🐺 -beast side-
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#02 第一日目(2)
役職を確認した私はさらに気力を失いかけていた
もちろん人なんか殺した事無い
そんな事自分にできる訳が無い
でも___やらなきゃいけない
チラッと仲間二人の様子を伺ってみた
一人は有り得ないほど落ち着いているし、もう一人は有り得ないほどソワソワしている
全く正反対な二人と共に戦う事に、少しばかり不安を覚えた
渡辺「___こんな状況の中で超言いにくいんだけど」
口を開いたのはあの気だるそうな人だった
渡辺「なんか__マジでやるしかなさそうだし、とりあえずそいつの為にも名前だけ言っとかね?」
そいつ、とはどうやら私の事らしい
私の為に、ってことはどうやら9人は本当に顔見知りのようだ
かなり年齢に差があるように見えるけど、一体どういう繋がりなんだろうか
彼の言い方に若干不快感を覚えたが、名前がわからない以上きっと不便な事もあるだろう
申し訳なさそうに会釈してみると、彼から自己紹介を始めてくれた
渡辺「渡辺翔太、よろしく」
本当に名前しか言うつもりがないらしい、無愛想
深澤「深澤辰哉です、一応美容師で、あのーちなみに俺らはなんやかんや巡り合わせで仲良くなったってやつ」
華奢眼鏡の深澤さんは、比較的落ち着いている
なんやかんやって、何よ
岩本「俺は岩本照、筋トレが趣味でジムで働いてる」
ほう、筋トレが趣味なこの強面のお兄さんに
この先戦いを挑むには相当ハードルが高そう
ラウ「ラウールです、高校生です」
脚長お化けのラウールくんはどう考えても高校生に見えないくらい垢抜けていて大人っぽい
そりゃ明らかに年上であろう8人と普通に馴染めるわけだ
向井「む、向井康二です、見ての通り、関西の人間や」
一番ビビりの声高関西人向井さんは喋れば喋るほど声が小さくなっていく
目黒「目黒、モデル、よろしく」
テクノカットは目黒というらしい
よく見るとさすがモデルさん、スタイルが抜群
宮舘「宮舘です、アパレル店員をしています」
どこか上品なオーラが漂う宮舘さんはとんでもなく落ち着いている
服に金属がたくさんついていておもしろい
佐久間「ダンサーの、佐久間大介です!」
さっき騒ぎまくっていた佐久間さんは空気を読んで少し抑えているようだ、意外と大人
阿部「理科教諭の阿部亮平です」
知的な匂いがプンプンする阿部さんを見て、頭の中に「なんとなく要注意人物」と付け足した
渡辺「___で、お前は?」
ちょっと挑発的な物言いにやはりイラッときた
◯◯「___◯◯、◯◯です」
目黒「へぇ、可愛い名前じゃん」
深澤「ちょ目黒」
こいつはナンパでもしに来たのだろうか
人が死んだのに相変わらず危機感のない人
阿部「___さっきの子はお友達だったの?」
阿部さんが控えめに尋ねてきた
さっきの子、とはきっと理子の事だろう
◯◯「___理子は昔から付き合いがある、なんか、親友みたいな人、でした」
でした、という言葉が胸を切り裂く
深澤「______そっか」
また空気が重くなる
自分が空気を悪くしたみたいで、なんだかひどくきまりが悪い
阿部「___なんか、今晩にも投票、しないといけないっぽいし、このまま皆で居るのもあれだから、とりあえず解散しない?」
沈黙を破ったのは阿部さんだった
彼の一言で皆は思い思いに席を立ち、決められていた自室へ向かった
___彼はやっぱり一目置かれているのだろうか
彼への認識が、「なんとなく要注意人物」から「結構要注意人物」へ切り替わった
怖いな
そう思いながら私もこの何もない広い部屋を後にした
とはいえ、今からどうしようか
今後のためにも他の人狼の二人と何か話しておきたい
しかし完全アウェーな私が今動くと真っ先に疑われるだろうし
9人が仲良しである以上部外者は票を集めやすい
これ以上の事をすると真っ先に死ぬだろう
二人の部屋に行くにはリスクが高すぎる
