氷笑卿
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「何故だ?」
「何がですか?」
暮れた陽が海を染める時刻、棺から出て大きく伸びをした。吸血鬼になった今ではこの時間が一日の始まりなことにまだ慣れない。とりあえず何か飲もうかな、師匠 はなんか固まっちゃったし。
そういうわけでその辺に置いてあった柘榴ジュースの瓶に口をつけていると、もう一度師匠 が「何故だ」と聞いてきた。
「だから何が――」
「何故お前は毎夕毎夕私の棺から出てくるんだと聞いている。明け方に寝床まで送ってやっているだろう」
「……小さいこと気にしてたらだめって御真祖様が」
「誤魔化すな」
師匠 は棺から起き上がると私を連れて部屋から出た。長い廊下だ。日中は重厚なカーテンが垂れていて日が差さず、歩いてくるのはちょっとこわい廊下でもある。
「怖いなら何故歩いてくるんだ。まさか一人で寝れないのか?」
「師匠 が?」
「お前がだ」
「あはは、まさかそんな……そんな……えへ♡」
「誤魔化すな!」
ばちっとウインクして見せたところ師匠 には効かずに怒られてしまった。たしかに、毎朝寝室まで送っているのにわざわざ昼間歩いてきて目が覚めたら横で寝ている……なんて不思議かもしれない。
廊下を歩いて洗面台の方へ、やれやれと溜息を吐く師匠 についていく。窓の外はもう夜が落ちてきて、しかし暗い窓が反射しても自分の姿は映らなかった。
「……〇、まだ慣れないのか」
さっきより柔らかい師匠 の声。吸血鬼にしたのは師匠 だから一応気にかけてはくれているのだろうか。
「まあ……時差ボケもちょっと。体は寝なきゃって思っても意識がそわそわして」
師匠 は歩きを止めない。最早洗面台は過ぎているのに。
「それに……棺桶って慣れなくて、狭くて安心すると思ったけど息苦しさもあるっていうか……なんか奈落に落ちてくみたいな……感覚がして」
「師匠 が近くにいたら、その……ちゃんとねれたっていうか……」
「……めいわく、でしたか」
自分で言っていて情けなくなってきた。この体になれたことに後悔はしていないけれど、棺桶で眠れない吸血鬼なんて。でも――師匠 に棺桶で噛まれたあの時から、師匠 の棺の中にいるとドキドキするけど安心して、ぜんぶ任せていいんだって思えて、やがて時計の音と一緒に微睡んでいけるんだ。情けないと分かっても尚甘えたいのはなんでだろう。でももうやめた方がいいのかな……。チラ、と師匠 を見上げると彼は二回目の大きな溜め息を吐いているし。
「ハァ……先天性じゃないんだ、そういうことも珍しくない。最初からそう言え」
「ごめんなさい……もうやめます」
「は?」
「ひぁっ!?」
師匠 の「は?」が低くって思わず飛び跳ねた。なに、怒られたからやめるって言ってるのにどうしてそんなに不機嫌なの?
「やめろとは言っていない」
「えっ……?」
ぽかん、言われたことがよく分からなくて立ち止まる私を置いて、師匠 は二週目の洗面台への通路を曲がって行った。すぐに水が流れる音がして、身支度を進めているのが聞こえてくる。
……やめろとは言っていない? そういうことも珍しくない。最初からそう言え……。
つい勢いのままに洗面台へ走って行くと、髭の手入れをするところだったらしい師匠 に結構本気のギョッとした顔で押さえつけられた。
「なんだ〇!! 走るなと言っただろう!」
「だって、だって……慣れるまで、一緒でも、いいんですか?」
「っハァ……好きにしろ」
「……!師匠 だいすき!」
ぎゅうっとしがみつくと師匠 は支度を再開する。くっつくな、とは言われなかった。
「何がですか?」
暮れた陽が海を染める時刻、棺から出て大きく伸びをした。吸血鬼になった今ではこの時間が一日の始まりなことにまだ慣れない。とりあえず何か飲もうかな、
そういうわけでその辺に置いてあった柘榴ジュースの瓶に口をつけていると、もう一度
「だから何が――」
「何故お前は毎夕毎夕私の棺から出てくるんだと聞いている。明け方に寝床まで送ってやっているだろう」
「……小さいこと気にしてたらだめって御真祖様が」
「誤魔化すな」
「怖いなら何故歩いてくるんだ。まさか一人で寝れないのか?」
「
「お前がだ」
「あはは、まさかそんな……そんな……えへ♡」
「誤魔化すな!」
ばちっとウインクして見せたところ
廊下を歩いて洗面台の方へ、やれやれと溜息を吐く
「……〇、まだ慣れないのか」
さっきより柔らかい
「まあ……時差ボケもちょっと。体は寝なきゃって思っても意識がそわそわして」
「それに……棺桶って慣れなくて、狭くて安心すると思ったけど息苦しさもあるっていうか……なんか奈落に落ちてくみたいな……感覚がして」
「
「……めいわく、でしたか」
自分で言っていて情けなくなってきた。この体になれたことに後悔はしていないけれど、棺桶で眠れない吸血鬼なんて。でも――
「ハァ……先天性じゃないんだ、そういうことも珍しくない。最初からそう言え」
「ごめんなさい……もうやめます」
「は?」
「ひぁっ!?」
「やめろとは言っていない」
「えっ……?」
ぽかん、言われたことがよく分からなくて立ち止まる私を置いて、
……やめろとは言っていない? そういうことも珍しくない。最初からそう言え……。
つい勢いのままに洗面台へ走って行くと、髭の手入れをするところだったらしい
「なんだ〇!! 走るなと言っただろう!」
「だって、だって……慣れるまで、一緒でも、いいんですか?」
「っハァ……好きにしろ」
「……!
ぎゅうっとしがみつくと