拍手文
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
騎士団夢主
_____
今晩は月のない星月夜だそうだ。窓を開いた途端冷たい夜風が部屋に吹き込んで、部屋の四隅に至るまで星の香りを運んできた。すっかり冷えてしまったことに少しだけ後悔しながら窓枠に手を置く。
きらきら、こんぺいとうのような星がチカチカと光っている。もう少し城から離れれば……例えば岬の方であればはっきり見えることだろう。
――コト、カタン。
時計は夜中の二時を指しているというのに物音がする。誰か起きているみたい。うまく眠れずに変な時間に起きてしまったことだし、少し見回りをしてみるのもいいかもしれない。
ブランケットを羽織り廊下に出れば闇に包まれた廊下が私を迎えていた。
だから、「ちょっとこわい……」なんて一人言が出てしまうのも許してほしい。でも睡眠の質は良かったのか無駄に元気を持て余していて、戻っても眠れずにやつれてしまうことは目に見えていた。
「行くか……」
「どこに?」
「っわぁあ!?」
突然闇の中から声がして、ぬっと自分より大きい何かの気配が立ち上がった気配に足がもつれる。転びながら壁にぶつかってまた滑って、最終的に酷く尻餅をつく形で廊下にへたりこんだ。
「……っ、~……っ!?」
「ええと、その……大丈夫か? すごい音がしたが」
シュッとマッチに火がつく音。途端何も見えなかった廊下に小さな灯りが現れて、相手の顔を照らした。
「が、がいあ……」
「俺だよ。お化けだと思ったか?」
「……いたい……」
「おっと。そうだったそうだった」
安心した途端じわじわと腰から伝ってくる痛みに涙が浮かぶ。とにかく立とうと廊下に手をつくと、ふっとマッチが消えて何も見えなくなった。さっきまで見えていた青い髪も、星の浮かぶ瞳も、何も。闇に襲われるようで心臓が小さくなる。
「っガイア、ガイア?」
「ここに居るさ」
「どこ? っなになに!?」
膝裏に手が回されて、逃げようとした背中も支えられる。縮こまるとふわっと身体が浮いて横抱きにされたのだと理解した。
「かなり痛そうな音がしたからな。部屋まで……いや、出てきたところか。眠れないのか?」
「そ、そうなんだけど……」
「だったらちょうどいい。俺もなかなか寝つけなくてな。夜食でも作ろうと思っていたんだ」
そう言って私を運んでいくガイアに息の乱れは一切ない。彼の力を信じていない訳ではないけれど、この人の細い腰からどうしてこんなにも力が出るんだろうと思ってしまう。
「……重くない?」
「そりゃあ人間一人分だからな。多少は重いさ」
「じゃあやっぱり自分で」
「歩かせないぞ。暗いし足元も危ない。諦めて運ばれてくれ」
こう言われてしまえば先程派手に転んだ手前歩きたいなんて言えない。しかも廊下の暗さに目が慣れてくるとガイアの首筋やらしなやかな筋肉やらが見えてきて、いけないものを見ているような気になり目をそらした。
「ずる……」
「? もう着くぞ、何が食べたい?」
オイルランプを一つ二つ灯して、キッチンを見渡す。ガイアは私を椅子に下ろしてごそごそとあちこち物色している。
「特に食べたいものはないけど、あったかいの」
「なら……略式だがスープでも作るか。ドジなお姫様がよく眠れるようにな」
誰が、ドジな、お姫様――と否定しようとしたけれど、うまく言えなかった。トントン、とまな板に包丁が当たる音のあたたかさに口が負けてしまったみたい。
こんな風に誰かに作ってもらうのはいつぶりだろう。騎士団に入ってからは家族の団欒から遠ざかっていたし、人に頼ることもあまりしなかったように思う。
「……その右下の貯蔵庫、誰かのソーセージが隠されてるよ」
「お……〇、お前も共犯だぞ」
わあ悪い顔してる。ガイアって悪い顔似合うね、と言えば彼は笑いながら鍋に塩をふった。痛みも引いてきたので立ち上がって覗き込むと、星の形をしたパスタがくつくつ柔らかく煮えている。ふんわりと美味しそうな香りが食欲をそそる……すごく美味しそう。
「少し食べてみるか? はい、あーん」
「やぁ、それは」
「あーん」
「……どうしても?」
いつだって有無を言わさないこの圧はどこから出てきてるの? 大人しく口を開けてスープを一口味わえば、ソーセージの旨みやにんじんの自然な甘さがじわりと染み出た穏やかな味に癖のある酸味がちょっとだけ。これ……! つい二口目を欲しくなってしまう。
「おいし……! この酸味なに? スープが紫色なのは?」
「それはキャベツの色だな。味はまあ、この辺じゃたしかにしない味つけかもな」
よくわかんないけど美味しい。単純な酸味ではなくて何か掛け合わせてある……わかんない! おいしい!
