ジャンピンジャックサイコネス(ウスパパの教え子になる)
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ドラウスさんのお城に来て二週間が経った頃、大分慣れてきた私はすっかり甘やかされていた。まさか毎日食事をさせていただけるなんて思わなかったし、輸血ジュースのおかげか以前より体の調子も良くなった。しっかり眠れるし、悪夢を見る回数も減って万々歳だ。
ただ……意識がない時の暴走は未だ収まっていない。おかげで毎夕目覚めてからはサイコキネシスで散らかした物達のお片付けタイムが始まる。棺桶の蓋、抱き枕、ヘアアイロン、トルソーなど、特に調子が良くなるにつれて大きなものも無意識に動かせるようになっていることからは目を逸らしたい。
……いや、言っている場合ではないか。明日から日本へ行くのだから。
ヌーヌーと可愛い声が聞こえてきて足を止めたのがきっかけだった。なんでもドラルクさんから送られてきたアルマジロ動画だそうで、元気でやっているだろうかと心配する声には確かに寂しさが込められていた。そして気づいたのだ、もしかして私がここに居るから我慢しているのでは? と。
私を指導する役目がある手前旅行に行きたくても行けないのかもしれない。だから「一週間くらいなら日本に行っても大丈夫ですよ」と伝えたのだけれど、気づけば旅券を握らされていた。なんで??
「〇~!! 新横浜は寒いからイヤーマフを買ってきたぞ。スーツケースに入れておきなさい」
言ったそばから本人の登場だ。ドラウスさんは相変わらず可愛い。にこにこっとして渡してきた防寒具はふわふわながらも品があって、なんでも奥様に女の子ならこれがオススメだと教えてもらったらしい。
こうして暖かく接してくれるのは嬉しいけれど……率直なところ新横浜に行くのは若干不安だった。だって人間と吸血鬼の対立は昔からあって、和らいだ今でも過激派はあちこちに残っているのだから。
「だから、あの……人間の街に、そんな気軽に行って大丈夫なんですか?」
「いやあそこは吉本みたいなもんだから」
「吉本みたいなもんなの!? ……いや吉本ってなに???」
詳しく聞いてみるとドラウスさんはもう手慣れた様子で新横浜の状況を教えてくれた。まず、なんか変なおじさんが居るらしい。しかもその人はドラウスさんのご友人らしい。あとは野球拳を仕掛けてくる吸血鬼だとか、変なぶよぶよした生き物だとか……何かテーマパークの一つなのだろうか、新横浜は。ていうか裸にお花咲かせてるって……。
「え~~っと、私が行ったらご迷惑になるんじゃ」
「いや、君がいてくれると嬉しい。息子にも紹介したい」
キラキラしたドラウスさんの笑顔。日本に行くために用意されたとっておきのイヤーマフ。対、絶対やばい吉本新横浜。
「た、のしみです……」
行きたくないとは、言えなかった。
新横浜に着いたのは夕方頃だった。ドラウスさんによるとドラルクさんは友人と同居しているらしいので、一報入れておいたらどうかと伝えたところそういうのもあるのかという顔をされた。今までアポなしだったの??
「まあポール君ならどうせ居るだろう。ああ楽しみだ、ドラルクに会えるだろうか」
「えと、ポールさん? というのはご友人の?」
「そうだ。だが気をつけなさい、彼は暴力的な変態だからな。ドラルクのことを度々殺しているし」
「殺しているの!?」
ど、どういうこと?? 友人で、同居してて、かつやばい人で、殺……?? 頭の中に思い浮かぶのはアメリカ映画に出てきそうなクズ系男だった。でも友人で、えっ、えっ??
混乱しすぎて他の話が入ってこないまま新横浜を歩く。暗くなってきて灯る広告や照明がこの街の……いやそれどころじゃないんだってば。待って待って着いちゃう!
