リナリアの花束/ガイア
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この茶店では璃月の伝統的な菓子の他、独自のスイーツも取り扱っている。わたあめに雷元素を纏わせたぱちぱちあめ、風元素を含みふわっ、さくっとした食べ心地に仕上げたシフォンカップケーキ、氷元素により雪の結晶が浮かぶお茶など。美味しさも大切だけど、見た目の美しさだって記憶を彩ると思うから。
ただしそれぞれの元素は厳重に管理しなければいけない。食用だからほんの僅かなぶんしか必要ないものの、事故があれば大変なことになる。例えばこんなふうに。
「うえ……つめたい……」
失敗した、お風呂上がりに試作をしていたら氷元素の瓶を落として足が凍りつくだなんて。
いつも足元は適当に拭いていたのが仇となったらしい。完全に床とくっついてしまった足を温めようにも動けない。まだ寒い三月の夜だ。溶けるとしても朝方になるだろう。こんなことならガラス瓶じゃなくて割れない重たい瓶にしておけば……と後悔。でもそれだと骨折してたかも。
ガラスがあるから座れないし、何も出来ないし、調理台に寄りかかって暇を持て余す。今は何時だっけ……日付も変わってない?
嘘でしょ……。
無慈悲な時計の針に気力も尽き、私は目を閉じた。
__っおい、〇! 起きろ……
__……ラスか? 温めないと……
……なんか足があつい。おぼろげな意識の中で動かそうとするが、足は動かないみたいだ。あまりの眠たさに唸ってまた意識を沈めていく。けれど、何かが私の頬をぺちぺちと叩いてくる。鬱陶しい。
「起きろ。口を開けろ」
「んん……やだぁ……」
「言ってる場合じゃない。噎せるなよ?」
唇になにか固いものが当たるけれど、今はなにも飲みたくない。ただ眠らせてほしい。顔を背けて再び海のような睡眠欲に没頭する。
「……仕方のない奴だ」
しかし頭を支えられて、少し持ち上げられた。固定されるならされるで眠りやすいからいい。あー……何にも力が入らない。少し開いたままの唇に今度は柔らかいものが当たった。
なにか流れてくる。飲んだことのある味……蒲公英酒? ぬるいアルコールがじわじわ体に染みていくのを感じる。あ、もぞもぞしていた足が動くようになった。
一度離れて、また何回かお酒を飲んで、ようやく意識が上ってきた。目を開ければ視界が青かった。? ガイアがいる。
「ぁぃあ……?」
「ん。じっとしてろ、まだガラスの欠片が落ちているかもしれないからな」
言われた通り足を動かさずにじっとしていると、抱き抱えられて茶店二階の自室に運ばれた。ベッドに寝かせられて、今度は足を動かしておけ、と。
「……まだ冷えてるな。風呂を温め直してくる」
そう言って彼は行ってしまった。
……何をしていたんだっけ。枕元に置いてあったメモを見て、試作をしていたことを思い出す。それで事故って足が凍って……そのまま寝たから低体温症になっていたのかもしれない。足を確認すると爪が紫色に変色していて気持ち悪かった。
でもどうしてガイアがここに? 助けてくれたらしいことは分かるけれど、いつもなら来ない時間だ。今日は仕事が遅いとかでお店にも来ないと思っていた。
暫くぼうっとしていると足が止まっていたようで戻ってきたガイアに怒られた。どうしてここに居るのか聞くより早くお風呂に投げ込まれて、今までお風呂上がりの薄着だったことに多少の羞恥を覚える。まあガイアはこんなことで動揺したりしないんだろうけどさ……。
世渡り経験が高そうな彼を思うとなぜかちょっともやもやして、振り払って浴槽にちゃぷんと浸かれば花の匂いがした。……ん? なんだろう。なんの花か分からないが優しい香りだ。
たっぷり二十分湯船に浸かって、出れば服が用意されていた。
