これからも、ずっと……~Yuji's Birthday~
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Piroririnrin……
机の上で、携帯が軽やかなメロディーを奏で出す。
ほんの数秒、鳴り響いて止んだ音で受信したのはメールだとわかる。
寝転がっていたベッドから跳ね起きた私は、慌てて携帯のフリップを開いてメールボックスを見る。
だけど、それは待ち望んでいる相手からじゃなくて、『明日、初詣行かない?』と書かれた、前の学校の友達からのお誘いメール。
そういえば前の学校の子達と、もう何ヶ月も会ってない。
せっかくのお誘いだし久しぶりだし会いたい事は会いたいけど……。
「……明日、かぁ」
明日は世間一般には元日。同時に私の一番大好きな人、裕次お兄ちゃんが生まれた大切な日でもある。
とはいえ、当の本人は一昨日から大学のサークル仲間とのスキー旅行に行っていて、誕生日翌日まで帰ってこない。
誕生日に間に合うようにって、頑張って編み上げたマフラーも当日に渡す事は出来ない。
このまま友達の誘いに乗ったとしても、何も問題ない。……とは思うけど。
「どうしよう……かな」
受信したメールをしばらく見つめていたものの、何度考えても答えは一つしか出てこない。
「“ごめんね。明日は家族と過ごすから行けないんだ。誘ってくれてありがとね”っと」
メールにそう書いて返信して、再びベッドに寝転がる。
「今日はもう、メール来ない……かな」
確か昨日届いたメールに、今日はサークルのみんなとカウントダウンパーティーするって書いてたっけ。……きっとその準備で忙しいから、メール出来ないんだよね?
お屋敷でも、カウントダウンパーティーをするらしく、メイドさん達が慌ただしく走り回っている。
気を紛らわせようと、パーティー準備のお手伝いを買って出たけど、ちょうど柊さんに見つかって『お嬢様はお部屋でお待ちください』と言われてしまった。
溜め息を吐いて、手にしている携帯の受信トレイを開く。
お兄ちゃんから送られてきたメールを、彼が出発した日から順にひとつひとつ改めて目を通す。
声を聞いたら会いたくなってしまうから、という理由でお兄ちゃんとの唯一の連絡手段はメールだけ。
でもその分、裕次お兄ちゃんが忠実(まめ)に送ってきてくれてたから、ほんの数日しか経っていないのに受信数はかなりの件数になっている。
《行ってくるね~! あっ! お土産何が欲しい? って、気が早いかな?》《いま着いたよ! スゴく寒いけどキレイな雪景色だよ!! ヒロインちゃんと一緒に見たかったな》と、他にも日常的な内容の中に裕次お兄ちゃんらしさがいっぱい詰まっている。
そんな言葉と一緒に、偶然見つけたらしい可愛い動物や鳥、そして綺麗な雪景色などが携帯の画面に映し出されている。
その写真達を見ていると、一緒にはいられないけれど、裕次お兄ちゃんと同じ物を見ているんだって気持ちになれた。
でもそれはほんの束の間だけ。
鳥も動物も可愛いし、景色だって凄く、凄く綺麗だけど……やっぱり寂しくて仕方ない。
まだ二日と半分しか離れていないだけなのに、もう随分裕次お兄ちゃんに会ってないみたい。
寂しくて会いたくて声が聞きたくて……どうしようもない程胸が苦しくなる。
昨日まで休む間もない程に鳴り響いていた携帯も今は何の音もしなくて、ただの無機質な冷たい物体に見えてきそう。
声、聞きたいな……。
無意識に裕次お兄ちゃんの番号を呼び出す。けれど、発信ボタンを押す事は出来ない。
それは裕次お兄ちゃんとの約束破っちゃう事になるし、今お兄ちゃんの声聞いたら泣いちゃうかもしれない。
そんな事をあれこれ考えていると、突然手の中の携帯が軽快なリズムと共に震えだした。
「……わっ!?」
びっくりして取り落としそうになるのを、慌ててしっかり持ち直す。
携帯の画面上には裕次お兄ちゃんの名前と電話番号。
「……もっ、もしもし!?」
『もしもし、ヒロインちゃん!! 元気だった?』
反射的に通話ボタンを押して電話に出ると、元気で明るい裕次お兄ちゃんの声が耳に飛び込んできた。
「う、うん……元気。でも、どうして? 電話はしないって言ってたんじゃ……?」
『んー、そうなんだけど。ヒロインちゃんの声が聞きたくなっちゃってさ』
