🐺 -beast side-
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#07 第三日目(1)
目が覚めた
真っ白な低めの天井が視界に飛び込んでくる
あぁ、寝た気がしない
カーテンを乱暴に開き、寝ぼけ眼で太陽の高さを確認する
___どうやらまだ自室から出れる時間では無さそうだ
私は上体を起こした
それにしても、ひどく気分が優れない
といっても体調というより気持ち的にだが
昨晩襲撃に失敗した後、私は一人で建物の出入り口へと向かった
宮舘さんの姿を見るためだ
食事部屋から出て再び階段を降り、みんなの部屋の前を通った
あんなに騒いでいた割には、案外直ぐに寝静まっていた
足音を立てないようにゆっくり廊下を突き進み、広間へと抜けた
誰かが整えたのだろうか、広間の椅子は綺麗な円を描いていた
秩序を乱すことなく並ぶ椅子を横目に私はさらに奥へと突き進んだ
私の目は奥にある出入り口を捉えた
ゆっくり、ゆっくりとエントランスホールに近づき、少し離れた所から私は出入り口の扉付近を恐る恐る見た
外側に大きく開いたガラス扉が、弱いエントランスの照明を反射している
ガラス扉の向こう側を見ると、赤黒い染みが広がってるように見えた
私は意を決して扉の前に立った
宮舘さんは扉の近くで、頭をこちら側に向けてうつ伏せの状態で絶命していた
彼の周りには、撃たれた後何かしら動いたと見られる血痕があった
______ガラス扉を押し開けて二歩程前に出た所で撃たれて___倒れて______何を思ったのか最後の力を振り絞って這いずりこちらへ体を向けた後に息絶えた______といった所だろうか
身体中に何発も銃弾が撃ち込まれた跡があった
服にたくさんついていた綺麗な金属の装飾も、血液が付着し鈍く光っていた
私は扉の際に座りこんだ
宮舘さんが力を振り絞って地面を掴んだ右手はこちら側に真っ直ぐ伸びていて、私が手を伸ばせば触れられる距離にあった
___少しなら、別に撃たれないだろう
私は扉の先に手を伸ばした
宮舘さんの大きな右手の甲を掴んでみた
冷たかった
まあ、当たり前だが
大きな感情が一気に胸にこみ上げた
言うまでもなく、際限のない悲しみだ
人の死を強く感じてしまった
だが、不思議と涙は出なかった
私は彼を掴んでいた手を離し、彼の薬指で輝いていたブランド物の指輪にそっと手を触れた
エントランスの僅かな明かりを反射し、まるで生き物のように煌めいている
まだ此処に、彼の魂が宿っている気がした
彼が精一杯戦った証______私は彼の薬指からそっと指輪を外した
私はその指輪をまじまじと眺めながら、宮舘さんに思いを馳せた
"絶対生きて帰ろう"
___本当は、こうなるはずじゃなかったのに
ごめんね___無意識にそう言っていた
私は立ち上がり、扉に背を向けそのまま自室へ戻った
私は深呼吸をした
昨晩から身体の中に溜まっている黒い空気を取り替えようとした
だがやはり昨日の出来事は相当なダメージ
すぐに気持ちを切り替えることは出来なかった
私はベッドから這い出た
まだ部屋は出れない
ふと、金庫に目をやった
扉はきちんと閉まっている
若干の違和感が残る
まあ、いいか
私はシャワールームへ行く支度をした
昨日入りそびれたお風呂に入るためだ
目黒さんを殺めた時は返り血の汚れが凄かったため直ぐにシャワーを浴びたが、昨晩は血を浴びることなく夜を終えてしまった上に気持ち的にもお風呂に入る余裕がなかった
とはいえ、お風呂に入らずに今日一日を過ごす訳にはいかない
一応、女の子ですから
とりあえずパパっと済ませて皆の元に行こう
そう決めて私は7時になるのを待った
扉を開ける音が、四方八方から聞こえてきた
皆動き出したようだ
私は服を抱えてシャワールームへと向かった
___あぁ、憂鬱だな
どうせ三十分後くらいに集まった時に