お姫様と言われても素直に喜べないくせに、早く飲みたくてスープ皿を二つ出してしまうあたり私も単純だと思う。
「ふふっ、気に入ってくれたみたいだな。こういうのが好きならまた食べさせてやるよ」
「ほんと? やっぱりお礼はお酒?」
「ふむ。そうだな……まあ一つ貸しだな。のんびり考えておくよ」
そうなると対価が重くなりそうで怖いんだけど……このスープを飲めばあまりの充実感に全てどうでもよくなってしまう。冷えた体も温まり、無駄にあった体力もいい感じに落ち着いてきた。
最後の一口を眠気と共に飲み干す。
「どうだ〇、眠れそうか?」
「ん……うん、うん」
「力抜いてろ。運んでやるから……おやすみ、いい夢見ろよ」
〇はひと撫ですれば腕の中ですやすやと眠り始めた。ここまで幸せそうな寝顔を見せられてしまうと、俺みたいなのの前でこうも警戒心なくふにゃふにゃするなんて大丈夫か? と心配になる。もし薬でも混入させたら一発なのに――
「むにゃ……がぃぁ……」
「……」
――試されているのは俺の方だったか。
_____
今晩は月のない星月夜だそうだ。窓を開いた途端冷たい夜風が部屋に吹き込んで、部屋の四隅に至るまで星の香りを運んできた。すっかり冷えてしまったことに少しだけ後悔しながら窓枠に手を置く。
きらきら、こんぺいとうのような星がチカチカと光っている。もう少し城から離れれば……例えば岬の方であればはっきり見えることだろう。
――コト、カタン。
時計は夜中の二時を指しているというのに物音がする。誰か起きているみたい。うまく眠れずに変な時間に起きてしまったことだし、少し見回りをしてみるのもいいかもしれない。
ブランケットを羽織り廊下に出れば闇に包まれた廊下が私を迎えていた。
だから、「ちょっとこわい……」なんて一人言が出てしまうのも許してほしい。でも睡眠の質は良かったのか無駄に元気を持て余していて、戻っても眠れずにやつれてしまうことは目に見えていた。
「行くか……」
「どこに?」
「っわぁあ!?」
突然闇の中から声がして、ぬっと自分より大きい何かの気配が立ち上がった気配に足がもつれる。転びながら壁にぶつかってまた滑って、最終的に酷く尻餅をつく形で廊下にへたりこんだ。
「……っ、~……っ!?」
「ええと、その……大丈夫か? すごい音がしたが」
シュッとマッチに火がつく音。途端何も見えなかった廊下に小さな灯りが現れて、相手の顔を照らした。
「が、がいあ……」
「俺だよ。お化けだと思ったか?」
「……いたい……」
「おっと。そうだったそうだった」
安心した途端じわじわと腰から伝ってくる痛みに涙が浮かぶ。とにかく立とうと廊下に手をつくと、ふっとマッチが消えて何も見えなくなった。さっきまで見えていた青い髪も、星の浮かぶ瞳も、何も。闇に襲われるようで心臓が小さくなる。
「っガイア、ガイア?」
「ここに居るさ」
「どこ? っなになに!?」
膝裏に手が回されて、逃げようとした背中も支えられる。縮こまるとふわっと身体が浮いて横抱きにされたのだと理解した。
「かなり痛そうな音がしたからな。部屋まで……いや、出てきたところか。眠れないのか?」
「そ、そうなんだけど……」
「だったらちょうどいい。俺もなかなか寝つけなくてな。夜食でも作ろうと思っていたんだ」
