ジャンピンジャックサイコネス(ウスパパの教え子になる)
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私は所謂落ちこぼれ吸血鬼だった。サイコキネシスの力を持って生まれたものの上手く使えず、誰かに指導してもらった方が良いと家を追い出されることになったのだ。決定が下されたのが先週のことで、それからあれよあれよという間に荷物をまとめさせられてスピード出荷。なんとか知り合いに泣きついてタライを回され回され酔いかけたところで、拾ってくれたのが今日からお世話になるこの城の主という訳だ。
正直紹介の紹介の紹介の……と辿っていったので知り合いでもなんでもない。とにかく追い出されないことが第一だ。良い子にして、毎日昼間もカーテンを閉めて勉強しよう。
「ごめんくださ~い……」
教材のぎっしり詰まった鞄を背負いながらよたよたと扉を叩く。三歩離れて待っていると中から慌てた声が聞こえた。来ることは言っていたはずだけれど、何かトラブルでもあったのかな。もしかしてやっぱり無理だったのだろうか。まあ仕方ない。そっか、そうだよね。あまりにも突然のお願いだったし暫くは野宿でもして__
「っすまない! 待たせたね、君が〇君かな?」
「!! は、はい、落ちこぼれの〇です……」
__扉は、開いた。中から出てきたのは白髪に血色の悪い肌、闇夜で染め上げたような黒いマントに身を包んだ男性。身長差故にかなり見上げる形になるけれど、確かに聞いていた通りの人であるように見える。
しかし風格のある吸血鬼だと緊張したのも束の間、彼は私の顔を見て一転慌てた表情になった。
「落ちこぼれ? ってちょっと待ちたまえ、どうして涙目で……あっ、そうだ、ジャムサンド食べる? 飲み物がよかったらサスディンスムージーとかもあるよ?」
「??」
「ああ、サスディンスムージーっていうのは私の友人が……とにかく積もる話は中でしよう。ほら、入りたまえ」
再びバサッとマントを翻して城へ入れてくれた彼、ドラウスさん。後に続いて一室に入ると、そこには目を見張るほど豪奢なナイトティーが用意されていた。ブラッドジャムサンドからケークオブブラッド、スムージー、ジュース、マフィン……血の匂いがするものもしないものもある。もしかして誰かお客さんが来るのだろうか? それとも毎日これがあるのか。そうだとしたらよく細身でいられるものだ。
「さあ、〇君。君はサイコキネシスの指導を受けに来た、そうだったね?」
「! はい」
ドラウスさんはテーブルに着くと私にも掛けるよう促した。分かった、これも試験の始まりなのかも。ケーキを浮かせるとか、手を使わずに紅茶を入れるとか。早速始まるのは緊張しちゃうけど住居確保のために頑張ろう、よし!
「まあそれは明日からにしよう。疲れただろう、今日はしっかり食べてじゅうぶん休みなさい。城の案内は明日からゆっくりと」
「……?? や、休む? えっと、えと」
「? もしかしてお腹が減っていないのか? ほら、これとかどうだろう。新鮮なベリータルトだよ」
きょとん、とするドラウスさんにつられて私まできょとんとしてしまう。タルトを一切れ取り分けてブルベリームースも添えた一皿が目の前に出されても、私はどうしていいか分からなかった。
「私が……食べていいんですか?」
「それ以外に誰がいる?」
このクリームは少し工夫してあって……と聞かされながら恐る恐るフォークを取る。固形物を食べるのは久しぶりのことで、上手く使えるか心配だったが無事に一口掬うことが出来た。香ばしい焼き目のついたタルト地にたっぷり乗せられた純白のクリームと、ごろごろぜいたくに飾られたベリーを艶やかに見せるナパージュはとても魅力的だ。改めてチラ、と見上げて確認をとるとドラウスさんはこくりと頷いてくれた。
「い、ただきます、……! ! おいしい!」
「そうか! それは良かった、君は料理を楽しめるタイプなのだな」
「ふぁい……久しぶりでしたけどまだそうらしいです」
言われた通りクリームはふわふわなだけではなくて、後味がさっぱりとしてくどくないのにどこか高級な味わい深さと滑らかさを備えていた。おいしい、おいしい! こんなに美味しいものを食べたのはいつぶりだっけ。夢中でタルトを口に収めてリスのような頬になっている私を見て、ドラウスさんは何故か戸惑っている様子だった。……食べすぎた? や、やっぱりだめだった? あわててフォークを置いて手を膝に置く。すると彼はもっとアワアワして「もっと食べていいから」とミルフィーユを私の元まで持ってきた。