「じゃあ入るぞ。お~いドラルク~、パパが遊びに来たよ~!」
「まっ……!」
なんとかかんとか事務所、と書かれた一室の扉がドラウスさんの手で開かれる。暗い廊下に光が伸びて、生活感のある室内が一瞬見えた瞬間。
「てめぇアポなしで来んなっつったよなぁ!!」
「あー!! ドラウスさ~ん!!」
ドラウスさんの顔面にティッシュ箱が飛んできて激突した。あ、あわ……! もしかして過保護なあまり誤解しているのでは、という期待も持っていたのだけれど、本当に暴力的な人みたいだ……。やばいかえりたい、こわい、暴力こわい。
「んぁ? 他に誰かいんのか?」
「ひっ! ちが、居ません!!! 私はここに居ません!!!」
「うるせぇアイツの一族絡みは皆やばいって……あ?」
必死に扉の裏側に隠れていたけどもうおしまいだ。こんなことなら変身能力くらい身につけておけばよかった。うぅ……と死を覚悟して更に縮こまる。けれど、なかなか痛みは訪れない。
思い切って目を開けてみる。人間だ。雪を思わせる銀髪に、どこまでも透き通った青空を瞳に宿した人間。この人が、暴力を? それにしては顔色がおかしいくらいで何もしてこない。
「……?」
「あれ、真っ赤になってどうしたんだい締切明日ルド君。と思ったらお父様! と……お嬢さん、お名前は?」
次に聞こえてきたのは新しい声だった。ヌー、ヌヌヌ!と何か可愛らしい音と一緒に出てきたのはドラウスさんそっくりの人。この人がドラルクさん? アルマジロを頭に乗せてる。それから髪はドラウスさんと違って黒くて、手にはフライ返しを持っていた。
「お嬢さん?」
もう一度声をかけられてはっとする。それと同時にドラウスさんもいたた……と起き上がってきて、私は咄嗟にドラウスさんのマントをきゅっと握りながら声を出した。
「あの、〇です。ドラウスさんについてきました」
「お父様に?」
「いたた……昔のお前のようなものだ。手が空いていたから教育係を引き受けてね」
「なるほど、そういう……ところでロナルド君そろそろシャキッとしたまえよ」
ロナルドというのが人間のご友人のお名前らしい。日本ぽくない名前だからあだ名なのかもしれないけれど、ってあれ? ポールさんじゃなかったっけ。どっちだろう。……ポール・ロナルド?? いやないない。
そうして整合性を検討しているうちにロナルドさんはハッとして「ちょっと来いクソ砂」とドラルクさんを連れて奥の部屋へ消えていった。やっぱりアポなしは都合が悪かったのではないかと心配になるけれど、ドラウスさんはそんなこと全く気にしないで紅茶を淹れ始めてる。どうすれば……とにかく座ろう。変なことしてはいけないし。
「それであの子なんだって?」
「聞いてなかったのかね! だから彼女はお父様の弟子のようなものだよ。連れてきたのはお父様だろうが」
「じゃあ吸血鬼なのは合ってるんだな? ……どうやって話しかけたらいい?」
「少女漫画か! 普通に話したまえ!」
改めて家主不在の中で紅茶を勝手に淹れて飲むってどうなんだろう。だけどここで頼りの綱になるのはドラウスさんだけというのも確かなことで、なにより紅茶はお城で頂いたものと変わらないくらい美味しかった。紅茶淹れる天才ですねと褒めたらまたアンテナをふにゃふにゃさせていて可愛かった。
「あ、あの、えと、さっきはすみません。驚かせちゃって……」
そうこうしているうちにロナルドさんとドラルクさんも奥から出てきて、私たちはソファに向かい合って腰を落ち着けた。いえいえ、と言おうとした時、ドラウスさんがカンッと音が鳴る程強くカップを置いたのでつい口をつぐむ。
「そうだぞポール君。うちの帳に酷いものを見せないでくれ」
まるで父親のような口ぶりだった。しかしあれ、と思う間もなくロナルドさんは無視して言葉を紡ぐ。
「食事できるタイプですか? ドラルクが作ったやつですけどケーキとかありますんで! どうぞ!」
「ドラルクが? ふむ、頂こう」
「てめぇはちっとは黙ってろや!」
「あああドラウスさ~ん!!!」
近くにあったティッシュ箱がまたしてもドラウスの顔面に直撃した。そんなに乱暴したら可愛いドラウスさんのアンテナまで引っこ抜けそうで心配だ。慌てて顔を覗き込むと眉間が少し赤くなって痛そうにしているドラウスさん。しかももしかしなくてもいつも通りのようで、ドラルクさんも父親が殴られているのにアルマジロを撫でて可愛がっている。
わ、私がしっかりしないと……原因は別として私がドラウスさんを守らないと……!
