リナリアの花束/ガイア
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予定通りの花を揃えられたのは良いのだけれど、ドンナちゃんに捕まって延々とディルック様への愛を語られるのは予定外だった。昨日もあの道を通っていただの、いつもより髪がふわふわしていただの、一度口を開いてからかれこれ三十分は経過している。そろそろ帰っていいかな、と切り出したくても口を挟める見込みがなくて、ただただ曖昧に頷くことしか出来なくて。
しかしそれにしたって限度がある。そろそろ帰らなければ怒られてしまうし、花たちも水に生けてやらねば俯いてしまうだろう。あのね、と大きめに声を出したところ彼女がやっとこちらを見た。
「あの、私も……」
「え、〇ちゃんも!? もしかしてあなたもディルック様のことが__」
「違くて、そっちじゃなくて」
「ああ、そうよね! 私ったらごめんなさい、ずっとディルック様のことばかり話しちゃって……〇ちゃんとは年齢も同じくらいだし、ついこういう話がしたくなっちゃって」
そう言うドンナちゃんは照れくさそうにえへへ、とはにかむ。ディルック様に届くかは知らないけれど、彼女のこうした純粋な気持ちは私の心を安らげた。
なんだ、ちゃんと話を聞いてくれる子じゃないか。winwinの関係のためにもむしろ__
「そうよね、〇ちゃんにはガイア様がいるもんね」
「っは!?」
__とか言ってる場合ではなかった。なんでガイアが出てくるの? まってまって、と焦る私を知ってか知らずかドンナちゃんの勢いは止まらない。
「〇ちゃんって元々璃月の人なんでしょう? それなのにガイア様の勧めでモンドにお店を出すだなんて、一体何を言われたの!?」
「何をって、ただ私は」
「それに毎晩ガイア様が〇ちゃんのお店に寄るって知ってるのよ! いつも一時間くらい出てこないし中できっと」
「何もないって! 」
きゃあ~! なんて可愛い悲鳴をあげる彼女の口を今すぐに塞がないとまずい。何せこの花屋は酒場の近くにあるのだ。酒場があればガイアが通る、なんてあながち間違いじゃない。
とにかくドンナちゃんを店内に連れ戻しながら必死に言い訳を考える。夢のない理由でなんとかこの子を納得させないと。
「あのねドンナちゃん、私はただ商いをしに来ただけなの。ガイアは頭がいいからその手続きをちょっと助けてくれただけでビジネス以上じゃ」
「ビジネスで毎晩お店に?」
「やっ、それは……。……! ショバ代を払いに」
「ほお、毎晩タカりに来るなんて酷いやつもいるもんだな」
若干のシンキングタイムで捻り出した言い訳は後ろから出てきた胡散臭い声に有耶無耶にされてしまった。ドンナちゃんの瞳が輝いている。ぶんぶんと手を振って、後ろ! なんて伝えてこなくたって誰がいるかくらい分かってるよ。
渋々振り返れば機嫌が良いのか鼻歌でも歌いそうなくらいのガイアが居て、私が強く握りしめていた花束を取り上げて「傷んでしまうぜ」なんて本当にムカつく。
その手先が案外優しいこと、褐色の肌に白いリナリアの花束が似合うこと、髪はいつも通りだなんて意識してしまうのはドンナちゃんのせいに違いない。
「隊長様が何しにきたの? 私も仕事中なんだけど」
「それは邪魔をしたな。これから帰るんだろう? 店まで送るぜ」
「一人で帰れるし……ちょっと!」
ひらひらっと手を振って先に行ってしまう背中を追いかけるため、ドンナちゃんに適当な挨拶をして足を早めた。彼女は最後までキラキラしていて、誤解を解けたかといえばnoだろう。
ガイアもガイアで送ると言いながら花束を持っていくのはどうなの。なんとか横に並ぶとクスクス笑って、地味に苛苛する。
「……」
「そう可愛い顔するなよ。誘ってるのか?」
「怒ってるの! からかわないでよ、もう一人で帰れるし……」
モンドに来てからもう1ヶ月も経っているのだ。もう城内の地理は頭に入っている。だからどんなに私のお店が近いかも分かっているし、彼が助け舟を出してくれたことだって分かってる。事実、もうすぐ店を開けなければいけない時間だった。
「……そうだな。お前もこの街に慣れてきた」
「?」
なんだか苦しげに聞こえて一歩、足を止める。でもガイアは歩き続けて、私はその一歩分を埋められずにまた歩き始めた。
「モンドは好きか?」
「えと、まあ好きだけど」
「璃月は?」
「普通に好きだけど。どうしたの?」
残念ながら私はこの街が好きだ~とか地元が一番~とか感じるタイプではない。土地にはあまりこだわらない方で、引越しを重ねても平気な方だ。意図が分からなくて困惑する。
「あの……? 今のお店が期間限定だから?」
もしかしたら彼なりに寂しがってくれているのかもしれない。モンドに出店するのは二ヶ月だけの契約で、慣れたと思ったらトンボ帰りの計画だからだ。もうちょっと契約を伸ばさないか? とか?
