はじまりの日に~あいつには負けない~
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最近ずっと、俺の周りがやたら騒々しい。
教室でもサッカー部でも。
とにかくやたらめったら聞かれる。
しかもそいつらが聞いて来る内容は、面白い事に全員同じ。
「お前の妹、紹介してくれ」
……ふざけんなっつーんだよ。
どこの世界に、狼にわざわざ自分の妹を紹介する兄貴がいんだよ?
「俺の妹に手ぇ出すんじゃねえ!」
言い寄って来る奴らに一括して返すと、途端に「雅弥はシスコンだ」という烙印を押しやがった。
バカ兄貴の方がよっぽどシスコンじゃねえか?
俺はただ、ヒロインがあいつらにはもったいないってだけで……。
別にシスコンってわけじゃねえし。
ヒロインが幸せになれんなら、そいつに任せようってちゃんと思ってんだぜ?
でも。
それがなんで
よりによって雅季なんだ?
直接、2人から「付き合ってる」って聞いたわけじゃない。
なんとなく、気付いちまっただけ。
ヒロインが雅季を見る目は他の兄弟に向けるものとは明らかに違ってるし。
雅季だってそうだ。
他人に関心を示さなかったあいつが、ヒロインが来てから人が変わっちまったんじゃないかってくらい雰囲気が柔らかくなった。
雅季を変えたのは、ヒロイン。
それは間違いない。
けど、だからってそれとこれとは話が別じゃねえか?
血が繋がってないとは言え、一応兄妹だってのによ。
まさか、こんな身近な奴にかっさらわれるなんて。
本当は俺だって、ヒロインの事……
妹だって思えなくなる瞬間は、一度や二度じゃなかった。
でも、俺は必死にヒロインは“妹”だって自分に言い聞かせた。
“妹”を好きになるわけがねえって。
俺がそんな事をしてる間に、雅季とヒロインは“兄妹”って壁をあっさり越えてやがった、なんて。
……笑っちまう。
誰かのものになってから、自分の気持ちがはっきりわかるなんて。
俺はヒロインが好きだ。
妹なんかじゃなくて、女として。
始まった瞬間、終わっちまった恋。
雅季なら大丈夫だと思う反面、雅季だからこそ悔しい気持ちでグチャグチャになる。
……俺らは双子なのに。
顔も声も同じで、違う所は性格が真逆ってだけ。
雅季は俺と違って頭いーし、生徒会長で人望だってある。まぁ、性格はあんまいいとは言えねえけど。
ヒロインが惹かれるの、仕方ねーか。
……よし。今まで通り、ヒロインは妹! 俺の大事な妹として接していこう。
そんな風にして、俺は今朝もいつもと変わらず、ヒロインの髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやった。
「もう! 雅弥くん! 髪の毛ぐしゃぐしゃにしないでよ!」
せっかく御堂さんに綺麗にしてもらったのに、と文句を言うヒロイン。
「そうか? あんま変わんねーぞ?」
毎朝のやり取りを交わす。
その時、雅季が何も言わずすっと立ち上がり、「雅弥、ちょっと」と俺に声を掛ける。
「なんだよ?」
「あんまりヒロインに触らないでくれる? 僕のなんだから」
と、俺の横を通り過ぎる僅かな間に、ぼそっと牽制してきた。
「……っな!?」
途端、顔が熱くなる。こいつ……! 俺が気付いてるの知ってやがるのか?
「……っだよ。いくらヒロインと付き合ってるからって、それぐらいいいじゃねえか」
ぼそぼそと雅季にだけ聞こえるように話す。
「そ。やっぱり気付いてたんだ。だったら話は早い。……ヒロインに触るな」
「っ!! なんで、んな事お前に命令されなきゃなんねんだよ!?」
憤慨する俺を無視して、雅季はヒロインに「行くよ?」と言って食堂を出ていくと、ヒロインもその後に続いていった。
「くっそ~!! あいつ、やっぱムカつく!」
「雅弥さま。早くご登校されないと、遅刻なさいますよ?」
要の冷静な言葉に、俺も急いで鞄をひっつかんで食堂を出る。
こうなりゃ、とことん邪魔してやる!
諦めようと思ったけど、絶対諦めてやらねえ!
雅季にヒロインを渡してたまるか!
「ぜってー雅季にだけは負けねえぞ!」
自転車を漕ぎながら、何mか先にいる2人に向かって俺は吠える。
勝負はまだ始まったばかり、だよな?
END.
