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あたま、いたい。それが始まりだった気がする。くらりくらり、でもあれやらないと眠れない。ぐらりぐらり、……やることが終わったら薬買ってこないと。今日の夜は久々にドラルクさんとオンラインで遊ぶ予定だし……なにするんだっけ? あれ、からだおもくて。やばい、せめて連絡……。
美味しそうな匂いに目が覚めた。見慣れた天井、あたたかな寝床。どうやら途中で寝てしまったようだけれど……キッチンに誰かいる。勿論誰も呼んでいなければ合鍵も渡していない。……、! 強盗じゃ
「!! だめだ、まだ寝ていなさい!」
「へっ?」
上半身を起こした途端駆け寄ってきて、再びベッドに寝かせてくるその人物に驚いて言葉を失う。私を抑えているのは紛れもなくドラウスさんだった。彼は私が驚いているのに案の定だ、という顔をして、とりあえずだと言ってベリー水を注いできてくれた。
「熱がだいぶある。水分補給しておきなさい」
「あ、りがとうございます……? あの、ど、して、ドラウスさんが」
「どうしてって……あんなメッセージを送られたら放っておけるわけがないだろう」
メッセージ? なにか言ったっけ……とスマホを開く。トークルームを確認すると上から二番目にドラウスさんがいた。その上にはドラルクさんから心配のメッセージが届いていて……?? ドラルクさん……あ。
<かぜひきました>
<すみません>
意識が落ちる寸前、これをドラルクさんに送ったつもりでいた。けれど、どら……どら……と探していてドラウスさんに送ってしまっていたみたいだ。ドラウスさんとの画面を開くと自分の送信にかなり心配してくれていて、速攻飛んで来てくれたのが伝わってくる。
「間違えました、ドラルクさんと……」
「そうだろうとは思ったがね。〇君から連絡がくるのは珍しいからな」
「だってまあ、友達のお父さんですもん……」
ドラウスさんと知り合ったのはドラルクさんとロナルドさんが留守だった日の廊下だった。日を改めて来ようと振り返った矢先ウェ――ンと寂しそうに泣き始めるドラウスさんが居たんだっけ。それからご飯に連れていってもらって、連絡先を交換してドラルクさんの話をして……今まではあくまでも彼の父親という立ち位置だった。
「でも来てくれてありがたいです……ドラウスさんなら安心というか……」
「そ、そうか!」
「ちなみにこの匂いは……?」
「カブのお粥と大根のそぼろ煮だ」
ママ?
と言いかけたのを堪えて黙る。ちなみに冷蔵庫には食べ物という食べ物がなくて味噌とオートミールが入っているくらいだったはずなので、きっと色々買ってくれたんだと思う。貧弱すぎて買い物しんどいし……。後日お礼しなきゃな、何が嬉しいかな。
「ぁの……スナバとかよく、行きますか……?」
「スナバ!?」
「あっ、なんでも」
スナバカードとかどうだろう、と思って声をかけるとビャッと青ざめた返事か帰ってきたのでなんとなく察する。サ○ウェイとか連れてったらパンとお肉なしでサラダボールとか持ち帰ってきそう。再びキッチンへ戻るドラウスさんを横目に考えてみるも、何をお礼したらいいのかくらくらしてなかなか出てこない。調べる……? とパソコンを確認して、やりかけのタスクが目についた。そうだった、やらないと……今のうちにちょっとだけでも……。
「〇君、もう食べられるが少しは……」
「……だめだ!!」
「えっ、わっ」
菜箸片手にキッチンからやって来たドラウスさんに見られた時、悪戯が見つかったネコのようなきまり悪さを覚えた。彼はパソコンをすごい勢いで閉じるとあらゆるものを私から遠ざけていく。
「ちゃんと休む気はあるのかね? いいかい〇君、君は働きすぎだ。そこのメモもポストイットも誰かのためだの予備だの……人の仕事までフォローして報われたか? 君自身はもうこんなにボロボロなのに」
ドラウスさんの大きくて角張った手に自分の手を掬われる。彼はゆっくりとやさしく撫でながら、私の荒れた指先を痛ましそうに見ていた。
「……でも……」
「パパの言うことが聞けないと?」
「……」
一人称がパパになってて可愛い……。私が邪なことを考えているとはつゆ知らず、黙り込んだ私にドラウスさんはため息を吐いて手を包み込んだ。それからベッドに戻して、頭を何度か撫でていく。
「食事を持ってこよう。食べられるだけでいいから食べなさい」
ドラウスさんの料理はどれも艶やかで美味しそうだった。くつくつ、とろりと仕上げたお粥はブイヨンの旨味がじんわりと感じられて、丁寧に煮込まれたカブは箸で簡単に分けることができる。大根も同様で、半透明に火を通されていてギュッと味の染みたそぼろと食べると泣きそうなほど美味しい。吸血鬼の料理スキルってすごいなあ……。
