ホワイトデーも戦争だ
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─ほんの数十分前。
「終一!」
図書室にでも行こうかと歩いていたら、百田くんが手をあげながら声をかけてきた。もう片方の手には少し大きめの箱を持っている。中身は僕もわかっている。綺麗にラッピングされているから、春川さんにお返しするチョコレートだ。…まぁ、中身は赤松さんたちにお返ししたチョコと同じものではあるんだけど。春川さんには別に、赤松さんたちにお返ししたチョコよりも大きいチョコを用意して渡すつもりらしい。まだ持ってるってことは春川さんが見つからないんだろうな。
「…ったく、ハルマキの奴どこ行っちまったんだ?テメーは赤松に渡せたのか?」
「うん。音楽室を覗いたらピアノ弾いてるところだったから…。赤松さんしかいなかったし、今のうちにと思って渡してきたよ。春川さんは僕も見てないかな…」
「このままだとオレの最高傑作が溶けちまうからな。早いとこ見つけねーと……」
そんなことを話していたら図書室の扉が開いて、ちょうど春川さんが中から出てくるところだった。春川さんも本を読んだりするんだな…。
「意外だと思ってるんでしょ」
「えっ?」
「あんた、顔に書いてあるよ。私だって本くらい読むから」
「ご、ごめん……」
「お、ハルマキ!テメーを捜してたんだよ!」
「私を?」
百田くんは「バレンタインのお返しだ」と言って、手に持っていたチョコを春川さんに手渡した。その瞬間、春川さんの頬がうっすらと赤く染まった。
「あ、ありがとう……」
「おう!中身はチョコなんだけどよ。ただのチョコじゃないぜ。宇宙に轟く百田解斗が作ったチョコだからな!まぁ、開けてみろ」
春川さん自身もなんとなく想像がついたのか、何か言いたそうにしながらも百田くんに促されてラッピングを解いて箱を開けた。…が、その直後。春川さんの表情は一瞬にして凍りついてしまった。彼女はじっと箱の中身を見つめていたけど次第に視線は鋭くなり、溢れんばかりの殺気のこもった目でギロリと百田くんを睨み付けた。
「……これ、百田が作ったの?」
「ああ、なかなかいい出来だろ?」
すると春川さんは百田くんに勢いよくチョコが入った箱を押し返し―……。
「こんなもの作って渡すなんて、あんた……殺されたいの!!?」
そう叫んで、彼女は走り去ってしまった。まさかこんなことになると思わなかった百田くんはしばらく呆然としていたけど、ハッとして押し返されたチョコを覗き込んだ。
「どういうこと?百田くんが作ったのって宇宙船の形をしたチョコだったよね」
「あ、ああ…そのはずだ。間違いねー!ハルマキの奴何を―……って、んだこりゃ!!?」
箱の中身を覗いた百田くんが驚きの声をあげたので僕も覗いてみたけど…。それを見て、春川さんの反応は正しかったのだということがすぐにわかった。
「なっ……な……?」
百田くんは青ざめた顔をしながら、何が起きてるのかまったくわからないといった様子で箱の中身を凝視している。
その時。百田くんから携帯の着信音が響いてきて、彼はディスプレイを確認するとすぐに電話に出た。
「何の用だ王馬?今はテメーに構ってる場合じゃ―……」
『あ、もしかしてグッドタイミング?チョコは春川ちゃんに喜んで貰えたかな?』
電話の相手は王馬くんだったみたいだ。同じ学園にいるのに、なんでわざわざ電話を?しかもこのタイミング……まさか。
「ど、どういうことだ?さてはテメーの仕業か!!?」
『あったりー!ちょっとしたサプライズでね!百田ちゃんが作った宇宙船型のチョコをチ◯コ型のチョコとすり替えておいたよ!』
百田くんが通話をスピーカーに切り換えたので今度は僕にまで聞こえてきた。悪い意味でならサプライズは成功だ。こんなもの春川さんじゃなくても怒るぞ。
「ふざけんな!何がサプライズだ、ドン引きじゃねーか!!」
『あ、ちなみに宇宙船型のチョコはオレが美味しく食べてあげたから安心してね!』
「はぁ!!?」
……やっぱり。王馬くんのイタズラだったみたいだ。春川さんには事情を説明すればなんとかわかってもらえるかもしれないけど…。百田くんの怒りが収まるかどうか。でも王馬くん、本当に百田くんのチョコ食べちゃったのかな?
