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重い沈黙が教室内を包む。と、雅季くんはそんな空気を気にするでもなく、帰り支度を始める。
未だ俯いたままの私に、「帰るよ?」とだけ言って大股で歩き始める。
その言葉に私も帰り支度をして、急いで雅季くんの背中を追いかける。
無言のまま、お屋敷までの道を2人で歩く。
「あのね……雅季くん。さっきの話だけど」
「聞きたくない」
「聞いて。その娘、本当に雅季くんの事好きみたいで……」
「だから! なんでそんな事ヒロインが言うのさ!?」
珍しく声を荒げる雅季くんにびくっとする。雅季くん本人も、自分の大きな声に戸惑ってる様に見える。
「だって……気持ちわかるんだもん。その娘の一生懸命な気持ち。雅季くんが好きでどうしようもなくて、少しでも伝えたいって気持ち、わかるもん」
泣きそうになるくらい苦しい程に好きだから……。
「……僕の気持ちはどうなる?」
「え?」
「僕の気持ちはどうでもいいの? ヒロインに……彼女にそんな事された僕の気持ちは?」
「…………」
「ヒロインと付き合ってるって思ってたのは僕だけ?」
捨てられた子犬みたいに、雅季くんのチョコレート色の瞳が私を見る。
ふだん滅多に感情を表さない彼の言葉。
「そんな事ないよ! 私、雅季くんの彼女になれてすごく嬉しいもん!」
それでも、不安そうな雅季くん。どうしたら私の気持ち、伝わるの?
私は雅季くんに近付いて、せいいっぱい背伸びをして彼の唇に触れるだけのキスをした。
「……ヒロイン?」
「こんな事……雅季くんにしかしないもん」
自分からキスするのは初めてで。見上げた雅季くんの顔は、日が落ちて辺りが暗い中でもわかるくらい真っ赤になっていた。
「……雅季くん。真っ赤だよ?」
「……誰のせいだと思ってるの」
強気な言葉も真っ赤な顔のままじゃ迫力はない。
それから私達はお互いの手を絡めながら帰り道を歩く。
「ねぇヒロイン? もし、他の男の手紙を僕から渡されたらどう思う?」
「……えっ? それは……」
かなり嫌かも。
「僕の気持ち、わかった?」
「うん。……ごめんなさい」
「まぁ、渡す以前に絶対受け取らないけどね」
「えっ?」
「当たり前でしょ。ヒロインの彼氏は誰なの?」
「雅季くん」
「よく出来ました」
そう言うと、ご褒美だよ、と雅季くんはとびきり甘いキスを私にくれる。
通学路でって思ったけど、夜の帳が私達のキスを隠してくれる。
いつもはクールで何事にも動じない雅季くん。
意外な一面を知る度に、今よりもっと彼を好きになる。
雅季くんを好きな娘はあの娘以外にもたくさんいると思う。
好きって気持ちは痛いくらいわかるけど、でも絶対譲れない。
私も負けないくらい雅季くんの事好きだから。
繋いだ手から伝わる温もりも優しいキスも、私だけのものだから。
「雅季くん」
「何? ヒロイン」
「……好き」
「……っ。知ってる」
不意打ちに弱いって事も気付いちゃったし。
「顔、赤いよ?」
「……うるさい」
そう言って雅季くんが、くすくす笑う私の唇を塞いで来る。
「……ヒロインも赤いよ?」
「誰がそうしたのよ?」
「うん。僕」
悪びれる事なく雅季くんが言うと、私達は笑いあった。
これからもずっと雅季くんとこうしていたい。
彼の一番近い場所でこんな風にいつまでも笑っていたい。
だから、ね?
繋いだ手を離さないでね?
雅季くんにとって
一番近い場所に
いさせてね。
END.