「……いや、お前はモンドの次は別のところに行くと言っていただろう。元々そういう契約だ」
「確かにそうなんだけど……」
「土地にこだわりがないのは良いことだと思うぞ。身軽に動けるしな」
そういう彼はまるで何かに縛られているようでうまく言葉が紡げなかった。どこか突き放されたと感じてしまうのは何故。モンドに居ろと言ってくれるのを期待してしまったのはどうしてだろう。
ガイアがようやく立ち止まって花束を返してきた。その手首にはいつも重たそうなアクセサリーがついている。全体的になんかふわふわもついてるし。派手だよなあ、この人。
「たまにはもっと楽な服装とかないの?」
つい口に出してしまった言葉に驚いたのかガイアの眉が上がる。
「あ、ええと、いつもしっかりした服装してるなーって思って……でも外仕事多いからちゃんとしなきゃいけないのか、戦うし……」
ゆるい服で戦う訳にはいかないだろうと気づいて、やっぱり反射的に話すのはやめようと心底思った。彼がとってもおかしそうに此方を見てきているから。
「な、なに! もう忘れてよ、お店開けるから! バイバイ!」
もう店先だからなんでもある。花束を花瓶に生けて左の暖簾を上げると、彼は右の暖簾を上げてからぽんぽんと手を払った。
「ふ、じゃあまた今晩、場所代をせしめに来るとするか」
「来なくていいから! 早くどっか行って!」
その夜、おー怖い怖い、と街に消えていく彼がいつもよりは楽な服装で現れて湯呑みを落としてしまったのはまた別の話だ。
しかしそれにしたって限度がある。そろそろ帰らなければ怒られてしまうし、花たちも水に生けてやらねば俯いてしまうだろう。あのね、と大きめに声を出したところ彼女がやっとこちらを見た。
「あの、私も……」
「え、〇ちゃんも!? もしかしてあなたもディルック様のことが__」
「違くて、そっちじゃなくて」
「ああ、そうよね! 私ったらごめんなさい、ずっとディルック様のことばかり話しちゃって……〇ちゃんとは年齢も同じくらいだし、ついこういう話がしたくなっちゃって」
そう言うドンナちゃんは照れくさそうにえへへ、とはにかむ。ディルック様に届くかは知らないけれど、彼女のこうした純粋な気持ちは私の心を安らげた。
なんだ、ちゃんと話を聞いてくれる子じゃないか。winwinの関係のためにもむしろ__
「そうよね、〇ちゃんにはガイア様がいるもんね」
「っは!?」
__とか言ってる場合ではなかった。なんでガイアが出てくるの? まってまって、と焦る私を知ってか知らずかドンナちゃんの勢いは止まらない。
「〇ちゃんって元々璃月の人なんでしょう? それなのにガイア様の勧めでモンドにお店を出すだなんて、一体何を言われたの!?」
「何をって、ただ私は」
「それに毎晩ガイア様が〇ちゃんのお店に寄るって知ってるのよ! いつも一時間くらい出てこないし中できっと」
「何もないって! 」
きゃあ~! なんて可愛い悲鳴をあげる彼女の口を今すぐに塞がないとまずい。何せこの花屋は酒場の近くにあるのだ。酒場があればガイアが通る、なんてあながち間違いじゃない。
とにかくドンナちゃんを店内に連れ戻しながら必死に言い訳を考える。夢のない理由でなんとかこの子を納得させないと。
「あのねドンナちゃん、私はただ商いをしに来ただけなの。ガイアは頭がいいからその手続きをちょっと助けてくれただけでビジネス以上じゃ」
「ビジネスで毎晩お店に?」
「やっ、それは……。……! ショバ代を払いに」
「ほお、毎晩タカりに来るなんて酷いやつもいるもんだな」
