🐺 -beast side-
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#09 第三日目(3)
白いTシャツに赤黒い染みを付けた彼は、岩本さんと佐久間さん、そして深澤さんの三人がかりで彼の部屋に運ばれた
阿部「____これで、良かったのかな」
ベッドに寝かせられた遺体を見つめながら、阿部さんは呟いた
阿部さんはさすがだな
毎度の如く関心してしまう
私もそんな事を思う余裕が生まれてしまっていた
もはや慣れてしまったこの光景に、嗚咽を漏らす者も逃げ出す者もいなくなっていた
二つの時計の針が、頂上で重なった
気乗りしないな
そう思いながら私は静かに自室の扉を開けた
薄暗くなった廊下をゆっくりと歩く
そこに映るのはいつもより影の薄くなった虚像
私は幽霊にでもなってしまったのだろうか
生きた心地がしなかった
まあ、本当に自分が幽霊だったならそれはそれでいい
____幽霊なら惜しまれることもあったけど
私は佐久間さんを探し、建物をさまよった
食事部屋に彼はいなかった
おかしいな____
15分程歩き回った末、建物の入口に腰掛けている佐久間さんを発見した
宮舘さんが私達に未来を託した、あの場所だ
そこに宮舘さんの遺体はなく、黒くなった彼の跡が残っているだけだった
佐久間「____一目見ておこうと思ったんだけどさ、なかったわ」
どうやら仏様は腐って更に無惨な姿に変わり果てる前に、何者かに回収されているらしい
明瞭に感じる"犯人"の気配に私は苛立ちを覚えた
◯◯「私はちゃんと、最期のご挨拶をしたので」
佐久間「は?いつ?」
私はポケットから例のものを取り出して掲げた
佐久間「ちゃっかりパクってんじゃん」
◯◯「遺品として頂戴しただけです」
掲げた輪をまたポケットにしまい込んだ
弱いエントランスの光が、寿命を知らせるかのようにチカチカと点滅し始めている
私は佐久間さんの隣に腰掛けた
ちょうど死角になっていたそこには、一丁の黒い塊が転がっていた
◯◯「どこで見つけたんですかこんな物騒なもの」
少し焦る私とは反対に
あ、これ?と呑気に佐久間さんは答えた
佐久間「部屋にあったんだよねー」
きっと金庫にでも入っていたんだろう
本当に親切な犯人、憎たらしい
有難く今からでも使わせてもらおう
私はぼんやりと開いたままの大きな扉の奥を見つめた
50m程先に門のようなものがあるのを薄らと確認できた
小学校にあるようなその重たげな金属の柵は、しっかりと閉められていた
そりゃ外からの助けとかも来ないわけだ
まあ、今更来られたところで、て感じだが
どうせ捕まるのは私達だ
変な思考回路に入った私の様子を見かねて、佐久間さんは立ち上がった
佐久間「____この感じだと、もし騎士が生きてたら多分翔太守るよね」
◯◯「そうなるね、てか間違いなく生きてるよ騎士は」
佐久間「ラウが騎士だったってちょっと考えにくいよね、あんだけ霊媒師って言ってて」
ラウールくんが実は騎士だった、という話は有り得なくはない
だが、騎士にはわざわざ霊媒師を名乗るメリットがないはずだ
佐久間さんは続けた
佐久間「今一番仕留められる可能性が高いのは?」
私は少し考えた後答えた
◯◯「__渡辺さん以外なら」
佐久間「ほんとに?」
◯◯「この状況、渡辺さんに人狼を暴いてもらうしか村人側が勝つ方法ないと思いません?」
現状、読みが間違ってなければ人狼が2で村人が2
そして役職持ちが2だ
ここで村人陣営は渡辺さんを失ったとしよう
もし人狼側に次の投票で票をかためられたりしたらもう歯が立たなくなる
渡辺さんを守る事が最善策なはずだ
しかし、私たちはここで安牌を取ることはできない
◯◯「でも今渡辺さんをやっておかないと、万が一今占われて人狼ってバレてたら」
佐久間「__やばいね」
◯◯「それこそ死活問題」
佐久間「うん、翔太にしよう」
どこか躊躇いのあるような声だった
私に向けられた目は揺れていた
◯◯「この後の立ち回りのプランは立ってる、だから一か八かで______やれる?」
そう言いながら、拾った拳銃をそっと佐久間さんの胸元にあてがうと
彼はゆっくりと瞼を閉じ、呟いた
佐久間「やらせてほしい」
拳銃を掴み力強い一歩を踏み出した佐久間さんに続いて、私は歩き出した
広間を抜け、各々の部屋がある廊下に辿り着く
四人が寝息か聞き耳を立てる中、目的の扉の前に歩み寄った
"107 渡辺翔太"
今から私は
さんきゅ、と言った彼を裏切る事になる
心を鬼にした
こんな私を神様は許してくれるだろうか
大きく伸びをした佐久間さんは
拳銃を背中に隠しながらドアノブに手をかけた
額に汗が浮かぶ
頼む、開いてくれ____
