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特殊設定有
・夢主が散兵の元部下
・長官を追ってスメールに来た
・全て終わった後の時間軸
______
フォンテーヌからの便りはいつも瓶に詰められてくる。無花果を煮詰めたジャムだとか、カモミールと金平糖のシロップだとか。かの国には唯一の肉親である兄が居て、文字に起こすのが苦手なあの人は手紙の代わりにこれらを寄越すのだ。
家族愛なんてないと言いながら、なんだかんだ楽しみにしている自分がいる。棚には今までの便りが横並びに飾ってあり、今日新しいのが届くはずだった。
……だった、のだけれど。
その荷物は道中襲われてしまったと、素っ気ない文面だけが午後に届いた。
「だったら、君の方から送ってみれば?」
そう提案してきたのはティナリさんだった。仕方ないので凹みながらも薬草を取りに行った際、つい泣き言を言ってしまったのだ。改めて振り返れば普段自分から送っているのは味の感想ばかりで、気恥しさから近況も何も伝えていない。すっかり変わった生活をしているというのに。
「でも普通のものしか思いつかなくて……」
「んー、そうでもないと思うけど。不安なら、いつも一緒に居る彼に見てもらうのはどうかな」
「え、それは……」
言葉に詰まるとティナリさんは不思議そうな顔をした。彼には、私が元ファデュイで、〝一緒に居る彼〟は第六位執行官だったのだなんて伝えていないから。あの〝散兵〟様に個人的な相談をする? とある事情で私は記憶を保っているのだけれど、世界樹が書き換わっただけでこうも平和になるなんて今でも実感がない。
「悪い選択ではないと思うよ? 君と彼は外国から来たんだから、二人が好んだものならフォンテーヌの人にも喜んでもらえると思う。ここに来て最初に気に入ったものを詰めてみるとかさ」
僕が選ぶと薬だらけになるからねと言って、ティナリさんは手を止めた。煎じた薬草を端に置いてから、引き出しを開けて丈夫そうな容器を取り出す。本来はこれも薬を運ぶのに使うものだそうだ。
「入れ物ならこれをあげる。ほら、スメールに来た頃をよく思い出して。最初に目に入ったもの、感動したもの、〇が好きだと思ったもの」
「最初に来た頃……」
「それじゃ、薬はこれ。持っていって」
「あ、りがとうございます」
ティナリさんから容器と薬草を受け取り、ぺこぺこしながら外に出る。真っ先に浮かんだのは――やっぱり、ティナリさんも言っていた彼の顔だった。
「僕がこの国で気に入ったもの? 突然何だい、藪から棒に」
何処にいるのかと思えば、散々探し回ったのに結局スメールシティでその人を見つけた。やけに小汚いねと言われたけど聞かなかったことにさせてもらう。
「フォンテーヌに兄が居て、手紙の代わりに送りたいんです。長官は何が気に入りました?」
「だから……そうだね……」
もう長官ではないといつもの小言を言いかけて、その途中で考えごとに意識を向けたようだ。ちゃんと考えてくれるだけでも有難い。隣が空いていたのでひとつ空けて座ると、ムッとした顔で詰められた。
「君、そっちこそどうなんだい? 肉親に送るんだから、人に聞く前に自分で考えるべきだと思わない?」
「それは、それはだって、だから……真っ先にあなたの顔が浮かんだから来たんですそもそもスメールに来たのもあなたの為だし」
「は?」
早口でしどろもどろになって畳み掛けると丁寧に威圧を頂いた。顔が近くてどきどきする。この人は、この人が思うより私がこの人を大好きでファンなんだって分かってない節がある。
「まあいいけど。君はあれが好きなんじゃない。乾燥させたザイトゥン桃」
「……私の好きなもの」
「を、わざわざ覚えていたわけじゃない。隣で狂ったように口に放り込んでいるからさ」
そうですか。
でも言われた通りザイトゥン桃は好きだった。グランドバザールでよく購入するのだけれど、パリパリまではいかなくて半干しくらい。少しぐにっと食感が残っていて、パッケージも可愛い。お砂糖控えめだから果肉本来の甘みが感じられるし。