「ただ……君の話を聞かせてほしい。気になったんだ、今まで食事はどうしていた?」
「週に一度、輸血パックを」
「一度!?」
正直に言うとドラウスさんはほとんど泣き出す寸前のような顔になってしまった。えっ何かした? ど、どうしよう。重たいベルベットのカーテンとか見事なシャンデリアとか、焦る反動で部屋の細かいものが目につく。それからもう一度ドラウスさんを見ると彼は顔を抑えて深いため息をついていた。
「……〇君」
「は、はい」
「君を帰すつもりはない」
「はい……?」
帰すつもりはない。それは……有難いことだ。だって追い出されないことを目標にしていたから、居場所があるというだけでもほっとする。肩の力が抜けた私を見てドラウスさんはますます何か確信したといった風に顔を上げた。
「私には愛する妻と死ぬほど可愛い息子がいる。決して能力が優れているわけではない子だが、それでも存在してくれているだけで立派なのだ。君にもそれを分からせてあげよう」
「……? ええと、ドラルク……さんの自慢大会的な」
「そうではなく! いやそれもしたいが! ……君だよ。君を雑に扱う親の元へは帰してあげられない。私の耳に入るまでにも散々なことがあったと聞いた」
ドラウスさんはまるで自分の痛みかのように苦しげな表情で佇んでいる。まるで小さな子どものようで、つい近寄って頭を撫でたくなるほどだ。でもそれはできないから__励ますように微笑んだ。
「あの、ご心配? ありがとうございます、ドラウスさん。わたし、わた、し……」
あれ、おかしいな。うまく喋れないや。
瞬きすると大粒の水滴がぼたっと落ちて頬を滑っていった。鎖骨に落ちて服を濡らすので気持ち悪い。だけど何度瞬きしても止まらなくて、ドラウスさんも滲んで見えて、やがて黒い影が視界を覆った。
ほとんど体温はないけれど、確かに感触は伝わってくる。幼子をあやすように背中を撫でられて目を瞑る。
「……いい。普通は耐えることから教えるのだがね、君は我慢してはいけない。封じ込めすぎて迷ってしまっただけだ。私が導いてあげよう」
「っうぅ、すみません……っ、すみませ、すみませ、ん」
「謝るな。たまに妻も帰ってくるし、彼女も同じ意見だろう。親のように思ってくれても構わない」
可愛いドラルクも紹介してあげないと、と続けるドラウスさんの声は酷く優しかった。
正直紹介の紹介の紹介の……と辿っていったので知り合いでもなんでもない。とにかく追い出されないことが第一だ。良い子にして、毎日昼間もカーテンを閉めて勉強しよう。
「ごめんくださ~い……」
教材のぎっしり詰まった鞄を背負いながらよたよたと扉を叩く。三歩離れて待っていると中から慌てた声が聞こえた。来ることは言っていたはずだけれど、何かトラブルでもあったのかな。もしかしてやっぱり無理だったのだろうか。まあ仕方ない。そっか、そうだよね。あまりにも突然のお願いだったし暫くは野宿でもして__
「っすまない! 待たせたね、君が〇君かな?」
「!! は、はい、落ちこぼれの〇です……」
__扉は、開いた。中から出てきたのは白髪に血色の悪い肌、闇夜で染め上げたような黒いマントに身を包んだ男性。身長差故にかなり見上げる形になるけれど、確かに聞いていた通りの人であるように見える。
しかし風格のある吸血鬼だと緊張したのも束の間、彼は私の顔を見て一転慌てた表情になった。
「落ちこぼれ? ってちょっと待ちたまえ、どうして涙目で……あっ、そうだ、ジャムサンド食べる? 飲み物がよかったらサスディンスムージーとかもあるよ?」
「??」
「ああ、サスディンスムージーっていうのは私の友人が……とにかく積もる話は中でしよう。ほら、入りたまえ」
再びバサッとマントを翻して城へ入れてくれた彼、ドラウスさん。後に続いて一室に入ると、そこには目を見張るほど豪奢なナイトティーが用意されていた。ブラッドジャムサンドからケークオブブラッド、スムージー、ジュース、マフィン……血の匂いがするものもしないものもある。もしかして誰かお客さんが来るのだろうか? それとも毎日これがあるのか。そうだとしたらよく細身でいられるものだ。
「さあ、〇君。君はサイコキネシスの指導を受けに来た、そうだったね?」
「! はい」
ドラウスさんはテーブルに着くと私にも掛けるよう促した。分かった、これも試験の始まりなのかも。ケーキを浮かせるとか、手を使わずに紅茶を入れるとか。早速始まるのは緊張しちゃうけど住居確保のために頑張ろう、よし!
