夜行梟
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村外れの森には言い伝えがあった。古い神さまが住んでいて、クチナシの木の下で神隠しに会うんだって。
「どうしよう……ッ」
今となってはこの魔物たちの巣に近寄らないための作り話だったんだってよく分かる。周りの草藪からは低い唸り声がいくつも聞こえてきていて、とてもじゃないけれど無事に帰ることは望めなそうだった。
せめて刺激を与えないように立ち尽くす。なにか知らない鳥が一斉に羽ばたいたのと、彼らが突進を始めたのは同じ時だった。魔物たちの鋭い爪に抉られる土の音がする。鉄っぽい嫌な臭いがする。楽に死にたかったと震える歯を鳴らして、襲ってくる痛みに耐えるため目を瞑った。
「……、っ!?」
やけに人らしい重たさで膝裏を的確に蹴られた。
息つく間もなく体勢を崩してぐらりと傾く身体を誰かの腕が抱き止める。その暖かさを確かめようと思うけれど視界は目まぐるしく変わってなにも分からず、待てども痛みも襲ってこず、遠退いてゆく魔物たちの鳴き声にようやく焦点を合わせれば__空に居た。
眼下に見下ろすのは確かに森だ。空の先はフラミンゴを思わせる淡い朱に染まり始め、未だ夜を残した西の空には星がチカチカと瞬いている。つまり地面まで何メートルもあるのだと理解した瞬間にさあっと血の気が引いた。
「ひっ……! あ、あなた、だれ」
「……」
私を抱えている誰かは人の形をしていた。深く被ったフードつきのマントから冷たい氷色の仮面が覗いている。マントにはたっぷりの羽根があしらわれてはいるものの実際に羽が生えている訳ではなさそうだから、どうやって飛んでいるのかは定かではない。
とにかく、今は落とされないことを願って大人しくしているしかない。腹に回された腕に掴まってじっと考えないように耐える。やがて高度は下がっていき自然と足が地面についた。
ついたのは柔らかな草の生い茂る小さな花畑だった。それでも空を飛ぶというのは予想より怖かったらしく自分の足は震えてうまく立てなかった。へたりと座り込んだまま誰かを見上げると、彼……は黙ったままなにか考えている。
「あ、あの」
「……」
「たすけてくれたの……?」
こく、と頷かれた。それ以上なにも返ってこず、けれど置いていかれることもなかった。ただ彼は足の震えが収まるまで側にいてくれた。
これが昨日の出来事だ。
「どうしよう……ッ」
今となってはこの魔物たちの巣に近寄らないための作り話だったんだってよく分かる。周りの草藪からは低い唸り声がいくつも聞こえてきていて、とてもじゃないけれど無事に帰ることは望めなそうだった。
せめて刺激を与えないように立ち尽くす。なにか知らない鳥が一斉に羽ばたいたのと、彼らが突進を始めたのは同じ時だった。魔物たちの鋭い爪に抉られる土の音がする。鉄っぽい嫌な臭いがする。楽に死にたかったと震える歯を鳴らして、襲ってくる痛みに耐えるため目を瞑った。
「……、っ!?」
やけに人らしい重たさで膝裏を的確に蹴られた。
息つく間もなく体勢を崩してぐらりと傾く身体を誰かの腕が抱き止める。その暖かさを確かめようと思うけれど視界は目まぐるしく変わってなにも分からず、待てども痛みも襲ってこず、遠退いてゆく魔物たちの鳴き声にようやく焦点を合わせれば__空に居た。
眼下に見下ろすのは確かに森だ。空の先はフラミンゴを思わせる淡い朱に染まり始め、未だ夜を残した西の空には星がチカチカと瞬いている。つまり地面まで何メートルもあるのだと理解した瞬間にさあっと血の気が引いた。
「ひっ……! あ、あなた、だれ」
「……」
私を抱えている誰かは人の形をしていた。深く被ったフードつきのマントから冷たい氷色の仮面が覗いている。マントにはたっぷりの羽根があしらわれてはいるものの実際に羽が生えている訳ではなさそうだから、どうやって飛んでいるのかは定かではない。
とにかく、今は落とされないことを願って大人しくしているしかない。腹に回された腕に掴まってじっと考えないように耐える。やがて高度は下がっていき自然と足が地面についた。
ついたのは柔らかな草の生い茂る小さな花畑だった。それでも空を飛ぶというのは予想より怖かったらしく自分の足は震えてうまく立てなかった。へたりと座り込んだまま誰かを見上げると、彼……は黙ったままなにか考えている。
「あ、あの」
「……」
「たすけてくれたの……?」
こく、と頷かれた。それ以上なにも返ってこず、けれど置いていかれることもなかった。ただ彼は足の震えが収まるまで側にいてくれた。
これが昨日の出来事だ。