荘園
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目を閉じて布団をぎゅうっとしたときのあたたかさに似ている。どうしてこんなにぽかぽかしているのだろうと瞼を開けると、見覚えのある印が見えて不思議に思った。この印はこんなに近くで見えるものだっけ。
「うん……? 起こしてしまったかな」
やさしい声だ。酷く穏やかなそれは絶対ここで聞こえるものではないはずで、どうしたらいいか分からなかった。眠る前はなにをしていたんだっけと考え出した私に、受け入れられたと思ったのかイライさんがくすくすと笑いをこぼしている。
「君はほんとうに寝起きが悪いね」
「はい……どうして……?」
「ああ、今にも寝てしまいそうだ」
イライさんは私を抱きしめたまま片手で頭を撫でてきた。よしよし、いいこいいこ。考えなくていいよ、って。
大きな手のひらの心地よさにうっとりとしてしまう自分を抑えてなんとか意識を浮上させてくる。まずここはどこだろう。眠る前、廊下に置いてある硬いソファーで休んでいたことは思い出した。だけど今は誰かの部屋にいるみたい。あれはフクロウ用のお皿かな。イライさんの部屋?
「ソファーで寝ちゃいけないから……っていう風には見えませんね……?」
「そうだね、悪い狼かもしれないよ」
「狼さんにしては筋肉が……」
「……ナワーブと比べないでほしいなあ」
イライさんは眉を下げて少し哀しそうな声を出した。
眠気に任せてぽたりぽたりと口から出てくる言葉。だけど身体は重たくって動かない。彼はなにかよくないことをしているかもと思うのに、どこまでもいつものままなのも私を困惑させた。もっと「やっと捕まえた」とか、「気持ちいいのは好き?」とか、それっぽく豹変してくれたら抵抗できるのに。なにがしたいのか分からなくてゆるゆると反抗心が削がれてしまう。
そんな疑問を抱いているのに気がついたのかイライさんも少し考えてこちらをじっと見つめた。
「私のことは嫌い?」
「いえ……このあと次第です」
「それもそうだ」
やっぱりなにがしたいのか分からない。ただただ甘やかしているイライさんと甘やかされている私は、ゆったりとした時間の中でココアを入れた。多少動くようになった体を起こし、マグカップに張った膜をくるくるとかき混ぜてマシュマロを浮かべる。
「あの……なにか視ました?」
「ううん、嫌なものが視えた訳じゃないんだ」
「じゃあイライさんになにかありました?」
「私にも、なにも」
「じゃあ」
「一緒に居たいなあと思って」
「……どうして?」
「……」
訊ねればイライさんは黙ってココアを飲み干した。言うべきか迷っているように見える。変なことをした途端今までのその人の性格が全部偽りだった__なんてことにはならないし、やはり彼は根が良い人なんだろう。嘘をつけなくて困ってるんだ。
答えが返ってこないので時計を見れば午前九時を指していた。ソファーに寝たのは昨日の夜だから、すっかりイライさんの部屋で熟睡していたことになる。体も痛くないし、なんならまだ此処で眠っていたいくらい。今日は一日ゲームもないし。
「……わかった、話そう。気を悪くしないでくれるといいんだけど」
ついにイライさんが口を開いた。でもそんな風に話始めるのは少し怖いからやめてほしい。なにを言われるのかわからなくて怯えてしまう。ぽやぽやとした彼の体温が残る頭を振って耳を傾けると__ふと、変な空気が流れだした。
「少し酔っていて」
イライさんが照れくさそうに頬をかく。
「可愛いなあと思って……持って帰ってきてしまったんだ」
「……」
捨て猫かな、私。
なるほど、黙り込んだ私に少しずつ焦り始めた様子から見ても本当に嘘はついていないみたい。一人の人間を所有物のように拾ってきたことに思うところがないわけではなくてよかった。
それにしても……目が覚めたときの彼は余裕そうな顔をしていたからもっと故意的なものだと思ったのでやはり困惑はしてしまう。
「いやあ……起きたら君が居たから可愛いのがまだ居ると思って撫でくり回してしまって」
「ええ……?」
「少しテンションが上がって……」
「狼さんだったんじゃ?」
「うわああ掘り返さないでくれ! そのあと言われたことにも少し傷ついたんだよ!」
「……筋肉なんて、イライさんはなくてもいいですよ」
「えっ」
今度は彼が当惑する番だった。私は空になったマグを置いてスリッパを拝借すると、枕も抱えたまま部屋を飛び出す。
ちょっと待って! なんて声は無視して廊下を駆ける。ウィリアムくんの「おう〇! おはよう!」という馬鹿でかい声が響いたおかげでイライさんも追うのを諦めたようだ。朝帰りって言われちゃうもんね。
……言われても、いいんだけど。
自分の部屋でぎゅっと枕を抱きしめてベッドに倒れ込んだ。枕から、髪から、あちこちから香るイライさんの匂い。
あんなことを女の子に言うなんてどうなってるんだか。自分のものみたいに抱きしめて……。
……ほんとうに、ずるい。
「うん……? 起こしてしまったかな」
やさしい声だ。酷く穏やかなそれは絶対ここで聞こえるものではないはずで、どうしたらいいか分からなかった。眠る前はなにをしていたんだっけと考え出した私に、受け入れられたと思ったのかイライさんがくすくすと笑いをこぼしている。
「君はほんとうに寝起きが悪いね」
「はい……どうして……?」
「ああ、今にも寝てしまいそうだ」
イライさんは私を抱きしめたまま片手で頭を撫でてきた。よしよし、いいこいいこ。考えなくていいよ、って。
大きな手のひらの心地よさにうっとりとしてしまう自分を抑えてなんとか意識を浮上させてくる。まずここはどこだろう。眠る前、廊下に置いてある硬いソファーで休んでいたことは思い出した。だけど今は誰かの部屋にいるみたい。あれはフクロウ用のお皿かな。イライさんの部屋?
