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やっと捕まえた。まず思ったのはそれだった。
ただの会計とはいっても彼女はなかなか逃げ足が早いというか独特というか、一筋縄ではいかない相手だった。
それでも今は自分の隣で筆を走らせているのだ。酒の量も増えるってもんだろう、なあ?
「ふふん、今日も酒が美味いな」
「それは良かったですね、"ガイア隊長"」
「まあまあリスみたいな顔するなよ。これやるから」
「え? ……ミックスナッツってお酒のお供じゃん!」
ちょっと良いもの期待したのに、と拗ねる〇は更に頬袋を膨らませて書類をこちらに寄越した。目を通さずにサインしてテーブルに積む。一応クルミを摘んで小さな口の前まで持っていくと、ぱく、と食べた。
「んむ……ちゃんと読まないとだめじゃない?」
「お前を信用してるんだよ。補佐の仕事もなかなか出来てるじゃないか。ジンの予想通りだな」
「……どうだか」
きっと俺が仕向けたことには気がついているんだろう、補佐になってからの〇は終始何が目的だと言わんばかりの視線をこちらに向けてくるようになった。だが実際はお前が考えているほど複雑じゃないぜ、と言ったら?
また口を開いて二つ目のクルミを待っている〇。疑ったそばから簡単に信用して__本当、「かわいすぎるんだよな……」「っ!?」「うん? 何かあったか?」
木苺みたいに顔が真っ赤だ。ギギギ、と油を差し忘れた機械のように固まってしまった〇にもう一度「可愛いな」と伝えると、唇をいの口にしたりうの口にしたり、何か言いたいが出てこないらしい。
「ははっ、何か企んでると思ったか? 酷いじゃないか、信用してくれよ」
「は……っ? い、意味がわかんないんだけど」
「可愛い」
「それやめて!」
やめるもなにもお前が可愛いのをやめればいいだろう、と伝えれば机に突っ伏してペンを床に投げ捨ててしまった。それでも耐えられないものがあるのか、追加で蝋燭やスプーン、インクの小瓶まで飛んでいく。割れなくてよかったな。
それでも可愛いから、というのは単純化しすぎだがあながち間違いでもない。俺の思考速度についてこれること、神の目持ちで戦闘もこなせること、モンドの情報通なこと、それら全てが揃っている別人が居たとしても〇を選び続けるだろう。コロコロ変わる表情は見ていて飽きないし、照れ隠しに文句を浴びせてくる彼女の耳が赤ワインのように色づくのも好きだ。会計だった頃はあちこちの担当から仕事の名目で食事に誘われていたり、手伝いをさせられていたり__腸が煮えくり返る思いだったさ。
「……? ガイア?」
突然黙った俺に気がついたのか、むくりと顔を上げた〇が心配そうに見つめてくる。独り占めっていうのはどうしてこんなに気持ちいいんだろうな。腕を伸ばして頭を撫でてやるとその目はジトッと細められる。その癖口元がゆるんでいるのは隠せておらず、子犬のしっぽが揺れているのが見えそうなほどだった。
「なに? からかってるでしょ」
「まあまあそう拗ねるなよ。お前に来てもらってから随分と俺の仕事も軽くなったし、有難いと思ってるんだぜ」
「……そ、そうなの」
こいつも褒め言葉を受け取るのがヘタクソなタイプだ。これ以上押すと壊れてしまうので書類をまとめて抱えると、寂しそうにこちらを見る。煽ってんのか?
