やさしいキスを、あなたと~Kaname's Birthday~
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「あ! もうミュウってば、イタズラしちゃダメだってば」
9月1日23時半――。
要さんの部屋で、わたしはイタズラ好きの猫を叱る。
部屋の主は未だ仕事中で不在。
ご主人様を待ちわびて退屈を持て余すようにミュウは、わたしが要さんのために用意したプレゼントのラッピングリボンを相手に格闘中。
「要さん、まだかなぁ」
待ちくたびれて少しウトウトしかけた頃――。
ビリ……ッ。
一瞬、聞こえた音に意識が戻ると同時に嫌な予感がした。
「え……ッ!? や、やだ! ウソッ!?」
遊びに夢中になって興奮したのか、プレゼントを包んだ紙がほんの僅かだけど、猫の爪の形に破られている。
どうしよう……。と、とにかく今から包み直して……っ!
急いで自室に戻ろうとドアノブに手を掛けた時、ドアの向こうから同じくノブを廻す音がした。
「ヒロインお嬢様?」
「あ……要さんっ。お仕事、お疲れ様です!」
「はい。ただいま戻りました。お嬢様」
咄嗟に持っていたプレゼントを後ろに隠す。
「た、大変ですね? こんな時間までお仕事なんて!」
「今日は少々手間取りましたので」
いつもと変わらない笑みを浮かべて執事の顔で話す要さん。良かった。プレゼントには気づいてないみたい。
「ところで、お嬢様……」
「は、はいっ!」
「いくらお屋敷の敷地内とはいえ、こんな時間に男の部屋にあがるのはあまり感心致しません」
さっきの笑みから一転して、厳しく見据える要さんにわたしは、しゅんと項垂れる。
「はい……。すみません」
「ご兄弟の皆様に対しても同じでございます」
「はい」
「……こうして訪れて来るのは私の所だけにしてください」
「はい……えっ!?」
思わず反射的に顔をあげたわたしの目に、少し照れた表情で優しく微笑む要さんが映る。
「ヒロインは無防備なところがあるから……時々心配でたまらなくなる」
敬語が取れて、執事じゃなくなった要さんにどきん、と胸が高鳴る。
「そういえばさっきから気になってたんだけど、後ろに何か隠してる?」
「え……あっ!!」
ずっと手を後ろに回したままの姿勢をしていれば、誰でも不自然に思うはず。
わたしの小さな隠蔽工作を要さんが気づかないわけがない。
だけど、こんな破れた状態で渡すなんて……。
「こ、これは何でもないの!」
気にしないで、と言いかけた時、後ろから「にゃあ~!」と勢いよく飛びつかれる。
「きゃ……っ!」
突然の事に驚いたわたしは、後ろ手に持っていたプレゼントを落としてしまった。
「ヒロイン! 大丈夫か? ケガはない?」
それを見て要さんが慌ててわたしに駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫……ちょっとびっくりしただけ」
「こら、ミュウ! いきなり飛びついたらダメじゃないか」
要さんがミュウを叱りつけるけど、当の本人はどこ吹く風とばかりに、獲得した獲物に夢中。
「やだ、ミュウ! これはおもちゃじゃないんだってば!」
解けたリボンを体に巻きつけて、ミュウは未だ興奮状態。
ミュウに弄ばれているプレゼントを救出しようと、伸ばしたわたしの手を要さんの手が制した。
「ミュウに引っ掻かれるといけない。ここは私に任せて」
そう言うと要さんはどこからかねずみのおもちゃを取り出して、ミュウの気を逸らした隙にプレゼント奪取に成功した。
その時にひらりと一枚の紙が舞い落ちる。
「や……ッ!? 見ちゃだめ!」
彼より先に拾い上げようとしたけれど、タッチの差で要さんにそれを拾われた。
「ヒロイン……これを私に……?」
「やっ! 違うの! それは……ッ!!」
「でも、このカードは私宛てになっているよ?」
要さんが拾い上げたのはバースデーメッセージカード。どんなにごまかしたところで、要さんへのプレゼントだということは一目瞭然。
だけど、肝心のプレゼントはリボンが外れていて、綺麗に包んだラッピングも破れてボロボロになっている。
「そう……だけどっ! もうボロボロになっちゃってるし、こんなのいらない、よね……」
ボロボロの包み紙を見ていたら、自分の心までボロボロにされてしまったみたいで、涙がこみ上げてくる。