___さあ、困った
すると、誰かがドアをノックする音が聞こえた
宮舘「入るよ」
一番来て欲しいと思っていた人が来てくれたようだ
宮舘「はじめまして」
宮舘さんは言葉遣いも所作も何もかもが紳士的だ
まあ、服はジャラジャラしているが
◯◯「___なにか用でもありましたか?」
私はとぼけて聞いてみた
用も何も、目的は完全に分かっている
宮舘さんは少し考えてから話し出した
宮舘「理子さん?の事___僕らでさえショックを受けてるのに、◯◯さんはもっと辛いだろうなと思って___少しでも落ち着けるように心のケアをしに来たよ、なんてね」
後半すごく棒読みなもんだから、不覚にも笑ってしまった
◯◯「めちゃめちゃ棒読みじゃないですか」
宮舘「気のせいだよ、ていうか敬語いいよ」
宮舘さんは微笑んだ、意外と気さくな人だ
◯◯「あっ、いいんですか」
宮舘「好きに呼んで、宮ちゃんでも宮っちでも」
◯◯「それは無理です」
宮舘「だから敬語いいって」
なんだこの人、意外とおもしろい、そう思った
おふざけもここまでか、宮舘さんの目の色が変わった
宮舘「___で、どうしようか」
◯◯「どうしましょうか、あれ、佐久間さんは」
宮舘「彼は今ここに呼ぶには危険すぎる、でしょ?」
やっぱり彼に対してはそういう認識らしい
いくら場をわきまえていたとはいえ、少し彼は危なっかしい
宮舘「あと彼はね、素直だから顔に出るんだよね」
意外とピュアな人間らしい、変なの
佐久間さんはさておき、私達はこれからの事を話し始めた
◯◯「勝つには、私達の人数と村人側の人数が一緒にならないといけない、でしたっけ」
宮舘「そうだね」
人狼ゲームは最終的に、
村人側が人狼側を全滅させた場合、
もしくは人狼側の人数と村人側の人数が同じになった場合に勝敗が決まる
宮舘「どう立ち回ろうか、って話だよね」
◯◯「思ったのが、私完全にアウェーだからほっといたら多分一番最初に死にます」
宮舘「そうなると死活問題だね、俺と佐久間だけとか多分無理」
佐久間さん、一度も直接話せていないが
あてにされなさすぎでは
宮舘さんは続けた
宮舘「どうしよう、村人側ならまだしも俺らが黙り続けてたら怪しまれるのも時間の問題だよね」
◯◯「ですね」
人狼側の難しいところはこの普段の立ち振る舞いだ
もちろん黙っていればよいが、
疑われて占い師に占われるのも時間の問題、
さらに嘘をつくとしても上手く演じ切らないとすぐにバレてしまう
___どうしようか
黙り続けるよりも、一か八かでなにかしら手を打った方がよいと私は考えた
◯◯「役職あるフリして、投票の時の感じで上手くやれないかな」
宮舘「フリ?」
◯◯「例えば、投票の時に役職がある、とだけ言っとけばとりあえず票は集まらないだろうし、夜占われる事も多分ない、と思うんですけど」
宮舘「占われないってなんでなの?」
◯◯「最初の段階で村人側から見て役職ある人間疑う理由無いかなって、むしろ残しときたいと」
宮舘「なるほど、冴えてるね」
◯◯「ただ後々何の役職か聞かれた時に、本物の役職の人が生きている可能性は高いから、そこでこっちに完全なアリバイ突きつけられたらもうそこで終わり」
宮舘「ダメじゃんそれじゃ」
嘘をつくとしてもそれと同時に、
占い師なら占った相手と結果、
騎士なら守った相手、などといったアリバイ作りが必要となる
これをひとつ間違うと、本当に命取りとなってしまう
完全なアリバイ作りができる方法___私は考えを巡らせた
宮舘さんは天井のライトを見ながら口をぽかんと開けている
彼は考え事をする時はいつも口が開くのだろうか
宮舘「でも役職は占い師と騎士と霊媒師、あと共有者?があるから、抜け道はあるかもしれないね」
宮舘さんはゆっくりとそう呟いた
しばらく言葉を交わした後、投票の話になった
宮舘「投票はどうしようか、票固めたら確実に狙えるけど逆にバレる可能性あるよね」
◯◯「三人が同じ人に投票だなんて偶然にも程がある」
万が一誰かがそれぞれの投票先を記憶していた場合、
