした
◯◯「怖いとかそういう気持ちで入れちゃうんですか」
阿部「んーまあ、一応予備だし、仕方ないところは」
まあ、そうだ
自分で仕掛けたくせに割と正論を言われて
何も言い返せなくなっていたら、どこからか視線を感じた
渡辺「いやお前も気持ちじゃん」
視線を感じた先には腕を組んで椅子にもたれかかっている、明らかに不機嫌そうな渡辺さんがいた
渡辺「お前、それ、俺の事嫌ってるからじゃないの?」
それ、と言いながら渡辺さんは顎で私をさした
どうやら私が適当に渡辺さんに投票した事に対してのことらしい
◯◯「や、違います」
渡辺「違いますって、じゃあなんだよ笑」
さっきまで鋭い目つきで威嚇してきたのに今度は表情を緩めて笑いだした
この人機嫌いいのか悪いのか全然分からない
ここは正直に、分かんないので適当にさしましたー、って言おうか
あれ、もしや特大ブーメランなのでは
数秒前にちょっかいを出した事に少し後悔したが、まあなんとかなるだろう
いや、やめておこう
◯◯「___なんとなくです」
なんとなく、というワードもなかなか特大ブーメランなのは重々承知な上で、私は言い返してやった
みんなが私を見ている
いや、なんでこんな事になってんの
そもそも渡辺さんがわざわざ突っかかって来なかったら良かった話
最初から分からないあの人は
恐る恐るみんなの様子を伺ってみた
数秒遅れて、ラウールくんが笑い出した
ラウ「気持ち以上にすごいのきたね笑」
佐久間「まさかのパターン」
芸人かというレベルでツッコミが飛んでくる
深澤さんは何故か耳を真っ赤にしながら肩を震わせて笑っている
何が面白いのだろう
向井「でもまあわからんのは事実よね、初対面なわけやし___ってなんで俺庇っとんねん!」
向井さんのフォローも虚しく、渡辺さんは目も合わせてくれなくなった
なんとも言えない空気感になってしまった
おまけに変に注目を浴びてしまったため、票を集めてしまうかもしれない
あぁ、死ぬかも、ごめんと先に心の中で二人に謝った
物音一つしなくなっただだっ広い部屋
時計の針は18時50分を指していた
投票までもう時間がない
この場にいる誰もがそう思っていた
ふと視線を感じ顔を上げると、深澤さんと目が合った
しかしすぐに目は逸らされた
この人もよく分からない
背筋を伸ばしながらゆっくりと口を開いたのは岩本さんだった
岩本「___どうするよ」
誰一人答えない
私もここで変な事は言えなかった
宮舘「俺は」
宮舘さんが口を開いた
宮舘「二票入ってる以上怖いから言っとくけど、役職はある」
渡辺「マジ?」
マジ?はこっちの台詞だった
ちょっと、早くないか
佐久間「え、ちなみになんなの?」
打ち合わせなしの佐久間さんは余計に焦っているように見える
まあいつでも焦っている気がするが
宮舘「いや、でもこれ言っていいのかな」
一体何を言うつもりなんだろう
まさかノープラン?彼に限ってそんなはずは無い
ただ見守る事しか出来ない
占い師とか、霊媒師とか、そんな馬鹿な
___霊媒師、
ラウ「いや、言わない方がいいと思うよ」
少し間を開けて、ラウールくんが答えた
ラウ「後々の事考えて今は言わない方がいい、タイミングで」
宮舘「わかった」
全員が信じ込んだように思えた
この後宮舘さんがやられることはないだろう
だがこれが後々吉と出るか凶と出るかは今の私には分からなかった
ひとまず、詳しい事は後で聞くことにしよう
投票時間は刻々と迫っていた
話は向井さんの疑惑に戻った
向井さんに投票した人達全員の言い分を聞いては向井さんが反論する、この繰り返しだった
しかし向井さんの反論はもう意味をなしていないように思えた
深澤「このままだとやっぱり康二が怪しいんだよね」
目黒「極力投票したくないんだけどな、康二いいのお前」
目黒さんが何か期待するかのように訴える
きっと目黒さんと向井さんは特に親交があったのだろう
そりゃ自分の手で大切な人を死に追いやりたくはない
向井「ちゃう!ちゃうんや___俺は___」
物言いたげな表情を見せた
食い気味に目黒さんが体を前のめりにした
向井「俺は___俺は!共有者や、共有者、実はな」
佐久間「はえ?」
彼の「はえ?」に、この場にいる全員の気持ちが代弁された気がした
今更何を言っているんだろう
◯◯「え___今?」
阿部「なんで今更そんな事言うの康二」
投票10分前のまさかの告白に全員が戸惑いを隠せない
