キミを笑わせたい
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねぇ王馬くん…もういいでしょ」
「いーや、まだだね!!」
昼食後。再び六路木さんを追いかけて中庭までやってきた。普通に六路木さんにも迷惑だろうし、そろそろこの辺でやめた方がいいと思うんだけど。今度は一体何をしようって言うんだ。
「ほら、あそこの芝生見えるでしょ?」
「え?うん…見えるけど」
……見えるけど?待てよ。何だか微妙に周囲と比べて色が違うように見えるというか、何となく違和感を感じる。…まさか。
「にしし…気づいたみたいだね。そう!実はあそこに落とし穴を作っておいたんだよ!!ゴン太に手伝わせてね!!」
「ゴン太くんに何させてるんだよ!!」
「オレってば用意周到だよねー。今度は誘き寄せてあそこに落としてみようよ。さすがの六路木ちゃんも怒るか驚くかくらいするでしょ」
「落とし穴って…。いくらなんでも危ないだろ。怪我でもしたらどうするんだよ」
「大丈夫だよ。そんなに深く掘ってないから。せいぜい、六路木ちゃんの下半身が埋まるくらいかな」
「だいぶあるじゃないか!」
そんなことを話していると六路木さんが落とし穴の方まで近づいてきた。それを確認した王馬くんは、しーっと唇に指を当てながら落とし穴の方へ走っていってしまった。
「ねぇねぇ!六路木ちゃーん!」
「またお前か、王馬…」
「ちょっとこっち来てよ!オレすごいもの見つけちゃった!」
「すごいもの…?なんだそれは」
「見せてあげるからこっちおいでよ。こっちこっち」
首を傾げる六路木さんを、王馬くんが手招きしながら上手いこと誘導していく。六路木さんはそれに従って、一歩一歩足を進めていった。そうして落とし穴の上へと―…。
「王馬。一体なに――…っ!!?」
ガクンッと六路木さんの体が揺れたかと思うと、王馬くんの言った通り六路木さんは下半身だけ地面に埋まる形で落とし穴へと落ちてしまった。
「あはははっ!!引っ掛かったー!最原ちゃーん!大成功だよ!!」
王馬くんに名前を呼ばれて、僕も慌てて六路木さんのもとへと駆け寄った。六路木さんを見るとそこから抜け出そうとするわけでもなく、ただ腕を組んでじっと王馬くんを見上げている。あ、相変わらずの表情だな…。
「六路木さん!大丈夫!?」
「最原か…」
「いつもはオレが六路木ちゃんを見上げてるけど、今は逆だね。ねぇねぇ。普段見下ろしてる相手に見下されてどんな気持ち?どんな気持ち!?」
「今日はいつも以上に鬱陶しいと思ったら…。一体これは何の嫌がらせだ?」
やっぱり僕たちの様子がおかしいことには気づいてたみたいだ。
「六路木ちゃんに笑って欲しくてさ。なのに…まさか落とし穴に落ちても無表情だとはね。もっと笑えよ!」
なんて無茶な注文を…。だいたい、誘導されて落とし穴に落ちるのは笑うところじゃなく、怒るところだ。ここで六路木さんが怒らないのを見て、僕は十分彼女が大人なんだということを理解した。
「あー面白い。私としたことが、落とし穴に落ちてしまったな。あはは」
「オレが求めてるのはそういう機械的な笑いじゃない!!!」
「めんどくさい奴だな。お前は私にどうして欲しいんだ…。いいか王馬。これだけは言っておくぞ。私は無表情であっても、無感情ではないからな!!」
「無表情で言われても説得力ねーよ!」
「はぁ…王馬くん。今日はもうやめよう。僕たちの負けだよ。ね?」
「ま、負け…オレの…?」
「ショック受けすぎだよ…。またいろいろ考えて挑戦すればいいじゃないか。キミならできるでしょ」
王馬くんの肩を叩いて彼を宥めていると…。
「…ふふ」
