Moira

死と嘆きの風の都-Ιλιον-


【高級遊女:ΚασσανδραとΜελλισαと其の見習い】
(Cassandra, Melissa, and their apprentice, The Hetaira.)


「急いで、貴女達?風神殿( νεμοιアネモイ)の神官様がお待ちよ」
「んもぅ、新入りィ。グズグズしてると、アタイの鉄拳が火を噴くよォ?」
「「んふふ」」
「ご…ごめんなさい」

女蛮族(アマゾン)のような腕力はないけれど
芸のない唯の売女(ポルネ)とは違うわ
嗚呼…花代(ドラクマ)と真心を引き換えに美しの夢を売る…

敬愛する詩人( ソフィア)のような教養はないけれど
学のない唯の街娼( デミエ)とは違うわ

嗚呼…元々哀しき哀しき奴隷の身とはいえ
今は咲き誇る薔薇【高級遊女】( ヘタイラ)

花開き風薫る春を鬻(ひさ)ぐ以外
身寄りなき娘には何もないけれど
憐れみならば要らないわ…馬鹿にしないで…
アナタの其れは愛じゃない!

La…


「っと、着いたわねぇ」
「ぅわーぉ」
「ここが、風の都(イーリオン)?」

【風の都】

《「お前らー!さっさと運べ!」「サボるんじゃない!」
「貴様らはここで、死ぬまでこの城壁を築き続けるんだ!」
「さぁ運べ! 休むんじゃない!」 「さっさと運ばんかいコラァ!ええい!!」 》
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壁石(いし)を運ぶ者 乾いた音(ね)に打たれ
医師を叫ぶ者 地に臥して虚しく

奴隷達の多くは背後に黒き影を纏っていた…
(Many slaves wear black shadows on their backs...)


遺志(いし)を継(つ)げる者 奴隷の替え数多(あまた)
縊死(いし)を遂(と)げる者 冥府への逃避行

その影は他の者には視えていないようだったが
(Others can't see the shadow,)
少年は何時からかその存在に気付いていた…そして――
(but the boy is aware of its existence, he is not even aware of the first time he could notice it and― )
その影を纏いし者はそう遠くない内に確実に死んでいったのである……
(Those who wore that strange dark shadow, met a certain death in a short period oftime.... a certain DEATH......)


《「さぁ、貴様ら死にたくなかったら、とっとと働くんだ!」
「急げ!」 「ほれぃ!」 「ぐあぁ!」
「てぃ!」 「うわぁ!」
「石を運んだものにだけ、食事を与えてやらぁ!」 「うわっ!…うわっ!うっ…」
「さぁ働け! 死ぬまで! 働くんだ!」 「うわぁ!」 「ホレホレ」 》


愛と慈しみだけに 抱かれ育った少年は
怒りと憎しみだけを 抱いて今を耐え忍ぶ

いっそ死んだらラクだなんて きっと今よりマシだなんて
酔った譫言(うわごと)繰り返して 去った希望に追い縋った

そんな負け犬のように 運命(ミラ)に飼い馴らされはしない
たとえ奴隷が犬であれ 剥くべき牙は忘れない

オオカミは奔る前に 満月に吠える


《「どこがイイんだい?言ってごらん?」「あぁっ!」
「ここか?」「うあぁ!」
『息仔ョ(ネクロス)...モット生ヲ憎ムガィィ...ィズレソノ身ハ我ガモノトナル...』
「ここなのか?ほぁっはっは」「嫌だっ…!」 「ほぉらぁ、ほぉぉぉらぁぁぁぁ」


「くそぅ、痛ぇ…あの変態神官、いつか殺してやる!」
「よぉ、ブサイクちゃん!ひでぇツラだなぁ」
「フン、人のこと言えたツラかよ…」 「フッ、フフッ、ちげぇねぇ!」
「「ハハハハ」」 》


人は誰もが 死すべき運命(さだめ)を背負い
儘…抱いて抱かれて 寂しさを愛で埋める
されど彼等の多くは 死すべき運命(さだめ)を呪い
儘…奪い奪われ 虚しさで胸を満たす

少女の頬を伝わる 清らかな(けがれなき)雫を
汚らわしき(赤黒き)舌先が 掬(すく)いかけた刹那
《「逃がさないよ、子猫ちゃん」「嫌ぁ・・・」
「イヒ、イヒ、イッヒッヒッヒッヒ」 「嫌ぁ…来ないでぇ!」
「私の渇きを潤してくれぇぇ」
「ヤァァァッ!」
「ギャアアア!!」
「大丈夫かい、君?」 
「エレフ?」
「ミーシャ!?」
「う…うぅ…誰ぞおらぬかあぁぁぁ!」

「……追っ手が来る前に逃げよう!ミーシャ!」「うん!」

「てやっ!」
「待てぇぇ!」
「つかまるんじゃねぇぞ!エレフ!」 「お前こそな!オリオン!」
「やぁっ!」 》


繋いだ手と手(が) 駈け抜ける風の都(Ιλιον イリオン)
降り注ぐ星屑 夕闇(よいやみ)の風の都(Ιλιον イリオン)
嘆きと死の城壁 聳え立つ風の都(Ιλιον イリオン)
振り返る背後に 遠離る風の都(Ιλιον イリオン)
《「待て待てぇ!」 「たぁ!!」 「ぐわぁ!」
「必殺!“弓がしなり弾けた焔、夜空を凍らせて”射ち!」
「技名長ぇよバカ!」
「黙らっしゃい!これぞオリオン流弓術が真髄!」
「「「ハハハハッ…」」」》


神域を穢した者を 風神は決して赦さない
(Anemos can never forgive those who disgraced god's domain.)
その怒りは 雨女神と交わり 娘を生むだろう……
(The anger fused with Βροχη (Broche) and will conceive θυελλα (Thyella)......)
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イイイネ