泣き顔を見られたくなくて俯くわたしの頭を、要さんの暖かい手がふわっと優しく撫でる。
「そんなことない。嬉しいよ。ありがとう、ヒロイン」
「だっ……て、こんな……に破れちゃっ……てるんだよ?」
「大切なのは気持ちだよ。大丈夫。ヒロインの気持ちは充分伝わってるから、泣き止んで?」
しゃくりあげながら未だ納得していないわたし。まるで小さな子供みたい……いくら優しい要さんでもきっと呆れてるよね。
要さんを困らせたくない。なのに涙は後から溢れてくる。その時、不意に額に温かさを感じて、顔をあげる。
「か、要さ……」
彼の顔が近づいてきて、思わず目を閉じると右頬にほんの一瞬温かさを感じた。
「涙……止まったね」
「え……?」
自分でも止めることが出来なかった涙が、いつの間にか止まっていた。
「泣いてる顔も魅力的だけど、出来ればヒロインには笑っていて欲しいからね」
「要さん……」
「私の願いを、叶えてくれないか?」
要さんの言葉に、こくんと頷く。と、ちょうど同じタイミングで、設定していた携帯のアラームが0時を知らせる。日付が、要さんの誕生日である9月2日に変わった。
頬に残る涙の跡を拭って、気持ちを切り替える。さっき要さんが口にした願いを叶えるために。
「要さん、誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。一番最初にヒロインに祝ってもらえるなんて、こんな嬉しい事はないよ」
「ちゃんとわたし……笑えてる?」
「ああ。最高の笑顔だよ」
優しく壊れ物を扱うように肩を抱き寄せられ、わたしの体は要さんに包まれる。
「ヒロイン……もうひとつお願いがあるんだがこれも叶えてくれる?」
「うん。なぁに?」
「ヒロインにキスしたい。……今度は唇に」
「……!」
今までも要さんとたくさんキスはしたけど、改めて言われるとすごくドキドキしてしまう。
「叶えて、くれないか?」
もう一度問いかけてくる要さんに、わたしは、はい、と微かな声で返事をした。
彼の手がわたしの背中から頬に移動し、顎を軽く持ち上げられる。
ゆっくりと近づいてくる要さんの整った顔。
そっと目を閉じると二人の唇が重なりあう。
「ん……」
離れるのを惜しむように何度も交わす甘いキスに酔いしれながら密かに願う。
ずっと……この幸せが続くように、と。
END.
9月1日23時半――。
要さんの部屋で、わたしはイタズラ好きの猫を叱る。
部屋の主は未だ仕事中で不在。
ご主人様を待ちわびて退屈を持て余すようにミュウは、わたしが要さんのために用意したプレゼントのラッピングリボンを相手に格闘中。
「要さん、まだかなぁ」
待ちくたびれて少しウトウトしかけた頃――。
ビリ……ッ。
一瞬、聞こえた音に意識が戻ると同時に嫌な予感がした。
「え……ッ!? や、やだ! ウソッ!?」
遊びに夢中になって興奮したのか、プレゼントを包んだ紙がほんの僅かだけど、猫の爪の形に破られている。
どうしよう……。と、とにかく今から包み直して……っ!
急いで自室に戻ろうとドアノブに手を掛けた時、ドアの向こうから同じくノブを廻す音がした。
「ヒロインお嬢様?」
「あ……要さんっ。お仕事、お疲れ様です!」
「はい。ただいま戻りました。お嬢様」
咄嗟に持っていたプレゼントを後ろに隠す。
「た、大変ですね? こんな時間までお仕事なんて!」
「今日は少々手間取りましたので」
いつもと変わらない笑みを浮かべて執事の顔で話す要さん。良かった。プレゼントには気づいてないみたい。
「ところで、お嬢様……」
「は、はいっ!」
「いくらお屋敷の敷地内とはいえ、こんな時間に男の部屋にあがるのはあまり感心致しません」
さっきの笑みから一転して、厳しく見据える要さんにわたしは、しゅんと項垂れる。
「はい……。すみません」
「ご兄弟の皆様に対しても同じでございます」
「はい」
「……こうして訪れて来るのは私の所だけにしてください」
「はい……えっ!?」
思わず反射的に顔をあげたわたしの目に、少し照れた表情で優しく微笑む要さんが映る。
「ヒロインは無防備なところがあるから……時々心配でたまらなくなる」
敬語が取れて、執事じゃなくなった要さんにどきん、と胸が高鳴る。
「そういえばさっきから気になってたんだけど、後ろに何か隠してる?」
「え……あっ!!」
ずっと手を後ろに回したままの姿勢をしていれば、誰でも不自然に思うはず。
