イドへ至る森へ至るイド

彼女が魔女になった理由


「何故です...何故この子を侯爵家の世継ぎとして、認めてくださらないのです...!」
「その話なら終わったはずだ」
「妾腹だから...いえ、この子の身体が不自由だから」
「くどいぞアンネリーゼ」
「嗚呼...ごめんなさい。全部母が...あなたをそんな風に産んだ、この母が悪いのです」
「くどいと言っているッ!」
「嗚呼ぁ...」


「アンネリーゼ、あなたの気持ちは痛いほど分かる。
それでも私はあなたを、許さない...」


坊や[Mr(メル)] 光を知らないあなたは
視力という その概念自体 わからなかった

坊や[Mr(メル)] 背中に抱きつきアナタは
『おかあさん。[Mutti(ムッティ)]ひかり、あったかいね』と 無邪気に笑った

嗚呼 ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい
アナタを産んだのは 私です 私です 罪深い《私》です......


「くしゅん!」
「寒くない?メル」
「うん」

母にして姉であり、断罪者にして贖罪者であった。
Therese von Ludowing(テレーゼ フォン ルードヴィング)の知られざる物語......。



森に移り住み 贖罪の日々を
薬草集めて 煎じてみたり

神に祈っても 届きはしないし
罪を抱きしめて 祈れやしない

せめてあの子の為に 出来得る限りの全てを
遣りもしないで 唯 嘆いて等いられないわ


――傷を癒やし、病を治し、
時には冬に傾きかけた赤子をも取り上げた、森に住む賢い女の噂は、
何刻しか千里を駈け巡り、皮肉な運命を導く事となる......。

「ハイヤー!はッ!たぁ!」
「私は認めませんわ...この子は...」

その夜 駈け込んできたのは お忍びの候妃で
月の無い闇の中を 希望の灯りを信じ

「この子はまだ死んでなどいません!私には...私にはわかるのですっ!
何故ってつい先日まであんなに元気だったのです!
私は認めませんわっ!」

髪を振り乱す 母を疾らせたのは 訳ありの候女で
抱きしめた腕の中で もう息をしていなかった

「近い内強く美人になるはずの子です!私の娘ですもの!
帝国中の殿方が放っておきませんわ!困りましたわ...ああ...」

その幼子を託して 妃は泣き崩れた......

「いえ!そんなことどうでも良いのです!
生きてさえ、生きてくれればぁ!」
「ソフィ様!気を強くお持ちください
賢女殿を信じましょう!」


救われる命があれば、奪われる命がある。
それを因果応報切り捨てても良いだろうか...

Hrst du mich, du stehent?
[ホルスト ドゥ ミヒ ドゥ シュテーエント
そこにいる君、私の声が聞こえるか?)]
dann kann mir du glauben....grab mich aus...!
[ダン カン ミア ドゥ グラオベン グラーブ ミヒ アウス
(ならば私を信じて大丈夫...私を掘り出してくれ...!)]
「!?」


とても不思議な出来事によって 息子は光を手に入れたけど
それが果たして幸福(幸せ)なことだったのか 今となっては善く判らない......

ha・・・

「テューリンゲンの魔女だって怖いねお兄ちゃん」
「ああ...いい子にしてないと魔女に...食べられちゃうぞ!」
「ひいっ!......もう!」
「あはは!」

(ah...ah...Opferung)

一度は冬に抱かれた 愛しい可愛い私の坊や
生きて春の日差しの中で 笑って欲しいと願った母の

「忠魂には恩情を!異端には業火を以て報いねばならん!
さあ諸君!魔女を持って鉄槌をあげよ!」
「「鉄槌をー!」」

想いも今や 唯 虚しく 束の間の陽光(ひかり)さえ 戯れに 奪われてしまった
観よ 嗚呼 この喜劇を ならば私は 世界を呪う本物の《魔女》に......(なってやるからな…ははははは・・・あーーー!!)
 (  Opferung ah Opferung ?)
――そして、【第七の喜劇】は繰り返され続けるだろう......
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イイイネ