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彼は依然としてうつくしいままであった。直接言うと「〝より〟美しくなった、だろう?」なんて言われそうだから口にはしないけれども。同じリクルーターとしては尊敬するところが多々あるのに、昔からそういうところが……まあ、そのナルシズムこそが彼が彼たる性分なのだから目を瞑らないとね。
とにかく数年ぶりの仕事でも彼は持ち前の独特なペースで上手くやっていた。明日の夜もまた飛びに行くらしく、間借りした屋敷で羽を整えているのが見えた――数十分後。私の部屋の扉が大慌てで叩かれたものだからびっくりしてしまった。
「っ、どうし――」
「〇~! 助けてくれ~!」
「助けてって……あちゃー……」
見ればマルフィが差し出してきた靴のヒール部分がぐらついて、今にも壊れてしまいそうになっている。気合を入れていたこともあり、表面自体は丁寧に磨かれているのに。
「毎晩ドタバタ大騒ぎしてるからじゃない?」
「当然だろう!? だってマスターがいらっしゃるんだ……!」
眉を下げて項垂れながら訴えてくる様子は失敗した子供のようで少し可愛いと思ってしまった。それにマスターが居るから頑張りたいという気持ちはすごくよく分かる。私はマスターと離れて仕事の補佐をしに来ているけれど、もし居たら全力出すもの。……しょうがないなあ、この烏は。
「……多分直せるけど二十四時間は欲しいから、一日だけ前のブーツ履いたらどう?」
「!! さすが〇! そう言ってくれると思っていたんだ~」
マルフィは私の返事を聞くと、これで私の美しさは保たれるだろう! なんて言いながら座った。……座った?
「……帰らないの?」
「? 私を帰すのかい?」
「……」
ぽかんとしているのをどう受け取ったのか、彼は備え付けのポットからコップにお湯を注いで紅茶を淹れた。真っ赤なハートのティーバッグは絶賛白薔薇塗り塗り中の同僚から貰ったものだ。「不思議な味がするなあ~」と言いながらごくごく飲んでいる。ほんと自由な鳥……。しかし何気なく見ているとその喉仏が大きく動いているのに気がついて、何かいけないものを見てしまった気になった。
同時に、彼の端正な横顔から視線がこちらに向いて、ばちっと目が合う。
「うん? どうかしたかい」
「……なんでも」
「照れた時に顔を逸らすせいで真っ赤な耳を見せてしまう癖は変わっていないね」
「……っ!? は……っ」
「ほら、こんなに」
耳に彼の暖かい手が触れてぞみぞみした。撫でられるとくすぐったくて逃げようとするのに、彼は笑いながら私を逃がさない。真っ黒な瞳のくせに甘い顔つきをしているのだから、こういうことをされるとほんとう、にっ……!
「まる、ふぃ……っ」
「wellwell……〇、私はね」
「……っ?」
「今年はチャンスを頂いたと思っているんだよ。もちろん仕事もそうだが、君のことも」
何を言っているのか分からない。とにかく縮こまっていると、彼はやっと「ふふっ、すまない」と笑いながら手を離して私の頭を撫でた。
「君は普段は頼もしいのに、こうしてやると年端もいかない少女のようだ。罪深いなあ」
「っぅ……なにがしたかったの……」
「おや、涙目になってしまって。これは見つかると女性陣に怒られるなあ~」
マルフィはまた二人分の紅茶を注ぐと、私に一つ差し出してから優雅に飲み始めた。まだこの部屋に居座るつもりらしい。
彼のあたたかくて大きな、角ばった手が薄い陶器製のティーカップを持ち上げている。それがさっき耳に触れていたことを意識してしまうとまた心臓がドキドキして混乱しそうだった。とにかく靴の修理を進めようと引き出しを開けるも、上手く薬剤すら見つけられないほどに。
「え、と、紐もほつれかけてるから綺麗にしとく……」
「ああ、助かるよ~」
