夜行梟
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月の形が変わり、焚き火に灰が積もった。夜行さんはさすが森で生きるのが上手らしく、彼の家があった周りには大体の必要なものが揃っていた。
流れる清潔な川、火を起こすための枯れ木、果物や山芋。常緑樹は真上の太陽を奪い合うので葉が伸びて傘の役割を果たしてくれる。
「……あの」
聞いたことのある、だけど聞きたくない声がする。知らないふりをして歩きだすと声の持ち主は追ってきた。
もっと早く歩く。
「待ってください……お一人ですか?森で毎日泣き声が聞こえると聞いて来たのですが」
「……」
「近くの魔物の巣が空になっていました。そろそろこのあたりに辿り着くはずです。あぶな」
「ついてこないでほしいです」
冷たく言って太い木の幹に隠れる。ちらと見ればやはり以前出会った赤いマスクの人がうろうろと辺りを見回していた。
一般的に言えば夜行さんは魔物だった。それも恐らくは村を壊滅させることも容易いような力の強い魔物。だからこの人がしていることは間違ってない。
間違ってないけど、私はいやだった。
夜行さんが好きだから協力できないの。
「……もしかしてあの眼に魅了されてしまいましたか? 引き込まれたら最後帰り道も分からなくなるはずです。でしたら僕が保護しますから__」
「彼はそんなことしてくれなかった!」
「!」
道も分からない暗がりへと駆け出した。蔦を避けて丸太を越えて苔むした岩を過ぎる。うるさい、まともなことを言わないで。だから夜行さんは、私は__滅茶苦茶に進んでもなおついてくる足音に思いきってジャンプしたら、ぽっかりと黒い穴が空いていた。
「__え?」
ぼさっ、と落ちた先には落ち葉が積もっていた。骨を折らなくてよかった__と言っていられないほどの獣臭がする。見れば辺りにはカラカラに乾いた大きな骨が散乱していて、長く餓えた何物かが住んでいることは明らかだ。
「ちょっ……降りるの、さすがに嫌ですよ……」
「い、いいもん! 私ここで死ぬから!」
「あの人ならまたノートンさんと探しますからっ……!? ちょ、ずるっ、もが!」
「……あれ?」
あの人の声が聞こえなくなった。なにか重たいものが落ちる嫌な音と、箱が岩肌にぶつかる音が巣穴に反響する。
「あの……大丈夫ですか……?」
尋ねてみてもなにも聞こえない。見た目からしてまず何にも負けないと思っていたから、苦手な人のはずなのに心配になってくる。自分が死ぬのと人を死なせるのは別の話だ。
だけど心配すらもできる時間はごくわずかしか残されていないようだった。
地面を震わせて現れた魔物は赤黒く錆び付いた牙を見せた。討とうとしたものを返り討ちにしてきた証明の矢を刺したまま。
「あ……」
夜行さんと会えたあの日もこんな夜だった。獣の匂いに鋭い爪、土の香り。こんなにそっくりの日を二つも迎えて、一つで好きな人を見つけて、もう一つで死ねるならもういいのかもしれない。
あの日私の人生は大きく変わった。__夜行さんには話していないけれど、何をしていても興味を持たれることもない、村八分同然の人間にとっては初めての暖かさだった。ある意味それまでの人生の命日とも言えるでしょう。
だけど夜行さんに寿命を引き伸ばされていただけで元々こういう運命だったんだ。一人だからと自暴自棄に生きてきた私の最期に一人巻き込んでしまったのが悔やまれる。
__グルル、グル……
……強そうな服を着ていたし、なんやかんやで無事だといいな。
流れる清潔な川、火を起こすための枯れ木、果物や山芋。常緑樹は真上の太陽を奪い合うので葉が伸びて傘の役割を果たしてくれる。
「……あの」
聞いたことのある、だけど聞きたくない声がする。知らないふりをして歩きだすと声の持ち主は追ってきた。
もっと早く歩く。
「待ってください……お一人ですか?森で毎日泣き声が聞こえると聞いて来たのですが」
「……」
「近くの魔物の巣が空になっていました。そろそろこのあたりに辿り着くはずです。あぶな」
「ついてこないでほしいです」
冷たく言って太い木の幹に隠れる。ちらと見ればやはり以前出会った赤いマスクの人がうろうろと辺りを見回していた。
一般的に言えば夜行さんは魔物だった。それも恐らくは村を壊滅させることも容易いような力の強い魔物。だからこの人がしていることは間違ってない。
間違ってないけど、私はいやだった。
夜行さんが好きだから協力できないの。
「……もしかしてあの眼に魅了されてしまいましたか? 引き込まれたら最後帰り道も分からなくなるはずです。でしたら僕が保護しますから__」
「彼はそんなことしてくれなかった!」
「!」
道も分からない暗がりへと駆け出した。蔦を避けて丸太を越えて苔むした岩を過ぎる。うるさい、まともなことを言わないで。だから夜行さんは、私は__滅茶苦茶に進んでもなおついてくる足音に思いきってジャンプしたら、ぽっかりと黒い穴が空いていた。
「__え?」
ぼさっ、と落ちた先には落ち葉が積もっていた。骨を折らなくてよかった__と言っていられないほどの獣臭がする。見れば辺りにはカラカラに乾いた大きな骨が散乱していて、長く餓えた何物かが住んでいることは明らかだ。
「ちょっ……降りるの、さすがに嫌ですよ……」
「い、いいもん! 私ここで死ぬから!」
「あの人ならまたノートンさんと探しますからっ……!? ちょ、ずるっ、もが!」
「……あれ?」
あの人の声が聞こえなくなった。なにか重たいものが落ちる嫌な音と、箱が岩肌にぶつかる音が巣穴に反響する。
「あの……大丈夫ですか……?」
尋ねてみてもなにも聞こえない。見た目からしてまず何にも負けないと思っていたから、苦手な人のはずなのに心配になってくる。自分が死ぬのと人を死なせるのは別の話だ。
だけど心配すらもできる時間はごくわずかしか残されていないようだった。
地面を震わせて現れた魔物は赤黒く錆び付いた牙を見せた。討とうとしたものを返り討ちにしてきた証明の矢を刺したまま。
「あ……」
夜行さんと会えたあの日もこんな夜だった。獣の匂いに鋭い爪、土の香り。こんなにそっくりの日を二つも迎えて、一つで好きな人を見つけて、もう一つで死ねるならもういいのかもしれない。
あの日私の人生は大きく変わった。__夜行さんには話していないけれど、何をしていても興味を持たれることもない、村八分同然の人間にとっては初めての暖かさだった。ある意味それまでの人生の命日とも言えるでしょう。
だけど夜行さんに寿命を引き伸ばされていただけで元々こういう運命だったんだ。一人だからと自暴自棄に生きてきた私の最期に一人巻き込んでしまったのが悔やまれる。
__グルル、グル……
……強そうな服を着ていたし、なんやかんやで無事だといいな。