佐久間さんは手と頭をフル回転させて今の状況を理解しようとしている
彼はずっと忙しい
向井「ちゃうねん、言おうか迷っててん、今言うべきなんか分からへんかったから」
ちなみに共有者は村人側の中に二人存在していて、
特に占う、とか守る、とかいう能力は持たないが
お互いが誰なのかちゃんと分かるようになっている
そのため例えば、
占い師を偽った人狼が共有者の片割れに対して「こいつは人狼です」と言えば
それはもう片方の共有者にとって嘘だとすぐに分かる
よって人狼が炙り出せたりする
まあ賢い人狼はこんな事はしないが
そしてなによりも、二人同時に名乗り出れば村人側であるという事を完全に証明する事が出来る
そのため共有者は最初に名乗り出るケースが多い
___にしては向井さん、分からなさすぎる
どういうつもりなんだろう
この状況を理解している人は一人もいなかった
岩本「ちょっと待って、ストップ笑」
深澤「お前、共有者なの?」
向井「そうや、俺は共有者」
渡辺「全然わからん」
ラウ「なんで今言うの?康二くん」
向井「こんだけ変に疑いかけられるくらいなら役職言うた方がええと思て」
ラウ「でもね康二くんもう一人出てこない限り余計怪しくなっちゃうよ」
向井「え___?なんでなんラウル」
ラウ「死にたくなくて苦しまぎれにそれっぽい役職言ってるだけのように聞こえるよ」
向井「ちゃう、ちゃうんや」
岩本「なんか今もう一人出てこられてもここまで来たらそいつも怪しいけどな」
宮舘「で、もう一人は誰なの?」
場が静まり返る
全員が向井さんの口から放たれる言葉を待つ
向井「それは___言えへん」
苦しそうな表情で呟いた
深澤「なんで言えないの?」
向井「それは___」
ラウ「共有者じゃないから、だよね」
向井「違う!違うのラウル」
ラウ「じゃあ言えないとか意味わかんないじゃん」
ああ、そうか
そういうことか
私は向井さんの謎発言の意味を理解した
彼は相棒の名前を言う事ができないのだ
というのも、相棒は名乗り出る事が出来ないからだ
多分、もう死んでいるから
宮舘「___それ、相棒に口封じしてるとかそういう事はない?」
向井「いや___」
徐々に追い詰められる向井さんの顔は歪み始めてた
向井「頼む___頼む、信じてくれ___」
向井さんと出会ってから一日も経っていないが、とんでもなく悲痛な顔をしてた
目からは大粒の涙が溢れている
これは彼の全力の命乞い
目黒さんは俯いている
深澤「やばい、時間」
深澤さんの呟きで、全員が時計を見た
19時だった
岩本「やべえ時間が___」
ラウ「___は、早くしないと」
この手で向井さんを死に追いやると考えるとやはり躊躇うものがある
気づけば私以外の全員、目に涙を浮かべていた
目黒「康二__」
向井「早くしてくれ、せやないと」
佐久間「無理だってこんなの___」
向井「はよぉ!」
あんなに命乞いしていた彼が
今はむしろ仲間を守るかのように叫んだ
ビビりまくる周りに対し、向井さんの男気に私は触発されていつの間にか叫んでいた
◯◯「せー!!の!!」
反射的に全員の人差し指が、向井さんに向けられた
当の彼は、何故か微笑んでいた
向井「みんな___俺の分まで、生きてや?」
それが彼の最期の言葉だった
彼が俯いた次の瞬間、激しい銃声音と共に
彼の胸に五発ほど銃弾が撃ち込まれた
鮮やかな血が吹き上がり、彼は儚く散った
即死だった
まるで時が止まったかのような静けさに包まれた
全員が、目の前の現実を受け入れられずにただ愕然としている
今朝の理子の姿がフラッシュバックした
ああ、理子もこうやって死んだな
どこからともなく現れた機関銃
僅かに痙攣した指先に託した期待
失われていく目の光
何かがゾクゾクっと蘇った
やだな、もう
早くここを出て、犯人を警察に突き出してやりたい
というより犯人をぶち殺してやりたい
もちろん、理子の為にも
そのためにはまず勝たないとな
何があっても絶対に生き抜いてやる
そう心に誓った
一度静けさを取り戻していた部屋では
いつの間にか八人の悲鳴と嗚咽が響いていた
0時を迎えた
結局あの後、目黒さんと岩本さんが遺体を向井さんの部屋まで運んだ
私も含め、他の皆も二人に続いた
いくら仕方なかったとはいえ、向井さんに投票したのは事実
彼をベッドに寝かせ、全員でゆっくりと部屋の扉を閉めた
どこか複雑な気持ちになっている自分がいた
宮舘さんも浮かない顔をしていた