わたしの小さな隠蔽工作を要さんが気づかないわけがない。
だけど、こんな破れた状態で渡すなんて……。
「こ、これは何でもないの!」
気にしないで、と言いかけた時、後ろから「にゃあ~!」と勢いよく飛びつかれる。
「きゃ……っ!」
突然の事に驚いたわたしは、後ろ手に持っていたプレゼントを落としてしまった。
「ヒロイン! 大丈夫か? ケガはない?」
それを見て要さんが慌ててわたしに駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫……ちょっとびっくりしただけ」
「こら、ミュウ! いきなり飛びついたらダメじゃないか」
要さんがミュウを叱りつけるけど、当の本人はどこ吹く風とばかりに、獲得した獲物に夢中。
「やだ、ミュウ! これはおもちゃじゃないんだってば!」
解けたリボンを体に巻きつけて、ミュウは未だ興奮状態。
ミュウに弄ばれているプレゼントを救出しようと、伸ばしたわたしの手を要さんの手が制した。
「ミュウに引っ掻かれるといけない。ここは私に任せて」
そう言うと要さんはどこからかねずみのおもちゃを取り出して、ミュウの気を逸らした隙にプレゼント奪取に成功した。
その時にひらりと一枚の紙が舞い落ちる。
「や……ッ!? 見ちゃだめ!」
彼より先に拾い上げようとしたけれど、タッチの差で要さんにそれを拾われた。
「ヒロイン……これを私に……?」
「やっ! 違うの! それは……ッ!!」
「でも、このカードは私宛てになっているよ?」
要さんが拾い上げたのはバースデーメッセージカード。どんなにごまかしたところで、要さんへのプレゼントだということは一目瞭然。
だけど、肝心のプレゼントはリボンが外れていて、綺麗に包んだラッピングも破れてボロボロになっている。
「そう……だけどっ! もうボロボロになっちゃってるし、こんなのいらない、よね……」
ボロボロの包み紙を見ていたら、自分の心までボロボロにされてしまったみたいで、涙がこみ上げてくる。
泣き顔を見られたくなくて俯くわたしの頭を、要さんの暖かい手がふわっと優しく撫でる。
「そんなことない。嬉しいよ。ありがとう、ヒロイン」
「だっ……て、こんな……に破れちゃっ……てるんだよ?」
「大切なのは気持ちだよ。大丈夫。ヒロインの気持ちは充分伝わってるから、泣き止んで?」
しゃくりあげながら未だ納得していないわたし。まるで小さな子供みたい……いくら優しい要さんでもきっと呆れてるよね。
要さんを困らせたくない。なのに涙は後から溢れてくる。その時、不意に額に温かさを感じて、顔をあげる。
「か、要さ……」
彼の顔が近づいてきて、思わず目を閉じると右頬にほんの一瞬温かさを感じた。
「涙……止まったね」
「え……?」
自分でも止めることが出来なかった涙が、いつの間にか止まっていた。
「泣いてる顔も魅力的だけど、出来ればヒロインには笑っていて欲しいからね」
「要さん……」
「私の願いを、叶えてくれないか?」
要さんの言葉に、こくんと頷く。と、ちょうど同じタイミングで、設定していた携帯のアラームが0時を知らせる。日付が、要さんの誕生日である9月2日に変わった。
頬に残る涙の跡を拭って、気持ちを切り替える。さっき要さんが口にした願いを叶えるために。
「要さん、誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。一番最初にヒロインに祝ってもらえるなんて、こんな嬉しい事はないよ」
「ちゃんとわたし……笑えてる?」
「ああ。最高の笑顔だよ」
優しく壊れ物を扱うように肩を抱き寄せられ、わたしの体は要さんに包まれる。
「ヒロイン……もうひとつお願いがあるんだがこれも叶えてくれる?」
「うん。なぁに?」
「ヒロインにキスしたい。……今度は唇に」
「……!」
今までも要さんとたくさんキスはしたけど、改めて言われるとすごくドキドキしてしまう。
「叶えて、くれないか?」
もう一度問いかけてくる要さんに、わたしは、はい、と微かな声で返事をした。
彼の手がわたしの背中から頬に移動し、顎を軽く持ち上げられる。
ゆっくりと近づいてくる要さんの整った顔。
そっと目を閉じると二人の唇が重なりあう。
「ん……」
離れるのを惜しむように何度も交わす甘いキスに酔いしれながら密かに願う。
ずっと……この幸せが続くように、と。
END.
