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あの烏は毎晩部屋に飛んでくるようになった。扉を叩いたり、気づいたら窓際に腰掛けていたり。繰り返していればさすがに周りも気づいたようで、今日は「マルフィが来たら渡しておいて」とお届け物まで預かってしまった。まったくもう……約束をしているわけではないから、アテにされても困るのに。
することもないので部屋を見回してみる。今年は角部屋を奪ったので、一人の内は静かだ。星の光が窓から伸び、刺繍で飾られた絨毯を照らす。もうこんなに月が傾いているんだ。
時計をみる。日付は越えていて、リクルーターといえども疲れて眠る者も多い時間帯だ。いつもはあの鳥が騒がしいから気がつかなかったけど、窓から頭を出せば周りの部屋の明かりは消えていた。
……紅茶は切らして居なかったっけ。棚を開いて確かめると真新しい紅茶缶が目に入る。昨日買ったばかりの、オリエンタルな香りのする茶葉。
あ、カップは? ポットも用意しておこう、どうせ一人でも二人でも使うし、用意しておいて困ることはない。と思ったら朝に用意した二人分のカップが綺麗に並べられていた。
……まさか、いやそんなわけない。マルフィは、昼間はむかつくほどに元気そうだった。
……。
窓をそろそろ閉めないと肌寒い。
毎晩と思っていたけれど、今日は来ないみたいだ。そう、そんな日もあるのが普通だ。約束をしているわけではないのだから。
風が吹いて来る方へ歩いて窓枠に手をかける。そして背伸びをして鍵を閉めようとしたとき、影が降りて一際寒い風が吹き込んできて目を瞑った。
「Wellwell、こんばんは。ちょっと失礼するよ、ああ、もう寒いから閉めよう。君は寒い方が好きだったかい」
軽薄な声に胸が鳴る。その時何故だか張りつめていた糸がぷつんと解けたような感覚があった。思わず力を抜いてしまうと、抜きすぎたようで尻もちをつく。
「おや……驚かせた?」
「なに、なにしてたの?」
「何? いや、特に。ああ、でもさっきまで入浴していたんだが、今日は温度がちょうどよかったな〜つい長風呂をしてしまったようだ」
「なが……ぶろ」
「うん、長風呂。それが……〇?」
マルフィは烏がいつもするみたいに、ただ目をパチクリさせて辺りを見回している。長風呂、長風呂だって。この私が待ってたのに? いいえ全然待ってなんかないってば。待ってなんか……っありえない!
「マルフィのばーか!」
「!? わたしが!?」
不貞腐れて床に寝そべり転がると、ソファまで辿り着いたところで止まった。かけてあったブランケットを引っ張り身を包む。マルフィの慌てた声が聞こえてるけど無視よ無視!
「〇、〇」
返事はしない。だっていつも向こうから来てたのに、私は仕方なく受け入れてるだけだったのに、こんなはずじゃなかったのに。
「……もしかして、だが」
柔らかなブランケットが捲られる。囁かな抵抗くらいじゃ効かなくて、マルフィの綺麗な顔がよく見えた。なにその顔、それじゃまるで、
「寂しかった?」
「……、っ!」
ぶわっと、地面から炎が湧いたと錯覚するほどに耳まで熱くなった。マルフィの暗い瞳に真っ赤な私が映っている。一番見られたくなかった私だ。しかし次の瞬間、マルフィは表情をピタリと止めて、それから私につられたようにヴィランとは思えないほどやさしくはにかんだ。
な……なにその表情。しらない、このマルフィはしらない。心臓に矢が刺さったみたい。どくどくと、血が逸る音がうるさい。
「どうだい」
手を取られる。いつもガラスに両手をぴったりくっつけて、窓越しに見ていたお姫様がされていたみたいに。私があっち側に行ったみたいに。
意思の強い瞳と目を合わされてしまえば、生意気な口はきけなかった。
「……ちょっとだけ。寂しかった、かも……」
「そうか、それは悪いことをした。わざわざティーカップまで用意もしてくれているらしい〜」
のに、マルフィがティーカップとポットを見ながらおどけた調子でそう言うものだから、直ぐに私の口は戻ってきた。
「ちがっ、あれはわたしが……ったくさん! 飲むから!」
「ふふっ、そうかい。それで……部屋に来る?」
「っ! ……えと……、……」