そっと自分の部屋の扉を開け、廊下へ出た
ほぼ同時に、2つ隣の部屋の扉と一番奥の部屋の扉が開いた
宮舘さんと佐久間さんだった
私達は目で会話をし、二階のあの部屋へ向かった
昼間深澤さんにちょっかいを出されたこの部屋は、
ただただ食料があるだけでなく一通りの調理が可能なキッチン台も設置されている
つまり、その類のモノを手に入れるためにここへ来た
佐久間「___なあ俺本当に分かんないんだけど」
宮舘「何が?」
佐久間「いや、全部」
直球すぎる言葉に思わず吹き出した
佐久間「だって俺ら一回も打ち合わせなしで今日過ごしてきたじゃん」
宮舘「あ__」
そういえば佐久間さん抜きで宮舘さんと会ってたんだった
同じことを思ったのか、宮舘さんと目が合ってしまった
佐久間「なに!?お前ら___口裏合わせてたの!?そんな馬鹿な___俺は??」
宮舘「いや、大した話はしてないから大丈夫だよ、な、◯◯」
◯◯「そうだね、宮ちゃん」
佐久間「いつの間に仲良くなってんの___!?」
佐久間さんはおろおろしている
そんな佐久間さんを相手にせず、私達は例のモノを探した
宮舘「あ___あった」
顔を上げると、いかにも新品そうな包丁を掲げる宮舘さんがいた
蛍光灯の光を反射した包丁はとても鋭そうに見えた
宮舘「これ、何時までに終わらせないと行けないんだっけ」
佐久間「2時だったような__」
宮舘「そっか、じゃあまだ時間あるね」
宮舘さんの目の色はもう既に変わっていた
彼は完全に、「やる」気だ
佐久間「なあ!待ってくれって」
宮舘「何?」
佐久間「二人とも、なんでそんな出来るんだよ、なんで割り切れるんだよ」
彼はまだ仲間を一人失ったショックから立ち直れていないようだ
仲間を殺すなんてそんな、といった感じだろうか
私は言ってやった
◯◯「割り切るっていうより、そうしたいの」
佐久間「え?」
◯◯「大切な人を失ったからこそ、絶対にこのゲームに勝って、生き残って、仇を取りたい」
宮舘「俺も」
佐久間さんは黙り込んでしまった
気持ちはまだ複雑なようだ
そりゃ、やらなくていいならやりたくない
でも今は、やらなきゃいけない
そう思いながら私は自身と葛藤する佐久間さんの様子をただ見つめていた
宮舘「そういえば」
宮舘さんが話し出した
宮舘「康二の相棒は理子さんだったんだと思う」
佐久間「え?」
宮舘「だから言えなかったんだと思う」
やっぱり
向井さんが同じ共有者である相棒の名前を言えなかった時に私が気づいたのは、それだった
恐らく理子は共有者だったのだ
役職を見ることなく、死んでしまったが
佐久間「え?どういうこと?なんで?」
パニックにパニックが重なった佐久間さんが尋ねる
◯◯「例えばの話、普通に相棒が生きてたらその人が名乗り出たら良かった話だし向井さんも名前を言えばよかったと思うんだけど、理子が相棒だったと考えると、あの場で理子が共有者だって言っても死んでる以上正直信用なんないから言えなかったんだと思うの、って考えるとやっぱり理子だったんじゃないかなって」
宮舘「理子さんの名前出してもあの状況じゃ逃げ道にしか思われないもんね」
目の前の佐久間さんは必死に頭を回転させている
佐久間「___でもあの場で証明できれば良かったんじゃないの?例えば逆に共有者の人が居たら二人同時に名乗りあげろよ、的な」
佐久間さんにしてはマシな回答が返ってきた
◯◯「確かにそうすれば立証できたかも」
宮舘「でも康二はしなかった、パニックできっとそこまで考えられなかったんだろうね」
宮舘さんは一息置いた
宮舘「これは多分、チャンスだと思う」
私たちは固唾を飲んだ
死んでしまった二人の役職がほぼ確定してチャンスを見い出せたところではあるが
とにかく今はこれからの「相手」を決めなければならなかった
◯◯「___で、誰にしますか」
控えめに私は尋ねた
◯◯「今日の感じで怪しまれやすい人を残して、シンプルに役職ありそうな人を選びたい気はするんですけど」
宮舘「そうだね」
◯◯「正直私から見たら全員怪しいからなんとも___二人的にはどうですか」
身内間でどう捉えるか
これが意外と鍵だったりするのかもと思い、尋ねた
佐久間「俺的にはふっかと阿部ちゃん、あとラウとか?」
宮舘「阿部とラウールは普通に頭いいもんね」
ラウールくんの名前が出たのが結構意外だった
そういえばラウールくん、予備投票で唯一私に投票してたような
