氷笑卿
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※ダンピール夢主
「夜です」
「朝だ」
たった今開けたばかりの棺桶の蓋がバタンッと荒々しく閉じられる。まったく、部屋に一筋の光すら差していないのに朝だなんて師匠 も我儘だ。しょうがないからもう一度教えてあげよう。棺に手をかけて、と。
「夜です……っ!」
「朝だ、と言っているだろうが……! 大体たった今寝たばかりだ! 暇なら退治人共とでも遊んでいろ!」
「やだ~!!師匠 がいい! 午前六時なんてほとんど夜ですもん!!」
「その自信はどこから来るんだ! っああもう、蓋から手を離せ!」
師匠 はなんだかんだ優しいから、蓋にさえ手をかけていれば棺が閉じることはない。手を挟んじゃうからね。彼は眉間に皺を寄せながら上半身を起こすと大きくため息を吐いた。
「……寝るか?」
「師匠 と?」
「それで気が済むならな」
「済みませんね」
「……」
「二度寝しないでください!」
再び寝ようとした師匠 の足の上に持ってきた箱を乗せると呻き声が聞こえた。箱の中には各種ゲームやらなんやらが入っているから総重量は……数キロはあるかもしれない。でも、だってだって構ってほしいのだ。別に他の人が悪いわけじゃないけど、何故か無性にこの人に構ってもらいたかった。
「ね、師匠 ……可愛い弟子の頼みですよ……?」
「……ダンピールから吸血鬼になるから弟子にしろと聞いた」
「だから、好きなアイドルのドーム公演が終わったらなるって言ってるじゃないですか! お昼に外歩けなくなったらソンムル交換が難しいんですよ」
「そうかそうか。後にしろ」
「やだ~!!」
また寝そうになった師匠 をもう一度叩いて起こそうとしたら、パシッと両腕を掴まれる。むすっと怒った顔をしているけれど師匠 は大体この顔だからもう慣れた。……慣れてしまった。他の女の人に会ったら、すまし顔するのに。
「っ、初めの頃は口説いてたくせに……」
「……ほう? 口説かれたかったのか?」
「え、っひぁ!?」
腕を引かれてついそのまま師匠 の体の上に乗る形になる。どうせ小言が来ると思っていたから慌てていると、彼は念動力でいとも容易く重たいおもちゃ箱を浮かせて移動させてみせた。なにそれ、念動力も使えるとか聞いてない__けれど師匠 は止まってくれなくて、片腕が腰に添えられる。ガタガタ、と重たい音もする。
「お嬢さん、貴女の酸素で息をさせてはくれないか」
そう言われた瞬間水に沈むように棺の中にもつれ込んだ。念動力で運ばれた蓋が閉まって視界が途端に暗くなる。なによりも香りだ。この棺の中はどこもかしこも師匠 の香りがする。普段はかなり近づいた時にしか香らないのに、今はいっぱいに包まれて、なんだか頭が混乱してきて。
「ぁ、せんせ……っ」
「目を合わせて。私に任せて力を抜きなさい。だが……天使の羽ほどの重さしか感じられないな。頭上の輪は何処に置いてきたんだ?」
師匠 に全体重を預けてしまっているから、心もとなさやら申し訳なさやらで心臓のドキドキが止まらない。せめて耳を塞ぎたくても何を言われているのか全部はっきり聞こえてる。一昨日すみれの砂糖漬け食べてたら食べすぎだって叱ってきたくせに……そうだこの手のセリフを真に受けるわけない。ない……のに、最近は褒めてくれなかったからか、やけに刺さってしまう自分がいる。
「……〇」
師匠 の胸に顔を預けて目を回していると、少し低い声で彼が私を呼んだ。掴まれたままの方の手首が師匠 の親指で擦られて、腰を抱いていた手も肩甲骨の方へ上がってくる。
「この細い手首に重たい枷を嵌めて、噛んでしまおうと何度思ったか。お前は何も知らないだろう」
「へっ……」
思わず見上げると師匠 と視線がかち合う。師匠 の瞳は特別だ。瞳孔が横に広がった人外の目。改めてその目で見つめられると何処にも逃げられないような、そのまま食べられてしまいそうな気がしてくる。
「さて。一応自由意志を確認しろと竜の次期当主の仰せだ。魅了がいいか、自分で選ぶか。どちらがいい?」
もう外では陽の光が当たりを照らしているというのに、重たいベルベットのカーテンで閉ざされた室内は静まり返っている。棺の中は一層だった。
ただ分かることは今から自分が作り変えられるということだけで。
「――噛んでしまっていいな?」
鋭い牙がチラつくその口から紡がれた言葉に、ただこくりと頷くしかなかった。
「夜です」
「朝だ」
たった今開けたばかりの棺桶の蓋がバタンッと荒々しく閉じられる。まったく、部屋に一筋の光すら差していないのに朝だなんて
「夜です……っ!」
「朝だ、と言っているだろうが……! 大体たった今寝たばかりだ! 暇なら退治人共とでも遊んでいろ!」
「やだ~!!
「その自信はどこから来るんだ! っああもう、蓋から手を離せ!」
「……寝るか?」
「
「それで気が済むならな」
「済みませんね」
「……」
「二度寝しないでください!」
再び寝ようとした
「ね、
「……ダンピールから吸血鬼になるから弟子にしろと聞いた」
「だから、好きなアイドルのドーム公演が終わったらなるって言ってるじゃないですか! お昼に外歩けなくなったらソンムル交換が難しいんですよ」
「そうかそうか。後にしろ」
「やだ~!!」
また寝そうになった
「っ、初めの頃は口説いてたくせに……」
「……ほう? 口説かれたかったのか?」
「え、っひぁ!?」
腕を引かれてついそのまま
「お嬢さん、貴女の酸素で息をさせてはくれないか」
そう言われた瞬間水に沈むように棺の中にもつれ込んだ。念動力で運ばれた蓋が閉まって視界が途端に暗くなる。なによりも香りだ。この棺の中はどこもかしこも
「ぁ、せんせ……っ」
「目を合わせて。私に任せて力を抜きなさい。だが……天使の羽ほどの重さしか感じられないな。頭上の輪は何処に置いてきたんだ?」
「……〇」
「この細い手首に重たい枷を嵌めて、噛んでしまおうと何度思ったか。お前は何も知らないだろう」
「へっ……」
思わず見上げると
「さて。一応自由意志を確認しろと竜の次期当主の仰せだ。魅了がいいか、自分で選ぶか。どちらがいい?」
もう外では陽の光が当たりを照らしているというのに、重たいベルベットのカーテンで閉ざされた室内は静まり返っている。棺の中は一層だった。
ただ分かることは今から自分が作り変えられるということだけで。
「――噛んでしまっていいな?」
鋭い牙がチラつくその口から紡がれた言葉に、ただこくりと頷くしかなかった。