夜行梟
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜行さんと再会した翌々日、私は一度で獣道ができそうな勢いであの家へ急いでいた。
今日はなんのお話をしよう。彼の家まではたっぷり一時間は歩くので想像はいっぱいに膨らんでいく。
一昨日は結局二人とも疲れて寝てしまって翌朝家まで送ってくれたけれど、それでもまだ知らないことばかりだ。
見た目だけで言うなら妖しくて無敵そう、人の感情なんて分からなそう……だけど、話してみれば無敵なんかじゃなかった彼。夜行さんと呼んでいるけれどいつか呼びやすい名前を教えてくれるかな。
彼の住み家に近づくほど道は暗く鳥の鳴き声が増えてゆく。寒気がして振り返ればなんと道が塞がっていて、帰さないとでもいうような藪に驚き足を早めた。こわい話を聞いたあと一人が嫌で部屋を飛び出してしまうみたいに。続けて茨の擦れる音を聞いて走り出す。なにこれ、早く夜行さんに会いたい。はやく、こわい!
「っこんにちは!」
「おや、ほんとに走ってきた」
「!?」
「やっぱり茨かい? 足が遅いから急かしてしまったよ」
頼みの綱が犯人だったようだ。疲れて安心してその場に座り込んだ私の前で、彼もしゃがんでこちらを見下ろしてきた。手には不思議な香りがするマグを持っている。
「こんにちは。"私に会いに来た"んだろう?」
「……」
「? 〇?」
一昨日言ったことをなんでもない今掘り返してくるなんて意地が悪い。でも怒っていられるような気分ではなくて、暗い森って結構__
「ぅ……ぐすっ……」
「えっ……」
「こわ、かった」
今度こそ魔物に食べられるかと思った。一度襲われた恐怖はなかなかこびりついているみたいで、自分で操作できるものじゃなかった。泣きたくなくても涙が出てくる。彼に罪悪感を与えたいわけじゃなくて、なーんだ、って笑いたいのにこわかった。
「……ごめんね」
「ぅん」
「私はここにいるよ」
「うん」
「犯人だけど」
「うん……」
「さっきおやつ食べきっちゃったのもごめん」
「うん!」
急に立ち上がったら頭が額に当たったらしく夜行梟さんがバタッと倒れた。知らない。絶対隠し持ってるだろう甘いものを探しに適当に見つけたジュースを飲みながら戸棚を開いた。
木を荒削りして作られた戸棚には蜜の入った林檎と黄金に輝く蜂蜜、風味の良い干し葡萄が閉まってある。林檎の芯をくりぬいて蜂蜜を垂らし干し葡萄を詰めた。せっせと作業していると、背後からなにもなかったように手が伸びてきてバターで蓋をされる。
「昼食も作ってくれるのかい?」
「……っ、はい」
すんっと鼻を鳴らしたらあたたかい指先が優しく目元を拭ってゆく。背中に伝わる離れがたい温度に呼吸も落ち着いてきて、肩の力が抜けてきた。
「……あの程度の魔物でもやはり怖いんだね」
それは上から目線ではなくて、真剣な声色を含めていた。
「村の人たちもそう?」
「まあ……心底憎んでいる方もいますし」
「……」
「夜行さん?」
「火の準備をしてくるよ」
ふと体温が離れて寂しく感じた。彼は深くフードを被り直して外を向いてしまう。けれどなかなか歩き出さないので不思議に思っているとくるりともう一度こちらを向いた。
「寂しい?」
「え?」
「服を掴んでいるから……」
「……? あ!?」
ただ眺めていたと思っていたのに私の手は勝手に動いていたらしい。慌てて手を放すと夜行さんは悩ましげな顔をしてなにも言わずに出て行ってしまった。
今日はなんのお話をしよう。彼の家まではたっぷり一時間は歩くので想像はいっぱいに膨らんでいく。
一昨日は結局二人とも疲れて寝てしまって翌朝家まで送ってくれたけれど、それでもまだ知らないことばかりだ。
見た目だけで言うなら妖しくて無敵そう、人の感情なんて分からなそう……だけど、話してみれば無敵なんかじゃなかった彼。夜行さんと呼んでいるけれどいつか呼びやすい名前を教えてくれるかな。
彼の住み家に近づくほど道は暗く鳥の鳴き声が増えてゆく。寒気がして振り返ればなんと道が塞がっていて、帰さないとでもいうような藪に驚き足を早めた。こわい話を聞いたあと一人が嫌で部屋を飛び出してしまうみたいに。続けて茨の擦れる音を聞いて走り出す。なにこれ、早く夜行さんに会いたい。はやく、こわい!
「っこんにちは!」
「おや、ほんとに走ってきた」
「!?」
「やっぱり茨かい? 足が遅いから急かしてしまったよ」
頼みの綱が犯人だったようだ。疲れて安心してその場に座り込んだ私の前で、彼もしゃがんでこちらを見下ろしてきた。手には不思議な香りがするマグを持っている。
「こんにちは。"私に会いに来た"んだろう?」
「……」
「? 〇?」
一昨日言ったことをなんでもない今掘り返してくるなんて意地が悪い。でも怒っていられるような気分ではなくて、暗い森って結構__
「ぅ……ぐすっ……」
「えっ……」
「こわ、かった」
今度こそ魔物に食べられるかと思った。一度襲われた恐怖はなかなかこびりついているみたいで、自分で操作できるものじゃなかった。泣きたくなくても涙が出てくる。彼に罪悪感を与えたいわけじゃなくて、なーんだ、って笑いたいのにこわかった。
「……ごめんね」
「ぅん」
「私はここにいるよ」
「うん」
「犯人だけど」
「うん……」
「さっきおやつ食べきっちゃったのもごめん」
「うん!」
急に立ち上がったら頭が額に当たったらしく夜行梟さんがバタッと倒れた。知らない。絶対隠し持ってるだろう甘いものを探しに適当に見つけたジュースを飲みながら戸棚を開いた。
木を荒削りして作られた戸棚には蜜の入った林檎と黄金に輝く蜂蜜、風味の良い干し葡萄が閉まってある。林檎の芯をくりぬいて蜂蜜を垂らし干し葡萄を詰めた。せっせと作業していると、背後からなにもなかったように手が伸びてきてバターで蓋をされる。
「昼食も作ってくれるのかい?」
「……っ、はい」
すんっと鼻を鳴らしたらあたたかい指先が優しく目元を拭ってゆく。背中に伝わる離れがたい温度に呼吸も落ち着いてきて、肩の力が抜けてきた。
「……あの程度の魔物でもやはり怖いんだね」
それは上から目線ではなくて、真剣な声色を含めていた。
「村の人たちもそう?」
「まあ……心底憎んでいる方もいますし」
「……」
「夜行さん?」
「火の準備をしてくるよ」
ふと体温が離れて寂しく感じた。彼は深くフードを被り直して外を向いてしまう。けれどなかなか歩き出さないので不思議に思っているとくるりともう一度こちらを向いた。
「寂しい?」
「え?」
「服を掴んでいるから……」
「……? あ!?」
ただ眺めていたと思っていたのに私の手は勝手に動いていたらしい。慌てて手を放すと夜行さんは悩ましげな顔をしてなにも言わずに出て行ってしまった。