「ソファーで寝ちゃいけないから……っていう風には見えませんね……?」
「そうだね、悪い狼かもしれないよ」
「狼さんにしては筋肉が……」
「……ナワーブと比べないでほしいなあ」
イライさんは眉を下げて少し哀しそうな声を出した。
眠気に任せてぽたりぽたりと口から出てくる言葉。だけど身体は重たくって動かない。彼はなにかよくないことをしているかもと思うのに、どこまでもいつものままなのも私を困惑させた。もっと「やっと捕まえた」とか、「気持ちいいのは好き?」とか、それっぽく豹変してくれたら抵抗できるのに。なにがしたいのか分からなくてゆるゆると反抗心が削がれてしまう。
そんな疑問を抱いているのに気がついたのかイライさんも少し考えてこちらをじっと見つめた。
「私のことは嫌い?」
「いえ……このあと次第です」
「それもそうだ」
やっぱりなにがしたいのか分からない。ただただ甘やかしているイライさんと甘やかされている私は、ゆったりとした時間の中でココアを入れた。多少動くようになった体を起こし、マグカップに張った膜をくるくるとかき混ぜてマシュマロを浮かべる。
「あの……なにか視ました?」
「ううん、嫌なものが視えた訳じゃないんだ」
「じゃあイライさんになにかありました?」
「私にも、なにも」
「じゃあ」
「一緒に居たいなあと思って」
「……どうして?」
「……」
訊ねればイライさんは黙ってココアを飲み干した。言うべきか迷っているように見える。変なことをした途端今までのその人の性格が全部偽りだった__なんてことにはならないし、やはり彼は根が良い人なんだろう。嘘をつけなくて困ってるんだ。
答えが返ってこないので時計を見れば午前九時を指していた。ソファーに寝たのは昨日の夜だから、すっかりイライさんの部屋で熟睡していたことになる。体も痛くないし、なんならまだ此処で眠っていたいくらい。今日は一日ゲームもないし。
「……わかった、話そう。気を悪くしないでくれるといいんだけど」
ついにイライさんが口を開いた。でもそんな風に話始めるのは少し怖いからやめてほしい。なにを言われるのかわからなくて怯えてしまう。ぽやぽやとした彼の体温が残る頭を振って耳を傾けると__ふと、変な空気が流れだした。
「少し酔っていて」
イライさんが照れくさそうに頬をかく。
「可愛いなあと思って……持って帰ってきてしまったんだ」
「……」
捨て猫かな、私。
なるほど、黙り込んだ私に少しずつ焦り始めた様子から見ても本当に嘘はついていないみたい。一人の人間を所有物のように拾ってきたことに思うところがないわけではなくてよかった。
それにしても……目が覚めたときの彼は余裕そうな顔をしていたからもっと故意的なものだと思ったのでやはり困惑はしてしまう。
「いやあ……起きたら君が居たから可愛いのがまだ居ると思って撫でくり回してしまって」
「ええ……?」
「少しテンションが上がって……」
「狼さんだったんじゃ?」
「うわああ掘り返さないでくれ! そのあと言われたことにも少し傷ついたんだよ!」
「……筋肉なんて、イライさんはなくてもいいですよ」
「えっ」
今度は彼が当惑する番だった。私は空になったマグを置いてスリッパを拝借すると、枕も抱えたまま部屋を飛び出す。
ちょっと待って! なんて声は無視して廊下を駆ける。ウィリアムくんの「おう〇! おはよう!」という馬鹿でかい声が響いたおかげでイライさんも追うのを諦めたようだ。朝帰りって言われちゃうもんね。
……言われても、いいんだけど。
自分の部屋でぎゅっと枕を抱きしめてベッドに倒れ込んだ。枕から、髪から、あちこちから香るイライさんの匂い。
あんなことを女の子に言うなんてどうなってるんだか。自分のものみたいに抱きしめて……。
……ほんとうに、ずるい。