荘園
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今日はあの件ぶりの彼女とゲームの日だ。
いつも通り僕が近づいた途端調子が悪くなる暗号機にイラつきながら解読を進める。最後の一行を打ち終えて安心したのも束の間、板がばきりと割られる大きな音がすぐ近くで聞こえた。
「巻き込んじゃった!? ごめんなさい!」
「僕なら巻き込んでくれていいよ」
「ノー、トンさん……!」
推進器を巻こうとする道化師に磁石を投げて距離をとる。追われていた彼女は銃と梟のサポートもあってまだダメージをもらっていないようだし逃がしてやれるかもしれない。入り組んだ地形へ移動しながらそっと背中を押すと、すみません、と言って逃げて行った。
僕を無視できないように道を塞いで嫌がらせをする。道化師の眼がこちらを向いた。
そうは言ったものの引き留めるを発動した彼から逃げ回るのは楽じゃない。通電後は椅子に縛られて、このまま三逃げで自分は飛ばされるのだろうと顔をあげた。
「は……」
なのに〇ちゃんがこっそり隠密してる。きっと両ゲートが空いているのだろう、他二人からのチャットも送られてきて困惑は深まるばかりだ。
普通見捨てるだろう。見捨てなければ怒られることもあり得る。巻き込んだ責任を取るとでも言うように助けに来た彼女にも驚いたが、許可を出したであろう空軍と占い師の二人にも頭を振った。まるで自分だけが汚いように思えてくるじゃないか。
あー……。僕のこと苦手じゃなかったの?
引き留めるが切れるのを待っていたら間に合わない。失敗すれば二人とも飛ばされる。そんなに震えて、椅子から落ちるのにも未だ慣れていないくせに。
挑発下手な占い師がゲート前でせっせと板を乗り越えているのだろう、物音に道化師が振り返ったとき、彼女は勢いよく飛び出した。
それから偶然攻撃を躱して、偶然ゲートまでたどり着いて、偶然道化師が追いつきそうだったときに偶然大きめの石にこけて彼女の背中を押した。
「なっ……」
「面白い顔だね」
あんまりにも可愛い顔をするものだからつい笑ってしまった。腹に響く衝撃の後、地面にぶつかったのは少し痛かったな。
「……なにこれ、くれるの?」
夕食の席で差し出されたのは絆創膏だった。頬の切り傷くらい珍しくもないだろうに。
「変なことしなかったらつかなかった傷だし……」
気まずそうに遠ざかろうとする〇ちゃんの腕を掴み戻す。立ち上がって顔を近づければすぐに赤い顔をして。
「君が貼ってよ」
「へっ!? そんなの自分で……」
「責任とってくれないの?」
わざとらしく声を低めて言えば分かりやすく動揺する。こういうところが構いたくなるんだって分からないのかな。
「の、とん、さん、身長高いから……座ってください……」
「ありがとう」
「……」
タチの悪いものを見た、と顔に浮かべるトレイシーは無視して席につく。柔らかい手が頬に触れて離れていった。
「……どうして助けに来たのか、聞かないんですね」
「別に。〇ちゃんが来てくれて嬉しかったけど?」
「本当にわかんない人……」
「よく言われるよ」
捕まえた。彼女の両手を繋いで隣の席に座らせる。
それにしても他人と話すときは距離感のとり方が上手な彼女が自分と話すときだけ困っているのを見ると気分がいい。
なにをしようかと考えていると彼女の方から喋り始めた。
「チェイス代わってくれたのも、ありがとうございました。ノートンさんが居ると心強い気がしなくもないです」
「……〇ちゃん、結構僕のこと好きだよね」
「っはい!?」
慌ててる慌ててる。図星だったらどんなにいいだろう。
なにか言おうとしては黙る彼女は結局「普通ですよ」と普通の相手には言わない返答をくれた。
全く……彼女と話していると時々自分の顔すら忘れてしまいそうになる。さっきだって火傷の残った酷い顔によく触れたものだ。
「ノートンさん?」
「ああ……なんでもない。ご飯食べなよ」
「でも……そうですね」
食事時くらい女友達と食べればいいのに。律儀に隣に居てくれるものだから黒々とした感情が溢れだしそうだ。
手っ取り早く自分のものにしたいだとか、いや、言葉でがんじがらめにして堕としたいだとか、誰にも見られないところで独り占めにしたいだとか。そもそも惹かれたのはいつだったか。
遠目からはあまり弱みを見せず動揺もしないように見えた彼女が唯一よく話していたのが占い師の彼だった。聞けば、
『彼女、敵対心に耐性がないんだ。蹴落とす、囮にする、非難する、なんて話を聞くだけでも具合が悪くなってしまってね、よく私のところに避難してくるよ』
と。
それを聞いてからというもの、彼女は気づけば視界にいた。どうやら目で追ってしまっていたらしい。やがて向こうからも視線を感じるようになり、チラチラ目が合っては避けられた。
野良猫が気になるのと同じかと思えばそうでもなくて、初めて自分の欲に気がついたのはマイクと親しげに言葉を交わす〇ちゃんを見たときだ。そして単純な支配欲ではないと知ったのは服を選ぶときに彼女の好みを意識したとき。