ドアノブを包んだ桃色の手は、ゆっくりと動いた
キィ、と扉が音を立てる
扉が開いた
私は大きく安堵の息を吐いた
◯◯「開いたね」
佐久間「ああ」
佐久間さんは鋭い目つきで部屋へ入っていった
渡辺さんはこちらを向いて座っていた
待ち構えていた、といった方が正しいのかもしれない
私と目が合った渡辺さんの瞳には、動揺の色が浮かんでいた
佐久間「よお、翔太」
渡辺「____マジで?」
◯◯「ごめんなさい」
私は無意識に謝っていた
しかし渡辺さんは激昂する訳でもなく
落ち着いて私たちの顔を交互に見た
渡辺「お前らだけは__疑わなかったのに」
渡辺さんは呟いた
佐久間「___翔太、ごめん」
渡辺「謝んな、仕方ねぇじゃん?」
初日の彼なら、こんな事は言わなかっただろう
やっぱりお前じゃん、なんて私に対して怒鳴り散らして散々暴れてくれたはずだ
すんなり死を受け入れている彼の姿を見て、色々余計な事を考えてしまった
まあ、こうなった理由として思い当たる節はきっと一つしかないが
彼は立ち上がり、ベッドに腰掛け直した
渡辺「俺さ、涼太死ぬ時あいつ振り返ろうともしなかったって言ったじゃん」
そういえばそんな事を言っていた
走って出入口に向かう宮舘さんを追いかけたのは、渡辺さんただ一人だった
渡辺「あれ、嘘でさ」
佐久間「嘘?」
思わず耳を疑ったが、私は言葉を待った
渡辺「うん___涼太さ、死ぬ前俺の方見たんだよね」
渡辺さんの顔は悲痛に満ちていた
渡辺「特に何も言ってこなかったんだけど、こうバチッと目が合ってさ____撃たれてからも這いつくばって俺の方に手伸ばしてて、だから俺、ずっと責任感じてたんだよね」
食事部屋で話した事が頭の中を駆け巡る
渡辺「でも、お前と話したら別に俺は間違ってなかったのかもって思えたんだよね」
渡辺さんはそう言って私の方を見た
二人で話をした時に同情の気持ちを抱いていた分、私は胸を締め付けられる感覚に襲われた
ひどく背徳感を感じる
渡辺「それに俺がここで死ぬって事は、もうほぼお前らが勝ったみたいなもんでしょ?」
渡辺さんは笑った
渡辺「涼太も喜ぶよ」
佐久間さんは顔を上げられずにいた
この人がこんな事を考えていたなんて、思ってもみなかったんだろう
渡辺「俺は涼太を殺しちゃったけど、ここまで来たらそこまで後悔しなくなってきた」
渡辺「しかも今から会えちゃうしね」
佐久間「翔太、お前____」
口では強がっているけれど
最後の最後まで宮舘さんに対する責任を背負いすぎている渡辺さんの姿に
"そういう事"の存在の強さを感じたと共に
ここで渡辺さんを手にかける酷さをも感じてしまった
いつの間にか体の横に下りてきていた佐久間さんの腕は、震えているようにも見えた
渡辺「その物騒なやつ、こめかみに当てるか喉奥に突っ込むかしてくれよ、任せるわ」
渡辺さんはベッドに腰掛け、さあ来い、といった面持ちだ
佐久間さんの目には涙が浮かんでいる
彼はそっと、渡辺さんのこめかみに黒い塊を押しつけた
佐久間「____喉奥はいっぱい血が出てグロいからやめとくわ」
腕だけでなくその声も震えていた
一方渡辺さんは微笑んでいる
全てを諦めた上の余裕だろうか
長針が9の文字の少し下で揺れている
赤らんだ人差し指が、トリガーに掛けられた
余裕ぶっていた渡辺さんも、顔がひきつっている
渡辺「なあ」
彼は弱々しい声で私に話しかけた
渡辺「割とビビってるからさ、手だけ握っといてくんない?」
渡辺さんらしい最期のお願いに、私は応える事にした
差し出された右手を両手で挟み、力を込めて握った
少し汗ばんだ彼の手からは、緊張が伝わった
裏切ったのに、敬遠する素振りも見せない渡辺さん
向こうで一緒に答え合わせができたらいいね
私は最後の罪償いとして、ポケットから例のものを取り出し
渡辺さんの右手薬指にそっとはめた
渡辺さんは目を大きく見開いた
彼が指輪から視線を私に移し、何かを言おうとしたその瞬間
容赦なくトリガーが引かれた
爆裂音と共に、僅かに火薬の匂いが鼻を掠めた
急に訪れる沈黙が、射撃音の大きさをこれでもかという程教えてくれた
佐久間「ごめん、翔太____」
佐久間さんは拳銃を落とし膝から崩れ落ちた
私は痙攣する渡辺さんの手を握っていた
が、その痙攣も直ぐに止んだ
横たわる渡辺さんのすぐ下で
シーツが赤い染みを広げていた
前髪をかき分け彼の顔を覗いた
安らかな死に顔であったことに少し安心した
私はまだ少し温かみを持つ渡辺さんの顔に付いた血液を拭き取ってあげた
____宮舘さんには会えただろうか
私は放心状態の佐久間さんの背を軽く叩き
一緒に部屋を去った
彼の頬に涙が流れた跡があったことに
私は気づかなかった