刀剣男子と過ごす十二ヶ月


+睦月+


賑やかな声に、寒さをわかっていながらつい、襖へと手をかける。

スーッとしなやかな音を立てて開いた襖の先にには、見慣れた縁側と庭。
降り積もった雪が、新年の明るい太陽に照らされてキラキラと反射している。

庭では美しい紅の椿が雪をかぶって、雪との対比がとても雅であった。

襖を開いた私は、庭先で羽根つきをする愛刀達へと目をやって、ついつい微笑みを浮かべてしまう。
三日月と小狐丸は、小気味良い音を立てながら器用に羽根つきを続け、それを囲むように短刀達がワイワイと声を上げていた。

「主、寒くはないかな?」

庭の様子を眺めていた私の所へ、今年最初の日の近侍をつとめてもらっている石切丸が来てくれる。その手には、私の仕事部屋に置きっ放しにしてあった私の羽織とお茶の乗ったお盆。
石切丸は私の側に膝をつくと、お盆を静かに置いて、羽織を優しく肩にかけてくれた。

「ありがとう。」
「三日月も小狐丸も、とても上手だね。」
「えぇ。ふふっ…二人ともとても器用よね。」
「主はやらないのかい?」
「いいのよ。私は見ている方が好き。それに、あまり上手じゃないの。」

子供の頃に友達と羽根つきをやった事をふと思い出す。上手に出来ずにむくれ顔をして、その顔に墨で落書きをされた事も。
そんな思い出が頭をよぎって、私は苦笑いをして石切丸に顔を向けた。

「主が羽根つきをしている所を見てみたい気もするけれど…」

石切丸は優しくそう言って、羽織と一緒に持ってきてくれたお茶を湯のみに注ぐ。
彼の着物の色と同じ、麗しい若草色のお茶が小さな音を立てる。

「それよりも、私は主が台所へ立ち皆を想う優しい顔で野菜を愛らしい形に剥いている姿の方が、ついつい見惚れてしまう。いつ見ても、あなたの台所へと立つ姿は私たち男士の心を安らげてくれるようだ。」

ここ何日か、本丸に居る男士達の為に、料理当番の燭台切達とおせち作りに精を出していた。
新年を祝う料理ということもあり、私は野菜を花や鳥の形に剥いたり、飾り切りをしたりしていて、その姿を石切丸が見ていてくれた事に少し驚いた。

「石切丸、見ていてくれたの?」
「あぁ、でも年末は忙しそうにしていたから、声はかけなかったんだけどね。」

石切丸はニコリと笑って、私の前に温かいお茶と水仙の花の形に作られた可憐な上生菓子を置いた。

「さぁ、燭台切が作ったお菓子だよ。お茶を用意しに行ったら、皆に出す前に主に食べてもらうようにと渡されたんだ。」

石切丸はお茶と茶菓子を私と石切丸の2人分用意すると、のんびりとした所作で私の横に腰を下ろした。

「とても綺麗。庭の椿はもちろん美しいけれど、こうして食べられるお花なんて…嬉しくなってしまうわ。」
「燭台切は本当に器用だね。見て美しく食べて美味しいものが作れるなんて…」

私たちは2人で、綺麗に花びらの形が作られたお菓子を持ち上げる。燭台切が器用に作ってくれた姿を思い浮かべて、私はついニコニコと微笑んでいた。
冷たい風が吹いて、まるで水仙の香りが漂って来るような、季節のうつろいを石切丸と2人で感じる。
そして、私の隣に寄り添ってくれる愛刀にぽつりと言葉を投げかける。

「私は…この本丸で束の間の平和な時間を過ごす皆を眺めながら、石切丸…あなたと一緒に一年の最初の日にお茶を楽しむ事が、何よりも幸せよ。あなたが…私の所へ来てくれて本当に、幸せよ。」

私は石切丸に顔を向け、心に湧いた言葉をそのままこぼす。そして、存分に目で楽しんだ水仙のお菓子を一口、口に運んだ。
石切丸はそんな私を温和な笑顔で見つめてくれる。

「私もだよ、主。私もあなたの刀で在る事が本当に幸せだ。」

とけるように、石切丸の声が届いた。

「今年も一年、よろしくね。頼りにしています、私の大切な石切丸。」

私たちはまた、賑やかな中庭へと目を向け、温かいお茶と美味しい茶菓子に舌鼓をうった。

三日月のついた羽根が宙を高く舞い、小狐丸の羽子板は空を切る。
中庭から大きな歓声が上がると同時に、私たち2人も小さく笑うのだった。


終わり
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