Märchen
2 火刑の魔女
暴食[Völlerei(フェラガイ)]
「罪を祀る歪な祭壇。
神に捧げられた屍。
君は何故、この境界を越えてしまったのか。
…さぁ、唄ってごらん。」
幽かな記憶の 糸を手繰るように
仄昏い森へ 足を踏み入れた
幼い記憶の 途を辿るように
入り組んだ森の 奥へと進んだ
小川を渡り お化けもみの木を左へと
其処に佇む 私の生家
『物心ついた時には、既に父の消息は不明で、
私と母は何時も二人、とても貧しい暮らしだった。
井戸に毒を入れた等と、謂われなき罪で虐げられる事も多く、
私にとって友達と言えるのは、森の動物達だけだった……。』
「出てけー!出てけ!」
「出てけよ!」「気持ち悪いんだよ!」
「わっ…。」
「ついてこないでよー!」
「魔女ー魔女ー!」
それでも 嗚呼 ねぇ お母さん[mutti(ムッティ)] 私は幸せだったよ
その理由を ねぇ 知ってた? 貴女が一緒だったから
それなのに 何故 母は 私を捨てたのか?
どうしても それが 知りたくて……
小さな私を拾ってくれたのは 大きな街にある修道院だった
けれど 激しく吹き荒れた改革の嵐と
新教徒達の手によって 嗚呼 無惨にも破壊された
「堕落した聖職者共を一掃するのだ!
形ばかりの聖堂台を打ち壊し、真の信仰を我らの手で!!」
「きゃー!やめてー!やめて!お願い!やめて!」
人生は数奇のもの 運命は判らないから
ひとつの終わりは 新しい始まりと信じて 勇気を持って
積年の疑問を 解く為に 故郷を探す 旅を始めた
小川を渡り お化けもみの木を左へと
其処に佇む 私の生家
『私の来訪を待っていたのは、石のように歳を取った老婆で、
まるで見知らぬその女性が、母であるとは俄には信じ難く、
娘<わたし>であると気付く事もなく、唯、食料を貪る母の瞳は、
既に正気を失っているように思えた。
そして……。』
(「ただいま。お母さん。えっ?お母さん?」
「おお、イエズスのお使いの方、よく来て下さった!」
「大丈夫ですか?」「はぁ!」
「お口に合いましたか?」
「いくらでも食べられるのぉ!」
「そんな、私は誰だかわからないのですか!?」
「何訳わからぬこといってるんだい!お前も私を差別するのかい?!寄越せ!もっと食い物を寄越せ!」
「ひぃッやめて…。いやあぁぁ!!」)
改宗したけれど時は既に遅く、
一人の食い扶持さえもう侭ならなかった。
懺悔を嗤う逆十字。
祈りは届かない。
赦しも得られぬまま、罪だけが増えてゆく……。
「成る程…
それで君は、奉られてしまった訳だね?不本意ながら…
少々時間は掛かるが、子供の憾みは子供が晴らすものさ。
宜しいかな?
さぁ、復讐劇を始めようか。」
森に置き去りにされた 可哀想な兄妹(子供達)
捨てられた子の 悲しい気持ちは 痛いほど解るわ
嗚呼 鳥達を操り パン屑の道標を消し
真雪のように 真っ白な鳥に 歌わせて誘った
(「パン屑が…食べられている」
「あっ!ねぇ、お兄ちゃん、面白い鳥がいるわ!」
「本当だ。追いかけてみよう!」)
「見て、【Hänsel】お兄ちゃん。ほら、あそこに家があるわ!」
「でも、【Gretel】それは、怖い魔女の家かも知れない……けど」
「けど?」
「腹ぺこで……死ぬよりましさ!」「死ぬよりましね!」
「「誰かいませんか?」」
「おやまぁ、可愛いお客様だこと。腹が減ってるのかい?
さぁ、中へお入り」
「屋根は焼き菓子[Lebkuchen(レープクーヘン)]。窓は白砂糖。
お菓子の美味しい家を、栫えてあげようかねぇ!」
嗚呼 遠慮はいらないよ
子供に腹一杯食べさせるのが 私のささやかな夢だった
嗚呼 金貸しだった夫は 生きては帰らなかったけど
幾許かの遺産を託けてくれていた……
老婆の好意に 無償の行為に 甘えた兄妹(二人)は 食べ続けた
少女はある日 丸々太った 少年を見て 怖くなった
「うまい!うまい!グレーテルも食べなよ!」
「うんっ!おいしいね!お兄ちゃん!」
「うまい、うまい、」
「お兄ちゃん!?」
「グレーテル、要らないんだったらお前の分もおれにくれよ」
「嗚呼、老婆は魔女で、二人を食べちゃう心算なんだわ!」
殺られる前に 殺らなきゃ ヤ・バ・イ!
背中を ドン! と 蹴飛ばせ!
