闇鍋
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※勇利くんの妹(1/1)
人間は眠らなければ生きていけない。これはどうしようもないことだ。
それでも私は眠りたくない。
最近はずぅっと悪い夢ばかりみていて、虫に追われたり、刺されたり、はたまた大きな赤ん坊に追われたりと、そんなものばかり。それも一晩でいくつも見るので、眠るのが怖くなってしまった。今日も枕を抱いたまま、睡魔に抗って起きている。けれど元々睡眠不足もあってか限界で……今にも瞼が落ちそう。
そのとき玄関から遠慮がちな音がして、マフラーをぐるぐる巻きにしたヴィクトルが現れた。自分の服装を見下ろして少し後悔する。夜中のお食事処には誰も来ないだろうと高を括って、ふわふわしたプードルのパジャマを着ていたからだ。いつでもスタイリッシュな彼と比べると恥ずかしい。
ヴィクトルはすぐ私に気がついて、ふらふらとこちらに歩み寄ってきた。外でお酒を飲んできたらしく、赤らんだ頬が緩んでいる。
ここで一つ補足しておくと、私は兄のような英語力を持っていない。文を和訳するのは好きだけれど、話す力も聞く力も弱くて簡単なことしか話せない。
それでも彼は何故か私に話しかけるのをやめなかった。
「どうしたの? ここは寒くない?」
はー、とヴィクトルさんが吐いた息が白く昇る。まだ春は遠く、なにもつけていない部屋はとても寒かった。彼はマフラーをこれまたぐるぐる外して、綺麗に整えながらこちらを見た。
「えっと、悪い夢を見て……眠れないんです……」
胸に抱えた枕に顎を埋める。ちらと見上げたヴィクトルさんは鼻の頭を赤くしていた。そしてさっき巻いていたマフラーを私の首に巻きながら、悲しそうに眉を下げて私を見た。
「oh……」
彼が悲しい顔をすると私も悲しくなってくる。
一応拙い英語は伝わっているらしい。けれど私はどきどきして、マフラーを巻かれた首元にばかり意識が行ってしまう。当然だ、こんなにかっこいい伝説にマフラーを巻いてもらってしまったのだから。
その隙に彼は長い腕を伸ばして私の背を撫でると、流暢な発音でマッカチンを呼んだ。同じく雰囲気にあてられてクーン……と鳴くマッカチンを抱き上げると、マッカチンを腹話術の人形のようにして、「眠りたくないの?」と聞かれる。
「はい……怖くて」
「そうか……Let's sleep together!」
「れっとぅりーとぅげ……なんて??」
とても早口でなにか言われて、私は混乱した。れっつ、りーぷ、とぅげざー……Let's sleep together!?
「え、え」
返事も待たず、ヴィクトルはマッカチンをおろすと私の背中に再び手を伸ばして抱き上げた。
「ひえわっ」
お姫さま抱っこを人生ではじめてされた。
なんとかヴィクトルさんのお腹に重心を置いて、ぐっと腹筋に力を入れる。あ、マッカチンが一緒についてきてる。彼は私の頑張りなど意にも介さずに(そういうところが彼らしい)「〇は軽すぎるんじゃないかなぁ~」なんて陽気に言いながら悠々と歩いて、渡り廊下を通り抜けて階段を登った。もちろん私の部屋は二階じゃない。当たり前というかなんというかヴィクトルさんの部屋にたどり着き、ヴィクトルさんのベッドに降ろされる。扉は長い足で閉められた。
ずっと、Let's sleep together……一緒に寝よう、という言葉が頭をぐるぐるぐるぐる回っている。ロシアの客人からのスキンシップの激しさに心の準備もできなかった。
恐る恐る彼を見上げた。
「ヴィクトルさん……?」
途端、ぎゅっと抱きしめられて、そのまま訳もわからず眠る態勢にさせられる。
部屋の電気を片手で消した彼は、マッカチンをベッドの上に呼ぶと寝る体勢に入ってしまった。これでヴィクトルさんとマッカチンに挟まれた格好になる。背中がものすごくあたたかい。
さらに彼は背中をとんとんと叩き、あやすようにして優しいうたを唄った。
「あの……」
「sleep……sleep……」
「……スリープ」
「yes……sleep,sleep……」
……ヴィクトルさんの首筋に光が差し込んで、銀髪がさらさらと重力に従って、部屋は月のように美しく、心地の良い澄んだ空気に満たされていた。
ぼんやり、ぼんやり、ねむくなる。
あんなにこわくて震えていたのに、背中に回る腕の逞しさに安心して、ここに居れば大丈夫な気がしてくる。
ここに、この人の腕の中にいれば。
「……日本では、ねんねこ、ねんねこ、なんですよ……」
