はじまりの日に
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その日、僕は書斎にいた。
好きなジャズを掛け、本を読む。僕の一番大好きな時間の過ごし方だ。
誰にも邪魔されない、心が安らぐ大切なひととき。
本の世界に入り込んでいた時、ドアをノックされた様な気がした。
本から少し目線をはずす。
気のせいか、と思った時、もう一度今度ははっきりドアをノックする音が聞こえた。
「…………」
要さんかな? そう思い僕は書斎のドアを開ける。
開いたドアの向こうにいたのは要さんじゃなく、見た事ない女の子。
頭ひとつ分くらい低い位置から僕をじっと見上げている。
「……何?」
「はじめまして。私、ヒロインと言います」
……ああ。この子が。
「父さんの再婚相手の娘?」
彼女の言葉を遮ってそう聞くと、目の前の女の子が肯定した。
ふーん……確かに裕次兄さんの言う通り可愛いかも。顔はね。
「あの、雅季くんですよね?」
要さんに僕がここにいるって聞いたのかな。
僕は頷いたあと、話を切り上げる為にドアから体を離した。
ソファに戻って読みかけの本に目を落とすと、いつの間にいたのかまた話しかけてきた。
とりたててどうでもいい事ばかり一所懸命聞いてくる。
何だろう? この子。大抵の人なら、僕の態度を見て話しかけるのを諦めるのに。
それに嘘をつくのが下手だし。僕の気を引こうとしてるの、見え見え。
今まで僕の周りにいなかったタイプのヒロインが少し……ほんの少し、物珍しかったからかもしれない。
この時は、本当に少しだけ、ヒロインに興味が湧いたんだ。
変わらない僕の態度にヒロインは、儀礼的な言葉を残して書斎を後にする。
ヒロインが発した“家族”って言葉に違和感を感じた僕は、ヒロインが出ていったドアを開け、立ち去ろうとする彼女に思ったままの事を言った。
これまで守ってきた自分のペースを乱されたくないから出た言葉。
だけどそれは言い訳に過ぎなかった。
僕のペースを乱す存在になり得そうな予感を感じていた。
それはとても小さな……でも確かな心の変化だった。
ヒロインは僕が思った通り、想像の範囲を超えた行動をする。
ダイヤが紛失した時もそう。
自分が明らかに疑われてるのを知った上で、その疑惑を自ら晴らそうと考えるなんて思いつかないよ。
そんな風にして、だんだんヒロインは僕の心に当たり前の様に、とてもさりげなく入り込んできた。
最初の内こそ、まだヒロインっていう西園寺家に取っても新しい変化を与えたキミに、僕のペースはすっかり乱されてしまっていた。
紙の上でだけとはいえ、“妹”のヒロインにこんな気持ちを抱いてるなんて、他の兄弟に悟られるわけにいかない。
“妹”だなんて思った事、一度だってないよ。
だけど、それは多分許されない想い。
これ以上深くヒロインに関わってしまったら、自分がどうなるのかわからない。
自分自身でさえ、知らなかった“自分”が何をしでかすかわからない、なんて滑稽だけど。
それすら保てなくなる程の魅力がヒロインにはあるから。
だから、そうなる前に心に鍵を掛けよう。
ゆっくり育っていくこの感情が、自分の手に負えないくらいに大きくなる前に。
大丈夫。僕なら簡単に出来るはず。
これまでだってそうしてきたんだ。
……だけど、一度光を見つけた感情を心の奥底にしまい込むのは、計算してたよりも困難で。
抑えれば抑えただけ、育っていく。
そんな僕を知ってか知らずか、相変わらずヒロインは冷たい態度をとる僕に話しかける事をやめない。
参った……降参だよ。
ヒロインは僕の中で最初からずっと、“女の子”だった。
ヒロインを他の誰にも渡したくないんだから、仕方ないよね?
……その相手がたとえ、自分の兄弟であったとしても。
僕をここまで変えたんだ。その責任はしっかり取ってもらうよ。
主導権は絶対に渡さないけどね。
僕がヒロインのペースに巻き込まれた様に
ヒロインを僕のペースに巻き込んであげるから。
覚悟しといて。
END.