「ギャーァァ!!!」
「私達を食べようなんて、そうはいかないんだからね」
「すごいぞグレーテル。これで魔女もおしまいさ」
「隣のトーマスにも、自慢してやらなきゃね」
「ああ、悪い魔女は火あぶりさ。これでお宝は」
「「私(僕)達のもの」」
「おーいトムー」
「トムー」
「よおハンス!ってお前何でそんな太ってんだ?」
「「じゃじゃーん」」
「うわあ、ひょー!こいつはついてるぜ!」
「ははは!」
「森に住む孤独な老婆は、全て魔女なんだそうだよ」
「もう、子供なんて図々しくて嘘吐きで、私は大嫌い」 きゃはは
暴食[Völlerei(フェラガイ)]
「罪を祀る歪な祭壇。
神に捧げられた屍。
君は何故、この境界を越えてしまったのか。
…さぁ、唄ってごらん。」
幽かな記憶の 糸を手繰るように
仄昏い森へ 足を踏み入れた
幼い記憶の 途を辿るように
入り組んだ森の 奥へと進んだ
小川を渡り お化けもみの木を左へと
其処に佇む 私の生家
『物心ついた時には、既に父の消息は不明で、
私と母は何時も二人、とても貧しい暮らしだった。
井戸に毒を入れた等と、謂われなき罪で虐げられる事も多く、
私にとって友達と言えるのは、森の動物達だけだった……。』
「出てけー!出てけ!」
「出てけよ!」「気持ち悪いんだよ!」
「わっ…。」
「ついてこないでよー!」
「魔女ー魔女ー!」
それでも 嗚呼 ねぇ お母さん[mutti(ムッティ)] 私は幸せだったよ
その理由を ねぇ 知ってた? 貴女が一緒だったから
それなのに 何故 母は 私を捨てたのか?
どうしても それが 知りたくて……
小さな私を拾ってくれたのは 大きな街にある修道院だった
けれど 激しく吹き荒れた改革の嵐と
新教徒達の手によって 嗚呼 無惨にも破壊された
「堕落した聖職者共を一掃するのだ!
形ばかりの聖堂台を打ち壊し、真の信仰を我らの手で!!」
「きゃー!やめてー!やめて!お願い!やめて!」
人生は数奇のもの 運命は判らないから
ひとつの終わりは 新しい始まりと信じて 勇気を持って
積年の疑問を 解く為に 故郷を探す 旅を始めた
小川を渡り お化けもみの木を左へと
其処に佇む 私の生家
『私の来訪を待っていたのは、石のように歳を取った老婆で、
まるで見知らぬその女性が、母であるとは俄には信じ難く、
娘<わたし>であると気付く事もなく、唯、食料を貪る母の瞳は、
既に正気を失っているように思えた。
そして……。』
(「ただいま。お母さん。えっ?お母さん?」
「おお、イエズスのお使いの方、よく来て下さった!」
「大丈夫ですか?」「はぁ!」
「お口に合いましたか?」
「いくらでも食べられるのぉ!」
「そんな、私は誰だかわからないのですか!?」
「何訳わからぬこといってるんだい!お前も私を差別するのかい?!寄越せ!もっと食い物を寄越せ!」
「ひぃッやめて…。いやあぁぁ!!」)
改宗したけれど時は既に遅く、
一人の食い扶持さえもう侭ならなかった。
懺悔を嗤う逆十字。
祈りは届かない。
赦しも得られぬまま、罪だけが増えてゆく……。
「成る程…
それで君は、奉られてしまった訳だね?不本意ながら…
少々時間は掛かるが、子供の憾みは子供が晴らすものさ。
宜しいかな?
さぁ、復讐劇を始めようか。」
森に置き去りにされた 可哀想な兄妹(子供達)
捨てられた子の 悲しい気持ちは 痛いほど解るわ
嗚呼 鳥達を操り パン屑の道標を消し
真雪のように 真っ白な鳥に 歌わせて誘った
(「パン屑が…食べられている」
「あっ!ねぇ、お兄ちゃん、面白い鳥がいるわ!」
「本当だ。追いかけてみよう!」)
「見て、【Hänsel】お兄ちゃん。ほら、あそこに家があるわ!」
「でも、【Gretel】それは、怖い魔女の家かも知れない……けど」
「けど?」
「腹ぺこで……死ぬよりましさ!」「死ぬよりましね!」
「「誰かいませんか?」」
「おやまぁ、可愛いお客様だこと。腹が減ってるのかい?
さぁ、中へお入り」
「屋根は焼き菓子[Lebkuchen(レープクーヘン)]。窓は白砂糖。
お菓子の美味しい家を、栫えてあげようかねぇ!」
嗚呼 遠慮はいらないよ
子供に腹一杯食べさせるのが 私のささやかな夢だった
嗚呼 金貸しだった夫は 生きては帰らなかったけど
幾許かの遺産を託けてくれていた……
老婆の好意に 無償の行為に 甘えた兄妹(二人)は 食べ続けた
少女はある日 丸々太った 少年を見て 怖くなった
「うまい!うまい!グレーテルも食べなよ!」
「うんっ!おいしいね!お兄ちゃん!」
「うまい、うまい、」
「お兄ちゃん!?」
「グレーテル、要らないんだったらお前の分もおれにくれよ」
「嗚呼、老婆は魔女で、二人を食べちゃう心算なんだわ!」
殺られる前に 殺らなきゃ ヤ・バ・イ!
背中を ドン! と 蹴飛ばせ!
「ギャーァァ!!!」
「私達を食べようなんて、そうはいかないんだからね」
「すごいぞグレーテル。これで魔女もおしまいさ」
「隣のトーマスにも、自慢してやらなきゃね」
「ああ、悪い魔女は火あぶりさ。これでお宝は」
「「私(僕)達のもの」」
「おーいトムー」
「トムー」
「よおハンス!ってお前何でそんな太ってんだ?」
「「じゃじゃーん」」
「うわあ、ひょー!こいつはついてるぜ!」
「ははは!」
「森に住む孤独な老婆は、全て魔女なんだそうだよ」
「もう、子供なんて図々しくて嘘吐きで、私は大嫌い」 きゃはは