🐺 -beast side-
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#08 第三日目(2)
屋上に行くと時間の感覚がバグるらしい
自室に戻った私は、短針がゴシック体の11に重なろうとしている時計を見て驚いた
相変わらず朝から何も食べていない私
この状況に慣れきっている自分が怖いが、餓死だけは勘弁、と鉛のように重たい足を動かし二階へ向かった
食事部屋には誰もいなかった
シンクで山積みになっている食器は、率先して洗う人が居ないことを物語っている
私は呆れながらもシンクの前に立った
誰かが作ったであろうお味噌汁の鍋
人数分のお椀
無駄に多いお皿
水に浸されていない炊飯器の釜
家庭的な一面を感じて驚く反面、水くらい浸せよと思ってしまう自分がいた
が、どこか微笑ましくて何故か心が穏やかになった
無駄に多い白いお皿の最後の一枚を布巾で拭き上げると同時に、背後からあっ、と間抜けな声が聞こえた
振り返ると、見覚えのある人が立っていた
渡辺「なんか、ごめん」
◯◯「お構いなく」
渡辺「みんな食うだけ食って___いつも洗ってくれるタイプの人がいないから、つい____マジでごめん」
いつも洗ってくれるタイプの人、というのはだいたい予想がついた
しんみりしたくないは私は軽く受け流すことにした
◯◯「ほんとに、気にしませんから」
拭き上げたお皿を食器棚に直した
生まれた妙な沈黙に耐えかねた私は、話を振った
◯◯「渡辺さんはお昼ご飯の調達ですか?」
渡辺「あー、そうだね」
気だるく答えた渡辺さんは何だか気まずそうに辺りの物を漁っている
なにかを探している、って訳でもなさそうだ
私に用がある感じではなかったため
私はいちごミルクのパンを掴み、部屋を去ろうとした
が、それは制された
渡辺さんは突然、私のいちごミルクパンを奪い取った
渡辺「待てって」
◯◯「____なんですか」
渡辺「俺の質問に、答えてくれたら、このパンやるから、な、頼む」
どうやら渡辺さんにしては珍しく
私に対する用があったみたいだ
物で釣ろうとする小学生みたいなやり方に
どうせ対した内容じゃないんだろうなとあまり期待はしなかったが
私は黙って渡辺さんの言葉を待った
黙った私を見て渡辺さんはゆっくりと口を開いた
渡辺「お前、昨日なんでラウールに投票したの」
内臓がサッと冷える感覚がした
____バレた
渡辺さんは恐らく宮舘さんの役職を知ってそれを庇った
私も同じようにその宮舘さんを庇うような投票をした訳だ
あの時ラウールくんに投票したのは、渡辺さんと宮舘さん、そして私だけだ
そんな私を怪しんで、昨晩占ったとか
まさか
____終わった
ここまでまあ色々と、一人失ったり一度襲撃に失敗したりと大きなミスを繰り返してきたが
投票に関しては特に問題なし、なんて思っていた
今晩にも暴かれて終わりか____
しかしそんなことは全くの杞憂だった
渡辺「いや、俺がお前を疑ってるとかそういうんじゃないんだけど、別に昨日の夜お前占ったりしてないし」
私の表情が固まったのを見てか、慌てて手を左右にバタバタさせる渡辺さん
占ってない、という事実に私は内心ホッとした
渡辺「あの場の空気でさ、なんで俺の言う事信じたの?単純に」
それは____と言いかけて私は口を噤んだ
確かにあの時はどちらかと言うと、ラウールくんが場の空気を握っていたような印象を受けた
実際票数も、ラウールくんが誘導した方に固まった
信じたというより、都合良かったからだ
ただそんな事を正直に言える訳もない私は咄嗟に答えた
◯◯「ラウールくんの後付け感は私もちょっと思いましたし、きっとあの子頭良いから、なんか丸め込まれそうで怖いなと思って」
渡辺「そっか」
納得したように見えたが、渡辺さんはまだ何か言いたげな顔をしていた
