荘園
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逆ハー 占がかわいめ
主が白無常大好き
_____
「ひゃ!?」
「ん」
「わっ」
「はっ?」
「おや……」
次のゲームへの待機中、私たちは謎の力でぽーんっとぬいぐるみのように別の部屋に投げ込まれてしまった。イライさんの上に重なってぽっぽちゃんと見つめあう。わあかわいい、と思ったら、いち早く起き上がったナワーブさんが私たち三人を誰かから庇うように手を広げた。
「どういうことだ?
お前なにか知ってんのか」
喧嘩腰に驚いて彼の視線の先を追う。長い
三つ編みを揺らしてゆっくりと立ち上がるそのシルエットは__
「必安さん!!」
「前に出るな!」
「ごっ、めんなさい……」
「まだ状況が分からない。俺の後ろにいろ」
そう言ってナワーブさんは私を肩の後ろに隠した。同意するようにノートンさんも隣に立ってハンターを見る。その手には磁石が握られている。
……怒られてしまった。だけど、妙にかっこよかった。俺の後ろにいろ、なんてナワーブさんに言われたら大人しくなるしかないもの。一方ハンターの謝必安さんの方を見れば、彼も彼で不思議そうにしていた。
「はあ……ゲームが始まったわけではなさそうですね。状況を把握しましょうか。傷つけませんから安心してください」
「! ナワーブさん」
「お前はもう少しその犬のしっぽ隠せ」
ナワーブさんからピリピリした気が引いてゆく。同時にその場から駆け出すと私は必安さんの元へと走り寄った。痩けた頬に薄い笑み、スラリと伸びた足、骨ばかりの手。まともなゲームなら逃げ回るしかないそれが私の方へ伸びてきて、ゆるく諫めるように顎を持ち上げる。
「真っ直ぐに寄ってきて、あなたは本当に仕方のない子ですね……ゲームが始まればまた私か無咎に殴られるというのに」
頷くように傘が揺れた。何度も殴られて突かれたのでよく分かっているけれど、今赦されるのが嬉しいのだ。必安さん自身がなんと言おうと彼は美しくて格好いい。大好き。上品だとか物腰が柔らかいだとか好きな理由はいっぱいあって、でも同じ特徴を備えた人がいてもその人じゃ嫌で、やっぱり必安さんの存在が好きだ。貢ぎたい……。
「今日はいつもの服なんですね……やっぱりその服が一番好きです」
「そうですか、サバイバーがなにか見つけたようですよ」
「へ? ほんと、ですね……」
必安さんの横で走り気味に歩き出そうと踏み出すと、隣の長い足がゆっくりとしていることに気がつく。あれ、いつもならそっけないのに歩調を合わせてくれている。
壁にある張り紙を見に行くと三人がこちらに気がついて、ハンターに苦笑しながら私を手招いた。
「おいで、読んでごらん」
「はい、えーっと……」
「"少女漫画になる部屋?"」
……?
よく、分からない。少女漫画? になる?
