風花雪月
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夏の夜、静かな月。洗面台の水滴が落ちる音に起こされて裸足にサンダルで廊下に出た。学級は変わっても部屋は変わらないから両隣は青獅子、ルーヴェンクラッセの子だ。
転級をお願いしに行ったら、級長にはすごく残念がられた。
だけど最後には私の決めたことだと認めてくれて、また一緒に学びあうこと、クロードが悪巧みしてたら告げ口することも約束して、無事にヒルシュクラッセに入ることになったのだった。
ヒルシュクラッセは……なんだか思っていたよりまともな人が多かった。
例えばローレンツ君とか、遠目に見ていたときは苦手だった人でも話すと尊敬できたりして。ヒルダちゃんに色々頼まれるのは困りものだけれど、こちらも色々頼み返しているのでまあ良いかな。
それよりも問題なのは……。
「ん? よっ、眠れないのか?」
「なんで起きてるの……」
「まあまあ、夜の方が都合の良いことってあるだろ?」
この人。
同じ学級になってみてお隣さんくらいがちょうど良かったのだとよく分かった。なにかしたい、なんて夢のまた夢。近くにいるだけでもドキドキするのに、ご飯食べようとか、作戦考えようとか、なにかと隣に呼んでくれるの。全然心臓がもたない。
どうしようかと後退ると、夜露に濡れた芝生が踝をくすぐった。
「おいおい逃げるなよ。こっちおいで」
「なにも用は……」
と言いつつ近寄ってしまう。なんなの、なんでこんなにドキドキするの。他の人に同じことされても平気なのにどうしてクロードだけ。
悔しい。私だってやり返したい。そう思って彼の顔をよく見ると、クロードは何故か少し赤く見えた。
「なにか?」
「いや、お前さ……いつもは足隠してるだろ」
「うん、怪我すると危険だし」
「それにその服ゆるい」
「寝間着だもん」
当たり前でしょ。そう思って首を傾げたら、クロードは小さく抑えるように呻き声を上げた。
「なに!? どっか痛いの? だいじょうぶ?」
「いやそういうんじゃないからマジで大丈夫。ただな、お前夜に部屋出ることは結構あるのかな、と」
「ううん、ほとんどないよ」
返事を聞いた彼は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。もしかして心配してくれてる……?
確かに修道院内とはいえ安全とは言いきれないかもしれない。政治的宗教的な問題が多く存在する場所なのだし……。
「これからはもっと気をつけるね」
「いや、そういう……まあいいけどな。ここじゃプライベートな空間ってあんまりないだろ? 自分の部屋でも隣でなんかやってれば流石にきこえるし」
「? うん」
「だから色々溜めてる奴も居るわけ。夜に出るなら俺を呼べよ。な?」
確かに思いっきり歌うとかできないもんね。イライラして八つ当たり、とかもあるのかも。神妙に頷けばまた微妙な顔をされた。
でも、俺を呼べ、か……。
やっぱり嬉しい気持ちは隠せなくて、同じ学級になれて良かったと思える。クロードのこういうこと言ってくれるところが好きだな。たまらなく……、ん!?
「っ!?」
「〇?」
好き、好きなのかな、私。
待って、なんとなく思っているのとしっかり自覚するのでは全然違う。顔が熱くて火が吹きそうで、彼を見ることが全然できない。
どうしよ、今までだってぼんやりとは感じていたはずなのにこんなの……。
「それ、ずるいだろ……」
動揺して佇んでいたら、上を向かされた先にも同じ表情があった。いつの間にこんなに近くまで来たんだろう。あたりはしんとして、瑞々しい空気に満ちているだけだ。
「わ、わたし、もう寝る!」
「ちょっと待て、今別れたら……」
「おやすみ!」
恥ずかしさのあまりクロードから逃げてしまう私の口と足。まるで別の生き物みたいに好きなことして、心だけ置いてけぼりにされて。
ねえ、お願いだから……。
寮へ戻るはずの私の足は気づけば温室に着いていた。
転級をお願いしに行ったら、級長にはすごく残念がられた。
だけど最後には私の決めたことだと認めてくれて、また一緒に学びあうこと、クロードが悪巧みしてたら告げ口することも約束して、無事にヒルシュクラッセに入ることになったのだった。
ヒルシュクラッセは……なんだか思っていたよりまともな人が多かった。
例えばローレンツ君とか、遠目に見ていたときは苦手だった人でも話すと尊敬できたりして。ヒルダちゃんに色々頼まれるのは困りものだけれど、こちらも色々頼み返しているのでまあ良いかな。
それよりも問題なのは……。
「ん? よっ、眠れないのか?」
「なんで起きてるの……」
「まあまあ、夜の方が都合の良いことってあるだろ?」
この人。
同じ学級になってみてお隣さんくらいがちょうど良かったのだとよく分かった。なにかしたい、なんて夢のまた夢。近くにいるだけでもドキドキするのに、ご飯食べようとか、作戦考えようとか、なにかと隣に呼んでくれるの。全然心臓がもたない。
どうしようかと後退ると、夜露に濡れた芝生が踝をくすぐった。
「おいおい逃げるなよ。こっちおいで」
「なにも用は……」
と言いつつ近寄ってしまう。なんなの、なんでこんなにドキドキするの。他の人に同じことされても平気なのにどうしてクロードだけ。
悔しい。私だってやり返したい。そう思って彼の顔をよく見ると、クロードは何故か少し赤く見えた。
「なにか?」
「いや、お前さ……いつもは足隠してるだろ」
「うん、怪我すると危険だし」
「それにその服ゆるい」
「寝間着だもん」
当たり前でしょ。そう思って首を傾げたら、クロードは小さく抑えるように呻き声を上げた。
「なに!? どっか痛いの? だいじょうぶ?」
「いやそういうんじゃないからマジで大丈夫。ただな、お前夜に部屋出ることは結構あるのかな、と」
「ううん、ほとんどないよ」
返事を聞いた彼は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。もしかして心配してくれてる……?
確かに修道院内とはいえ安全とは言いきれないかもしれない。政治的宗教的な問題が多く存在する場所なのだし……。
「これからはもっと気をつけるね」
「いや、そういう……まあいいけどな。ここじゃプライベートな空間ってあんまりないだろ? 自分の部屋でも隣でなんかやってれば流石にきこえるし」
「? うん」
「だから色々溜めてる奴も居るわけ。夜に出るなら俺を呼べよ。な?」
確かに思いっきり歌うとかできないもんね。イライラして八つ当たり、とかもあるのかも。神妙に頷けばまた微妙な顔をされた。
でも、俺を呼べ、か……。
やっぱり嬉しい気持ちは隠せなくて、同じ学級になれて良かったと思える。クロードのこういうこと言ってくれるところが好きだな。たまらなく……、ん!?
「っ!?」
「〇?」
好き、好きなのかな、私。
待って、なんとなく思っているのとしっかり自覚するのでは全然違う。顔が熱くて火が吹きそうで、彼を見ることが全然できない。
どうしよ、今までだってぼんやりとは感じていたはずなのにこんなの……。
「それ、ずるいだろ……」
動揺して佇んでいたら、上を向かされた先にも同じ表情があった。いつの間にこんなに近くまで来たんだろう。あたりはしんとして、瑞々しい空気に満ちているだけだ。
「わ、わたし、もう寝る!」
「ちょっと待て、今別れたら……」
「おやすみ!」
恥ずかしさのあまりクロードから逃げてしまう私の口と足。まるで別の生き物みたいに好きなことして、心だけ置いてけぼりにされて。
ねえ、お願いだから……。
寮へ戻るはずの私の足は気づけば温室に着いていた。