「さすがですね。ひとつはそれにします」
「ふぅん、他は?」
「えっと……ティナリさんのところでセノさん宛に小包を受け取ったので、セノさんにも聞こうかなと。セノさんなら」
「君は」
砂漠土産についても詳しそうなので、と言おうとした私を長官が止める。断罪するような重さで。
そして私に手を差し出しながら言い切った。
「……君はどうしても自分で考えようと思わないんだね。そんな奴らに聞くよりも、僕の方がまだいい物を選べると思うけど?」と。
この手はどうしたらいいんだろう。握る? 握っていいの? だってあの散兵様の手だ。この人が上司だった頃は何度も踏みつけられて罵られた。だから、えっと……。
「チッ」
「ひっ、すみません!」
迷っている間に差し出されていた手がグワッと開き、鷹が獲物を捕るように腕を掴まれて立ち上がらせられた。スタスタと先を歩いていく彼に引きずられるようにしてグランドバザールへ降りていく。
「長官、長官~……っごめんなさい……どうしたらいいかわかんなくて……」
「この愚図」
「その通りです……」
全く後ろを振り向かないから、長官の顔は分からない。だけど私の腕を掴んでいた彼の手は少しずつ手首の方へ降りていって、やがて手のひらを無理矢理開かされ、指と指を絡め合うようにして繋がれた。更に急にグッと前に引かれて、横並びにさせられる。
「……まあ、部下の面倒くらい見てあげるよ。ファデュイを適当に抜け出して来たせいで、給料も何もなくなったんだろう?」
呆れたように言う声がやさしい。その後、容器に詰め込んだものは結局特別でもない私の好きな食べ物や香辛料ばかりになってしまったけれど、全部長官の提案だった。その上発送まで手伝ってくれて、私が書類を書いている間に梱包をしてくれた。
兄からは一ヶ月後にまた瓶が届き、「お前のことを大好きな人が居るんだな」と珍しく手紙までついていた。不思議なことに長官のぶんのカカオ菓子入りで。
・夢主が散兵の元部下
・長官を追ってスメールに来た
・全て終わった後の時間軸
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フォンテーヌからの便りはいつも瓶に詰められてくる。無花果を煮詰めたジャムだとか、カモミールと金平糖のシロップだとか。かの国には唯一の肉親である兄が居て、文字に起こすのが苦手なあの人は手紙の代わりにこれらを寄越すのだ。
家族愛なんてないと言いながら、なんだかんだ楽しみにしている自分がいる。棚には今までの便りが横並びに飾ってあり、今日新しいのが届くはずだった。
……だった、のだけれど。
その荷物は道中襲われてしまったと、素っ気ない文面だけが午後に届いた。
「だったら、君の方から送ってみれば?」
そう提案してきたのはティナリさんだった。仕方ないので凹みながらも薬草を取りに行った際、つい泣き言を言ってしまったのだ。改めて振り返れば普段自分から送っているのは味の感想ばかりで、気恥しさから近況も何も伝えていない。すっかり変わった生活をしているというのに。
「でも普通のものしか思いつかなくて……」
「んー、そうでもないと思うけど。不安なら、いつも一緒に居る彼に見てもらうのはどうかな」
「え、それは……」
言葉に詰まるとティナリさんは不思議そうな顔をした。彼には、私が元ファデュイで、〝一緒に居る彼〟は第六位執行官だったのだなんて伝えていないから。あの〝散兵〟様に個人的な相談をする? とある事情で私は記憶を保っているのだけれど、世界樹が書き換わっただけでこうも平和になるなんて今でも実感がない。
「悪い選択ではないと思うよ? 君と彼は外国から来たんだから、二人が好んだものならフォンテーヌの人にも喜んでもらえると思う。ここに来て最初に気に入ったものを詰めてみるとかさ」
僕が選ぶと薬だらけになるからねと言って、ティナリさんは手を止めた。煎じた薬草を端に置いてから、引き出しを開けて丈夫そうな容器を取り出す。本来はこれも薬を運ぶのに使うものだそうだ。