うっかり三人が同じ人に投票していた事が分かると疑われるのも無理はないだろう
宮舘「その場の空気を踏まえつつ、俺ら三人以外の誰か、って感じ?」
◯◯「一番無難ですね」
宮舘「了解」
そう言うと宮舘さんは、あっ、という表情を見せた
時計を見ると、宮舘さんが来てから15分以上は経っていた
宮舘「あんまり長居すると変に思われるから、帰るね」
宮舘さんは足早に部屋を去った
投票まであと五時間近くはある
そういえばここに来てから何も食べていない
ショックで食欲を完全に失っていたがこのままだと多分飢え死にする
___ご飯ないかな
私は食べ物を求めて部屋を出た
リノリウム張りの廊下が私の足元をぼんやりと映す
虚像はしつこく付き纏ってくる
こいつからも逃れられないと考えたら気が狂いそうだ
私達一人一人に与えられた部屋は、ホテルのように同じ一直線の廊下に面していて
突き当たりを曲がると二階に上がることができる階段がある
なんとなく二階へ上がってみた
この建物は吹き抜けとかいう変わったつくりになっていたため、部屋という部屋は階段を上がりきったすぐ側にあるくらいだった
ここは誰の部屋でもないみたい
普通に通り過ぎようとしたが、私は足を止めた
部屋の明かりがついていた
それに人のいる気配がする
まさか犯人と鉢合わせ、なんていう考えが脳裏をよぎったが、好奇心の方が勝ってしまった
恐る恐る部屋を覗いた
一番最初に目に飛び込んで来たのは、大きくて白いダイニングテーブルと大量のダンボールだった
そしてあれはなんだ?冷蔵庫らしきものがある
もしや、と思って一歩踏み出した、その時
深澤「なにしてんの」
◯◯「ひっ」
後ろから唐突に声を掛けられ、拍子抜けした声が出てしまった
私に声を掛けたのは華奢眼鏡の深澤さんだった
深澤「なあに俺のご飯狙いに来たの?やめてよー」
◯◯「ご、ごはん」
深澤「そうだよーなんかこの部屋ご飯いっぱいあるんだよねーさっき見つけたの」
扉の前で縮こまる私を差し置いて、深澤さんは部屋の奥へ行きダンボールを漁り始めた
見てみるとやはり、部屋の至る所にカップ麺やお菓子やパン、さらに冷蔵庫の中には野菜や果物だけでなく肉やデザートなどといった食料もあった
壁際には流し台やガスコンロ、電子レンジも設置されていた
深澤「お前も腹減ったっしょ?ほら、座ってこれ食いなよー」
深澤さんはドカッと椅子に腰掛けながら、いちごミルクのパンを右手に掲げた
私は恐る恐る深澤さんの隣へ座り、それを受け取った
久しぶりにものを口にする気がする、気がするだけだが
袋を開けるととんでもなく甘い香りがした
その香りに触発され、私はパンにかぶりついた
見た目からして甘そうないちごミルクのパンは、口の中の水分を全てもぎ取っていったが、ほんのり広がる甘さになんだか癒された
深澤「うまいの?それ」
深澤さんが興味津々に聞いてきた
◯◯「おいしい」
そう答えると、深澤さんは得意げな表情を見せた
深澤「俺にもちょうだいよ」
◯◯「へ?」
深澤「だめ?」
深澤さんは頬杖をついて私がもぐもぐと食べているのをじっと眺めていた
初対面の人のパン一口ちょうだいって、すごいなこの人
◯◯「あ___どぞ」
拒否る理由もなかったため、逆からパンをちぎって渡そうとした
すると隣で立ち上がったかと思いきや、
深澤さんはテーブルに手をつきそのまま顔を近づけて、私が手に持っているパンにがぶりと噛み付いた
一瞬、いちごミルクとは違った甘い香りがした
深澤「あ、ごめん、気にする人だった?」
呑気に深澤さんは呟いた
___いやいやいやいや、待て待て
気にするも何もそれ以前に、想定外の出来事すぎて、どうしたらいいか分からなくなった
深澤「あ、もしかして、悪い事しちゃった?」
◯◯「あっ、いや、違、ごめんなさい」
気づいた時には私はパンを深澤さんに突き返し、逃げるように部屋を出ていた
___なんのつもりなんだろうか
私の階段を駆け下りる乾いた足音だけが、廊下中に響いていた