誰も減ってないからザワザワするんだろうな
人狼が襲撃失敗した〜とか言われるに違いない
ここで騎士を確定できる手がかりが掴めたらいいが
このゲームはそんな簡単にはいかないって分かりきっている
そんでもって理科の先生の頭が冴えてたりしたら最悪だ
あぁ、本当に憂鬱
そんな事を考えながら、毎晩手入れされているのだろうかと思うほど無駄に綺麗な廊下を歩いた
___本当にどうなるか分からないな
まあ、その時はその時、だな
虚しい覚悟を決めた私はシャワールームに繋がる脱衣所の扉を勢いよく開けた
◯◯「___え」
一番乗り___と思いきやそこには既に上裸状態の深澤さんがいた
深澤「!?なんだビックリした〜〜、◯◯ちゃんか〜〜」
私の思いがけない登場に驚いたのか、深澤さんは大きな声を出した
ちょうど今から入ろうとしていたところだったのか、細くて真っ白な体は濡れていなかった
その首元ではゴールドのネックレスが光を放っていた
彼はそのまま私の方へ歩き出した
◯◯「いや___来ないでください」
深澤「俺朝風呂好きなんだよね〜、あ、一緒に入る?」
◯◯「入りません」
彼は私の言葉を聞くことなく徐にズボンを脱ぎ始めた
私は慌てて視線を外した
深澤「冗談だって〜〜、あ、それかもしかして、ツンデレ?」
◯◯「違います」
深澤「そんなに言わなくても〜」
ふぅと一息ついた彼は身につけたアクセサリーを外しシャワールームへと入っていった
この人、朝から調子に乗っている
どうせタオルも巻かずに出てくるだろう
私は逃げるように脱衣所から出て、彼がシャワーから上がるのを待った
ほんっとに、変な人
待っている間、私はぼんやりと深澤さんが今生きている理由を改めて考えていた
___なーんで守っちゃったかな
普通なら守らない人を、騎士は守った
なんのために?なにを思って?
昨日に引き続き、答えは出なかった
ただ騎士が、勝負好きであるか、ただ馬鹿であるかの二択である事しか分からなかった
深澤さんが守られたという事から考えると
騎士の候補として残っているのは岩本さん、渡辺さん、阿部さん、ラウールくん
まあ、渡辺さんとラウールくんの可能性は低いはずだ
一応、役職を名乗っているから
この状況で深澤さんを守るなんていう思い切った判断ができる勝負好きさんは、きっと今のこのゲームの事をよく理解している人間だろう
となると___阿部さん?分からない
岩本さんも正直分からない
まさかの馬鹿枠かもしれないが、雰囲気的にただの馬鹿のようには思えない
___感情論?
そんな、この人たちの特別な間柄なんて知りっこない
ああ、結局どっちも有り得る話か
まあ、また今晩佐久間さんと話す事にしよう
___今日も一日
ふぅ、と息を吐いたと同時に
濡れ髪の深澤さんが空いたよ、とドアから顔をのぞかせてきた
諦めがついたのか、ちょっかいを出す事はしてこなかった
私は警戒しつつもシャワールームの中に入り、頭から熱いシャワーを浴びた
シャワーから上がり、肩にタオルを掛けた状態で私は食事部屋へ向かった
こんなに憂鬱な事があるだろうか
私は意を決して部屋の戸を開けた
途端、困惑の声と視線が体中に突き刺さった
ラウ「えっ___?」
目の前でラウールくんがひどく驚いた顔を見せている
見た感じ、どうやら私はこの中で一番最後に部屋に来たみたいだ
そりゃ困惑するだろう
死んだもんだと思っていた人が、ノコノコとやってきたのだから
渡辺「ふっかさん幻覚じゃなかったみたいすね」
深澤「でしょ?だから言ってんじゃん」
私をシャワールームで見た事を、私が来る前に深澤さんは話していたという感じだろうか
佐久間「誰も死んでないって事は___騎士が守ったって事?」
あたかも村人のように、佐久間さんは目を大きく見開いてワタワタしている
この人も演技が達者になったものだ
阿部「そういう事だと思う」