「……」
じっと〇ちゃんを見ながら考えていると文句ありげな目だと解釈したのかまた彼女がうろうろし始めた。可愛いな、夜も誘導したら大胆なことしてくれるのかな。
「簡単なマッサージならできますけど」
「ナニソレ夜の?」
「は……っ?」
「アーごめんぼーっとしてた」
つい口が滑った。
夕食は半分ほど減っていて、〇ちゃんは焦りつつ否定した。残念ながらいかがわしいことはしてくれないらしい。
「なんだ」
「なんだってなんですか……」
「あれ、二人とももう付き合ったのかい?」
「「え?」」
のんびりした靴音。視えたより少し早いなあ、と言いながらイライが通りすぎて行った。
突然の告白にさすがに驚いて目を合わせてしまう。
「「……え?」」
__図星、だったら?
「なななな、なんか言いませんでしたイライさん!?」
「へえ、式も早いかな」
「!?」
なんて。さすがに可哀想だけど畳み掛けるなら今しかない。自分の顔が嫌いでもなんでも、〇ちゃんのことが好きなのは間違いないのだから。過去も未来も他全てのことは今関係ない。
慌てて混乱している〇ちゃんの手を取り、両手で包んで逃がさない。
「ねえ」
「……っえっと……」
「付き合ってみる?」
「……」
「……」
「み、み」
「うん」
「みる……」
「……そっか」
笑いかければぶわりと耳まで赤くなった。その両頬に交互に口づけて、唇を奪い心臓の音を聞く。あれ、……いや、なんでもない。
「いつの間に好きになったの」
「知らないです心臓うるさいです」
「君の方がうるさいよ。敬語やめて」
「そっちの方が、ふふっうるさいもん」
「笑わないでよ、それなりに照れるから」
「そんな顔で言われても……」
「ベッドの中で見せてあげようか」
「!?」
いつも通り僕が近づいた途端調子が悪くなる暗号機にイラつきながら解読を進める。最後の一行を打ち終えて安心したのも束の間、板がばきりと割られる大きな音がすぐ近くで聞こえた。
「巻き込んじゃった!? ごめんなさい!」
「僕なら巻き込んでくれていいよ」
「ノー、トンさん……!」
推進器を巻こうとする道化師に磁石を投げて距離をとる。追われていた彼女は銃と梟のサポートもあってまだダメージをもらっていないようだし逃がしてやれるかもしれない。入り組んだ地形へ移動しながらそっと背中を押すと、すみません、と言って逃げて行った。
僕を無視できないように道を塞いで嫌がらせをする。道化師の眼がこちらを向いた。
そうは言ったものの引き留めるを発動した彼から逃げ回るのは楽じゃない。通電後は椅子に縛られて、このまま三逃げで自分は飛ばされるのだろうと顔をあげた。
「は……」
なのに〇ちゃんがこっそり隠密してる。きっと両ゲートが空いているのだろう、他二人からのチャットも送られてきて困惑は深まるばかりだ。
普通見捨てるだろう。見捨てなければ怒られることもあり得る。巻き込んだ責任を取るとでも言うように助けに来た彼女にも驚いたが、許可を出したであろう空軍と占い師の二人にも頭を振った。まるで自分だけが汚いように思えてくるじゃないか。
あー……。僕のこと苦手じゃなかったの?