ラウールくんも要注意だな、私は脳内の要注意欄に彼の名前を書き足した
◯◯「じゃあその三人以外___って事は岩本さんと渡辺さんと目黒さん」
佐久間「照はだめ」
間髪入れずに佐久間さんが言った
◯◯「そうなんですか?」
佐久間「俺、照大好きだから自分の手じゃ殺せない」
宮舘「言うと思ったよ」
どうやら佐久間さんと岩本さんはみんなが認めるニコイチのようだ
そりゃ誰だってやりたくない
◯◯「じゃあどちらか___」
場が静まり返る
渡辺さんか目黒さんか
究極の選択を余儀なくされている二人
そんな二人を見るのがただ辛かった
佐久間「めめにしよう」
え、という表情を見せる宮舘さん
私もまさか佐久間さんから言い出すなんて思いもしなかった
宮舘さんは開いた口が塞がらずにいる
佐久間「___嫌だろ?翔太は」
佐久間さんがそんな事を尋ねた
宮舘「___ああ、申し訳ない」
どういう事か分からなかったが、深掘りしない事にした
宮舘さんは大きく深呼吸した
宮舘「行こう」
私は後に続いた
足音を立てないようにゆっくりと階段を降り、私達は目黒さんの部屋へ向かった
みんな恐れおののいてるのか、周りの部屋からは物音一つしない
前を歩く宮舘さんの足が止まった
" 103 目黒蓮 "
蓮、綺麗な名前だな
呑気にそんな事を思った
宮舘さんが私達を見た
「いくよ」と言わんばかりの目をしていた
心拍数が上がったのを感じた
佐久間さんは俯きながらギュッと拳を握っていた
力が込められたドアノブはゆっくりと回り、そのままドアは開いた
ドアを開けた先には、布団も被らずにベッドに横たわっている目黒さんの姿があった
脚が長すぎるためか、どこか窮屈そうにしている
佐久間「寝てんの___?」
後ろから超小声で呟く声が聞こえた
宮舘「いや、わかんない」
私達は目黒さんの方へ近づいた
瞼を閉じて、目黒さんは綺麗な顔で眠っていた
私達が顔を覗き込んでも起きる気配はなかった
宮舘「目黒___」
宮舘さんは背中に隠していた包丁を逆手に持ち変え、腹部目がけて大きく振りかぶった
しかしその包丁は振り下ろされず、いちばん高いところに留まっていた
佐久間「___涼太?」
宮舘「___」
その手は震えていた
◯◯「やっぱりできな___」
気配を感じたのか、
私が言い終わるや否や目黒さんが目を覚ました
目黒「うおっ」
思っていたより呑気な声を上げた
現状が理解できていないのか、瞬きもせず固まっている
◯◯「___起きちゃった」
佐久間「ああ___」
私達の言葉に目黒さんは反射的に時計を見た
目黒「あ、そゆこと」
状況を把握した目黒さんが、大きな伸びをしながらやっと言葉を発した
目黒「うわー、一番ないと思ってたわ、そこ三人」
特に怖がったり抵抗したりする様子もなく、ゆっくりと体を起こしながら私達三人をまじまじと眺めている
目黒「___もう終わりかぁ、早いな」
そう言って目黒さんはドサッとベッドに仰向けになった
目黒「もうこの際いつでも来ていいから、仕方ない」
目黒さんは微笑んで再び瞼を閉じた
自身の死が確定しているのに
どうしてこんなに余裕を持っていられるんだろう
普通大声を上げたり逃げ回ったりするものだと思っていた
九人のお互いの信頼関係の強さに脱帽した
とはいえ、もたもたしている訳にはいかなかった
宮舘さんの大きく振りかぶった手は未だに震えていた
私はその手に自分の手を重ね、強く握った
◯◯「一緒にやろう、勝って、仇討とう」
私の言葉に、宮舘さんも佐久間さんも腹を括ったようだった
包丁に、より強い力が込められた
佐久間さんは目黒さんの口を抑え、目元を隠した
力を思いっきり込めて、振り落とした
鈍い音とともに、包丁が腹部を切り裂いた
目黒さんは何一つ声をあげなかった
「ひっ」と佐久間さんの短い悲鳴だけが聞こえた
ゆっくりと引き抜くと、血に染まった包丁は鈍く輝きを放っていた
一度自分を悪に染めてからは早かった
私達は何度も何度も、刺しては抜いてを繰り返した
飛び散る返り血に身体中が赤く染まった
もう私達は、別人のようだった
彼が息絶えたところで、佐久間さんは口と目元を覆っていた手を離した
彼は死に顔も美しかった
佐久間「___相変わらずかっこいいね、めめ」
佐久間さんは虚ろな目で呟いた
無惨な姿になった目黒さんを見るに堪えなくなった私達は部屋を後にした
真っ赤に染まった手の平に
私達は自責の念といくらかの自信を感じていた