その目をじっと見つめてあげると、ふぅと息を吐いて渡辺さんは再び話し出した
渡辺「◯◯ってさ、自分の大好きな人が死ぬかもしれない、ってなったらさ、どうする?」
そうか____
全ての辻褄が合う質問だった
やはり"そういう事"だ
パズルのピースが合わさったような感覚を覚えながらも、私は意地悪に答えた
◯◯「____それ私に聞きます?」
ここで理子の話を持ち出すのは反則だっただろうか
渡辺さんは口をぽかんと開けた後、ごめんと再び謝った
渡辺「野暮な質問だったね」
そう言って気まずそうに顔を背けた
その表情には幾らかの不安が入り交じっていた
彼が同情の言葉を求めているのは、その表情からよく分かった
◯◯「でも」
なんとも言えない空気を破って私は続けた
◯◯「あの時は動けなかったけど、多分今だったら____自分が盾になると思う」
渡辺「____だよな」
俺は盾になれなかったけど、なんて呟いた渡辺さんに対して
ここまで策士な事を言う自分が怖くなった
いくら自分が生き残るためだとは言え、平気で仮面を被る自分が嫌いになりそうだ
◯◯「逆に」
それでも私は尋ねた
◯◯「なんで私を占わなかったんですか」
渡辺「え?」
◯◯「そんな話されたら渡辺さん本当に宮舘さんを、って思っちゃうんですけど、それなら渡辺さん、普通私を疑うかなって」
大切な人が人狼だと分かって、庇ったはいいもののそんな人狼の味方をする見知らぬ人間
普通なら少しは疑って当然だろう
しかし、彼は占わなかった
あぁ、といった顔を見せた渡辺さんは
くるっと後ろを向いて部屋の中を歩き始めた
渡辺「なんて言うか、結果俺まで疑われる流れになっちゃった中で、信じてくれたの嬉しかったから」
疑う理由は俺にはない
それが彼の答えだったようだ
そう判断を下した彼に、いつしか心からの同情を抱いていた
渡辺「俺こそ逆に」
渡辺さんは立ち止まり振り返った
渡辺「俺と涼太を疑わないの?人狼だって」
渡辺さんの口からそんな言葉が出るとは思わず、私はまた顔が強ばった
彼の問いかけに対する答えは、現に私が人狼だからという一言で済まされる、もちろん言えないが
それにそうやって聞いてくる以上、やはり私が疑われている事はなさそう
疑いをかけられる覚悟の元で選択した
庇うという行動
彼も怖いんだろう
◯◯「二人揃ってお互いを庇う大胆な嘘をつく人狼なんて____疑いません」
人としての心が動いた私は、無意識にそう言っていた
渡辺さんは笑った
渡辺「じゃあ、全部バレちゃってるんだね」
◯◯「渡辺さんは、正真正銘の」
渡辺「そうだよ」
ダンボール箱からカップ麺を取り出した渡辺さんは、優しい顔を向けた
渡辺「なんか、さんきゅ」
渡辺さんは私にいちごミルクパンを手渡し、部屋を出ていった
私の言葉は、正しかったのだろうか
彼の優しい顔は、安堵の色も含んでいるような気がした
いちごミルクパンを持った私は再び屋上へ向かった
あまりの空腹に、胃の奥が縮んでいる感覚がする
私は手早くパンの封を開け、一口大にちぎった薄ピンク色のかたまりを口に放り込んだ
今晩、渡辺さんは昨日の占い結果を皆に話すだろう
私ではない誰か____と信じたいが____誰かしらの正体が暴かれるだろう
それが佐久間さんである可能性はまだ十分にある
おまけにラウールくんも、宮舘さんが人狼だったと報告するだろう
____詰んだか
いや、きっとまだだ
恐らく、確率は低いが、今晩の渡辺さんの発言次第で____
さっき屋上に来た時に企んだ賭けというのはこれだ
数時間後に迫る大一番の賭けに、私はわずかに高揚した
口に入れては溶けていく桃色のかたまりは、水分と共に私の恐怖心まで吸い込んだようだった
再び食事部屋に立ち寄りパンの空袋を捨てた私は、昼寝でもしようと自室へ戻ろうとした
◯◯「____今度はなんですか」