「ガイア、これ……」
「ああ、体はもう大丈夫か?」
「大丈夫なんだけど、これは」
「下は俺が片付けておいたからもう寝るといい。寝る前に一杯飲んでおくか?」
「うん、じゃなくて! この恥ずかしいのどっから出してきたの!?」
してやったりと微笑んで人のベッドに横たわっている彼はまさに悪魔だ。用意された衣服は着たものの、何故か故郷の友達が悪ふざけで贈ってきた下着が掘り出されて丁寧に並べられていたのだ。あちこち透けているし布は足りないしリボンだし、使ったことなんてなかったのに。
変な寝間着を持っていなくてよかった。持っていたら容赦なく合わせて出されていただろうから。
「ああそれか、お前もそんなのを持ってるんだなと思ってな」
「思ったから何……!? ていうかこれ一番下に入れておいたはずなんだけど」
「俺は一番下から出すタイプなんだよ」
「寝間着は一番上のじゃん嘘つき!」
よく人の箪笥を漁っといて平気な顔ができるな。助けてくれたことは分かっているんだけれど、こういうことをしてくるから信用ならない。ふん! と怒ってますアピールをしながら小さなグラスを二つ取り出すその間も、じぃっとこちらを見てくる視線があった。
「な、なに……?」
「いやあ、その下にあれを着ていると思うと悪くないと思ってな」
「~っ! ほんっとに……」
何か文句を言いたいのにもう何も言えなくなって、ダンッと音を立ててグラスを置く。ガイアは上半身を起こしてそのグラスに酒を注ぐと、下から取ってきたのであろうジンジャエールで割って軽く混ぜた。
「と、待て待て。風呂上がりは先に水を飲め」
「ん……」
「着心地はどうだ?」
「……っ!」
もう恥ずかしいなんてものじゃない。返事の代わりに渡された水を飲み干すとまたふわりと何か香った。お風呂と同じ優しい香り。なんだっけこの匂い、最近嗅いだような……。
「……ミモザ?」
あ、ガイアが目を見開いた。当たりみたいだ。
「お風呂にも入ってた……よね?」
「ああ、さすが花に詳しいな。前に仕込みを頼んでおいて今日出来上がったところなんだぜ。お前なら起きてる時間だろうと届けに来たんだが」
「それで家に……ありがとう」
またガイアが目を見開いた。ここでその反応は失礼じゃない?
私だって感謝くらいする。ただ相手が相手だと言いにくいだけで……ミモザのプレゼントだって嬉しいし、助けてくれなかったらどうなっていたか分からない。血の繋がった者が居ない土地で支えてくれる人が居ることが正直すごく嬉しかった。
「……ミモザの、朝に飲んだら美味しそうだね」
細いグラスに氷とミモザのシロップ、清涼な雪解け水を注いでレモンの輪切りを添える。朝になればそんな一杯が飲めそうだった。
「朝まで、いる?」
「ああ」
「じゃあ寝床を」
「ここでいいだろ」
ぐっと抱き寄せられて体制を崩す。布団の柔らかさと馴染んだ匂いに眠気がとろんと訪れた。眠る前の一杯は必要ない。このあたたかささえあれば。
ただしそれぞれの元素は厳重に管理しなければいけない。食用だからほんの僅かなぶんしか必要ないものの、事故があれば大変なことになる。例えばこんなふうに。
「うえ……つめたい……」
失敗した、お風呂上がりに試作をしていたら氷元素の瓶を落として足が凍りつくだなんて。
いつも足元は適当に拭いていたのが仇となったらしい。完全に床とくっついてしまった足を温めようにも動けない。まだ寒い三月の夜だ。溶けるとしても朝方になるだろう。こんなことならガラス瓶じゃなくて割れない重たい瓶にしておけば……と後悔。でもそれだと骨折してたかも。
ガラスがあるから座れないし、何も出来ないし、調理台に寄りかかって暇を持て余す。今は何時だっけ……日付も変わってない?