立ち上がるとドラルクさんはやっとこっちを向いて、ロナルドさんもちょっとびっくりしていた。だけどドラウスさんは私の恩人なのだ。言わなきゃいけない時も、ある!
「ど、ドラウスさんに酷いことしないでください……っ」
「なっ……それは……」
ロナルドさんはそんなこと言われるとは思っていなかったのかワタワタし始めた。確かにドラウスさんはちょっと変だけど、
「そうだぞポール君! もっと畏怖れ! あとうちの娘に色目を使うな」
「るっせぇ勝手に父親面してんじゃねぇ!」
「ドラウスさん!!」
……結局ドラウスさんは何度踏まれても伸びる雑草のように生き生きと文句を言っていたので放っておくことにした。今もロナルドさんと言い争っていて、ドラルクさんの「いつものことだから気にすると疲れるよ。こっち来たら」という助言もあって奥の部屋に来ている。アルマジロのジョンくんもヌヌヌ!と何言ってるか分かんないけど賛成してくれているみたいで、バームクーヘンを一緒に食べて平和なひとときだ。
「それにしてもお父様がねえ、ふ~ん……」
ふと、見慣れたゲームをしながらドラルクさんが言った。聞こえるか聞こえないかの声。反応していいのか分からずにそっと手を止めると、彼もそれに気がついたのかヒラヒラッと片手を振る。
「いやあ、気にしないでくれたまえ。それよりめっっっちゃ過保護じゃない? 大丈夫? 好きなことできてる?」
「で、できてます。見に余るご好意を受けているとは思ってますが」
「あっそう。ならよか__待って君それなに?」
「え?」
それ? 何のことか分からずに目を丸くしていると、ドラルクさんが慌てて寄ってきて私の手首を掴んだ。それから首元も確かめるように観察して息を呑む。
「一応聞くけど毎晩変なプレイとかしてないよね?」
「へっ、なんで」
「縄の跡がついてる」
ただ……意識がない時の暴走は未だ収まっていない。おかげで毎夕目覚めてからはサイコキネシスで散らかした物達のお片付けタイムが始まる。棺桶の蓋、抱き枕、ヘアアイロン、トルソーなど、特に調子が良くなるにつれて大きなものも無意識に動かせるようになっていることからは目を逸らしたい。
……いや、言っている場合ではないか。明日から日本へ行くのだから。
ヌーヌーと可愛い声が聞こえてきて足を止めたのがきっかけだった。なんでもドラルクさんから送られてきたアルマジロ動画だそうで、元気でやっているだろうかと心配する声には確かに寂しさが込められていた。そして気づいたのだ、もしかして私がここに居るから我慢しているのでは? と。
私を指導する役目がある手前旅行に行きたくても行けないのかもしれない。だから「一週間くらいなら日本に行っても大丈夫ですよ」と伝えたのだけれど、気づけば旅券を握らされていた。なんで??
「〇~!! 新横浜は寒いからイヤーマフを買ってきたぞ。スーツケースに入れておきなさい」
言ったそばから本人の登場だ。ドラウスさんは相変わらず可愛い。にこにこっとして渡してきた防寒具はふわふわながらも品があって、なんでも奥様に女の子ならこれがオススメだと教えてもらったらしい。
こうして暖かく接してくれるのは嬉しいけれど……率直なところ新横浜に行くのは若干不安だった。だって人間と吸血鬼の対立は昔からあって、和らいだ今でも過激派はあちこちに残っているのだから。
「だから、あの……人間の街に、そんな気軽に行って大丈夫なんですか?」
「いやあそこは吉本みたいなもんだから」
「吉本みたいなもんなの!? ……いや吉本ってなに???」
詳しく聞いてみるとドラウスさんはもう手慣れた様子で新横浜の状況を教えてくれた。まず、なんか変なおじさんが居るらしい。しかもその人はドラウスさんのご友人らしい。あとは野球拳を仕掛けてくる吸血鬼だとか、変なぶよぶよした生き物だとか……何かテーマパークの一つなのだろうか、新横浜は。ていうか裸にお花咲かせてるって……。
「え~~っと、私が行ったらご迷惑になるんじゃ」
「いや、君がいてくれると嬉しい。息子にも紹介したい」
キラキラしたドラウスさんの笑顔。日本に行くために用意されたとっておきのイヤーマフ。対、絶対やばい吉本新横浜。
「た、のしみです……」
行きたくないとは、言えなかった。
新横浜に着いたのは夕方頃だった。ドラウスさんによるとドラルクさんは友人と同居しているらしいので、一報入れておいたらどうかと伝えたところそういうのもあるのかという顔をされた。今までアポなしだったの??
