キミの隣は…
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ガチャッ
「どうぞ」
「ん。お邪魔します」
六路木さんを部屋に招き入れると、彼女はキョロキョロと部屋の中を見回していた。
「どうしたの?何か気になるものあった?」
「いや…。さすが最原、きちんと整理されているなと思って。王馬の部屋なんかは色々散らばっているからな」
「えっ…。王馬くんの部屋に入ったことあるの?」
「ああ」
どうして六路木さんだけ?他の…例えば、東条さんがみんなの部屋を掃除しようと思って王馬くんの部屋にも入ろうとすると、王馬くんは臨戦態勢で扉の前に立ちはだかって中に入られるのを断固拒否する。それくらいなのに…。やっぱり六路木さんは護衛してるから別ってこと?それとも何か他の理由が…?
「それで…えっと、私はどこに座ればいい?」
「あっ、ごめん!じゃあベッドの上にでも座って」
何故ベッドの上を指定したかと言われれば、それは僕が彼女の隣に座りたかったからなんだけど。六路木さんがベッドに座ると、肩にかかっていた髪がさらりと流れて思わずドキッとした。ああ…やっぱり綺麗だな。普段はクールだけど、時折笑ってみせる顔が好き。佇まいが綺麗なのも、仕草が色っぽいところも好き。たまにだけど、ドジを踏むところもかわいくて好き。…好き、なんだ。
「ところで、今日はどんな用事が?」
「用事っていう用事は…特にないかな。ただ六路木さんと一緒に過ごしたいなと思って。理由がなくちゃ駄目?」
「え、いや…。駄目ではないが、お前のことだから何かあるんだと思ってたんだ。それならそれで私も構わないよ」
良かった…と思いつつ、視線を落としながらふと彼女の手元に目をやった時。僕は無意識に彼女の手を掴んでいた。
「六路木さん、怪我してる」
「んん…?あ、これか。たいした怪我じゃないが…王馬の相手をするのもなかなか大変だな」
「まさか王馬くんにやられたの!?」
「違うよ。仕掛けたイタズラやら何やらに王馬が自分で引っ掛かりそうになったり、二次災害から庇ったりしてな。こういった怪我は、本来なら王馬が受けていたはずのものだ。私が怪我をしている分だけ王馬を護れているんだから、これでいいんだよ」
「…他の危険から護ったとかならともかく。それ、王馬くんがイタズラさえしなければ六路木さんはこんなに怪我してないんだよね」
それはそうだな、と六路木さんは呆れたようにため息をついた。駄目だよ…こんなの。僕はこんな怪我でも、キミが傷ついてるのを見るのは辛いんだから。
「……護衛官だからって当たり前だと思わないでね。六路木さんだって女の子なんだから。せっかく綺麗な手をしてるのに…」
「えっ?」
「やっぱり手入れとかしてるの?」
「あ…えっと…。ま、まぁ護衛官とはいえ、これでも一応女だからな。肌の手入れはそれなりにしてるつもりだ。実は髪を伸ばしてるのも、女らしくした方がいいかと思ってのことなんだ。護衛には少し邪魔だけど…」
「そうなんだ。…うん。髪も、綺麗だよ」
彼女の髪を指に絡めながらチラッと上目遣いに見上げると、六路木さんは顔を真っ赤にして固まっていた。あ、その顔も…いい。
「六路木さんって、女の子扱いされると照れるよね。…かわいい」
「はっ!?…なんっ何だお前はさっきから!!さっ最原だよな!?どうした?なんだか部屋に入ってからおかしいぞ!?」
王馬くんの気持ちがわかった気がする。もっと笑ってほしい。色んな顔を見せてほしい。もっともっと僕だけを見てほしい。
「さ、最原…?」
「僕…好きなんだ。好き、です」
「え」
六路木さんはポカンとした表情で僕を見つめてきた。顔が熱い…。きっと僕も真っ赤になってるんだろうな。
「す、好き…?」
「うん」
「………好き。それは、知ってるぞ。楓のことだよな?」
「……え、え!!?!?」
まさかの展開に、思わず大きな声をあげながら身を乗り出してしまった。その勢いに驚いたのか、六路木さんも僅かに身を引いた。
「ちょっ、ちょっと待って!どうして今の流れでそうなるの!?」
「え!?いや、流れというか…。私はてっきり、最原は楓のことが好きなんだと…思ってたから…。え?」
「うっ…そう見えてたんだね。確かに一緒にいることは多いけど…。違うよ。赤松さんは明るいし、行動力もあるからさ。僕にとって憧れの存在って感じかな。本人もそれ知ってるし…」
しまった!思い返せば、さっきの言い方じゃ一言足りないじゃないか!これじゃ誰に向けて言ってるのか紛らわしいよ!!これだから僕は駄目なんだ…。
「違う…そうじゃない…。と、とにかく!僕が好きなのは六路木さん!キミなんだよ!!」
「そ、そうだったのか。ありがとう?私も最原のことは好きだよ」
あああ…!駄目だ。それはそれで嬉しいけどちゃんと伝わっていない!どうしよう。どうすればいいんだ!?このままだと、ちゃんと伝わってもいないのに六路木さんはまた王馬くんのところへ戻ってしまう。嫌だ、嫌だよ。絶対に王馬くんに取られてたまるか。……あ、そうか。
「…護衛、してるんだよね。王馬くんの」
「え?ああ、そうだな」
「僕のことも、護衛してよ」
そうだ。そうだよ。王馬くんと六路木さんが一緒にいるのは護衛を依頼してるからだ。僕も護衛をお願いすれば、六路木さんは僕のところへ来てくれる。ずっとずっと一緒にいられる…!
「最原を、護衛?それ自体は問題ないが…。ただ、王馬とは希望ヶ峰を卒業するまでの契約で…」
「そんなに待てないよ。王馬くんとの契約を破棄しろとまでは言わないけど、少し調整して僕の依頼も受けてもらえると嬉しいな。…もちろん、六路木さんが無理しない程度にね」
六路木さんは悩んでいるようだった。日が別々になるとはいえ、さすがに2人一緒に護衛をするのは大変かもしれない。…けど、彼女と常に一緒にいられる方法は今のところこれだけだ。逃したくない。
「だからさ、僕を護ってよ六路木さん。その代わり、キミのことは僕が護るから。何があっても、何をしてでも。…ね?」
「ううん…。何と言われるかわからないが…わかった。とりあえず王馬に相談してみるよ」
「本当?ありがとう!」
やった!これで…これで僕も彼女と一緒にいられる!その機会さえ作ってしまえばこっちのものだ。まぁ返事は…もともとすぐに貰えるとは思ってなかったから、これは後から。少しずつ本気なのをわかってもらってから改めて聞こう。……あとは。王馬くんから完全に奪うだけだ。
「ねぇ、できれば僕のことも名前で呼んでほしいな。赤松さんのことも名前で呼んでるんだし…いいよね?」
「それは構わないぞ。…終一、でいいか?」
名前を呼ばれた直後、僕は彼女の頬に唇で触れていた。先ほど王馬くんに口付けされた場所へ上書きするように。
「なっ…何なんだ、最原まで!そういう冗談は―…」
「冗談じゃないよ。僕、本気だからね」
「へっ……」
「もっとキミのこと知りたいな。誰にも見せてない、奥深くまで」
僕は探偵だ。それなら、僕は僕らしく…ね。
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