日だまりの笑顔
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「はー、やっと終わったー」
宿題を済ませ、さてどうしよう、と思っていたちょうどその時、携帯のメールが届いた。差出人は裕次お兄ちゃん。
よっぽど慌ててたのか本文にはただ一言、『外に出てみて!』とだけ。
「外? 何かあるのかな?」
椅子の背に掛けたニットのロングカーディガンを羽織って私は、裕次お兄ちゃんのメールの通りに部屋を出て玄関に向かい、ドアを開けた。
「……うわあ……」
外に出て最初に目に飛び込んできたのは、空から落ちてくる真っ白な雪。
2、3歩進み出て、手の平にその冷たい感触を乗せる。
「雪降ってる……。どうりで寒いはずだよね」
「ヒロインちゃん! どう? びっくりした?」
舞い落ちてくる雪に目を奪われていたら、後ろから裕次お兄ちゃんに声を掛けられた。
足下に目をやれば尻尾をちぎれんばかりに振っているコジロウも一緒。
「裕次お兄ちゃん! あのメール……外に出てってこの雪のこと?」
「ピンポーン! 当たり~! コジロウと散歩してたら降ってきたんだよ! で、ヒロインちゃんに教えたくなって早めに帰ってきちゃった」
そう言って裕次お兄ちゃんは、無邪気で人懐っこい笑顔を向ける。
「ありがとう。私、雪好きだから嬉しい!」
「うん! 俺も!」
お互いの顔を見合わせて微笑みあう私達の足下で、まるで『僕も僕も』と言いたげにコジロウがぴょんぴょん飛びついてくる。
「わかったわかった! コジロウも雪好きなんだよな」
コジロウの目線に合わせてしゃがんだ裕次お兄ちゃんの顔を、容赦なく舐めまわすコジロウの頭をお兄ちゃんの手が優しく撫でる。
……いいな。私もあんな風に撫でられたいな。
コジロウが羨ましい……そう思った時。
「……っくしゅん!」
「ヒロインちゃん! 大丈夫? 体冷えたんじゃない?」
「だ、大丈夫だよ」
そう言ったものの、ロングカーディガンを羽織っただけの防寒じゃ、十分にこの寒さを凌げてはいない。
「大丈夫じゃないだろ? 風邪でもひいたら大変だ」
「もう、大丈夫だってば。裕次お兄ちゃん、大げさなん……」
一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。
「お、お兄ちゃん……?」
気づくと私は、裕次お兄ちゃんの腕の中にすっぽりと収まっていた。
それはいつものスキンシップとは違って、優しく壊れ物を扱うような包み込みかた。
「どう? こうしてれば少しは暖かい?」
耳元で囁くように話しかけられて、どきんと胸が高鳴る。
「う、うん」
どきどきうるさい心臓。裕次お兄ちゃんに抱きしめられるのなんて、今までだって何度もあったのに。
こんな事されたら、期待しちゃうよ……。
「……ヒロインちゃん暖かいなぁ。コジロウみたいだ」
「…………」
コジロウと一緒なんだ。裕次お兄ちゃんにとって私は、やっぱりただの妹でしかないのかな。
「お、お兄ちゃん、ありがとう。も、もう大丈夫だから」
そう言って離れようとしたけど、余計にギュッと抱きしめられる。
「ダーメ。まだほっぺたこんなに冷たいだろ? いいからオニイチャンに甘えなさい!」
「……うん」
妹以上に見てほしい……なのに、今だけ妹って立場を利用する私は、ズルいかな?
「この雪、積もるかなぁ?」
「きっと積もるよ! そうだ、明日積もったら俺と一緒に雪だるま作ろうよ!」
ニッコリと笑う裕次お兄ちゃんの顔はとても素敵で。
お兄ちゃんの目に映る私は妹でしかなくても、この暖かい笑顔をずっと傍で見ていたい。
「うん! 可愛いのいっぱい作ろうね」
「よし! ヒロインちゃんの為にオニイチャン頑張るよ!」
くしゃくしゃな笑顔。雪が降って風も冷たいのに、裕次お兄ちゃんの笑顔はまるで日だまりみたいに暖かい。
いつかは妹以上になれる日が来るのかな……なんて、そんな事わからない。
たとえ叶わない願いでも、今だけは夢を見させてほしい。
この優しい日だまりの笑顔が、いつか私だけのものになるように……。
END.