ぽかん、とした私たち二人に「だよな」と困った顔を見せたのはナワーブさんだ。
「要するにこの部屋では色んなものが少女漫画化してしまう、らしいんだが……」
「そう言ったって……。……あー!」
「ん?」
「……あ! ナワーブ」
「ああ」
俺の後ろにいろ、とか、相手のために怒ってその後きゅんとさせる流れとか、あれは少女漫画化していたんだ。イライさんが分かった、とパッと向日葵が咲くように嬉しそうに笑う。……いや、向日葵が、実際に見えた。イライさんの背後に。同じく見えたノートンさんがぎょっとしてイライさんから距離をとる。
「? どうしたんだい?」
「向日葵出てるよ」
「え"っ!? ひまわり!?」
「少女漫画だ……」
トーンだ……。イライさんは焦って振り返り向日葵を消そうと空気をかき混ぜた。ふわっと消えたそれは間違いなくこの部屋の特殊効果だ。
少女漫画と言うけれど、この部屋に女子は私だけ。一体どうなってしまうんだろう……どうしたら終わりがきて、出られるんだろう。
つい期待を込めて必安さんを見てしまう。彼のアメジストのような瞳が獲物を狙うみたいにこちらを見下ろした。
「っ……!」
「ふふ……それでは出口を探しましょうか。サバイバーとあまり親しくする気はありませんが、力が必要であれば仰ってください」
「ああ。行くぞ〇」
「へっ、わ!」
今度は急に引かれてナワーブさんの胸に飛び込んだ。鍛えられた胸板にドクリと心臓が跳ねる。フードの下に見えた彼の顔は優しい目をしていて、日頃助けてくれている彼から自分のものだというように腕を回されれば受け入れてしまう。
「あの……えへ……」
「ねえ、僕の方は見てくれないの?」
「!? ノートンさんはっ、まって!」
赤い光が胸に光ったかと思えば逆方向にぐんっと引かれてノートンさんへ飛び込んだ。心の準備もなく引き寄せられると心臓が止まりそうになる。その上身長が高い彼に抱きしめられると食べられてしまうような気がしてうまく喋れなくなった。
横目でイライさんを見ると口を手を当ててこちらを見ている。ああ、イライさんはヒロインなんだ……。
そんなイライさんを可愛らしく思ったとき、自分の中でなにかのボタンが入った感覚がした。なんか……なんか、イライさんがすごく可愛い。肩にマスコットも乗っているし、動物と和やかに話すなんてもうプリンセスじゃない? かわいい、かわいい……っ!
「イライさ」
「よそ見しないで」
少女漫画だ……!
腰を掴まれて地面から足が離れた。途端またボタンが切り替わるような感覚があって、ノートンさんのものにされる。所有の証とでもいうように私の首筋に唇を寄せた彼は強く吸いついて華を咲かせた。
「僕の、忘れないでね」
「ぁ……っ!? それは少女漫画っていうか」
「オイ人のモン勝手に手出してなんのつもりだ? 早く降ろせ」
「そんな……〇があんな目に……」
イライさんが可愛い……。
「別にナワーブのものじゃないよね。ほら、出口探すんでしょ?」
「ぁあ? 命預かってんだから俺のだろ」
「あわ……ナワーブとノートンくんが喧嘩に……っ! 私が止めないと」
イライさんかっわいい……!
きっと部屋の効果なのだろう、今日のイライさんは白くてキラキラした月相を着ているせいもあってか今すぐ褒めたくなった。ゲーム中は血を吐いて庇ってくれるようなところもあるんだけれど……もしこの部屋に二人きりになったとしてもヒロイン枠はイライさんな気がするくらい、今日の彼はかわいい。
だけどイライさんはそこそこ背の高い立派な成人男性でもあった。どっちのものでもないよ、と言いながらぽっぽちゃんに磁石を退けさせて、私をノートンさんから取り上げると床に下ろしてくれた。ノートンさんやナワーブさんと一緒だと揉めて出口を探せそうにないし、チクチクと刺さる視線がすごく痛いけれどイライさんと行動しようかな……。
「で、出口探しましょ!」
「ああ、もちろん。その……花が舞うのはさすがに恥ずかしいからね……」
照れて頬をかくイライさんすっごくかわいい。後ろをチラリと見ればナワーブさんは呆れたように、ノートンさんはジトッとした目でこちらを見て出口探しを始めていた。
見たところ四方の壁は白く小さなホール程度のシンプルな造りだ。天井は高く切れ目が一つ、床には真っ直ぐな線が一つ引かれている。ぐるりと壁に沿って螺旋状に階段があり、その先の小さなバルコニーで必安さんは休んでいた。
「イライさん、上からの方が調べやすいんじゃないですか?」
「いや、もうなにもないと思うけど……」