それだけ言って眠ったので、どんな眼差しで彼が私を見ていたのかを、私は知らずに朝を迎えた。
人間は眠らなければ生きていけない。これはどうしようもないことだ。
それでも私は眠りたくない。
最近はずぅっと悪い夢ばかりみていて、虫に追われたり、刺されたり、はたまた大きな赤ん坊に追われたりと、そんなものばかり。それも一晩でいくつも見るので、眠るのが怖くなってしまった。今日も枕を抱いたまま、睡魔に抗って起きている。けれど元々睡眠不足もあってか限界で……今にも瞼が落ちそう。
そのとき玄関から遠慮がちな音がして、マフラーをぐるぐる巻きにしたヴィクトルが現れた。自分の服装を見下ろして少し後悔する。夜中のお食事処には誰も来ないだろうと高を括って、ふわふわしたプードルのパジャマを着ていたからだ。いつでもスタイリッシュな彼と比べると恥ずかしい。
ヴィクトルはすぐ私に気がついて、ふらふらとこちらに歩み寄ってきた。外でお酒を飲んできたらしく、赤らんだ頬が緩んでいる。
ここで一つ補足しておくと、私は兄のような英語力を持っていない。文を和訳するのは好きだけれど、話す力も聞く力も弱くて簡単なことしか話せない。
それでも彼は何故か私に話しかけるのをやめなかった。
「どうしたの? ここは寒くない?」
はー、とヴィクトルさんが吐いた息が白く昇る。まだ春は遠く、なにもつけていない部屋はとても寒かった。彼はマフラーをこれまたぐるぐる外して、綺麗に整えながらこちらを見た。
「えっと、悪い夢を見て……眠れないんです……」
胸に抱えた枕に顎を埋める。ちらと見上げたヴィクトルさんは鼻の頭を赤くしていた。そしてさっき巻いていたマフラーを私の首に巻きながら、悲しそうに眉を下げて私を見た。
「oh……」
彼が悲しい顔をすると私も悲しくなってくる。
一応拙い英語は伝わっているらしい。けれど私はどきどきして、マフラーを巻かれた首元にばかり意識が行ってしまう。当然だ、こんなにかっこいい伝説にマフラーを巻いてもらってしまったのだから。
その隙に彼は長い腕を伸ばして私の背を撫でると、流暢な発音でマッカチンを呼んだ。同じく雰囲気にあてられてクーン……と鳴くマッカチンを抱き上げると、マッカチンを腹話術の人形のようにして、「眠りたくないの?」と聞かれる。
「はい……怖くて」
「そうか……Let's sleep together!」
「れっとぅりーとぅげ……なんて??」
とても早口でなにか言われて、私は混乱した。れっつ、りーぷ、とぅげざー……Let's sleep together!?
「え、え」
返事も待たず、ヴィクトルはマッカチンをおろすと私の背中に再び手を伸ばして抱き上げた。
「ひえわっ」
お姫さま抱っこを人生ではじめてされた。
なんとかヴィクトルさんのお腹に重心を置いて、ぐっと腹筋に力を入れる。あ、マッカチンが一緒についてきてる。彼は私の頑張りなど意にも介さずに(そういうところが彼らしい)「〇は軽すぎるんじゃないかなぁ~」なんて陽気に言いながら悠々と歩いて、渡り廊下を通り抜けて階段を登った。もちろん私の部屋は二階じゃない。当たり前というかなんというかヴィクトルさんの部屋にたどり着き、ヴィクトルさんのベッドに降ろされる。扉は長い足で閉められた。
ずっと、Let's sleep together……一緒に寝よう、という言葉が頭をぐるぐるぐるぐる回っている。ロシアの客人からのスキンシップの激しさに心の準備もできなかった。
恐る恐る彼を見上げた。
「ヴィクトルさん……?」
途端、ぎゅっと抱きしめられて、そのまま訳もわからず眠る態勢にさせられる。
部屋の電気を片手で消した彼は、マッカチンをベッドの上に呼ぶと寝る体勢に入ってしまった。これでヴィクトルさんとマッカチンに挟まれた格好になる。背中がものすごくあたたかい。
さらに彼は背中をとんとんと叩き、あやすようにして優しいうたを唄った。
「あの……」
「sleep……sleep……」
「……スリープ」
「yes……sleep,sleep……」
……ヴィクトルさんの首筋に光が差し込んで、銀髪がさらさらと重力に従って、部屋は月のように美しく、心地の良い澄んだ空気に満たされていた。
ぼんやり、ぼんやり、ねむくなる。
あんなにこわくて震えていたのに、背中に回る腕の逞しさに安心して、ここに居れば大丈夫な気がしてくる。
ここに、この人の腕の中にいれば。
「……日本では、ねんねこ、ねんねこ、なんですよ……」
それだけ言って眠ったので、どんな眼差しで彼が私を見ていたのかを、私は知らずに朝を迎えた。