嘘でしょ……。
無慈悲な時計の針に気力も尽き、私は目を閉じた。
__っおい、〇! 起きろ……
__……ラスか? 温めないと……
……なんか足があつい。おぼろげな意識の中で動かそうとするが、足は動かないみたいだ。あまりの眠たさに唸ってまた意識を沈めていく。けれど、何かが私の頬をぺちぺちと叩いてくる。鬱陶しい。
「起きろ。口を開けろ」
「んん……やだぁ……」
「言ってる場合じゃない。噎せるなよ?」
唇になにか固いものが当たるけれど、今はなにも飲みたくない。ただ眠らせてほしい。顔を背けて再び海のような睡眠欲に没頭する。
「……仕方のない奴だ」
しかし頭を支えられて、少し持ち上げられた。固定されるならされるで眠りやすいからいい。あー……何にも力が入らない。少し開いたままの唇に今度は柔らかいものが当たった。
なにか流れてくる。飲んだことのある味……蒲公英酒? ぬるいアルコールがじわじわ体に染みていくのを感じる。あ、もぞもぞしていた足が動くようになった。
一度離れて、また何回かお酒を飲んで、ようやく意識が上ってきた。目を開ければ視界が青かった。? ガイアがいる。
「ぁぃあ……?」
「ん。じっとしてろ、まだガラスの欠片が落ちているかもしれないからな」
言われた通り足を動かさずにじっとしていると、抱き抱えられて茶店二階の自室に運ばれた。ベッドに寝かせられて、今度は足を動かしておけ、と。
「……まだ冷えてるな。風呂を温め直してくる」
そう言って彼は行ってしまった。
……何をしていたんだっけ。枕元に置いてあったメモを見て、試作をしていたことを思い出す。それで事故って足が凍って……そのまま寝たから低体温症になっていたのかもしれない。足を確認すると爪が紫色に変色していて気持ち悪かった。
でもどうしてガイアがここに? 助けてくれたらしいことは分かるけれど、いつもなら来ない時間だ。今日は仕事が遅いとかでお店にも来ないと思っていた。
暫くぼうっとしていると足が止まっていたようで戻ってきたガイアに怒られた。どうしてここに居るのか聞くより早くお風呂に投げ込まれて、今までお風呂上がりの薄着だったことに多少の羞恥を覚える。まあガイアはこんなことで動揺したりしないんだろうけどさ……。
世渡り経験が高そうな彼を思うとなぜかちょっともやもやして、振り払って浴槽にちゃぷんと浸かれば花の匂いがした。……ん? なんだろう。なんの花か分からないが優しい香りだ。
たっぷり二十分湯船に浸かって、出れば服が用意されていた。
「ガイア、これ……」
「ああ、体はもう大丈夫か?」
「大丈夫なんだけど、これは」
「下は俺が片付けておいたからもう寝るといい。寝る前に一杯飲んでおくか?」
「うん、じゃなくて! この恥ずかしいのどっから出してきたの!?」
してやったりと微笑んで人のベッドに横たわっている彼はまさに悪魔だ。用意された衣服は着たものの、何故か故郷の友達が悪ふざけで贈ってきた下着が掘り出されて丁寧に並べられていたのだ。あちこち透けているし布は足りないしリボンだし、使ったことなんてなかったのに。
変な寝間着を持っていなくてよかった。持っていたら容赦なく合わせて出されていただろうから。
「ああそれか、お前もそんなのを持ってるんだなと思ってな」
「思ったから何……!? ていうかこれ一番下に入れておいたはずなんだけど」
「俺は一番下から出すタイプなんだよ」
「寝間着は一番上のじゃん嘘つき!」
よく人の箪笥を漁っといて平気な顔ができるな。助けてくれたことは分かっているんだけれど、こういうことをしてくるから信用ならない。ふん! と怒ってますアピールをしながら小さなグラスを二つ取り出すその間も、じぃっとこちらを見てくる視線があった。
「な、なに……?」
「いやあ、その下にあれを着ていると思うと悪くないと思ってな」
「~っ! ほんっとに……」
何か文句を言いたいのにもう何も言えなくなって、ダンッと音を立ててグラスを置く。ガイアは上半身を起こしてそのグラスに酒を注ぐと、下から取ってきたのであろうジンジャエールで割って軽く混ぜた。
「と、待て待て。風呂上がりは先に水を飲め」
「ん……」
「着心地はどうだ?」
「……っ!」
もう恥ずかしいなんてものじゃない。返事の代わりに渡された水を飲み干すとまたふわりと何か香った。お風呂と同じ優しい香り。なんだっけこの匂い、最近嗅いだような……。
「……ミモザ?」
あ、ガイアが目を見開いた。当たりみたいだ。
「お風呂にも入ってた……よね?」
「ああ、さすが花に詳しいな。前に仕込みを頼んでおいて今日出来上がったところなんだぜ。お前なら起きてる時間だろうと届けに来たんだが」
「それで家に……ありがとう」
またガイアが目を見開いた。ここでその反応は失礼じゃない?
私だって感謝くらいする。ただ相手が相手だと言いにくいだけで……ミモザのプレゼントだって嬉しいし、助けてくれなかったらどうなっていたか分からない。血の繋がった者が居ない土地で支えてくれる人が居ることが正直すごく嬉しかった。
「……ミモザの、朝に飲んだら美味しそうだね」
細いグラスに氷とミモザのシロップ、清涼な雪解け水を注いでレモンの輪切りを添える。朝になればそんな一杯が飲めそうだった。
「朝まで、いる?」
「ああ」
「じゃあ寝床を」
「ここでいいだろ」
ぐっと抱き寄せられて体制を崩す。布団の柔らかさと馴染んだ匂いに眠気がとろんと訪れた。眠る前の一杯は必要ない。このあたたかささえあれば。