マルフィが帰る気配はないけど、鏡を見ながら横目で私を見てくるのがわかる。まるで鳥が獲物を狙うみたいに。
まだ胸の高鳴りもうるさくて、耳もあつくて。今夜は大変な長い夜になりそう……。
とにかく数年ぶりの仕事でも彼は持ち前の独特なペースで上手くやっていた。明日の夜もまた飛びに行くらしく、間借りした屋敷で羽を整えているのが見えた――数十分後。私の部屋の扉が大慌てで叩かれたものだからびっくりしてしまった。
「っ、どうし――」
「〇~! 助けてくれ~!」
「助けてって……あちゃー……」
見ればマルフィが差し出してきた靴のヒール部分がぐらついて、今にも壊れてしまいそうになっている。気合を入れていたこともあり、表面自体は丁寧に磨かれているのに。
「毎晩ドタバタ大騒ぎしてるからじゃない?」
「当然だろう!? だってマスターがいらっしゃるんだ……!」
眉を下げて項垂れながら訴えてくる様子は失敗した子供のようで少し可愛いと思ってしまった。それにマスターが居るから頑張りたいという気持ちはすごくよく分かる。私はマスターと離れて仕事の補佐をしに来ているけれど、もし居たら全力出すもの。……しょうがないなあ、この烏は。
「……多分直せるけど二十四時間は欲しいから、一日だけ前のブーツ履いたらどう?」
「!! さすが〇! そう言ってくれると思っていたんだ~」
マルフィは私の返事を聞くと、これで私の美しさは保たれるだろう! なんて言いながら座った。……座った?
「……帰らないの?」
「? 私を帰すのかい?」
「……」
ぽかんとしているのをどう受け取ったのか、彼は備え付けのポットからコップにお湯を注いで紅茶を淹れた。真っ赤なハートのティーバッグは絶賛白薔薇塗り塗り中の同僚から貰ったものだ。「不思議な味がするなあ~」と言いながらごくごく飲んでいる。ほんと自由な鳥……。しかし何気なく見ているとその喉仏が大きく動いているのに気がついて、何かいけないものを見てしまった気になった。
同時に、彼の端正な横顔から視線がこちらに向いて、ばちっと目が合う。
「うん? どうかしたかい」
「……なんでも」
「照れた時に顔を逸らすせいで真っ赤な耳を見せてしまう癖は変わっていないね」
「……っ!? は……っ」
「ほら、こんなに」
耳に彼の暖かい手が触れてぞみぞみした。撫でられるとくすぐったくて逃げようとするのに、彼は笑いながら私を逃がさない。真っ黒な瞳のくせに甘い顔つきをしているのだから、こういうことをされるとほんとう、にっ……!
「まる、ふぃ……っ」
「wellwell……〇、私はね」
「……っ?」
「今年はチャンスを頂いたと思っているんだよ。もちろん仕事もそうだが、君のことも」
何を言っているのか分からない。とにかく縮こまっていると、彼はやっと「ふふっ、すまない」と笑いながら手を離して私の頭を撫でた。
「君は普段は頼もしいのに、こうしてやると年端もいかない少女のようだ。罪深いなあ」
「っぅ……なにがしたかったの……」
「おや、涙目になってしまって。これは見つかると女性陣に怒られるなあ~」
マルフィはまた二人分の紅茶を注ぐと、私に一つ差し出してから優雅に飲み始めた。まだこの部屋に居座るつもりらしい。
彼のあたたかくて大きな、角ばった手が薄い陶器製のティーカップを持ち上げている。それがさっき耳に触れていたことを意識してしまうとまた心臓がドキドキして混乱しそうだった。とにかく靴の修理を進めようと引き出しを開けるも、上手く薬剤すら見つけられないほどに。
「え、と、紐もほつれかけてるから綺麗にしとく……」
「ああ、助かるよ~」
マルフィが帰る気配はないけど、鏡を見ながら横目で私を見てくるのがわかる。まるで鳥が獲物を狙うみたいに。
まだ胸の高鳴りもうるさくて、耳もあつくて。今夜は大変な長い夜になりそう……。