拍手文
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「〇〜居るんだろう? 〇〜?」
「なに、こんな時間に……」
「この前はありがとう。お礼に私の顔を見せてあげようかと」
「帰って!」
秋も終わりに近づく頃、高らかに靴音を鳴らして扉をドドドドドと叩いてきたのは案の定マルフィだった。ちょうどお風呂上がりでスキンケアをしていたところなのに突っ込んでくるなんて、お礼というより迷惑だ。
「おや、髪が濡れている。私が乾かしてあげよう」
「ほんとにいいって……何の用で?」
内心は心臓がバクバクしてしまいそうなのを隠しながら素っ気なく言う。彼はそんな塩対応も全く気にしていないようで、遠慮なく部屋に踏み込んで来たけれど。
「言っただろう? 君が直してくれて以降、靴は一度も壊れていないし紐も美しいままだ。そのお礼をと思ってね。なんでも私に頼みたまえ。さ、何をする?」
「んー……っと、とりあえず帰ってもらえたり」
「これがドライヤー? ヴィランズサスーンのを持ってこよう」
「聞いてないよね」
彼が手をくるりと回すと、ふわふわと奥の部屋からドライヤーとヘアアイロン、それに茨印のオイルが漂ってくる。こんなことに魔法を使うのは無駄だと思うけど……この人、魔力量だけは馬鹿みたいにあるからできちゃうんだろうな。でも羨ましいと思う暇もなく肩を掴まれた。咄嗟のことで「へ」と声を出す間に猫足の丸椅子に座らされる。鏡の方を向かされて、後ろでマルフィがタオルを手にした。
「タオルドライは大事だ。それからこのオイルも。良い香りだろう?」
「……マルフィと同じ匂いする」
「ふふ、これが終われば君も私と同じ匂いだよ。一瓶分けてあげるからこれからも使うといい」
それってずっとマルフィの匂いで居ろってこと? そんなの……断りたいところだけど、オイルを含ませた髪を触らせてもらうと確かに何度も触りたくなるくらいなめらかになっていた。悔しい……その上ドライヤーで乾かしてもらえば更に艶々だ。効果はばっちりそう……。
「ねえこれ無臭のやつとか、ひぁ!?」
「ん? ああ、すまない。〇は耳が弱いんだったなあ」
「っ、わざと……っ! ちょ、やめっ……」
髪をいじるふりをして、耳に触れられる。また耳……っ微風を当てられたり指でなぞられたり、くすぐったくて首を振った。すると彼は愉しそうにくすくすとこぼして、仕上げ用のオイルを塗ると言って髪を持ち上げる。
「もう耳はやめて……」
「耳は? それじゃあ」
「っぁ、ひ……」
つ、と軽く爪を立てるように、彼の指がうなじをなぞった。
「っちょっ、と! ふざけるにしたってやりすぎだって! 別にお礼が欲しくて直したんじゃなくて、マルフィが泣きついてきたから直しただけだし」
「なんだ、つれないな。噛みついてくる〇もなかなか珍しいからお得だが」
「お得ってなに!」
「いや、色んな君を見れるのは幸運だと思って。私と話すのはきらい?」
「はぁ……っ!?」
きらい、ってなに……。そんなこと言われると、前にマルフィがなんか言ってたのをパッと思い出してしまう。忘れようとしてたのに! たしか……チャンスがどうとか。……マルフィは私と話したいの?
「それで、きらいかい?」
「……きらいではないけど」
「そうか〜なら今晩も遅くまでお邪魔しよう。君の話を聞かせてくれ。私の世界とは大分違うようだから、生活に興味があるし」
「えっと、生活? まって、遅くまでって」
「さ、髪はあらかた乾いたよ。仕上げだけしておこう。明日の朝は楽になるはずだ」
「あ、ありがとう……じゃなくて!」
マルフィはまた以前と同じように私の部屋に居座るつもりみたいだ。ほんとう、こんなことするのあなたくらい……と言いかけて、一つの疑問が頭をよぎった。
そうだ、彼がおかしいというか、彼以外ならするはずの対応を私はしていない……つまり。
さっさと追い出したらいいのに、そうしないのはなぜ?