何度も目線をうろつかせたけど、彼はじっと私を見下ろしていて。……えと……でも……それって……。
……うん。
首を縦に、一回。それでようやく彼は口元をゆるめて、"つかまえた"と声に出さずに言った、気がした。
することもないので部屋を見回してみる。今年は角部屋を奪ったので、一人の内は静かだ。星の光が窓から伸び、刺繍で飾られた絨毯を照らす。もうこんなに月が傾いているんだ。
時計をみる。日付は越えていて、リクルーターといえども疲れて眠る者も多い時間帯だ。いつもはあの鳥が騒がしいから気がつかなかったけど、窓から頭を出せば周りの部屋の明かりは消えていた。
……紅茶は切らして居なかったっけ。棚を開いて確かめると真新しい紅茶缶が目に入る。昨日買ったばかりの、オリエンタルな香りのする茶葉。
あ、カップは? ポットも用意しておこう、どうせ一人でも二人でも使うし、用意しておいて困ることはない。と思ったら朝に用意した二人分のカップが綺麗に並べられていた。
……まさか、いやそんなわけない。マルフィは、昼間はむかつくほどに元気そうだった。
……。
窓をそろそろ閉めないと肌寒い。
毎晩と思っていたけれど、今日は来ないみたいだ。そう、そんな日もあるのが普通だ。約束をしているわけではないのだから。
風が吹いて来る方へ歩いて窓枠に手をかける。そして背伸びをして鍵を閉めようとしたとき、影が降りて一際寒い風が吹き込んできて目を瞑った。
「Wellwell、こんばんは。ちょっと失礼するよ、ああ、もう寒いから閉めよう。君は寒い方が好きだったかい」
軽薄な声に胸が鳴る。その時何故だか張りつめていた糸がぷつんと解けたような感覚があった。思わず力を抜いてしまうと、抜きすぎたようで尻もちをつく。
「おや……驚かせた?」
「なに、なにしてたの?」
「何? いや、特に。ああ、でもさっきまで入浴していたんだが、今日は温度がちょうどよかったな〜つい長風呂をしてしまったようだ」
「なが……ぶろ」
「うん、長風呂。それが……〇?」
マルフィは烏がいつもするみたいに、ただ目をパチクリさせて辺りを見回している。長風呂、長風呂だって。この私が待ってたのに? いいえ全然待ってなんかないってば。待ってなんか……っありえない!
「マルフィのばーか!」
「!? わたしが!?」
不貞腐れて床に寝そべり転がると、ソファまで辿り着いたところで止まった。かけてあったブランケットを引っ張り身を包む。マルフィの慌てた声が聞こえてるけど無視よ無視!
「〇、〇」
返事はしない。だっていつも向こうから来てたのに、私は仕方なく受け入れてるだけだったのに、こんなはずじゃなかったのに。
「……もしかして、だが」
柔らかなブランケットが捲られる。囁かな抵抗くらいじゃ効かなくて、マルフィの綺麗な顔がよく見えた。なにその顔、それじゃまるで、
「寂しかった?」
「……、っ!」
ぶわっと、地面から炎が湧いたと錯覚するほどに耳まで熱くなった。マルフィの暗い瞳に真っ赤な私が映っている。一番見られたくなかった私だ。しかし次の瞬間、マルフィは表情をピタリと止めて、それから私につられたようにヴィランとは思えないほどやさしくはにかんだ。
な……なにその表情。しらない、このマルフィはしらない。心臓に矢が刺さったみたい。どくどくと、血が逸る音がうるさい。
「どうだい」
手を取られる。いつもガラスに両手をぴったりくっつけて、窓越しに見ていたお姫様がされていたみたいに。私があっち側に行ったみたいに。
意思の強い瞳と目を合わされてしまえば、生意気な口はきけなかった。
「……ちょっとだけ。寂しかった、かも……」
「そうか、それは悪いことをした。わざわざティーカップまで用意もしてくれているらしい〜」
のに、マルフィがティーカップとポットを見ながらおどけた調子でそう言うものだから、直ぐに私の口は戻ってきた。
「ちがっ、あれはわたしが……ったくさん! 飲むから!」
「ふふっ、そうかい。それで……部屋に来る?」
「っ! ……えと……、……」
何度も目線をうろつかせたけど、彼はじっと私を見下ろしていて。……えと……でも……それって……。
……うん。
首を縦に、一回。それでようやく彼は口元をゆるめて、"つかまえた"と声に出さずに言った、気がした。