普段と変わらない調子で話す裕次お兄ちゃん。電話越しの声がなんとなくいつもより少し低く聞こえて、どきん、と胸が高鳴る。
「も、もう、お兄ちゃんが決めた約束でしょ? 自分から破ってどうするの?」
『うん……だけど声聞きたいって思ったら、我慢出来なくなっちゃった』
「が……我慢出来なくって言ったって、まだたった二日しか経ってないじゃない?」
裕次お兄ちゃんも私と同じ気持ちでいたんだ……。それを嬉しいと思うのに、素直に表す事が出来ない。
『えぇ!? だってもう二日もヒロインちゃんの声も聞いてないし、顔も見てないんだよ? ヒロインちゃんは寂しくないの?』
「さっ…………寂しくなんてないよ? だってまだ二日しか経ってないし!」
――ウソ。本当は凄く寂しい。だけど、そんな事言っちゃったらせっかく我慢してる気持ちがどんどん溢れ出てしまう。でもそんなの、裕次お兄ちゃんを困らせてしまうだけだもん。
「あ……それに、ほら! もうすぐカウントダウンパーティーが始まるんじゃない? こっちもね、パーティーするんだって! だからお兄ちゃんも寂しいなんて言ってないで、サークルの人達と楽しんできてよ」
無理に強がった言葉ばかりが次から次へと口をついて出てくる。
そうでもしないと、私の気持ちを顕したように頬を伝う涙に流されて、弱音を吐いてしまいそうだから。
涙声になりそうなのを必死で隠して、お兄ちゃんに悟られないように、と目一杯明るく振る舞う。
『一緒がいい……』
「……えっ?」
『俺、ヒロインちゃんが一緒じゃなきゃ楽しめないよ』
「い、一緒じゃなきゃ、って……そんなの無理だよっ!?」
『俺にとっては、ヒロインちゃんがいないのに楽しめって方が無理な話だよ。俺の隣にはいつだってヒロインちゃんがいてくれなくちゃ。だから――』
「……だから?」
裕次お兄ちゃんの次の言葉を待っていると、不意に部屋のドアがノックされた。
「は、はあい! ……待って、お兄ちゃん。誰かが呼びに来たみたい」
電話の向こうにいる彼にそう断ってから、ドアへと足を向かわせる。
きっとパーティーの準備が整ったんだ。……やだな。もっと裕次お兄ちゃんの声聞いてたいのに。
そう思いながら、伝い残る涙を拭ってドアを開ける。
ドアの向こう。
てっきり御堂さんか柊さんが立っているものと思っていたそこには、ついさっきまで電話越しに会話していたはずの彼――裕次お兄ちゃんが立っていた。
「え……ゆ……裕次お兄ちゃん?」
「へへっ。帰ってきちゃった」
そう言ったあと、耳に当てていた携帯をパタンと閉じて、いつものにっこりとした笑顔を見せる彼。
「か、帰ってきちゃった……って、なんで? どうして!?」
「さっき言っただろ? ヒロインちゃんと一緒にいたいからだって。そう思ったらもう、パーティーの準備してても落ち着かなくてさ」
突然の事に立ち尽くしている私の目尻に残る雫を裕次お兄ちゃんの指が掬う。
「それに、人一倍泣き虫で寂しがり屋な癖に強がっちゃうお姫様を慰められるのは、俺しかいないからね?」
「……お兄ちゃん」
「さ、今度は俺が聞く番。ヒロインちゃんはなんで泣いてるの?」
「なっ、なんでって……」
「寂しかったから……だろ?」
口ごもる私の頭を、ポンと裕次お兄ちゃんの大きな手が触れる。そこから伝わる温もりが、強がっていた私の気持ちを解かしていく。
「……っ……」
抑えていた涙が零れ落ちて、言葉に出来ない想いが溢れる。言葉の代わりに裕次お兄ちゃんの胸に飛び込む。
優しく抱きとめてくれる彼の腕と香りに包まれて、満ち足りた気持ちが胸いっぱいに広がっていく。
たった二日。だけど私達には長すぎて、久しぶりの彼の温もりを確かめるように強く抱きしめる。
時計の針が一秒ごと、時間を刻んでいく。
きっともうすぐ、パーティーの始まりを告げに御堂さんか柊さんが来る。
二人っきりでいられる時間はあと少し。
だけど私達を隔てる距離はもうないから。
今年が終わる瞬間も、新しい年が始まる瞬間も
裕次お兄ちゃんが傍にいてくれるから。
そして……
誰よりも一番最初にこの言葉を彼に伝えたい。
――誕生日、おめでとう。
今年も裕次お兄ちゃんの素敵な笑顔にたくさん出逢えるように――。
――For a long time with you
……in the future.
