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「ねえ〇、今日はなにもやることがないんだろう?」
「ないけど……したいことがないとは言ってないよ」
「分かった! 私とデートに行こう」
「聞いてた?」
朝食を摂りに来たらこれだ。座った途端イライはずずいっと隣席まで引っ越してきて、そのまま私の予定を決めてしまった。
呆れてしまったせいで目玉焼きにぷつんとフォークが入り、皿がこっくりとした黄色に飲み込まれてゆく。
「おや、私のと交換しようか?」
「……いいよ、これで」
それも彼は全くの神経が図太い人という訳でもなくて、変なところ気が利くから怒るに怒れない。小鉢に人参のグラッセが入っているのだって彼が私の好みを知って用意してくれたものなのだ。
今日元々したかったことといえば、イソップくんにメイクを教わるつもりだった。そのあとは__
「〇?」
「……ううん。イライはどこに行きたいの?」
「ベッドかな」
「デートは!?」
それじゃあ来た道を戻ってたったの五分だ。イライは目を細めて日だまりに溶けるような笑みを浮かべているのに、その顔からさらりと吐き出された衝撃の言葉に目が眩む。同じテーブルについている他の人を見ると、ノートンさんは興味なさげにひたすらパンケーキを口に運んでいるし、マイクは半ば寝ぼけながらオレンジに齧りついている。まるでこの状況が普通のように思える__けれど、イソップくんは具合が悪そうな顔色だし、ビクターくんも焦っているのを見て安心した。私の感覚は間違ってない……はず……。
「〇……〇? ぼんやりしているのも可愛いなあ」
「あ……ちょっとね、どうしようかと思って……」
「迷うことなんてないよ、準備はしてあるから」
そう微笑んでスッとイライがローブから見覚えのあるものを取り出した、瞬間奪って自分のポケットにねじこむ。
記憶違いでなければ、それは個包装のローションだった。ポケットの中でぷにぷにと触ってみても間違いない。口に含んでも大丈夫だとこの前イライが自慢してた気がするやつだ。
「おっと」
「い、イライあのね、まだ朝」
「こっちがいい?」
「う!?」
今度はフードから別のローションが出てきてすぐにフードの前を閉じた。ハンターも居ないのに心臓が酷くドクドクする。どこでイライは手品みたいなこと覚えてきたんだろう。
ていうか、見られてない……よね?
「……」
「……っ」
「あ、えっと……」
「一つ落ちてるよ」
「!」
ノートンさんが投げた瞬間、頭が真っ白になった。イライはフードを閉じられたまま穏やかに礼を述べている。時計は八時を指している。もう……どこからなにを言えばいいのかわからない。
席を立つと今更慌てたようにイライが追ってきて、振り返れば梟につつかれているのが確認できた。やけくそになって開いたのは自室の扉だ。ほらね、すぐ着いた。でも、本当は……本当は、いつもより可愛い格好をしたかった。たとえばおしゃれ着を身に纏って遊園地。風車を吹いて永眠町。なのに、だけど。
「……夕方、お腹空いたらなにか作って」
「え……? い、いいのかい? ほんとに?」
一度頷けば、イライはフードを脱いで目隠しを投げ捨てた。欲に浸った双眸が決して逃がさないというようにこちらを見下ろしている。喉仏がごくんって動いた。
「ごめんね、お出かけは今度しよう」
「ないけど……したいことがないとは言ってないよ」
「分かった! 私とデートに行こう」
「聞いてた?」
朝食を摂りに来たらこれだ。座った途端イライはずずいっと隣席まで引っ越してきて、そのまま私の予定を決めてしまった。
呆れてしまったせいで目玉焼きにぷつんとフォークが入り、皿がこっくりとした黄色に飲み込まれてゆく。
「おや、私のと交換しようか?」
「……いいよ、これで」
それも彼は全くの神経が図太い人という訳でもなくて、変なところ気が利くから怒るに怒れない。小鉢に人参のグラッセが入っているのだって彼が私の好みを知って用意してくれたものなのだ。
今日元々したかったことといえば、イソップくんにメイクを教わるつもりだった。そのあとは__
「〇?」
「……ううん。イライはどこに行きたいの?」
「ベッドかな」
「デートは!?」
それじゃあ来た道を戻ってたったの五分だ。イライは目を細めて日だまりに溶けるような笑みを浮かべているのに、その顔からさらりと吐き出された衝撃の言葉に目が眩む。同じテーブルについている他の人を見ると、ノートンさんは興味なさげにひたすらパンケーキを口に運んでいるし、マイクは半ば寝ぼけながらオレンジに齧りついている。まるでこの状況が普通のように思える__けれど、イソップくんは具合が悪そうな顔色だし、ビクターくんも焦っているのを見て安心した。私の感覚は間違ってない……はず……。
「〇……〇? ぼんやりしているのも可愛いなあ」
「あ……ちょっとね、どうしようかと思って……」
「迷うことなんてないよ、準備はしてあるから」
そう微笑んでスッとイライがローブから見覚えのあるものを取り出した、瞬間奪って自分のポケットにねじこむ。
記憶違いでなければ、それは個包装のローションだった。ポケットの中でぷにぷにと触ってみても間違いない。口に含んでも大丈夫だとこの前イライが自慢してた気がするやつだ。
「おっと」
「い、イライあのね、まだ朝」
「こっちがいい?」
「う!?」
今度はフードから別のローションが出てきてすぐにフードの前を閉じた。ハンターも居ないのに心臓が酷くドクドクする。どこでイライは手品みたいなこと覚えてきたんだろう。
ていうか、見られてない……よね?
「……」
「……っ」
「あ、えっと……」
「一つ落ちてるよ」
「!」
ノートンさんが投げた瞬間、頭が真っ白になった。イライはフードを閉じられたまま穏やかに礼を述べている。時計は八時を指している。もう……どこからなにを言えばいいのかわからない。
席を立つと今更慌てたようにイライが追ってきて、振り返れば梟につつかれているのが確認できた。やけくそになって開いたのは自室の扉だ。ほらね、すぐ着いた。でも、本当は……本当は、いつもより可愛い格好をしたかった。たとえばおしゃれ着を身に纏って遊園地。風車を吹いて永眠町。なのに、だけど。
「……夕方、お腹空いたらなにか作って」
「え……? い、いいのかい? ほんとに?」
一度頷けば、イライはフードを脱いで目隠しを投げ捨てた。欲に浸った双眸が決して逃がさないというようにこちらを見下ろしている。喉仏がごくんって動いた。
「ごめんね、お出かけは今度しよう」