「じゃ、代理団長のところに話をつけに行ってくる。適当に休憩はとれよ? まだ飯も食べてないだろ」
「あ、わかった……いつ戻るの?」
「なんだ寂しいのか?」
「ちがっ、違う! 誰か来た時に困るでしょ、目安がないと」
「ははっ、その時は追い返しとけ。じゃあな~」
扉を閉めて一呼吸置く。先程の部屋からは「なんなの……ばか……」と小さな文句が聞こえてくるが文句を言いたいのはこちらの方だ。これ以上は壊れるなんて言ってる場合じゃない。あれを素でやってるのか? 俺が先に壊れそうだ。
のろのろと騎士団内を歩きながらも頭を占めるのはあの赤い耳。不安げな瞳。他人には冷静な会計だった彼女はいつも俺にだけ乱されてくれる。その上__
ゴンッ
「った!」
「? あっ! ガイア先輩! ……ってあれ? もしかしてドアぶつけちゃいました!? す、すみません……!!」
この声はアンバーか。強打した左目を通した景色はぼんやりと滲んでいて見えにくい。こういう時眼帯を外したくもなるが、大丈夫だと伝えてなんとか平静を保った。
「ジンはいるか?」
「あっ、はい! あの、氷とか……」
「いや、自分で冷やすさ。そう気にするな」
「アンバー、誰と……ああ、ガイアか。どうしたんだ?」
「わわわたしがドアぶつけちゃって……」
「それは……避けられないとは珍しいな」
扉で話し込んでいたからだろう、ジンが来てそんなことを言った。確かにおっちょこちょいな後輩や小さな爆弾魔がいる騎士団内で不注意は致命的だ。気をつけると笑いながら書類を見せれば、さらに不思議な顔をされた。
「だいぶ早めに持ってきてくれたんだな、助かるが何かあったのか?」
「……、いや。〇のおかげで時間に余裕があるんだ」
〇の名を出すとジンは安心したようによかったと言う。何事かと思えばアンバーは疑わしそうにこちらを見てきていた。
「本当ですか? あの〇さんを引き抜くなんて、絶対先輩に苦労させられてるって噂になってるんですよ!」
「ほお、そんなこと言われてるのか? 信用がないなあ」
「だって〇さんといえば頼もしくて優しくて落ち着いてて……なんで先輩のところなんかに……」
「あらアンバー、あの仕事は終わったのかしら?」
「! リサさん! すっ、すぐに行きます!」
リサに呼ばれて駆けていった後輩にほっと息を吐く。らしくないと思っていたのは俺だけではないようで、〇が居るのだから調子の悪い日は休めとジンにまで心配されてしまった。あの代理団長にまで休めと言われてしまうのは末期だな。
仕方ない。代理団長のサインがされた書類は期日までこちらで保管しておいてほしいと言われてしまったし、"頼もしくて落ち着いてる"〇に看病でも頼むか。
ただの会計とはいっても彼女はなかなか逃げ足が早いというか独特というか、一筋縄ではいかない相手だった。
それでも今は自分の隣で筆を走らせているのだ。酒の量も増えるってもんだろう、なあ?
「ふふん、今日も酒が美味いな」
「それは良かったですね、"ガイア隊長"」
「まあまあリスみたいな顔するなよ。これやるから」
「え? ……ミックスナッツってお酒のお供じゃん!」
ちょっと良いもの期待したのに、と拗ねる〇は更に頬袋を膨らませて書類をこちらに寄越した。目を通さずにサインしてテーブルに積む。一応クルミを摘んで小さな口の前まで持っていくと、ぱく、と食べた。
「んむ……ちゃんと読まないとだめじゃない?」
「お前を信用してるんだよ。補佐の仕事もなかなか出来てるじゃないか。ジンの予想通りだな」
「……どうだか」
きっと俺が仕向けたことには気がついているんだろう、補佐になってからの〇は終始何が目的だと言わんばかりの視線をこちらに向けてくるようになった。だが実際はお前が考えているほど複雑じゃないぜ、と言ったら?