END.
机の上で、携帯が軽やかなメロディーを奏で出す。
ほんの数秒、鳴り響いて止んだ音で受信したのはメールだとわかる。
寝転がっていたベッドから跳ね起きた私は、慌てて携帯のフリップを開いてメールボックスを見る。
だけど、それは待ち望んでいる相手からじゃなくて、『明日、初詣行かない?』と書かれた、前の学校の友達からのお誘いメール。
そういえば前の学校の子達と、もう何ヶ月も会ってない。
せっかくのお誘いだし久しぶりだし会いたい事は会いたいけど……。
「……明日、かぁ」
明日は世間一般には元日。同時に私の一番大好きな人、裕次お兄ちゃんが生まれた大切な日でもある。
とはいえ、当の本人は一昨日から大学のサークル仲間とのスキー旅行に行っていて、誕生日翌日まで帰ってこない。
誕生日に間に合うようにって、頑張って編み上げたマフラーも当日に渡す事は出来ない。
このまま友達の誘いに乗ったとしても、何も問題ない。……とは思うけど。
「どうしよう……かな」
受信したメールをしばらく見つめていたものの、何度考えても答えは一つしか出てこない。
「“ごめんね。明日は家族と過ごすから行けないんだ。誘ってくれてありがとね”っと」
メールにそう書いて返信して、再びベッドに寝転がる。
「今日はもう、メール来ない……かな」
確か昨日届いたメールに、今日はサークルのみんなとカウントダウンパーティーするって書いてたっけ。……きっとその準備で忙しいから、メール出来ないんだよね?
お屋敷でも、カウントダウンパーティーをするらしく、メイドさん達が慌ただしく走り回っている。
気を紛らわせようと、パーティー準備のお手伝いを買って出たけど、ちょうど柊さんに見つかって『お嬢様はお部屋でお待ちください』と言われてしまった。
溜め息を吐いて、手にしている携帯の受信トレイを開く。
お兄ちゃんから送られてきたメールを、彼が出発した日から順にひとつひとつ改めて目を通す。
声を聞いたら会いたくなってしまうから、という理由でお兄ちゃんとの唯一の連絡手段はメールだけ。
でもその分、裕次お兄ちゃんが忠実(まめ)に送ってきてくれてたから、ほんの数日しか経っていないのに受信数はかなりの件数になっている。
《行ってくるね~! あっ! お土産何が欲しい? って、気が早いかな?》《いま着いたよ! スゴく寒いけどキレイな雪景色だよ!! ヒロインちゃんと一緒に見たかったな》と、他にも日常的な内容の中に裕次お兄ちゃんらしさがいっぱい詰まっている。
そんな言葉と一緒に、偶然見つけたらしい可愛い動物や鳥、そして綺麗な雪景色などが携帯の画面に映し出されている。
その写真達を見ていると、一緒にはいられないけれど、裕次お兄ちゃんと同じ物を見ているんだって気持ちになれた。
でもそれはほんの束の間だけ。
鳥も動物も可愛いし、景色だって凄く、凄く綺麗だけど……やっぱり寂しくて仕方ない。
まだ二日と半分しか離れていないだけなのに、もう随分裕次お兄ちゃんに会ってないみたい。
寂しくて会いたくて声が聞きたくて……どうしようもない程胸が苦しくなる。
昨日まで休む間もない程に鳴り響いていた携帯も今は何の音もしなくて、ただの無機質な冷たい物体に見えてきそう。
声、聞きたいな……。
無意識に裕次お兄ちゃんの番号を呼び出す。けれど、発信ボタンを押す事は出来ない。
それは裕次お兄ちゃんとの約束破っちゃう事になるし、今お兄ちゃんの声聞いたら泣いちゃうかもしれない。
そんな事をあれこれ考えていると、突然手の中の携帯が軽快なリズムと共に震えだした。
「……わっ!?」
びっくりして取り落としそうになるのを、慌ててしっかり持ち直す。
携帯の画面上には裕次お兄ちゃんの名前と電話番号。
「……もっ、もしもし!?」
『もしもし、ヒロインちゃん!! 元気だった?』
反射的に通話ボタンを押して電話に出ると、元気で明るい裕次お兄ちゃんの声が耳に飛び込んできた。
「う、うん……元気。でも、どうして? 電話はしないって言ってたんじゃ……?」
『んー、そうなんだけど。ヒロインちゃんの声が聞きたくなっちゃってさ』
普段と変わらない調子で話す裕次お兄ちゃん。電話越しの声がなんとなくいつもより少し低く聞こえて、どきん、と胸が高鳴る。