「テメー、今どこだ!?取っ捕まえてやるから覚悟しやがれ!!……終一!オレは王馬を捜してくるから、すまねぇが後は頼む!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!こんなもの押し付けられても困るよ!」
百田くんは電話を切ると、王馬くんを捜し出すため 例のチョコを僕に押し付けてそのまま走り去っていった。……ど、どうしたらいいんだよこれ。僕だってこんなもの持ってるところを誰かに見られたらただ事じゃないぞ。早く処分しないと…。
「……なんでこれ、こんなにリアルなんだ?」
「あ、おーい!最原くん!」
「あっ!?…か、まつさん!!?」
何故よりにもよってこのタイミングで!?いつもは音楽室にこもってるくらいなのに!まずい、こんなもの赤松さんに見せるわけにはいかないぞ!彼女は精神的にダメージを食らうし、僕の株も急降下だ。良いことは1つもない!
「あれ?それ何持ってるの?」
……ああ、最悪だ。
*
「にしし~。イタズラ大成功だね!」
電話の相手は百田だったようだ。王馬はニヤニヤしながら携帯をしまった。しかし会話の内容がなんとも……。一番の被害者は春川だな。
「……ホワイトデーなのに、さすがに酷いんじゃないか」
「ああ、安心してよ。百田ちゃんのチョコなら、ちゃんと春川ちゃんの部屋にこっそり置いてきたからさ」
まぁ、それはそれで今度は事の顛末を知った春川に追いかけられる羽目になりそうだが。
「百田ちゃん、オレを捕まえるってさー。もしここに来たら六路木ちゃん、オレを護ってくれる?」
「いや…それはお前が悪いのだし、きちんと謝罪するべきじゃないのか」
「わかってるよ!わかってるけど、今はほら…もうちょっと六路木ちゃんと一緒にいたいっていうか…。邪魔、されたくないし……」
王馬は私の腕に引っ付いて甘えるようにすり寄ってくると、上目遣いにチラッと見上げてきた。ぐっ、かわい……いやいや!ほだされるな私。どうせ百田から逃れるために都合のいいことを言ってるだけなんだ。
「ね……六路木ちゃん」
ああああああ!!!
「……私も一緒に行くから。後で、ちゃんと謝るんだぞ」
正しい判断とは言い難いが…。私も王馬に毒されているのかなんなのか。
「ねぇ六路木ちゃん。来年は一緒に作ろうよ」
なんだと?バレンタインはうんざりだと言ったはずだぞ。仮に作るとしても……。
「……1人で作る」
「えー!なんでなんで!?」
「来年はもっとすごいの作って度肝抜かせてやるからな」
実はバレンタインの日。味は美味しいと言ってもらえたが、初めて作ったせいで見た目が悲惨なことになっていた。次は暗黒物質だなんて言わせない。首を洗って―……いや違う。長くして待っていろ。
「六路木ちゃんもけっこう負けず嫌いなとこあるよねー。まぁ、今年は今年でコンビニチョコ買ってきたことに驚きはしたんだけどさ」
「やかましい」
「にしし…。いいよ!じゃあ来年もよろしくね!オレももっと頑張っちゃうよ!」
結局またバレンタイン、ホワイトデーにお互いが驚くようなお菓子を作ることになってしまった。王馬相手だとなかなか難易度が高いミッションだが…。脳みそフル回転させれば何とかなるだろう。
……ふむ、悪くない。たまにはこんな日があってもいいかもな。
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