「まあそれは明日からにしよう。疲れただろう、今日はしっかり食べてじゅうぶん休みなさい。城の案内は明日からゆっくりと」
「……?? や、休む? えっと、えと」
「? もしかしてお腹が減っていないのか? ほら、これとかどうだろう。新鮮なベリータルトだよ」
きょとん、とするドラウスさんにつられて私まできょとんとしてしまう。タルトを一切れ取り分けてブルベリームースも添えた一皿が目の前に出されても、私はどうしていいか分からなかった。
「私が……食べていいんですか?」
「それ以外に誰がいる?」
このクリームは少し工夫してあって……と聞かされながら恐る恐るフォークを取る。固形物を食べるのは久しぶりのことで、上手く使えるか心配だったが無事に一口掬うことが出来た。香ばしい焼き目のついたタルト地にたっぷり乗せられた純白のクリームと、ごろごろぜいたくに飾られたベリーを艶やかに見せるナパージュはとても魅力的だ。改めてチラ、と見上げて確認をとるとドラウスさんはこくりと頷いてくれた。
「い、ただきます、……! ! おいしい!」
「そうか! それは良かった、君は料理を楽しめるタイプなのだな」
「ふぁい……久しぶりでしたけどまだそうらしいです」
言われた通りクリームはふわふわなだけではなくて、後味がさっぱりとしてくどくないのにどこか高級な味わい深さと滑らかさを備えていた。おいしい、おいしい! こんなに美味しいものを食べたのはいつぶりだっけ。夢中でタルトを口に収めてリスのような頬になっている私を見て、ドラウスさんは何故か戸惑っている様子だった。……食べすぎた? や、やっぱりだめだった? あわててフォークを置いて手を膝に置く。すると彼はもっとアワアワして「もっと食べていいから」とミルフィーユを私の元まで持ってきた。
「ただ……君の話を聞かせてほしい。気になったんだ、今まで食事はどうしていた?」
「週に一度、輸血パックを」
「一度!?」
正直に言うとドラウスさんはほとんど泣き出す寸前のような顔になってしまった。えっ何かした? ど、どうしよう。重たいベルベットのカーテンとか見事なシャンデリアとか、焦る反動で部屋の細かいものが目につく。それからもう一度ドラウスさんを見ると彼は顔を抑えて深いため息をついていた。
「……〇君」
「は、はい」
「君を帰すつもりはない」
「はい……?」
帰すつもりはない。それは……有難いことだ。だって追い出されないことを目標にしていたから、居場所があるというだけでもほっとする。肩の力が抜けた私を見てドラウスさんはますます何か確信したといった風に顔を上げた。
「私には愛する妻と死ぬほど可愛い息子がいる。決して能力が優れているわけではない子だが、それでも存在してくれているだけで立派なのだ。君にもそれを分からせてあげよう」
「……? ええと、ドラルク……さんの自慢大会的な」
「そうではなく! いやそれもしたいが! ……君だよ。君を雑に扱う親の元へは帰してあげられない。私の耳に入るまでにも散々なことがあったと聞いた」
ドラウスさんはまるで自分の痛みかのように苦しげな表情で佇んでいる。まるで小さな子どものようで、つい近寄って頭を撫でたくなるほどだ。でもそれはできないから__励ますように微笑んだ。
「あの、ご心配? ありがとうございます、ドラウスさん。わたし、わた、し……」
あれ、おかしいな。うまく喋れないや。
瞬きすると大粒の水滴がぼたっと落ちて頬を滑っていった。鎖骨に落ちて服を濡らすので気持ち悪い。だけど何度瞬きしても止まらなくて、ドラウスさんも滲んで見えて、やがて黒い影が視界を覆った。
ほとんど体温はないけれど、確かに感触は伝わってくる。幼子をあやすように背中を撫でられて目を瞑る。
「……いい。普通は耐えることから教えるのだがね、君は我慢してはいけない。封じ込めすぎて迷ってしまっただけだ。私が導いてあげよう」
「っうぅ、すみません……っ、すみませ、すみませ、ん」
「謝るな。たまに妻も帰ってくるし、彼女も同じ意見だろう。親のように思ってくれても構わない」
可愛いドラルクも紹介してあげないと、と続けるドラウスさんの声は酷く優しかった。