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「ダルメシアさん……」
弱い、弱い声がした。
獣の耳は、人間の身体が振り返る前にぼたぼたと滴る水滴の音や小さなくしゃみを拾う。そして身体が追いつくと、確かにぼろぼろの仲間が見えた。
玄関にずぶ濡れで立っている。血は流れていないらしいが、肌は煤けていて爪には泥が詰まっていた。
「なんだ? また遊んでたのか?」
「いえ、脱出劇を、っはくしゅ! してて」
「ふーん。バスタオル持ってきてやるよ」
ホテルというだけあって布類は大量にある。玄関に背を向けて歩き出せば、お願いしますと小さな声が聞こえた。
その視界に入らなくなったところで足を早める。
なんなんだよ、確か今日はただの買い物だと言っていたはずじゃないか。どうして襲われてる? 雨も降っていないのにずぶ濡れに。あの煤は暖炉か? 檸檬の匂いがまとわりついてた。食人? それから__
「バスタオルありがとうございます!」
「あ? ああ。ほら」
「ひゃーつめたかったぁ!」
声をかけられて意識を戻した。
見ればふかふかのバスタオルに顔を埋めて、仔犬みたいに頭を振っている。ぎゅっと顔を縮めて涙を我慢して強がっている。
__誰だ、コイツに手を出したのは。
「おい」
「は、はい?」
「僕はマスターにいつも清潔にするよう言われてる。お前もそうしろ」
ぽかん、と口を開けているのも構わず腕を引いて、大股で廊下をずんずん進んだ。ついてくるのに必死な仔犬が何を言おうか迷って、あの、とか、えっと、とか言っている。それをそのまま、真っ白なバスルームに放り込んだ。
声は右往左往したあげく、最後にはありがとうございます、と結ばれた。
■
一時間後、僕も服を綺麗にしてからバスタイムにした。僕はもちろんマスターのものなのだから、髪の一本一本までとびっきりに美しくなければならない。
爪の間の汚れもブラシで掻き出して、ヴィランズサスーンのヘアパックをして、赤もなにもかも落とす。
すっきりしてラウンジに歩いて行けば、ソファーに座る仔犬が居た。
……うつらうつらしている。見たところ風呂上がりに食事をとったところらしいが、体力が限界なのだろう。目はほとんど閉じかけていた。
何も言わずにそっと隣に座って、髪に触れる。いつもはふわりさらさらとしているそれは湿っている。コイツ乾かす体力も無かったのか。
しょうがないからタオルで抑えて乾かしてやる。親友もマルフィも居ないから、仕方なく。今日だけ。あんなところはまだコイツには早かったと思うし、特別にだ。
「だる……さ……?」
「いい、じっとしてろ」
そう言うと完全に目をつむった。
全くコイツもまだまだ鼻が利いてないな。
と思った途端、身体が傾いてきた。動くとは思わなかったので押し返すこともできずに硬直する。
「おい……」
仔犬はそのまま本格的に寝入りだした。どうやら目をつむった途端意識が飛んだらしい。
ほとんど髪は乾いている。
風呂上がりの身体に温かい体温が染みて、こちらまで眠たくなってきた。僕だってそこそこ疲れたんだ。いい、もう寝てやる。
もたれて寝ている隣のはなにか寂しさを紛らわすようにひっついてきた。一度離しても、手を退ければすぐに元通り。どんな教育してるんだマルフィは。
……まあ、今日はいいけど。
------
怖い店に行ったら食べられそうになった(文字通り)妹ちゃんと、仲間の借りは返しに行ったダルメシア。
弱い、弱い声がした。
獣の耳は、人間の身体が振り返る前にぼたぼたと滴る水滴の音や小さなくしゃみを拾う。そして身体が追いつくと、確かにぼろぼろの仲間が見えた。
玄関にずぶ濡れで立っている。血は流れていないらしいが、肌は煤けていて爪には泥が詰まっていた。
「なんだ? また遊んでたのか?」
「いえ、脱出劇を、っはくしゅ! してて」
「ふーん。バスタオル持ってきてやるよ」
ホテルというだけあって布類は大量にある。玄関に背を向けて歩き出せば、お願いしますと小さな声が聞こえた。
その視界に入らなくなったところで足を早める。
なんなんだよ、確か今日はただの買い物だと言っていたはずじゃないか。どうして襲われてる? 雨も降っていないのにずぶ濡れに。あの煤は暖炉か? 檸檬の匂いがまとわりついてた。食人? それから__
「バスタオルありがとうございます!」
「あ? ああ。ほら」
「ひゃーつめたかったぁ!」
声をかけられて意識を戻した。
見ればふかふかのバスタオルに顔を埋めて、仔犬みたいに頭を振っている。ぎゅっと顔を縮めて涙を我慢して強がっている。
__誰だ、コイツに手を出したのは。
「おい」
「は、はい?」
「僕はマスターにいつも清潔にするよう言われてる。お前もそうしろ」
ぽかん、と口を開けているのも構わず腕を引いて、大股で廊下をずんずん進んだ。ついてくるのに必死な仔犬が何を言おうか迷って、あの、とか、えっと、とか言っている。それをそのまま、真っ白なバスルームに放り込んだ。
声は右往左往したあげく、最後にはありがとうございます、と結ばれた。
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一時間後、僕も服を綺麗にしてからバスタイムにした。僕はもちろんマスターのものなのだから、髪の一本一本までとびっきりに美しくなければならない。
爪の間の汚れもブラシで掻き出して、ヴィランズサスーンのヘアパックをして、赤もなにもかも落とす。
すっきりしてラウンジに歩いて行けば、ソファーに座る仔犬が居た。
……うつらうつらしている。見たところ風呂上がりに食事をとったところらしいが、体力が限界なのだろう。目はほとんど閉じかけていた。
何も言わずにそっと隣に座って、髪に触れる。いつもはふわりさらさらとしているそれは湿っている。コイツ乾かす体力も無かったのか。
しょうがないからタオルで抑えて乾かしてやる。親友もマルフィも居ないから、仕方なく。今日だけ。あんなところはまだコイツには早かったと思うし、特別にだ。
「だる……さ……?」
「いい、じっとしてろ」
そう言うと完全に目をつむった。
全くコイツもまだまだ鼻が利いてないな。
と思った途端、身体が傾いてきた。動くとは思わなかったので押し返すこともできずに硬直する。
「おい……」
仔犬はそのまま本格的に寝入りだした。どうやら目をつむった途端意識が飛んだらしい。
ほとんど髪は乾いている。
風呂上がりの身体に温かい体温が染みて、こちらまで眠たくなってきた。僕だってそこそこ疲れたんだ。いい、もう寝てやる。
もたれて寝ている隣のはなにか寂しさを紛らわすようにひっついてきた。一度離しても、手を退ければすぐに元通り。どんな教育してるんだマルフィは。
……まあ、今日はいいけど。
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怖い店に行ったら食べられそうになった(文字通り)妹ちゃんと、仲間の借りは返しに行ったダルメシア。