「まあポール君ならどうせ居るだろう。ああ楽しみだ、ドラルクに会えるだろうか」
「えと、ポールさん? というのはご友人の?」
「そうだ。だが気をつけなさい、彼は暴力的な変態だからな。ドラルクのことを度々殺しているし」
「殺しているの!?」
ど、どういうこと?? 友人で、同居してて、かつやばい人で、殺……?? 頭の中に思い浮かぶのはアメリカ映画に出てきそうなクズ系男だった。でも友人で、えっ、えっ??
混乱しすぎて他の話が入ってこないまま新横浜を歩く。暗くなってきて灯る広告や照明がこの街の……いやそれどころじゃないんだってば。待って待って着いちゃう!
「じゃあ入るぞ。お~いドラルク~、パパが遊びに来たよ~!」
「まっ……!」
なんとかかんとか事務所、と書かれた一室の扉がドラウスさんの手で開かれる。暗い廊下に光が伸びて、生活感のある室内が一瞬見えた瞬間。
「てめぇアポなしで来んなっつったよなぁ!!」
「あー!! ドラウスさ~ん!!」
ドラウスさんの顔面にティッシュ箱が飛んできて激突した。あ、あわ……! もしかして過保護なあまり誤解しているのでは、という期待も持っていたのだけれど、本当に暴力的な人みたいだ……。やばいかえりたい、こわい、暴力こわい。
「んぁ? 他に誰かいんのか?」
「ひっ! ちが、居ません!!! 私はここに居ません!!!」
「うるせぇアイツの一族絡みは皆やばいって……あ?」
必死に扉の裏側に隠れていたけどもうおしまいだ。こんなことなら変身能力くらい身につけておけばよかった。うぅ……と死を覚悟して更に縮こまる。けれど、なかなか痛みは訪れない。
思い切って目を開けてみる。人間だ。雪を思わせる銀髪に、どこまでも透き通った青空を瞳に宿した人間。この人が、暴力を? それにしては顔色がおかしいくらいで何もしてこない。
「……?」
「あれ、真っ赤になってどうしたんだい締切明日ルド君。と思ったらお父様! と……お嬢さん、お名前は?」
次に聞こえてきたのは新しい声だった。ヌー、ヌヌヌ!と何か可愛らしい音と一緒に出てきたのはドラウスさんそっくりの人。この人がドラルクさん? アルマジロを頭に乗せてる。それから髪はドラウスさんと違って黒くて、手にはフライ返しを持っていた。
「お嬢さん?」
もう一度声をかけられてはっとする。それと同時にドラウスさんもいたた……と起き上がってきて、私は咄嗟にドラウスさんのマントをきゅっと握りながら声を出した。
「あの、〇です。ドラウスさんについてきました」
「お父様に?」
「いたた……昔のお前のようなものだ。手が空いていたから教育係を引き受けてね」
「なるほど、そういう……ところでロナルド君そろそろシャキッとしたまえよ」
ロナルドというのが人間のご友人のお名前らしい。日本ぽくない名前だからあだ名なのかもしれないけれど、ってあれ? ポールさんじゃなかったっけ。どっちだろう。……ポール・ロナルド?? いやないない。
そうして整合性を検討しているうちにロナルドさんはハッとして「ちょっと来いクソ砂」とドラルクさんを連れて奥の部屋へ消えていった。やっぱりアポなしは都合が悪かったのではないかと心配になるけれど、ドラウスさんはそんなこと全く気にしないで紅茶を淹れ始めてる。どうすれば……とにかく座ろう。変なことしてはいけないし。
「それであの子なんだって?」
「聞いてなかったのかね! だから彼女はお父様の弟子のようなものだよ。連れてきたのはお父様だろうが」