部屋のドアの前には、私を待ち伏せするフープピアスを光らせた例の人がいた
深澤「職業病を治しに来ましたー」
◯◯「私は医者じゃないです」
相変わらずこの男は
深澤さんを押し退け、私は自室に入った
深澤「冷たくなーい?ねぇー」
扉の向こうで駄々をこねる声が聞こえる
深澤「先生ーーー先生ーーー」
これ以上騒がれると困ると思い私は部屋の扉を開けた
その僅かな隙間から、切れ長の綺麗な目が覗き込む
深澤「入れてくんない?」
トーンが低くなったその声に圧倒され
私はすんなり深澤さんを部屋の中に入れてしまった
深澤「やったねー、お邪魔しまーす」
◯◯「帰ってくださいよ」
私の言葉を聞かず、目の前の男は呑気に床に座り込んだ
____この人の方が100倍策士だ
一瞬、一昨日の夜の臭いが残っているかもと焦ったが、二日も経った今その匂いは消え失せていた
私は深澤さんから少し間を空けて座った
深澤「いやーやっぱ誰かと喋んないと落ち着かねぇわ」
◯◯「別に私じゃなくてもいいでしょ」
深澤「他のやつ相手してくれねぇもーん」
◯◯「じゃあ私も相手しません」
深澤「そんな事言ってー結局してくれるんじゃーん」
完全に深澤さんに弄ばれている
少しでも気を許した私が馬鹿だったなと思った
だが、ここでの窮屈な生活を考えると別に悪くないなと思う自分もいた
てかそもそも、一人でノコノコと部屋に来て他の人に怪しまれないのかな
策士認定は撤回しておこう
なんて思っていたら、深澤さんが口を開いた
深澤「____なあ」
その声の弱さは、昨日の投票前の彼の姿と重なった
深澤「あと何人残ってるんだっけ」
◯◯「岩本さん、深澤さん、渡辺さん、阿部さん、佐久間さん、ラウールくん、私____七人です」
私は一人一人の名前をゆっくり唱えた
深澤さんは顔色をひとつも変えなかった
深澤「人狼は、今何人残ってると思う?」
深澤さんの目は、私の瞳の奥の奥を捉えた
私は答えた
◯◯「投票で死んだ二人と理子、この三人の中に人狼が一人も居なかったら、まだ人狼は三人残ってるはずです」
深澤「そん中に一人でも居たらまだゲームは続くよな?」
◯◯「はい」
深澤「じゃあその、万が一三人残ってたとしたら、もしかしてそういう事?」
◯◯「今晩の投票で人狼が死なない限り、村人陣営の負けが決定しますね、また騎士がスーパープレーを起こしたら別ですが」
深澤「でも投票で騎士が死んじゃったらもうほぼ確定みたいなもんでしょ?」
◯◯「____そうですね」
深澤さんは俯いた
今晩に終わる可能性はないよ、なんて言えるはずもなかった
気づけば私も俯いていた
深澤「俺さ」
深澤「このゲーム、勝てないと思うんだよね、村人」
深澤さんがそんなことを言うなんて、思いもしなかった
◯◯「なんで、そう思うんですか」
普通に動揺してしまった
深澤「だってさー、人狼、すごくない?」
私は黙り込んだ
深澤「平気で俺らの事騙すんだもん、まあ騙される俺らも俺らだけど」
淡々と話す深澤さん
深澤「昨日なんて俺、狙われたからね」
私は何も言えなかった
深澤「だから俺、いつ死んでもいいようにお前に会いに来たの」
◯◯「____え?」
余計分からなくなった
まるで今晩で死ぬこと前提な物言いの深澤さんに困惑していると
深澤さんは私と肩が触れる程の位置に詰め寄り、深呼吸をした
深澤「俺今までさ、初対面のお前に散々絡んだじゃん」
何を今更、
そう思いながらも私は次の言葉を待った
深澤「あれさ、迷惑だった?」
深澤さんは隣に座る私の顔を覗き込んだ
耳元で光るフープピアスが、いつもより煌めいて見える
◯◯「嫌____な時もありましたけど」
深澤「けど?」
やっぱり、策士だ
◯◯「どこか楽しんでる自分もいました」
私は正直に答えた
何を言わされてるんだろう
深澤「良かった」
少しの沈黙の後、深澤さんは一言、優しく言った
ん?