若干のシンキングタイムで捻り出した言い訳は後ろから出てきた胡散臭い声に有耶無耶にされてしまった。ドンナちゃんの瞳が輝いている。ぶんぶんと手を振って、後ろ! なんて伝えてこなくたって誰がいるかくらい分かってるよ。
渋々振り返れば機嫌が良いのか鼻歌でも歌いそうなくらいのガイアが居て、私が強く握りしめていた花束を取り上げて「傷んでしまうぜ」なんて本当にムカつく。
その手先が案外優しいこと、褐色の肌に白いリナリアの花束が似合うこと、髪はいつも通りだなんて意識してしまうのはドンナちゃんのせいに違いない。
「隊長様が何しにきたの? 私も仕事中なんだけど」
「それは邪魔をしたな。これから帰るんだろう? 店まで送るぜ」
「一人で帰れるし……ちょっと!」
ひらひらっと手を振って先に行ってしまう背中を追いかけるため、ドンナちゃんに適当な挨拶をして足を早めた。彼女は最後までキラキラしていて、誤解を解けたかといえばnoだろう。
ガイアもガイアで送ると言いながら花束を持っていくのはどうなの。なんとか横に並ぶとクスクス笑って、地味に苛苛する。
「……」
「そう可愛い顔するなよ。誘ってるのか?」
「怒ってるの! からかわないでよ、もう一人で帰れるし……」
モンドに来てからもう1ヶ月も経っているのだ。もう城内の地理は頭に入っている。だからどんなに私のお店が近いかも分かっているし、彼が助け舟を出してくれたことだって分かってる。事実、もうすぐ店を開けなければいけない時間だった。
「……そうだな。お前もこの街に慣れてきた」
「?」
なんだか苦しげに聞こえて一歩、足を止める。でもガイアは歩き続けて、私はその一歩分を埋められずにまた歩き始めた。
「モンドは好きか?」
「えと、まあ好きだけど」
「璃月は?」
「普通に好きだけど。どうしたの?」
残念ながら私はこの街が好きだ~とか地元が一番~とか感じるタイプではない。土地にはあまりこだわらない方で、引越しを重ねても平気な方だ。意図が分からなくて困惑する。
「あの……? 今のお店が期間限定だから?」
もしかしたら彼なりに寂しがってくれているのかもしれない。モンドに出店するのは二ヶ月だけの契約で、慣れたと思ったらトンボ帰りの計画だからだ。もうちょっと契約を伸ばさないか? とか?
「……いや、お前はモンドの次は別のところに行くと言っていただろう。元々そういう契約だ」
「確かにそうなんだけど……」
「土地にこだわりがないのは良いことだと思うぞ。身軽に動けるしな」
そういう彼はまるで何かに縛られているようでうまく言葉が紡げなかった。どこか突き放されたと感じてしまうのは何故。モンドに居ろと言ってくれるのを期待してしまったのはどうしてだろう。
ガイアがようやく立ち止まって花束を返してきた。その手首にはいつも重たそうなアクセサリーがついている。全体的になんかふわふわもついてるし。派手だよなあ、この人。
「たまにはもっと楽な服装とかないの?」
つい口に出してしまった言葉に驚いたのかガイアの眉が上がる。
「あ、ええと、いつもしっかりした服装してるなーって思って……でも外仕事多いからちゃんとしなきゃいけないのか、戦うし……」
ゆるい服で戦う訳にはいかないだろうと気づいて、やっぱり反射的に話すのはやめようと心底思った。彼がとってもおかしそうに此方を見てきているから。
「な、なに! もう忘れてよ、お店開けるから! バイバイ!」
もう店先だからなんでもある。花束を花瓶に生けて左の暖簾を上げると、彼は右の暖簾を上げてからぽんぽんと手を払った。
「ふ、じゃあまた今晩、場所代をせしめに来るとするか」
「来なくていいから! 早くどっか行って!」
その夜、おー怖い怖い、と街に消えていく彼がいつもよりは楽な服装で現れて湯呑みを落としてしまったのはまた別の話だ。