「行ってみなきゃわかんないかも」
「……そんなに彼が好き?」
あれ、可愛かったイライさんの頬が白くなっている。好きだけど、と返したらいけない雰囲気に怯えて後退ると彼は一歩近づいてきて、私の耳に唇を寄せて囁いた。
「私だけと、一緒に居てほしいな……」
「~っ!? は、え、いらいさん」
「ごめんね、〇が耳弱いって知ってるのに。今日はずるいことしたい気分なんだ」
だめかい? と聞かれてしまえば階段を登れなくなってしまう。そっと手すりを離した私に悪戯っぽく笑って、イライさんはもう一度張り紙のところまで戻っていった。
「この裏とかどうだろう。なにか……おや、これは」
「なにか書いて……え!? え、えっ」
「……仕方ない、ね?」
「仕方なくっ、ナワーブさん!! ノートンさん!! 必安さーん!!!!!」
さらりと書かれた文字列を見た瞬間襲われた危機感に皆の名前を呼びながら走った。だって……だって、キスをしないと出られないなんて。
キスって、その、近づいて唇を……? むり、無理! そんなの頭がショートする。
「どうしました? ……おや」
「必安さ、あの、えっと」
「もうすぐ出られそうです。ほら〇、迷惑かけたらいけないだろう?」
恥ずかしくて言葉が出せないのをいいことにイライさんに捕まえられてしまう。やっぱりこの人ヒロインなんかじゃない、男の人だ……!
壁に押しつけて背中に隠すように迫られて、動いた喉仏とか大きい手とかしっかりした太ももに目がいく。ぐるぐる回る。
「たす、たすけて……っ」
「させません」
「!」
落ちた紙を読んだ必安さんがイライさんを引き剥がした。
「必安さん……っ」
「……出たいのでしょう?」
「え?」
妖しく笑みを浮かべた必安さんが吐息をこぼして囁いた。あまりの色気に頭がぼうっとする。必安さんにされるなら__いやいや、無咎さんの体でもあるのだから無咎さんにも聞かなきゃ__
「ちょっと、魂吸わないでくれませんかね?」
「っ、く」
今度はノートンさんだ。磁石で弾かれた必安さんが気になるけれどぐっと肩を掴まれてしまってはなにも見えない。
「おっと……ごめん。君の引力に逆らえなかったみたい」
「少女漫画だ……じゃなくて、ノートンさん自覚的にやってません?」
でもこの人がいるなら彼もいるはず。
「悪ィ、待たせた」
やっぱりいつも助けに来てくれるのはこの人。籠手で飛んできて私ごと押し倒すようにノートンさんの腕から抜け、なんとか助かった。
まずは皆に読んでもらってから相談するべきだ。キスってそもそも唇とか書いていないのだし……。いや、キスマークじゃダメだったんだから口かな……。
「……」
「……」
「あの、どうしました?」
「ちょっと、口開けろ」
「へ!? や……まって……」
思えば押し倒されてるって一番危ない状況だ。ドクドク鳴る心臓もぴったり重ねあって、彼の体の凹凸も全部意識してしまう。
だけど彼の背の先には怖いくらい美しく微笑んだ必安さんが居て。
「サバイバーがハンターに勝てるとでも?」
「チッ」
風船にぷかりと吊るされてしまえばもう収集がつかなかった。どうしようと困っていると__ふよふよした丸いものが飛んでくるのが見える。
__これに、しよう。
ちゅっ。
「「「「!?」」」」
試合にも連れていける小さな無咎さん。傘でくるくる回っていたので捕まえて頬にキスすると、じゃれて可愛いキスを返された。
「かわい……」
「う、無咎……っ!?」
がこんっ、と床が割れて落ちてゆく。ついたのは荘園の玄関ホールで皆無事なようだった。
「ふー……」
「お前ら無事か!?」
「ん?」
ぽつねんとしていた私たち四人の元に駆け寄ってきたのはウィリアムさんだった。聞けば待機中に消えるわ試合は原因不明の中止になるわですごく心配してくれていたらしい。
「ごめんなさい、心配かけて……」
「いや、無事ならそれでいいんだ。他も怪我ないな? よし、筋トレでもしてくるわ!」
「……一番かっこいいね」
主が白無常大好き
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「ひゃ!?」
「ん」
「わっ」
「はっ?」
「おや……」
次のゲームへの待機中、私たちは謎の力でぽーんっとぬいぐるみのように別の部屋に投げ込まれてしまった。イライさんの上に重なってぽっぽちゃんと見つめあう。わあかわいい、と思ったら、いち早く起き上がったナワーブさんが私たち三人を誰かから庇うように手を広げた。
「どういうことだ?