引き留めるが切れるのを待っていたら間に合わない。失敗すれば二人とも飛ばされる。そんなに震えて、椅子から落ちるのにも未だ慣れていないくせに。
挑発下手な占い師がゲート前でせっせと板を乗り越えているのだろう、物音に道化師が振り返ったとき、彼女は勢いよく飛び出した。
それから偶然攻撃を躱して、偶然ゲートまでたどり着いて、偶然道化師が追いつきそうだったときに偶然大きめの石にこけて彼女の背中を押した。
「なっ……」
「面白い顔だね」
あんまりにも可愛い顔をするものだからつい笑ってしまった。腹に響く衝撃の後、地面にぶつかったのは少し痛かったな。
「……なにこれ、くれるの?」
夕食の席で差し出されたのは絆創膏だった。頬の切り傷くらい珍しくもないだろうに。
「変なことしなかったらつかなかった傷だし……」
気まずそうに遠ざかろうとする〇ちゃんの腕を掴み戻す。立ち上がって顔を近づければすぐに赤い顔をして。
「君が貼ってよ」
「へっ!? そんなの自分で……」
「責任とってくれないの?」
わざとらしく声を低めて言えば分かりやすく動揺する。こういうところが構いたくなるんだって分からないのかな。
「の、とん、さん、身長高いから……座ってください……」
「ありがとう」
「……」
タチの悪いものを見た、と顔に浮かべるトレイシーは無視して席につく。柔らかい手が頬に触れて離れていった。
「……どうして助けに来たのか、聞かないんですね」
「別に。〇ちゃんが来てくれて嬉しかったけど?」
「本当にわかんない人……」
「よく言われるよ」
捕まえた。彼女の両手を繋いで隣の席に座らせる。
それにしても他人と話すときは距離感のとり方が上手な彼女が自分と話すときだけ困っているのを見ると気分がいい。
なにをしようかと考えていると彼女の方から喋り始めた。
「チェイス代わってくれたのも、ありがとうございました。ノートンさんが居ると心強い気がしなくもないです」
「……〇ちゃん、結構僕のこと好きだよね」
「っはい!?」
慌ててる慌ててる。図星だったらどんなにいいだろう。
なにか言おうとしては黙る彼女は結局「普通ですよ」と普通の相手には言わない返答をくれた。
全く……彼女と話していると時々自分の顔すら忘れてしまいそうになる。さっきだって火傷の残った酷い顔によく触れたものだ。
「ノートンさん?」
「ああ……なんでもない。ご飯食べなよ」
「でも……そうですね」
食事時くらい女友達と食べればいいのに。律儀に隣に居てくれるものだから黒々とした感情が溢れだしそうだ。
手っ取り早く自分のものにしたいだとか、いや、言葉でがんじがらめにして堕としたいだとか、誰にも見られないところで独り占めにしたいだとか。そもそも惹かれたのはいつだったか。
遠目からはあまり弱みを見せず動揺もしないように見えた彼女が唯一よく話していたのが占い師の彼だった。聞けば、
『彼女、敵対心に耐性がないんだ。蹴落とす、囮にする、非難する、なんて話を聞くだけでも具合が悪くなってしまってね、よく私のところに避難してくるよ』
と。
それを聞いてからというもの、彼女は気づけば視界にいた。どうやら目で追ってしまっていたらしい。やがて向こうからも視線を感じるようになり、チラチラ目が合っては避けられた。
野良猫が気になるのと同じかと思えばそうでもなくて、初めて自分の欲に気がついたのはマイクと親しげに言葉を交わす〇ちゃんを見たときだ。そして単純な支配欲ではないと知ったのは服を選ぶときに彼女の好みを意識したとき。
「……」
じっと〇ちゃんを見ながら考えていると文句ありげな目だと解釈したのかまた彼女がうろうろし始めた。可愛いな、夜も誘導したら大胆なことしてくれるのかな。
「簡単なマッサージならできますけど」
「ナニソレ夜の?」
「は……っ?」
「アーごめんぼーっとしてた」
つい口が滑った。
夕食は半分ほど減っていて、〇ちゃんは焦りつつ否定した。残念ながらいかがわしいことはしてくれないらしい。
「なんだ」
「なんだってなんですか……」
「あれ、二人とももう付き合ったのかい?」
「「え?」」
のんびりした靴音。視えたより少し早いなあ、と言いながらイライが通りすぎて行った。
突然の告白にさすがに驚いて目を合わせてしまう。
「「……え?」」
__図星、だったら?
「なななな、なんか言いませんでしたイライさん!?」
「へえ、式も早いかな」
「!?」
なんて。さすがに可哀想だけど畳み掛けるなら今しかない。自分の顔が嫌いでもなんでも、〇ちゃんのことが好きなのは間違いないのだから。過去も未来も他全てのことは今関係ない。
慌てて混乱している〇ちゃんの手を取り、両手で包んで逃がさない。
「ねえ」
「……っえっと……」
「付き合ってみる?」
「……」
「……」
「み、み」
「うん」
「みる……」
「……そっか」
笑いかければぶわりと耳まで赤くなった。その両頬に交互に口づけて、唇を奪い心臓の音を聞く。あれ、……いや、なんでもない。
「いつの間に好きになったの」
「知らないです心臓うるさいです」
「君の方がうるさいよ。敬語やめて」
「そっちの方が、ふふっうるさいもん」
「笑わないでよ、それなりに照れるから」
「そんな顔で言われても……」
「ベッドの中で見せてあげようか」
「!?」