バレンタインは戦争だ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ちょっと…。あんたら、何騒いでるの」
「あ…春川さん。ごめんね」
さすがにうるさかったみたいだ。春川さんが顔をしかめながら廊下に出てきた。王馬くんが去っていった方を見ながらため息をついて。
「今の、王馬でしょ。覗いてたのは気づいてたけど。……あいつ、六路木のこと好きなの?」
「え?いや…好き、だとは思うけど。そういう好きではないような気がする」
「ふーん。なら別にいいじゃん。私も赤松も王馬に渡すつもりだし、買ったやつとはいえ、六路木だって王馬に渡すつもりなんでしょ。それで十分だと思うけど」
春川さんの言うとおりだ。特別な好意がないのなら、何も手作りに拘る必要はない。実際六路木さんをどう思ってるかなんて王馬くん本人にしかわからないわけだけど…。手作りが欲しかったなら素直に言えばよかったのに。六路木さんの性格をわかっていながらもあんな発言して、自業自得としか言えない……。
「うん…そうだよね」
「……はぁ」
─バレンタイン当日。
「はい、どうぞ!ガトーショコラ作ったから、みんなで食べてね」
お昼に食堂でご飯を食べているとき、赤松さんと春川さんが僕たちのために作ってくれたチョコを持ってきた。赤松さんが気になってる僕としては 本命なんて貰えちゃったりしないかと少しばかり期待したけど……これだけでも十分嬉しいし、それに美味しそうだ。
「これ作ったんすか?ありがとうございます」
「うん。今いない人の分は取ってあるから安心していいよ」
「ありがとう、赤松さん」
「私はこれ。あとこっちの生チョコが六路木からだよ」
「赤松もハルマキもサンキューな!…で、肝心の六路木はどこに行っちまったんだ?」
「さぁ…。なんか準備があるから先に行っててくれって」
言われてみれば六路木さんの姿が見えない。と思っていたら、たった今王馬くんと一緒に食堂にやってきた。手には何やら紙袋を持っている。
「あ、六路木さん!今チョコ貰ったっすよ。ありがとうございます」
「ああ、どうぞ。私の方こそいつも世話になってるからな。ありがとう。しかし…驚いたよ。校門のところ見たか?」
校門、と言われて思い出した。そういえば今日は朝からいつもより騒がしかった気がする。
「何かあったのか?」
「チョコだよ、チョコ。バレンタインだからさ。希望ヶ峰には超高校級のアイドルなんてのもいたくらいだし、みんなの憧れなわけでしょ。他の超高校級にファンがいてもおかしくないし、みんな渡すチャンスを狙って群がってるんだよ」
なるほど、そういうことだったか。確かに生徒と関係者でなければ出入りはできないし、本人に手渡そうとすれば どのタイミングで出てくるかもわからないから、朝からずっと見張ってるしかなくなってしまう。……なんだか想像すると怖いな。今日が休日でなければそこまで人も多くなかっただろうけど。
「……で、六路木ちゃん。みんなには配ってあるみたいだけど、オレのチョコは?六路木ちゃんがくれないなら 他の女の子から貰っちゃおうかなー」
「まぁ待て。お前のはこっちだ。はい」
六路木さんは手に持っていた紙袋を王馬くんに手渡した。そして王馬くんが中を覗いてみると。
「……信じられない。本当にコンビニで買ってきやがったよ、この人」
僕も覗いてみると 確かにそれはコンビニで買ったものばかりだった。バッチリ値段が書いてある。これには王馬くんも絶句だな…。
「ああ。言ったとおり、二千円分の詰め合わせだぞ。口コミで人気のスイーツばかりだ。これなんかはバレンタインの新商品らしくてな」
「企業の思惑に乗るなよ!貰えるだけ嬉しいし、感謝はするけどさ…。これじゃない感がすごいんだよね。最原ちゃん、今のオレの心境がわかる?」
気持ちはわかるけど僕に振らないでほしい。
「手作りは食べられないと聞いて思ったんだが、こういうスイーツだってどこかの誰かが作ったものなんじゃないか?」
「…………」
六路木さんがそう言うと王馬くんは黙りこくってしまった。それはそうだ。
「うわぁあああん!!!!六路木ちゃんの馬鹿ぁあああ!!!!」
「ああもう、わかったわかった。プァンタもあげるから機嫌直してくれ」
部屋にあるから…ということで、六路木さんは泣き叫ぶ王馬くんを連れて食堂から出ていった。
「すごいなぁ、みつばちゃん…。自然に事が進んだよ」
「そうだね」
「え、何の事?」
「ああ、ごめん!こっちの話!それより最原くん、放課後時間ある?ちょっと用事があるから付き合って欲しいんだけど……」
用事?何だろう。赤松さんのことだから、ピアノ関係とか?また連弾したいって話かな。……バレンタイン、は…関係ないよな。さすがに。自意識過剰だ。
「うん、わかった。いいよ」
「百田。私も話あるから、後で時間作ってくれる?」
「それは構わねーが…。どうした?今じゃ駄目なのか?」
「……いいから」
「お、おう…。わかった」
·