「入れ物ならこれをあげる。ほら、スメールに来た頃をよく思い出して。最初に目に入ったもの、感動したもの、〇が好きだと思ったもの」
「最初に来た頃……」
「それじゃ、薬はこれ。持っていって」
「あ、りがとうございます」
ティナリさんから容器と薬草を受け取り、ぺこぺこしながら外に出る。真っ先に浮かんだのは――やっぱり、ティナリさんも言っていた彼の顔だった。
「僕がこの国で気に入ったもの? 突然何だい、藪から棒に」
何処にいるのかと思えば、散々探し回ったのに結局スメールシティでその人を見つけた。やけに小汚いねと言われたけど聞かなかったことにさせてもらう。
「フォンテーヌに兄が居て、手紙の代わりに送りたいんです。長官は何が気に入りました?」
「だから……そうだね……」
もう長官ではないといつもの小言を言いかけて、その途中で考えごとに意識を向けたようだ。ちゃんと考えてくれるだけでも有難い。隣が空いていたのでひとつ空けて座ると、ムッとした顔で詰められた。
「君、そっちこそどうなんだい? 肉親に送るんだから、人に聞く前に自分で考えるべきだと思わない?」
「それは、それはだって、だから……真っ先にあなたの顔が浮かんだから来たんですそもそもスメールに来たのもあなたの為だし」
「は?」
早口でしどろもどろになって畳み掛けると丁寧に威圧を頂いた。顔が近くてどきどきする。この人は、この人が思うより私がこの人を大好きでファンなんだって分かってない節がある。
「まあいいけど。君はあれが好きなんじゃない。乾燥させたザイトゥン桃」
「……私の好きなもの」
「を、わざわざ覚えていたわけじゃない。隣で狂ったように口に放り込んでいるからさ」
そうですか。
でも言われた通りザイトゥン桃は好きだった。グランドバザールでよく購入するのだけれど、パリパリまではいかなくて半干しくらい。少しぐにっと食感が残っていて、パッケージも可愛い。お砂糖控えめだから果肉本来の甘みが感じられるし。
「さすがですね。ひとつはそれにします」
「ふぅん、他は?」
「えっと……ティナリさんのところでセノさん宛に小包を受け取ったので、セノさんにも聞こうかなと。セノさんなら」
「君は」
砂漠土産についても詳しそうなので、と言おうとした私を長官が止める。断罪するような重さで。
そして私に手を差し出しながら言い切った。
「……君はどうしても自分で考えようと思わないんだね。そんな奴らに聞くよりも、僕の方がまだいい物を選べると思うけど?」と。
この手はどうしたらいいんだろう。握る? 握っていいの? だってあの散兵様の手だ。この人が上司だった頃は何度も踏みつけられて罵られた。だから、えっと……。
「チッ」
「ひっ、すみません!」
迷っている間に差し出されていた手がグワッと開き、鷹が獲物を捕るように腕を掴まれて立ち上がらせられた。スタスタと先を歩いていく彼に引きずられるようにしてグランドバザールへ降りていく。
「長官、長官~……っごめんなさい……どうしたらいいかわかんなくて……」
「この愚図」
「その通りです……」
全く後ろを振り向かないから、長官の顔は分からない。だけど私の腕を掴んでいた彼の手は少しずつ手首の方へ降りていって、やがて手のひらを無理矢理開かされ、指と指を絡め合うようにして繋がれた。更に急にグッと前に引かれて、横並びにさせられる。
「……まあ、部下の面倒くらい見てあげるよ。ファデュイを適当に抜け出して来たせいで、給料も何もなくなったんだろう?」
呆れたように言う声がやさしい。その後、容器に詰め込んだものは結局特別でもない私の好きな食べ物や香辛料ばかりになってしまったけれど、全部長官の提案だった。その上発送まで手伝ってくれて、私が書類を書いている間に梱包をしてくれた。
兄からは一ヶ月後にまた瓶が届き、「お前のことを大好きな人が居るんだな」と珍しく手紙までついていた。不思議なことに長官のぶんのカカオ菓子入りで。
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