良かった____って?
◯◯「良かったってどういう____」
言葉を紡ごうとした私の口は、深澤さんの唇に塞がれてしまった
種類の違う二つの甘い匂いが、ふわっと香った
甘い香りは鼻腔をくすぐり、脳を溶かし始め____なんて言いたいところだったが
なかなか離れないその唇を相手に、私は冷静になっていた
所詮、人たらしの、美容師
眼前にいるこの男が何を思っていようとそう思っておこう、自分に言い聞かせた
やっと離れた辰哉さんの唇は艶を帯びていた
私の頬が熱を持っているのは、多分気のせい
深澤「____悪ぃ」
辰哉さんはきまり悪そうな顔をした
深澤「どうせ死ぬ未来なら、ちゃんと気持ちは伝えとかなきゃ、だろ?」
死ぬって決まった訳じゃないのに____
照れくさそうなその顔は、人たらしの美容師ではなく、単純に男の子の顔だったような気がする
深澤「所詮美容師とか思うなよ?てかマジキモイよね、出会って三日だぜ?」
◯◯「私に一目惚れ要素なんてありました?」
深澤「それがねー、あったんだよね」
最初から最後まで意味がわからない
結局内心まで読み取られてたし
でもこれも悪くないな、なんて思ってる自分がいた
なんだ、デジャブだな
◯◯「____私が人狼だったらどうするの」
つい出来心で聞いてみた
が、辰哉さんは笑った
深澤「関係ねーよそんなの」
独りよがりだけど、独りよがりじゃない
私はこの人に振り回されてばっかだ
◯◯「そっか」
こんなにも自分の立場を恨んだのは、久しぶりだ
深澤さんを部屋へ帰し、私は現状を整理した
ラウールくんが霊媒師で、渡辺さんが占い師、そう仮定する
そうなると残りの村人は岩本さん、深澤さん、阿部さんの三人だ
このうち一人が騎士であるが、深澤さんはそんな騎士に実際に守られていた人であるためその可能性はない
つまり、二分の一
しかし、どちらもあのタイミングで深澤さんを守ろうとするような人には見えない
____分からない
まあ、ここまで絞れただけマシだと思おう
そもそも前提が違えば元も子もない
あとは渡辺さんが占った相手が佐久間さんでないことを願わないと____
考える事を諦めた私はベッドに背中から倒れ込んだ
相変わらず背中に硬さを感じていたが
私の意識はいつの間にかその硬い塊に吸い込まれていたらしい
目が覚めた____やばい
慌てて時計を見ると、長針は9を指していた
何やってんだこんな時に
あと15分、急いで部屋を出た
広間に入るや否や、六人の視線が体に刺さった
佐久間「遅かったね」
佐久間さんは、これで怪しまれたらどうするんだ馬鹿、とでも言いたげな表情で私を見ている
◯◯「すみません____ついウトウトしちゃって」
岩本「ほんとに?」
岩本さんは悪そうな顔で私を見てくる
そういえばこの人、未だに話した事ない
岩本「ふっかが廊下でうるさいの、割と聞こえてたんだけど____ねぇふっか」
深澤「なんの事?」
深澤さんはケロッとしている
博士号ならぬ策士号と、助演男優賞でもあげたいくらいの振る舞いだ
得意げな顔をする深澤さんに岩本さんは詰め寄った
岩本「なんかしたな?」
深澤「したって?」
渡辺「ちょ、ストップ、その辺で止めよ」
どうやら、この人たちはあらぬ勘違いをしているようだ
しかし私は特に否定することなく空いている椅子に腰かけた
阿部「皆揃ったね」
私の様子を見て、阿部さんが話し始めた
阿部「まず、役職持ちの二人の話を聞きたい気持ちは山々なんだけど____」
全員の視線が阿部さんに向けられた
理科の先生の大発明品に備えて、私は心の準備をした
阿部「思ったんだけど、昨日舘様に票が集まったって事はみんなラウールを信頼したはずなのに、なんで騎士はラウールを守ってないんだろう」