佐久間「で、誰が守られたの?」
私は肩に掛けたタオルをそっと手に取った
深澤「俺だね」
◯◯「そうなの?」
私はそれっぽく聞いた
深澤「ドアノブがこう___動いたんだよね、でも人狼は入ってこなかった」
ラウ「守られてたから鍵がかかった、って事ですかね」
岩本「そういう仕組みになってんだ」
場が静まる
みんな納得したといったところだろうか
なにが納得だよ
こっちは納得してねえよ、ってね
私の心の中の主張は誰にも届くことなく
虚しく地に落ちた
静寂を破ったのは渡辺さんだった
渡辺「ちょっとさ、想定外すぎてだいぶパニックなんだけど、報告会はいつする?」
あぁ、報告会
渡辺さんとラウールくんによる昨晩の結果報告の事だ
まあ、報告会という程のものではない
とはいえ、私達の今後を左右する大事な情報提供である事は分かっていた
どうせ私が占われている、これでおしまいだ、なんて思っていたが、耳に飛び込んできたのは予想外の返事だった
ラウ「俺も今言おうってさっきまで思ってたんすけど____ちょっとまさかの展開すぎてついていけてないんで、投票前でもいいですか?」
まさかの見送り要請だ
ラウ「騎士が仕事した、は分かるんすけど、ふっかさんを守った、は意味がわかんないんで笑」
渡辺「だよな、じゃ、一旦解散で」
阿部「えっ!?もう解散するの?」
確かに意味が分からないのは同感だが____
そんな集合後即解散とかいうある意味まさかの展開に動揺する私を差し置いて
その言葉を待ってましたと言わんばかりに渡辺さんは部屋を去った
驚いていた他の人達もゆっくり立ち上がり部屋を去り始めた
唯一部屋に残ったのは阿部さんだった
阿部「今言わないと___意味無くない?笑」
阿部さんは苦笑いしている
◯◯「ですよね、人狼に時間与えてるようなもんですよ」
阿部「本当にそれなんだよなーー」
阿部さんはゆっくりと立ち上がった
一見呆れ顔をしているようにも見えるが
どこか何かを理解した顔にも見える
阿部「騎士、変ですよね」
阿部さんはそう一言放って部屋を去った
変____?
阿部さんの言葉に違和感を抱きながらも
一人残された私も部屋を後にした
とはいえ、自分の気持ちも、やる事も、全て失ってしまった私は徐に屋上へと向かった
朝日が昇り、少しずつ柔い熱を帯び始めたコンクリートに私は腰掛けた
ここで三人で話した記憶はまだ新しい
仲間を失ったり襲撃に失敗したりとかなり時が流れたように感じるが、言うて昨日の事だ
そんな事をぼんやりと考えていると、目の前に仲間の二人が現れた
地べたに座り込んだ私達三人は真剣な眼差しを交わし合いながら、今後の動向について話し出した
佐久間「これもしかしたらバレるのも」
宮舘「時間の問題だよね」
私と佐久間さんは宮舘さんに、何故霊媒師なんか名乗ったのかを問いつめた
宮舘「俺は完璧な霊媒師を演じ切るよ、絶対に負けない」
濁りのない目をした彼は強く意気込んでいて、その目に圧倒された私は、信じます、なんて言葉を放った
佐久間「絶対、生きて帰ろう」
隣に座っている佐久間さんが、らしくない言葉を掛けて、私達は覚悟を決めた
宮舘さんの握り拳に手を重ねて、三人で固く握りあった
しかし、一番下にあるはずの握り拳の感覚は儚く消え去っていた
大きな握り拳に重ねたはずである自分の手を見ると、ただ不自然に宙に浮いているだけであった
あぁ、幻覚か
完全に脱力した私は生暖かいコンクリートに寝そべった
ズボンの右ポケットから昨晩手に入れた指輪を取り出し、もうすぐ最高地点に達しようとしている太陽に翳す
強烈な光を受け、赤黒く濁っていたその輪も本来の美しさを取り戻していた
____渡辺さんが宮舘さんを庇ったということ
渡辺さんが本物の占い師であれば、これは恐らく事実だろう
もしそうであるならば、もしかすると____
とある賭けをした私はムクリと起き上がり、自室へと戻った