また口を開いて二つ目のクルミを待っている〇。疑ったそばから簡単に信用して__本当、「かわいすぎるんだよな……」「っ!?」「うん? 何かあったか?」
木苺みたいに顔が真っ赤だ。ギギギ、と油を差し忘れた機械のように固まってしまった〇にもう一度「可愛いな」と伝えると、唇をいの口にしたりうの口にしたり、何か言いたいが出てこないらしい。
「ははっ、何か企んでると思ったか? 酷いじゃないか、信用してくれよ」
「は……っ? い、意味がわかんないんだけど」
「可愛い」
「それやめて!」
やめるもなにもお前が可愛いのをやめればいいだろう、と伝えれば机に突っ伏してペンを床に投げ捨ててしまった。それでも耐えられないものがあるのか、追加で蝋燭やスプーン、インクの小瓶まで飛んでいく。割れなくてよかったな。
それでも可愛いから、というのは単純化しすぎだがあながち間違いでもない。俺の思考速度についてこれること、神の目持ちで戦闘もこなせること、モンドの情報通なこと、それら全てが揃っている別人が居たとしても〇を選び続けるだろう。コロコロ変わる表情は見ていて飽きないし、照れ隠しに文句を浴びせてくる彼女の耳が赤ワインのように色づくのも好きだ。会計だった頃はあちこちの担当から仕事の名目で食事に誘われていたり、手伝いをさせられていたり__腸が煮えくり返る思いだったさ。
「……? ガイア?」
突然黙った俺に気がついたのか、むくりと顔を上げた〇が心配そうに見つめてくる。独り占めっていうのはどうしてこんなに気持ちいいんだろうな。腕を伸ばして頭を撫でてやるとその目はジトッと細められる。その癖口元がゆるんでいるのは隠せておらず、子犬のしっぽが揺れているのが見えそうなほどだった。
「なに? からかってるでしょ」
「まあまあそう拗ねるなよ。お前に来てもらってから随分と俺の仕事も軽くなったし、有難いと思ってるんだぜ」
「……そ、そうなの」
こいつも褒め言葉を受け取るのがヘタクソなタイプだ。これ以上押すと壊れてしまうので書類をまとめて抱えると、寂しそうにこちらを見る。煽ってんのか?
「じゃ、代理団長のところに話をつけに行ってくる。適当に休憩はとれよ? まだ飯も食べてないだろ」
「あ、わかった……いつ戻るの?」
「なんだ寂しいのか?」
「ちがっ、違う! 誰か来た時に困るでしょ、目安がないと」
「ははっ、その時は追い返しとけ。じゃあな~」
扉を閉めて一呼吸置く。先程の部屋からは「なんなの……ばか……」と小さな文句が聞こえてくるが文句を言いたいのはこちらの方だ。これ以上は壊れるなんて言ってる場合じゃない。あれを素でやってるのか? 俺が先に壊れそうだ。
のろのろと騎士団内を歩きながらも頭を占めるのはあの赤い耳。不安げな瞳。他人には冷静な会計だった彼女はいつも俺にだけ乱されてくれる。その上__
ゴンッ
「った!」
「? あっ! ガイア先輩! ……ってあれ? もしかしてドアぶつけちゃいました!? す、すみません……!!」
この声はアンバーか。強打した左目を通した景色はぼんやりと滲んでいて見えにくい。こういう時眼帯を外したくもなるが、大丈夫だと伝えてなんとか平静を保った。
「ジンはいるか?」
「あっ、はい! あの、氷とか……」
「いや、自分で冷やすさ。そう気にするな」
「アンバー、誰と……ああ、ガイアか。どうしたんだ?」
「わわわたしがドアぶつけちゃって……」
「それは……避けられないとは珍しいな」
扉で話し込んでいたからだろう、ジンが来てそんなことを言った。確かにおっちょこちょいな後輩や小さな爆弾魔がいる騎士団内で不注意は致命的だ。気をつけると笑いながら書類を見せれば、さらに不思議な顔をされた。
「だいぶ早めに持ってきてくれたんだな、助かるが何かあったのか?」
「……、いや。〇のおかげで時間に余裕があるんだ」
〇の名を出すとジンは安心したようによかったと言う。何事かと思えばアンバーは疑わしそうにこちらを見てきていた。
「本当ですか? あの〇さんを引き抜くなんて、絶対先輩に苦労させられてるって噂になってるんですよ!」
「ほお、そんなこと言われてるのか? 信用がないなあ」
「だって〇さんといえば頼もしくて優しくて落ち着いてて……なんで先輩のところなんかに……」
「あらアンバー、あの仕事は終わったのかしら?」
「! リサさん! すっ、すぐに行きます!」
リサに呼ばれて駆けていった後輩にほっと息を吐く。らしくないと思っていたのは俺だけではないようで、〇が居るのだから調子の悪い日は休めとジンにまで心配されてしまった。あの代理団長にまで休めと言われてしまうのは末期だな。
仕方ない。代理団長のサインがされた書類は期日までこちらで保管しておいてほしいと言われてしまったし、"頼もしくて落ち着いてる"〇に看病でも頼むか。