やはり、気になるところは同じだったようだ
すかさず、佐久間さんが答えた
佐久間「それは単純に騎士がラウールを信じてなかった側の人間だったって事なんじゃ?」
阿部「いや、それならその騎士は翔太を守るはずなんだよ」
佐久間「____確かに」
即効で論破された佐久間さんは、しゅんと体を縮こませた
◯◯「てことは、まさか騎士__」
阿部「そう、どうしてもふっかを守りたかったか、適当に選んだか、っていう動機になるね恐らく」
なんて無責任な騎士だ
どちらにしろ、酷すぎる
これこそ独りよがりだ
そんな私の耳に飛び込んできたのは、とっておきの朗報だった
渡辺「占い、深澤、村人」
それが当然かのように渡辺さんは呟いた
深澤「まあそうだよね人狼来たし」
なんて都合のいい話だろうか
やっぱり渡辺さんは正真正銘の占い師だ
そう思っているのは私だけだろうけど
____いや、知らしめてやろう
私は身を乗り出した
◯◯「待って、占いあってるんですか?」
深澤「あってるよ、普通に村人だし、人狼だってきた」
私はどんどん続けた
これは____いける
◯◯「じゃあ昨日宮舘さんが霊媒師って言ったのは本当って事ですよね、渡辺さんが占ってるんだから」
ラウ「あれは違うんだって!!」
思ってもみなかった展開に、ラウールくんは立ち上がって猛烈に反発した
しかし私は怖気付いたりはしなかった
岩本「確かに」
ほらみた
今の流れは、完全に私達のものだから
私の意図に気づいたのか、佐久間さんも応戦した
さすが
佐久間「違うってなに?」
とぼけるように尋ねる佐久間さん
やっぱりこの人は二日間で演技が上手くなりすぎだ
ラウ「霊媒師は俺なの!しょっぴーは嘘ついてます」
ラウールくんは完全に冷静さを失い始めた
深澤「待て、わからん」
冷静さを失ったのは一人だけではなかったみたいだ
私は続けた
◯◯「そもそも深澤さんの部屋に人狼が来たのも本当なんですか?」
答えたのは、意外と落ち着いているこの男だった
岩本「俺の隣の部屋から音がしたから多分本当」
深澤「起きてたんだ」
岩本「まあな」
◯◯「じゃあ騎士が深澤さんを守ったっていうのは事実ってことで____」
私は身を引いた
近くには髪を乱しながらも自身の潔白を主張するラウールくんの姿
ラウ「どっちにしろ!」
彼はすごい剣幕で話し始めた
ラウ「俺を守ってくれなかった騎士はほんとに訳がわかんないっす、霊媒師だっていうのに」
阿部「本当に?」
ラウ「えっ」
ここに来て、阿部さんが動いた
阿部「さっき騎士はふっかを守りたかったか適当に選んだかって言ったけど____流石に騎士、適当に守る事はないと思うんだよね」
ラウ「どういう事?」
阿部さんの発言に、ラウールくんは一歩一歩と阿部さんの方に詰め寄り始めた
阿部さんは狼狽えることなく続けた
阿部「現にラウールは守られなかった、かつ翔太でもない他の人が守られたって事は」
私は彼らの喉仏が上下に大きく動いたのを視界の端で捉えた
阿部「単純にわざわざラウールを守る理由がなかったんじゃないの?____たとえ騎士が昨日の投票の時点でラウール側に立っていたとしても」
ラウールくんは目を大きく見開いた
ラウ「それって____」
彼の体からは、力が抜けつつあるように見えた
ラウ「___どっちにしろ信頼されてなかったってこと?」
私は賭けに勝ったようだった
時計の針が12の文字に重なった瞬間、私達は一方向へ指を突き出した
指で指した先にいた彼は、その五秒後に背中に赤い花を咲かせて散った
____舘さんは人狼だったんだって!
必死の彼の抵抗も功を奏さなかった
皆を上手く利用した私の心には
もう温かみなど残っていなかった