SWEET SWEET SWEET
──2月14日の夕方。とあるマンションのエレベーター。中学生の男の子と女の子が乗っている。
「なぁ」
「……何よ?」
「チョコレートは? まだお前から貰ってないんだけど?」
男の子は女の子に向かって手のひらを差し出して催促する。
「……ないわよ」
「なんでだよ。毎年くれるじゃん」
「今年からやめたの」
この二人はつきあっていない。いわゆる“幼馴染”である。毎年バレンタインデーにはチョコを、ホワイトデーにはお返しをしあっていた。
「なんだよー。楽しみにしてたのに」
「……別にわたしからじゃなくたって他の子に貰ってるんだからいいでしょ?」
「なんだよ、それ。貰ってねーよ」
「うそ。だって見たもの。あんたが他の子からチョコ貰ってるの」
女の子は幼馴染の男の子に秘かに恋をしていた。今年ももちろんチョコレートを用意していた。
去年まで誰からもチョコを貰っていなかった男の子に、「幼馴染だし仕方なくなんだからね」と毎年言い訳をしてチョコを渡していた。
だけど今年は違った。自分以外の女の子が男の子にチョコを渡している場面を見てしまった。
……邪魔しちゃいけない。そう思った女の子は足早にその場を去った。
それからは男の子と顔をあわせないように避けた。放課後、同じマンションへ帰る男の子より早く帰ろうと校舎から出た。しかし、エレベーターを待ってる間に男の子に追いつかれてしまい、今の状況である。
「あー、あれ見てたのか? でもさ」
「良かったじゃない。チョコ貰えて。だからもうわたしからのチョコなんて必要ないでしょ?」
男の子の言葉を遮り矢継ぎ早にそうまくし立てる。ポン、と到着音が鳴り、エレベーターの扉が開く。歩き出そうとした女の子の手を男の子が掴んで引き止める。
「え、なに……?」
「……そんな事言うなよ」
「……え?」
「あの子からチョコ受け取ってねーし。俺はお前がくれるチョコが欲しいんだよ」
エレベーターの扉が閉まる。が、階数ボタンが押されていないエレベーターは到着した階で止まったまま動かない。
「な、に言ってるのよ……誰から貰っても同じでしょ。あんた甘いモノ好きなくせに」
「だから! 好きなヤツ以外から貰ったって意味ねーって……あ」
「え……」
掴んでいた女の子の手を離し、しまった、という表情を見せる男の子。その顔は耳まで赤く染まっている。照れ隠しに頭をガシガシと掻いたあと、「行くぞ」と言い、1階のボタンを押す。
「え……え? 行くってどこに?」
「今から買いに行くんだよ。チョコレート。お前から貰うまで家に帰さねえからな」
真っ赤になりながらぶっきらぼうに告げる男の子。それを見た。女の子は自分のカバンの中からラッピングされた箱を取り出す。
「あの……ごめん。本当は持ってるの。チョコレート」
「はっ? さっきは『ない』って言ってたじゃん」
「だってわたしのなんて、もう受け取ってくれないって思ったのよ」
「もしかして……ヤキモチか? なんてまさかなー」
「……そうよ」
茶化す様に言った男の子に向き直り、ひとつコホン、と咳払いをする女の子。
「今まで言わなかったけどわたし、好きな人にしかチョコ渡したことないんだからねっ」
幼馴染だったふたりの恋心が重なって、恋人としての時間がいま動き出す──。
fin.
「なぁ」
「……何よ?」
「チョコレートは? まだお前から貰ってないんだけど?」
男の子は女の子に向かって手のひらを差し出して催促する。
「……ないわよ」
「なんでだよ。毎年くれるじゃん」
「今年からやめたの」
この二人はつきあっていない。いわゆる“幼馴染”である。毎年バレンタインデーにはチョコを、ホワイトデーにはお返しをしあっていた。
「なんだよー。楽しみにしてたのに」
「……別にわたしからじゃなくたって他の子に貰ってるんだからいいでしょ?」
「なんだよ、それ。貰ってねーよ」
「うそ。だって見たもの。あんたが他の子からチョコ貰ってるの」
女の子は幼馴染の男の子に秘かに恋をしていた。今年ももちろんチョコレートを用意していた。
去年まで誰からもチョコを貰っていなかった男の子に、「幼馴染だし仕方なくなんだからね」と毎年言い訳をしてチョコを渡していた。
だけど今年は違った。自分以外の女の子が男の子にチョコを渡している場面を見てしまった。
……邪魔しちゃいけない。そう思った女の子は足早にその場を去った。
それからは男の子と顔をあわせないように避けた。放課後、同じマンションへ帰る男の子より早く帰ろうと校舎から出た。しかし、エレベーターを待ってる間に男の子に追いつかれてしまい、今の状況である。
「あー、あれ見てたのか? でもさ」
「良かったじゃない。チョコ貰えて。だからもうわたしからのチョコなんて必要ないでしょ?」
男の子の言葉を遮り矢継ぎ早にそうまくし立てる。ポン、と到着音が鳴り、エレベーターの扉が開く。歩き出そうとした女の子の手を男の子が掴んで引き止める。
「え、なに……?」
「……そんな事言うなよ」
「……え?」
「あの子からチョコ受け取ってねーし。俺はお前がくれるチョコが欲しいんだよ」
エレベーターの扉が閉まる。が、階数ボタンが押されていないエレベーターは到着した階で止まったまま動かない。
「な、に言ってるのよ……誰から貰っても同じでしょ。あんた甘いモノ好きなくせに」
「だから! 好きなヤツ以外から貰ったって意味ねーって……あ」
「え……」
掴んでいた女の子の手を離し、しまった、という表情を見せる男の子。その顔は耳まで赤く染まっている。照れ隠しに頭をガシガシと掻いたあと、「行くぞ」と言い、1階のボタンを押す。
「え……え? 行くってどこに?」
「今から買いに行くんだよ。チョコレート。お前から貰うまで家に帰さねえからな」
真っ赤になりながらぶっきらぼうに告げる男の子。それを見た。女の子は自分のカバンの中からラッピングされた箱を取り出す。
「あの……ごめん。本当は持ってるの。チョコレート」
「はっ? さっきは『ない』って言ってたじゃん」
「だってわたしのなんて、もう受け取ってくれないって思ったのよ」
「もしかして……ヤキモチか? なんてまさかなー」
「……そうよ」
茶化す様に言った男の子に向き直り、ひとつコホン、と咳払いをする女の子。
「今まで言わなかったけどわたし、好きな人にしかチョコ渡したことないんだからねっ」
幼馴染だったふたりの恋心が重なって、恋人としての時間がいま動き出す──。
fin.
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