お前なにか知ってんのか」
喧嘩腰に驚いて彼の視線の先を追う。長い
三つ編みを揺らしてゆっくりと立ち上がるそのシルエットは__
「必安さん!!」
「前に出るな!」
「ごっ、めんなさい……」
「まだ状況が分からない。俺の後ろにいろ」
そう言ってナワーブさんは私を肩の後ろに隠した。同意するようにノートンさんも隣に立ってハンターを見る。その手には磁石が握られている。
……怒られてしまった。だけど、妙にかっこよかった。俺の後ろにいろ、なんてナワーブさんに言われたら大人しくなるしかないもの。一方ハンターの謝必安さんの方を見れば、彼も彼で不思議そうにしていた。
「はあ……ゲームが始まったわけではなさそうですね。状況を把握しましょうか。傷つけませんから安心してください」
「! ナワーブさん」
「お前はもう少しその犬のしっぽ隠せ」
ナワーブさんからピリピリした気が引いてゆく。同時にその場から駆け出すと私は必安さんの元へと走り寄った。痩けた頬に薄い笑み、スラリと伸びた足、骨ばかりの手。まともなゲームなら逃げ回るしかないそれが私の方へ伸びてきて、ゆるく諫めるように顎を持ち上げる。
「真っ直ぐに寄ってきて、あなたは本当に仕方のない子ですね……ゲームが始まればまた私か無咎に殴られるというのに」
頷くように傘が揺れた。何度も殴られて突かれたのでよく分かっているけれど、今赦されるのが嬉しいのだ。必安さん自身がなんと言おうと彼は美しくて格好いい。大好き。上品だとか物腰が柔らかいだとか好きな理由はいっぱいあって、でも同じ特徴を備えた人がいてもその人じゃ嫌で、やっぱり必安さんの存在が好きだ。貢ぎたい……。
「今日はいつもの服なんですね……やっぱりその服が一番好きです」
「そうですか、サバイバーがなにか見つけたようですよ」
「へ? ほんと、ですね……」
必安さんの横で走り気味に歩き出そうと踏み出すと、隣の長い足がゆっくりとしていることに気がつく。あれ、いつもならそっけないのに歩調を合わせてくれている。
壁にある張り紙を見に行くと三人がこちらに気がついて、ハンターに苦笑しながら私を手招いた。
「おいで、読んでごらん」
「はい、えーっと……」
「"少女漫画になる部屋?"」
……?
よく、分からない。少女漫画? になる?