「じゃあ吸血鬼なのは合ってるんだな? ……どうやって話しかけたらいい?」
「少女漫画か! 普通に話したまえ!」
改めて家主不在の中で紅茶を勝手に淹れて飲むってどうなんだろう。だけどここで頼りの綱になるのはドラウスさんだけというのも確かなことで、なにより紅茶はお城で頂いたものと変わらないくらい美味しかった。紅茶淹れる天才ですねと褒めたらまたアンテナをふにゃふにゃさせていて可愛かった。
「あ、あの、えと、さっきはすみません。驚かせちゃって……」
そうこうしているうちにロナルドさんとドラルクさんも奥から出てきて、私たちはソファに向かい合って腰を落ち着けた。いえいえ、と言おうとした時、ドラウスさんがカンッと音が鳴る程強くカップを置いたのでつい口をつぐむ。
「そうだぞポール君。うちの帳に酷いものを見せないでくれ」
まるで父親のような口ぶりだった。しかしあれ、と思う間もなくロナルドさんは無視して言葉を紡ぐ。
「食事できるタイプですか? ドラルクが作ったやつですけどケーキとかありますんで! どうぞ!」
「ドラルクが? ふむ、頂こう」
「てめぇはちっとは黙ってろや!」
「あああドラウスさ~ん!!!」
近くにあったティッシュ箱がまたしてもドラウスの顔面に直撃した。そんなに乱暴したら可愛いドラウスさんのアンテナまで引っこ抜けそうで心配だ。慌てて顔を覗き込むと眉間が少し赤くなって痛そうにしているドラウスさん。しかももしかしなくてもいつも通りのようで、ドラルクさんも父親が殴られているのにアルマジロを撫でて可愛がっている。
わ、私がしっかりしないと……原因は別として私がドラウスさんを守らないと……!
立ち上がるとドラルクさんはやっとこっちを向いて、ロナルドさんもちょっとびっくりしていた。だけどドラウスさんは私の恩人なのだ。言わなきゃいけない時も、ある!
「ど、ドラウスさんに酷いことしないでください……っ」
「なっ……それは……」
ロナルドさんはそんなこと言われるとは思っていなかったのかワタワタし始めた。確かにドラウスさんはちょっと変だけど、
「そうだぞポール君! もっと畏怖れ! あとうちの娘に色目を使うな」
「るっせぇ勝手に父親面してんじゃねぇ!」
「ドラウスさん!!」
……結局ドラウスさんは何度踏まれても伸びる雑草のように生き生きと文句を言っていたので放っておくことにした。今もロナルドさんと言い争っていて、ドラルクさんの「いつものことだから気にすると疲れるよ。こっち来たら」という助言もあって奥の部屋に来ている。アルマジロのジョンくんもヌヌヌ!と何言ってるか分かんないけど賛成してくれているみたいで、バームクーヘンを一緒に食べて平和なひとときだ。
「それにしてもお父様がねえ、ふ~ん……」
ふと、見慣れたゲームをしながらドラルクさんが言った。聞こえるか聞こえないかの声。反応していいのか分からずにそっと手を止めると、彼もそれに気がついたのかヒラヒラッと片手を振る。
「いやあ、気にしないでくれたまえ。それよりめっっっちゃ過保護じゃない? 大丈夫? 好きなことできてる?」
「で、できてます。見に余るご好意を受けているとは思ってますが」
「あっそう。ならよか__待って君それなに?」
「え?」
それ? 何のことか分からずに目を丸くしていると、ドラルクさんが慌てて寄ってきて私の手首を掴んだ。それから首元も確かめるように観察して息を呑む。
「一応聞くけど毎晩変なプレイとかしてないよね?」
「へっ、なんで」
「縄の跡がついてる」