「も、もう、お兄ちゃんが決めた約束でしょ? 自分から破ってどうするの?」
『うん……だけど声聞きたいって思ったら、我慢出来なくなっちゃった』
「が……我慢出来なくって言ったって、まだたった二日しか経ってないじゃない?」
裕次お兄ちゃんも私と同じ気持ちでいたんだ……。それを嬉しいと思うのに、素直に表す事が出来ない。
『えぇ!? だってもう二日もヒロインちゃんの声も聞いてないし、顔も見てないんだよ? ヒロインちゃんは寂しくないの?』
「さっ…………寂しくなんてないよ? だってまだ二日しか経ってないし!」
――ウソ。本当は凄く寂しい。だけど、そんな事言っちゃったらせっかく我慢してる気持ちがどんどん溢れ出てしまう。でもそんなの、裕次お兄ちゃんを困らせてしまうだけだもん。
「あ……それに、ほら! もうすぐカウントダウンパーティーが始まるんじゃない? こっちもね、パーティーするんだって! だからお兄ちゃんも寂しいなんて言ってないで、サークルの人達と楽しんできてよ」
無理に強がった言葉ばかりが次から次へと口をついて出てくる。
そうでもしないと、私の気持ちを顕したように頬を伝う涙に流されて、弱音を吐いてしまいそうだから。
涙声になりそうなのを必死で隠して、お兄ちゃんに悟られないように、と目一杯明るく振る舞う。
『一緒がいい……』
「……えっ?」
『俺、ヒロインちゃんが一緒じゃなきゃ楽しめないよ』
「い、一緒じゃなきゃ、って……そんなの無理だよっ!?」
『俺にとっては、ヒロインちゃんがいないのに楽しめって方が無理な話だよ。俺の隣にはいつだってヒロインちゃんがいてくれなくちゃ。だから――』
「……だから?」
裕次お兄ちゃんの次の言葉を待っていると、不意に部屋のドアがノックされた。
「は、はあい! ……待って、お兄ちゃん。誰かが呼びに来たみたい」
電話の向こうにいる彼にそう断ってから、ドアへと足を向かわせる。
きっとパーティーの準備が整ったんだ。……やだな。もっと裕次お兄ちゃんの声聞いてたいのに。
そう思いながら、伝い残る涙を拭ってドアを開ける。
ドアの向こう。
てっきり御堂さんか柊さんが立っているものと思っていたそこには、ついさっきまで電話越しに会話していたはずの彼――裕次お兄ちゃんが立っていた。
「え……ゆ……裕次お兄ちゃん?」
「へへっ。帰ってきちゃった」
そう言ったあと、耳に当てていた携帯をパタンと閉じて、いつものにっこりとした笑顔を見せる彼。
「か、帰ってきちゃった……って、なんで? どうして!?」
「さっき言っただろ? ヒロインちゃんと一緒にいたいからだって。そう思ったらもう、パーティーの準備してても落ち着かなくてさ」
突然の事に立ち尽くしている私の目尻に残る雫を裕次お兄ちゃんの指が掬う。
「それに、人一倍泣き虫で寂しがり屋な癖に強がっちゃうお姫様を慰められるのは、俺しかいないからね?」
「……お兄ちゃん」
「さ、今度は俺が聞く番。ヒロインちゃんはなんで泣いてるの?」
「なっ、なんでって……」
「寂しかったから……だろ?」
口ごもる私の頭を、ポンと裕次お兄ちゃんの大きな手が触れる。そこから伝わる温もりが、強がっていた私の気持ちを解かしていく。
「……っ……」
抑えていた涙が零れ落ちて、言葉に出来ない想いが溢れる。言葉の代わりに裕次お兄ちゃんの胸に飛び込む。
優しく抱きとめてくれる彼の腕と香りに包まれて、満ち足りた気持ちが胸いっぱいに広がっていく。
たった二日。だけど私達には長すぎて、久しぶりの彼の温もりを確かめるように強く抱きしめる。
時計の針が一秒ごと、時間を刻んでいく。
きっともうすぐ、パーティーの始まりを告げに御堂さんか柊さんが来る。
二人っきりでいられる時間はあと少し。
だけど私達を隔てる距離はもうないから。
今年が終わる瞬間も、新しい年が始まる瞬間も
裕次お兄ちゃんが傍にいてくれるから。
そして……
誰よりも一番最初にこの言葉を彼に伝えたい。
――誕生日、おめでとう。
今年も裕次お兄ちゃんの素敵な笑顔にたくさん出逢えるように――。
――For a long time with you
……in the future.
END.
