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合鍵で彼女の家へ忍び込むとランプの灯りだけが眩しかった。ゆらゆらと炎の揺れるキャンドルはだいぶ前に灯されたようで虫の息だ。そのランプの横、机に伏して眠っている恋人の息もひっそりと静かな夜に溶けている。
どうやら疲れて眠ってしまったらしい。ノートに覗く文字列、高く積まれた資料、その内容は定かではないが、君が頑張っていることは伝わってくるとも。ずり落ちかけているカーディガンを着せ直して、柔らかい頬に指を滑らせた。
「〇ちゃん、お疲れ様。よくおやすみ」
「……ん……ぅ……?」
「いい。寝ていたまえ」
〇ちゃんを寝かせられるようにベッドを整える。それから……ああ、この子は魘されやすいから冷えピタを持ってこようか。勝手を知っているキッチンに足を踏み入れて冷蔵庫を開けると前の晩に入れておいたそれがひんやりと冷えていた。しかし一枚取ったその時、後ろからドサッと音がする。見ればふらふらと覚束無い足取りの彼女が棚にぶつかって、サランラップを落としてしまったところだった。
「こら、寝ていたまえと言っただろう」
「……ゆださん」
〇ちゃんは私の名を呼んで、キッチンテーブルや冷蔵庫にぶつかりながら近寄ってくるものだから思わず腕の中に閉じ込めた。微睡んだ瞳は夢でも見ているのかチカチカと星が瞬いている。
「ゆださん、おかえりなさい……」
そうしてふにゃっと笑う彼女は波の上にでも立っているかのように揺蕩っていて、思わず力が抜けてしまいそうになった。
改めて思う。私がどんな生き方をしてきたのか、どんな欲を腹に飼っているのか知っているはずなのに、私を選ぶこの子の夜のような愛を。恋人を持つなど考えられなかったが、こうしてただ一言を告げるためだけに起きてくる姿を見ると自分と彼女の持つこれが愛の形をしていて良かったとも思う。
ふにゃとろの恋人の小さな額に冷えピタを貼って、恋人繋ぎでベッドまで連れてゆく。その間もむにゃむにゃと言っていたが頭はほとんど寝ているようだ。シーツの上に寝かせると、黄色い猫の抱き枕を抱えてすぐにすやすやと寝息を立て始めた。
私とて三百を越える夜があればただ星を眺める一夜もある。ベッドの端に腰かけて手持ちの本を捲ると、時折寝返りを打つ音と共に夜が過ぎていった。
どうやら疲れて眠ってしまったらしい。ノートに覗く文字列、高く積まれた資料、その内容は定かではないが、君が頑張っていることは伝わってくるとも。ずり落ちかけているカーディガンを着せ直して、柔らかい頬に指を滑らせた。
「〇ちゃん、お疲れ様。よくおやすみ」
「……ん……ぅ……?」
「いい。寝ていたまえ」
〇ちゃんを寝かせられるようにベッドを整える。それから……ああ、この子は魘されやすいから冷えピタを持ってこようか。勝手を知っているキッチンに足を踏み入れて冷蔵庫を開けると前の晩に入れておいたそれがひんやりと冷えていた。しかし一枚取ったその時、後ろからドサッと音がする。見ればふらふらと覚束無い足取りの彼女が棚にぶつかって、サランラップを落としてしまったところだった。
「こら、寝ていたまえと言っただろう」
「……ゆださん」
〇ちゃんは私の名を呼んで、キッチンテーブルや冷蔵庫にぶつかりながら近寄ってくるものだから思わず腕の中に閉じ込めた。微睡んだ瞳は夢でも見ているのかチカチカと星が瞬いている。
「ゆださん、おかえりなさい……」
そうしてふにゃっと笑う彼女は波の上にでも立っているかのように揺蕩っていて、思わず力が抜けてしまいそうになった。
改めて思う。私がどんな生き方をしてきたのか、どんな欲を腹に飼っているのか知っているはずなのに、私を選ぶこの子の夜のような愛を。恋人を持つなど考えられなかったが、こうしてただ一言を告げるためだけに起きてくる姿を見ると自分と彼女の持つこれが愛の形をしていて良かったとも思う。
ふにゃとろの恋人の小さな額に冷えピタを貼って、恋人繋ぎでベッドまで連れてゆく。その間もむにゃむにゃと言っていたが頭はほとんど寝ているようだ。シーツの上に寝かせると、黄色い猫の抱き枕を抱えてすぐにすやすやと寝息を立て始めた。
私とて三百を越える夜があればただ星を眺める一夜もある。ベッドの端に腰かけて手持ちの本を捲ると、時折寝返りを打つ音と共に夜が過ぎていった。