ぽかん、とした私たち二人に「だよな」と困った顔を見せたのはナワーブさんだ。
「要するにこの部屋では色んなものが少女漫画化してしまう、らしいんだが……」
「そう言ったって……。……あー!」
「ん?」
「……あ! ナワーブ」
「ああ」
俺の後ろにいろ、とか、相手のために怒ってその後きゅんとさせる流れとか、あれは少女漫画化していたんだ。イライさんが分かった、とパッと向日葵が咲くように嬉しそうに笑う。……いや、向日葵が、実際に見えた。イライさんの背後に。同じく見えたノートンさんがぎょっとしてイライさんから距離をとる。
「? どうしたんだい?」
「向日葵出てるよ」
「え"っ!? ひまわり!?」
「少女漫画だ……」
トーンだ……。イライさんは焦って振り返り向日葵を消そうと空気をかき混ぜた。ふわっと消えたそれは間違いなくこの部屋の特殊効果だ。
少女漫画と言うけれど、この部屋に女子は私だけ。一体どうなってしまうんだろう……どうしたら終わりがきて、出られるんだろう。
つい期待を込めて必安さんを見てしまう。彼のアメジストのような瞳が獲物を狙うみたいにこちらを見下ろした。
「っ……!」
「ふふ……それでは出口を探しましょうか。サバイバーとあまり親しくする気はありませんが、力が必要であれば仰ってください」
「ああ。行くぞ〇」
「へっ、わ!」
今度は急に引かれてナワーブさんの胸に飛び込んだ。鍛えられた胸板にドクリと心臓が跳ねる。フードの下に見えた彼の顔は優しい目をしていて、日頃助けてくれている彼から自分のものだというように腕を回されれば受け入れてしまう。
「あの……えへ……」
「ねえ、僕の方は見てくれないの?」
「!? ノートンさんはっ、まって!」
赤い光が胸に光ったかと思えば逆方向にぐんっと引かれてノートンさんへ飛び込んだ。心の準備もなく引き寄せられると心臓が止まりそうになる。その上身長が高い彼に抱きしめられると食べられてしまうような気がしてうまく喋れなくなった。
横目でイライさんを見ると口を手を当ててこちらを見ている。ああ、イライさんはヒロインなんだ……。
そんなイライさんを可愛らしく思ったとき、自分の中でなにかのボタンが入った感覚がした。なんか……なんか、イライさんがすごく可愛い。肩にマスコットも乗っているし、動物と和やかに話すなんてもうプリンセスじゃない? かわいい、かわいい……っ!
「イライさ」
「よそ見しないで」
少女漫画だ……!
腰を掴まれて地面から足が離れた。途端またボタンが切り替わるような感覚があって、ノートンさんのものにされる。所有の証とでもいうように私の首筋に唇を寄せた彼は強く吸いついて華を咲かせた。
「僕の、忘れないでね」
「ぁ……っ!? それは少女漫画っていうか」
「オイ人のモン勝手に手出してなんのつもりだ? 早く降ろせ」
「そんな……〇があんな目に……」
イライさんが可愛い……。
「別にナワーブのものじゃないよね。ほら、出口探すんでしょ?」
「ぁあ? 命預かってんだから俺のだろ」
「あわ……ナワーブとノートンくんが喧嘩に……っ! 私が止めないと」
イライさんかっわいい……!
きっと部屋の効果なのだろう、今日のイライさんは白くてキラキラした月相を着ているせいもあってか今すぐ褒めたくなった。ゲーム中は血を吐いて庇ってくれるようなところもあるんだけれど……もしこの部屋に二人きりになったとしてもヒロイン枠はイライさんな気がするくらい、今日の彼はかわいい。
だけどイライさんはそこそこ背の高い立派な成人男性でもあった。どっちのものでもないよ、と言いながらぽっぽちゃんに磁石を退けさせて、私をノートンさんから取り上げると床に下ろしてくれた。ノートンさんやナワーブさんと一緒だと揉めて出口を探せそうにないし、チクチクと刺さる視線がすごく痛いけれどイライさんと行動しようかな……。
「で、出口探しましょ!」
「ああ、もちろん。その……花が舞うのはさすがに恥ずかしいからね……」
照れて頬をかくイライさんすっごくかわいい。後ろをチラリと見ればナワーブさんは呆れたように、ノートンさんはジトッとした目でこちらを見て出口探しを始めていた。