「マル、フィ……」
「うん?」
「……なんでもない。とにかく、えーと……居座るならなんかお土産くらい持ってきてよ」
「ああ、このワタシでいいだろう」
「よくない!」
わざと大声を出して息を乱れさせると、深呼吸した。さっきの疑問はきっと考えすぎだ。ただこの烏がナルシストで傲慢で無遠慮なだけ。
そのはずなのに、二人分の紅茶を淹れながら、何かから目をそらした時のように鳩尾がドクリとするのを感じていた。
「なに、こんな時間に……」
「この前はありがとう。お礼に私の顔を見せてあげようかと」
「帰って!」
秋も終わりに近づく頃、高らかに靴音を鳴らして扉をドドドドドと叩いてきたのは案の定マルフィだった。ちょうどお風呂上がりでスキンケアをしていたところなのに突っ込んでくるなんて、お礼というより迷惑だ。
「おや、髪が濡れている。私が乾かしてあげよう」
「ほんとにいいって……何の用で?」
内心は心臓がバクバクしてしまいそうなのを隠しながら素っ気なく言う。彼はそんな塩対応も全く気にしていないようで、遠慮なく部屋に踏み込んで来たけれど。
「言っただろう? 君が直してくれて以降、靴は一度も壊れていないし紐も美しいままだ。そのお礼をと思ってね。なんでも私に頼みたまえ。さ、何をする?」
「んー……っと、とりあえず帰ってもらえたり」
「これがドライヤー? ヴィランズサスーンのを持ってこよう」
「聞いてないよね」
彼が手をくるりと回すと、ふわふわと奥の部屋からドライヤーとヘアアイロン、それに茨印のオイルが漂ってくる。こんなことに魔法を使うのは無駄だと思うけど……この人、魔力量だけは馬鹿みたいにあるからできちゃうんだろうな。でも羨ましいと思う暇もなく肩を掴まれた。咄嗟のことで「へ」と声を出す間に猫足の丸椅子に座らされる。鏡の方を向かされて、後ろでマルフィがタオルを手にした。
「タオルドライは大事だ。それからこのオイルも。良い香りだろう?」
「……マルフィと同じ匂いする」
「ふふ、これが終われば君も私と同じ匂いだよ。一瓶分けてあげるからこれからも使うといい」
それってずっとマルフィの匂いで居ろってこと? そんなの……断りたいところだけど、オイルを含ませた髪を触らせてもらうと確かに何度も触りたくなるくらいなめらかになっていた。悔しい……その上ドライヤーで乾かしてもらえば更に艶々だ。効果はばっちりそう……。
「ねえこれ無臭のやつとか、ひぁ!?」
「ん? ああ、すまない。〇は耳が弱いんだったなあ」
「っ、わざと……っ! ちょ、やめっ……」
髪をいじるふりをして、耳に触れられる。また耳……っ微風を当てられたり指でなぞられたり、くすぐったくて首を振った。すると彼は愉しそうにくすくすとこぼして、仕上げ用のオイルを塗ると言って髪を持ち上げる。
「もう耳はやめて……」
「耳は? それじゃあ」
「っぁ、ひ……」
つ、と軽く爪を立てるように、彼の指がうなじをなぞった。
「っちょっ、と! ふざけるにしたってやりすぎだって! 別にお礼が欲しくて直したんじゃなくて、マルフィが泣きついてきたから直しただけだし」
「なんだ、つれないな。噛みついてくる〇もなかなか珍しいからお得だが」
「お得ってなに!」
「いや、色んな君を見れるのは幸運だと思って。私と話すのはきらい?」
「はぁ……っ!?」
きらい、ってなに……。そんなこと言われると、前にマルフィがなんか言ってたのをパッと思い出してしまう。忘れようとしてたのに! たしか……チャンスがどうとか。……マルフィは私と話したいの?
「それで、きらいかい?」
「……きらいではないけど」
「そうか〜なら今晩も遅くまでお邪魔しよう。君の話を聞かせてくれ。私の世界とは大分違うようだから、生活に興味があるし」
「えっと、生活? まって、遅くまでって」
「さ、髪はあらかた乾いたよ。仕上げだけしておこう。明日の朝は楽になるはずだ」
「あ、ありがとう……じゃなくて!」
マルフィはまた以前と同じように私の部屋に居座るつもりみたいだ。ほんとう、こんなことするのあなたくらい……と言いかけて、一つの疑問が頭をよぎった。
そうだ、彼がおかしいというか、彼以外ならするはずの対応を私はしていない……つまり。
さっさと追い出したらいいのに、そうしないのはなぜ?
「マル、フィ……」
「うん?」
「……なんでもない。とにかく、えーと……居座るならなんかお土産くらい持ってきてよ」
「ああ、このワタシでいいだろう」
「よくない!」
わざと大声を出して息を乱れさせると、深呼吸した。さっきの疑問はきっと考えすぎだ。ただこの烏がナルシストで傲慢で無遠慮なだけ。
そのはずなのに、二人分の紅茶を淹れながら、何かから目をそらした時のように鳩尾がドクリとするのを感じていた。