そう言って私を運んでいくガイアに息の乱れは一切ない。彼の力を信じていない訳ではないけれど、この人の細い腰からどうしてこんなにも力が出るんだろうと思ってしまう。
「……重くない?」
「そりゃあ人間一人分だからな。多少は重いさ」
「じゃあやっぱり自分で」
「歩かせないぞ。暗いし足元も危ない。諦めて運ばれてくれ」
こう言われてしまえば先程派手に転んだ手前歩きたいなんて言えない。しかも廊下の暗さに目が慣れてくるとガイアの首筋やらしなやかな筋肉やらが見えてきて、いけないものを見ているような気になり目をそらした。
「ずる……」
「? もう着くぞ、何が食べたい?」
オイルランプを一つ二つ灯して、キッチンを見渡す。ガイアは私を椅子に下ろしてごそごそとあちこち物色している。
「特に食べたいものはないけど、あったかいの」
「なら……略式だがスープでも作るか。ドジなお姫様がよく眠れるようにな」
誰が、ドジな、お姫様――と否定しようとしたけれど、うまく言えなかった。トントン、とまな板に包丁が当たる音のあたたかさに口が負けてしまったみたい。
こんな風に誰かに作ってもらうのはいつぶりだろう。騎士団に入ってからは家族の団欒から遠ざかっていたし、人に頼ることもあまりしなかったように思う。
「……その右下の貯蔵庫、誰かのソーセージが隠されてるよ」
「お……〇、お前も共犯だぞ」
わあ悪い顔してる。ガイアって悪い顔似合うね、と言えば彼は笑いながら鍋に塩をふった。痛みも引いてきたので立ち上がって覗き込むと、星の形をしたパスタがくつくつ柔らかく煮えている。ふんわりと美味しそうな香りが食欲をそそる……すごく美味しそう。
「少し食べてみるか? はい、あーん」
「やぁ、それは」
「あーん」
「……どうしても?」
いつだって有無を言わさないこの圧はどこから出てきてるの? 大人しく口を開けてスープを一口味わえば、ソーセージの旨みやにんじんの自然な甘さがじわりと染み出た穏やかな味に癖のある酸味がちょっとだけ。これ……! つい二口目を欲しくなってしまう。
「おいし……! この酸味なに? スープが紫色なのは?」
「それはキャベツの色だな。味はまあ、この辺じゃたしかにしない味つけかもな」
よくわかんないけど美味しい。単純な酸味ではなくて何か掛け合わせてある……わかんない! おいしい!
お姫様と言われても素直に喜べないくせに、早く飲みたくてスープ皿を二つ出してしまうあたり私も単純だと思う。
「ふふっ、気に入ってくれたみたいだな。こういうのが好きならまた食べさせてやるよ」
「ほんと? やっぱりお礼はお酒?」
「ふむ。そうだな……まあ一つ貸しだな。のんびり考えておくよ」
そうなると対価が重くなりそうで怖いんだけど……このスープを飲めばあまりの充実感に全てどうでもよくなってしまう。冷えた体も温まり、無駄にあった体力もいい感じに落ち着いてきた。
最後の一口を眠気と共に飲み干す。
「どうだ〇、眠れそうか?」
「ん……うん、うん」
「力抜いてろ。運んでやるから……おやすみ、いい夢見ろよ」
〇はひと撫ですれば腕の中ですやすやと眠り始めた。ここまで幸せそうな寝顔を見せられてしまうと、俺みたいなのの前でこうも警戒心なくふにゃふにゃするなんて大丈夫か? と心配になる。もし薬でも混入させたら一発なのに――
「むにゃ……がぃぁ……」
「……」
――試されているのは俺の方だったか。