「口に合うかね?」
「おいしいです……すごく」
「……君は本当に心配になる。あの冷蔵庫といい、普段まともな食事をしていないだろう。というか米がないとは思わなかったぞ米が」
お米なんて重たいから買って帰ってこれない。そう言うとドラウスさんはまた頭を抱えていた。でもそれを抜きにしてもとにかく彼の料理は美味しくて、普段そこそこの食事をしていても唸ってしまうと思う。料理の一つ一つに気遣いが感じられるというか……こんな風に人に看護してもらうこと自体、ほぼ初めての経験だった。純粋に私を叱って面倒を見てくれる人。ただそういう人がありがたくて、食べながらぽろぽろと涙をこぼしてもドラウスさんは怒ったりしなかった。
「……君」
ドラウスさんの低くて落ち着く声が耳に届く。まるで諭すようなその声は、どんなに悩みがあってもそれだけで安心してしまうような深い声だった。
「無理をするしかない状況だったんだろうが……苦しい時は連絡しなさい。吸血鬼には時間があるのだから」
この助言に頷くのは簡単だ。だけど私の臆病さでは結局連絡なんて出来やしないのだろうという考えが頭をもたげて、言い淀んでしまった。
「ふむ、難しいと思うかね? だが今日君はできたんだ。私以外でも、それこそドラルクにでもいいし……、……いいが……私を呼んでくれると嬉しいけど……」
「……どうして私を心配してくれるんですか? 血族でもなんでもないのに」
あ、嫌なこと言った。ドラウスさんはやさしい人だから、ぶっ倒れていたらそりゃ助けるだろう。だけど、それだけじゃなくて……それ以上の言葉を無意識に求める自分に気づく。優しさにつけ込んじゃだめだ、忘れてくださいと言おうとした時、視界が暗くなった。
次いで若干の息苦しさを覚える。……?
「……あの」
「すまない。もう少し」
抱きしめられた苦しさも嫌ではなかった。ただなんとなく、無償の愛というものが本当に存在するのならこういうものなのかもしれないと感じた。もしくは慈愛、と呼ぶべきもの。……誰かに心配されるなんて久しぶりだと思っていたけれど、もしかしたら私が気づいていなかっただけで……恐る恐るドラウスさんの背中に手を回せば抱擁はより強くなった。
「……すみません……」
「なぜ君が謝る? 私こそ……すまない、つい。親心というか……や、決して疾しいものではなく」
「分かってます。……分かってます……」
こんなにも大きい愛で返されたら、連絡できないとか、助けを求められないとか、どれも言えなくなってしまう。涙を隠すように頭を押しつけると、分かったかね、と優しく頭を撫でられた。
美味しそうな匂いに目が覚めた。見慣れた天井、あたたかな寝床。どうやら途中で寝てしまったようだけれど……キッチンに誰かいる。勿論誰も呼んでいなければ合鍵も渡していない。……、! 強盗じゃ
「!! だめだ、まだ寝ていなさい!」
「へっ?」
上半身を起こした途端駆け寄ってきて、再びベッドに寝かせてくるその人物に驚いて言葉を失う。私を抑えているのは紛れもなくドラウスさんだった。彼は私が驚いているのに案の定だ、という顔をして、とりあえずだと言ってベリー水を注いできてくれた。
「熱がだいぶある。水分補給しておきなさい」
「あ、りがとうございます……? あの、ど、して、ドラウスさんが」
「どうしてって……あんなメッセージを送られたら放っておけるわけがないだろう」
メッセージ? なにか言ったっけ……とスマホを開く。トークルームを確認すると上から二番目にドラウスさんがいた。その上にはドラルクさんから心配のメッセージが届いていて……?? ドラルクさん……あ。
<かぜひきました>
<すみません>
意識が落ちる寸前、これをドラルクさんに送ったつもりでいた。けれど、どら……どら……と探していてドラウスさんに送ってしまっていたみたいだ。ドラウスさんとの画面を開くと自分の送信にかなり心配してくれていて、速攻飛んで来てくれたのが伝わってくる。
「間違えました、ドラルクさんと……」
「そうだろうとは思ったがね。〇君から連絡がくるのは珍しいからな」
「だってまあ、友達のお父さんですもん……」
ドラウスさんと知り合ったのはドラルクさんとロナルドさんが留守だった日の廊下だった。日を改めて来ようと振り返った矢先ウェ――ンと寂しそうに泣き始めるドラウスさんが居たんだっけ。それからご飯に連れていってもらって、連絡先を交換してドラルクさんの話をして……今まではあくまでも彼の父親という立ち位置だった。
「でも来てくれてありがたいです……ドラウスさんなら安心というか……」
「そ、そうか!」
「ちなみにこの匂いは……?」
「カブのお粥と大根のそぼろ煮だ」
ママ?