好きなジャズを掛け、本を読む。僕の一番大好きな時間の過ごし方だ。
誰にも邪魔されない、心が安らぐ大切なひととき。
本の世界に入り込んでいた時、ドアをノックされた様な気がした。
本から少し目線をはずす。
気のせいか、と思った時、もう一度今度ははっきりドアをノックする音が聞こえた。
「…………」
要さんかな? そう思い僕は書斎のドアを開ける。
開いたドアの向こうにいたのは要さんじゃなく、見た事ない女の子。
頭ひとつ分くらい低い位置から僕をじっと見上げている。
「……何?」
「はじめまして。私、ヒロインと言います」
……ああ。この子が。
「父さんの再婚相手の娘?」
彼女の言葉を遮ってそう聞くと、目の前の女の子が肯定した。
ふーん……確かに裕次兄さんの言う通り可愛いかも。顔はね。
「あの、雅季くんですよね?」
要さんに僕がここにいるって聞いたのかな。
僕は頷いたあと、話を切り上げる為にドアから体を離した。
ソファに戻って読みかけの本に目を落とすと、いつの間にいたのかまた話しかけてきた。
とりたててどうでもいい事ばかり一所懸命聞いてくる。
何だろう? この子。大抵の人なら、僕の態度を見て話しかけるのを諦めるのに。
それに嘘をつくのが下手だし。僕の気を引こうとしてるの、見え見え。
今まで僕の周りにいなかったタイプのヒロインが少し……ほんの少し、物珍しかったからかもしれない。
この時は、本当に少しだけ、ヒロインに興味が湧いたんだ。
変わらない僕の態度にヒロインは、儀礼的な言葉を残して書斎を後にする。
ヒロインが発した“家族”って言葉に違和感を感じた僕は、ヒロインが出ていったドアを開け、立ち去ろうとする彼女に思ったままの事を言った。
これまで守ってきた自分のペースを乱されたくないから出た言葉。
だけどそれは言い訳に過ぎなかった。
僕のペースを乱す存在になり得そうな予感を感じていた。
それはとても小さな……でも確かな心の変化だった。
ヒロインは僕が思った通り、想像の範囲を超えた行動をする。
ダイヤが紛失した時もそう。
自分が明らかに疑われてるのを知った上で、その疑惑を自ら晴らそうと考えるなんて思いつかないよ。
そんな風にして、だんだんヒロインは僕の心に当たり前の様に、とてもさりげなく入り込んできた。
最初の内こそ、まだヒロインっていう西園寺家に取っても新しい変化を与えたキミに、僕のペースはすっかり乱されてしまっていた。
紙の上でだけとはいえ、“妹”のヒロインにこんな気持ちを抱いてるなんて、他の兄弟に悟られるわけにいかない。
“妹”だなんて思った事、一度だってないよ。
だけど、それは多分許されない想い。
これ以上深くヒロインに関わってしまったら、自分がどうなるのかわからない。
自分自身でさえ、知らなかった“自分”が何をしでかすかわからない、なんて滑稽だけど。
それすら保てなくなる程の魅力がヒロインにはあるから。
だから、そうなる前に心に鍵を掛けよう。
ゆっくり育っていくこの感情が、自分の手に負えないくらいに大きくなる前に。
大丈夫。僕なら簡単に出来るはず。
これまでだってそうしてきたんだ。
……だけど、一度光を見つけた感情を心の奥底にしまい込むのは、計算してたよりも困難で。
抑えれば抑えただけ、育っていく。
そんな僕を知ってか知らずか、相変わらずヒロインは冷たい態度をとる僕に話しかける事をやめない。
参った……降参だよ。
ヒロインは僕の中で最初からずっと、“女の子”だった。
ヒロインを他の誰にも渡したくないんだから、仕方ないよね?
……その相手がたとえ、自分の兄弟であったとしても。
僕をここまで変えたんだ。その責任はしっかり取ってもらうよ。
主導権は絶対に渡さないけどね。
僕がヒロインのペースに巻き込まれた様に
ヒロインを僕のペースに巻き込んであげるから。
覚悟しといて。
END.