見たところ四方の壁は白く小さなホール程度のシンプルな造りだ。天井は高く切れ目が一つ、床には真っ直ぐな線が一つ引かれている。ぐるりと壁に沿って螺旋状に階段があり、その先の小さなバルコニーで必安さんは休んでいた。
「イライさん、上からの方が調べやすいんじゃないですか?」
「いや、もうなにもないと思うけど……」
「行ってみなきゃわかんないかも」
「……そんなに彼が好き?」
あれ、可愛かったイライさんの頬が白くなっている。好きだけど、と返したらいけない雰囲気に怯えて後退ると彼は一歩近づいてきて、私の耳に唇を寄せて囁いた。
「私だけと、一緒に居てほしいな……」
「~っ!? は、え、いらいさん」
「ごめんね、〇が耳弱いって知ってるのに。今日はずるいことしたい気分なんだ」
だめかい? と聞かれてしまえば階段を登れなくなってしまう。そっと手すりを離した私に悪戯っぽく笑って、イライさんはもう一度張り紙のところまで戻っていった。
「この裏とかどうだろう。なにか……おや、これは」
「なにか書いて……え!? え、えっ」
「……仕方ない、ね?」
「仕方なくっ、ナワーブさん!! ノートンさん!! 必安さーん!!!!!」
さらりと書かれた文字列を見た瞬間襲われた危機感に皆の名前を呼びながら走った。だって……だって、キスをしないと出られないなんて。
キスって、その、近づいて唇を……? むり、無理! そんなの頭がショートする。
「どうしました? ……おや」
「必安さ、あの、えっと」
「もうすぐ出られそうです。ほら〇、迷惑かけたらいけないだろう?」
恥ずかしくて言葉が出せないのをいいことにイライさんに捕まえられてしまう。やっぱりこの人ヒロインなんかじゃない、男の人だ……!
壁に押しつけて背中に隠すように迫られて、動いた喉仏とか大きい手とかしっかりした太ももに目がいく。ぐるぐる回る。
「たす、たすけて……っ」
「させません」
「!」
落ちた紙を読んだ必安さんがイライさんを引き剥がした。
「必安さん……っ」
「……出たいのでしょう?」
「え?」
妖しく笑みを浮かべた必安さんが吐息をこぼして囁いた。あまりの色気に頭がぼうっとする。必安さんにされるなら__いやいや、無咎さんの体でもあるのだから無咎さんにも聞かなきゃ__
「ちょっと、魂吸わないでくれませんかね?」
「っ、く」
今度はノートンさんだ。磁石で弾かれた必安さんが気になるけれどぐっと肩を掴まれてしまってはなにも見えない。
「おっと……ごめん。君の引力に逆らえなかったみたい」
「少女漫画だ……じゃなくて、ノートンさん自覚的にやってません?」
でもこの人がいるなら彼もいるはず。
「悪ィ、待たせた」
やっぱりいつも助けに来てくれるのはこの人。籠手で飛んできて私ごと押し倒すようにノートンさんの腕から抜け、なんとか助かった。
まずは皆に読んでもらってから相談するべきだ。キスってそもそも唇とか書いていないのだし……。いや、キスマークじゃダメだったんだから口かな……。
「……」
「……」
「あの、どうしました?」
「ちょっと、口開けろ」
「へ!? や……まって……」
思えば押し倒されてるって一番危ない状況だ。ドクドク鳴る心臓もぴったり重ねあって、彼の体の凹凸も全部意識してしまう。
だけど彼の背の先には怖いくらい美しく微笑んだ必安さんが居て。
「サバイバーがハンターに勝てるとでも?」
「チッ」
風船にぷかりと吊るされてしまえばもう収集がつかなかった。どうしようと困っていると__ふよふよした丸いものが飛んでくるのが見える。
__これに、しよう。
ちゅっ。
「「「「!?」」」」
試合にも連れていける小さな無咎さん。傘でくるくる回っていたので捕まえて頬にキスすると、じゃれて可愛いキスを返された。
「かわい……」
「う、無咎……っ!?」
がこんっ、と床が割れて落ちてゆく。ついたのは荘園の玄関ホールで皆無事なようだった。
「ふー……」
「お前ら無事か!?」
「ん?」
ぽつねんとしていた私たち四人の元に駆け寄ってきたのはウィリアムさんだった。聞けば待機中に消えるわ試合は原因不明の中止になるわですごく心配してくれていたらしい。
「ごめんなさい、心配かけて……」
「いや、無事ならそれでいいんだ。他も怪我ないな? よし、筋トレでもしてくるわ!」
「……一番かっこいいね」