と言いかけたのを堪えて黙る。ちなみに冷蔵庫には食べ物という食べ物がなくて味噌とオートミールが入っているくらいだったはずなので、きっと色々買ってくれたんだと思う。貧弱すぎて買い物しんどいし……。後日お礼しなきゃな、何が嬉しいかな。
「ぁの……スナバとかよく、行きますか……?」
「スナバ!?」
「あっ、なんでも」
スナバカードとかどうだろう、と思って声をかけるとビャッと青ざめた返事か帰ってきたのでなんとなく察する。サ○ウェイとか連れてったらパンとお肉なしでサラダボールとか持ち帰ってきそう。再びキッチンへ戻るドラウスさんを横目に考えてみるも、何をお礼したらいいのかくらくらしてなかなか出てこない。調べる……? とパソコンを確認して、やりかけのタスクが目についた。そうだった、やらないと……今のうちにちょっとだけでも……。
「〇君、もう食べられるが少しは……」
「……だめだ!!」
「えっ、わっ」
菜箸片手にキッチンからやって来たドラウスさんに見られた時、悪戯が見つかったネコのようなきまり悪さを覚えた。彼はパソコンをすごい勢いで閉じるとあらゆるものを私から遠ざけていく。
「ちゃんと休む気はあるのかね? いいかい〇君、君は働きすぎだ。そこのメモもポストイットも誰かのためだの予備だの……人の仕事までフォローして報われたか? 君自身はもうこんなにボロボロなのに」
ドラウスさんの大きくて角張った手に自分の手を掬われる。彼はゆっくりとやさしく撫でながら、私の荒れた指先を痛ましそうに見ていた。
「……でも……」
「パパの言うことが聞けないと?」
「……」
一人称がパパになってて可愛い……。私が邪なことを考えているとはつゆ知らず、黙り込んだ私にドラウスさんはため息を吐いて手を包み込んだ。それからベッドに戻して、頭を何度か撫でていく。
「食事を持ってこよう。食べられるだけでいいから食べなさい」
ドラウスさんの料理はどれも艶やかで美味しそうだった。くつくつ、とろりと仕上げたお粥はブイヨンの旨味がじんわりと感じられて、丁寧に煮込まれたカブは箸で簡単に分けることができる。大根も同様で、半透明に火を通されていてギュッと味の染みたそぼろと食べると泣きそうなほど美味しい。吸血鬼の料理スキルってすごいなあ……。
「口に合うかね?」
「おいしいです……すごく」
「……君は本当に心配になる。あの冷蔵庫といい、普段まともな食事をしていないだろう。というか米がないとは思わなかったぞ米が」
お米なんて重たいから買って帰ってこれない。そう言うとドラウスさんはまた頭を抱えていた。でもそれを抜きにしてもとにかく彼の料理は美味しくて、普段そこそこの食事をしていても唸ってしまうと思う。料理の一つ一つに気遣いが感じられるというか……こんな風に人に看護してもらうこと自体、ほぼ初めての経験だった。純粋に私を叱って面倒を見てくれる人。ただそういう人がありがたくて、食べながらぽろぽろと涙をこぼしてもドラウスさんは怒ったりしなかった。
「……君」
ドラウスさんの低くて落ち着く声が耳に届く。まるで諭すようなその声は、どんなに悩みがあってもそれだけで安心してしまうような深い声だった。
「無理をするしかない状況だったんだろうが……苦しい時は連絡しなさい。吸血鬼には時間があるのだから」
この助言に頷くのは簡単だ。だけど私の臆病さでは結局連絡なんて出来やしないのだろうという考えが頭をもたげて、言い淀んでしまった。
「ふむ、難しいと思うかね? だが今日君はできたんだ。私以外でも、それこそドラルクにでもいいし……、……いいが……私を呼んでくれると嬉しいけど……」
「……どうして私を心配してくれるんですか? 血族でもなんでもないのに」
あ、嫌なこと言った。ドラウスさんはやさしい人だから、ぶっ倒れていたらそりゃ助けるだろう。だけど、それだけじゃなくて……それ以上の言葉を無意識に求める自分に気づく。優しさにつけ込んじゃだめだ、忘れてくださいと言おうとした時、視界が暗くなった。
次いで若干の息苦しさを覚える。……?
「……あの」
「すまない。もう少し」
抱きしめられた苦しさも嫌ではなかった。ただなんとなく、無償の愛というものが本当に存在するのならこういうものなのかもしれないと感じた。もしくは慈愛、と呼ぶべきもの。……誰かに心配されるなんて久しぶりだと思っていたけれど、もしかしたら私が気づいていなかっただけで……恐る恐るドラウスさんの背中に手を回せば抱擁はより強くなった。
「……すみません……」
「なぜ君が謝る? 私こそ……すまない、つい。親心というか……や、決して疾しいものではなく」
「分かってます。……分かってます……」
こんなにも大きい愛で返されたら、連絡できないとか、助けを求められないとか、どれも言えなくなってしまう。涙を隠すように頭を押しつけると、分かったかね、と優しく頭を撫でられた。