「えっ?」
すぐそばから、笑い声が聞こえてきた。まさかと思って六路木さんに目を向けると、彼女は目を細めて微笑んでいた。
「王馬は…いつも楽しそうでいいな」
「六路木さん…」
「あっ!六路木ちゃん、今笑った?笑ったよね!?ねぇ、こっち見てよ!!」
王馬くんが必死になって六路木さんの顔を覗こうとするが、六路木さんはふいっと顔を背けてしまった。
「…ん?六路木、か?…だ、だよな。テメー、なんで下半身だけ地面に埋まってんだ?なんかの修行か?」
たまたま通りかかった百田くんが六路木さんの状態を目にして困惑していた。それはそうだろう。これはなかなかシュールな光景だ。
「いや…王馬の落とし穴に掛かってしまってな。この程度のものにも気づけなかったとは、まだまだ訓練が足りないようだ」
「またテメーの仕業か、王馬」
六路木さんは穴から抜け出すと、ふぅと息を吐いて服の汚れを落とした。その時、どこからか声が聞こえたかと思うといつの間にかモノクマが穴のそばに立っていた。
「あーっ!!!誰だよ、こんなところに落とし穴掘ったヤツは!!!かわいい我が子が落ちて怪我でもしたらどうしてくれるんだよ!!」
「怪我ぁ?ロボットに怪我とかないでしょ。故障じゃない?」
いや、それはそうなんだけど。
「だから怪我だよ!責任持ってちゃんと埋めておいてよね!!」
モノクマはプンスカ言いながらスコップを放り投げ、その場を去っていった。これで埋めろってことか…。王馬くんが1人でやるわけないし、これは僕も手伝った方がいいかな。
「終一。テメーが掘ったわけじゃねーなら、王馬に任せとけよ」
「いや…僕も一緒になって六路木さんに迷惑かけちゃったからね。今日はごめんね、六路木さん」
「ああ…別にいいさ。お前のことだ、王馬に付き合わされたんだろうと思ってな。私も手伝おう」
「助手にばかり任せてはいられねーな。オレもやるぜ!」
「ありがとう六路木さん、百田くん。…ほら、王馬くん。2人とも手伝ってくれるって。早く埋めちゃおう」
僕の隣でただ立っているだけの王馬くんに声をかけると、王馬くんは穴を覗いてから口を尖らせてしゃがみこんだ。
「えー。それはオレの仕事じゃないしね。そういうのは部下がやるもんだよ」
そのまま穴に落ちればいいのに。
「……王馬くん。スコップを持った僕の手が滑る前に、早くキミもやるんだ」
このままだとこの場所が殺人現場になりかねない。僕は無理矢理王馬くんにスコップを持たせ、穴を埋めるように促した。
「…最原ちゃん、目がマジだよ?わ、わかったよ。冗談だって。オレは働く総統様だからね。部下にだけやらせたりなんてしないよ!」
「終一はテメーの部下じゃねー!オレの助手だ!!」
「そこじゃないんだよ百田くん…」
百田くんと王馬くんが言い合いをしてるうちに、僕は六路木さんと一緒に穴の中に土を落としていった。そこまで大穴というわけでもないので、たいした時間はかからなかったけど。ようやく埋め終わったところで僕は息を吐いて背中を反らした。…ああ、地味に腰が痛い。
「…さて。終わったなら私は行くよ。着替えて、これも洗濯しなければな」
「うん、わかった。またね六路木さん」
「ああ」
六路木さんを見送っていると、それを見た王馬くんが寄宿舎に向かって声をあげた。
「次は顎外れるくらい笑わせてやるからな!!それまで鍛えておくがいいよ!!顎をね!!!」
初めて聞く捨て台詞だな…。
「でもよ。さっき六路木の奴笑ってたよな」
「え?そうだった?」
「おう。終一と一緒に穴埋めてる時な。オレらの方、笑いながら見てたぜ」
それは気づかなかった。もしかしたら、百田くんと王馬くんのやり取りや誰かと一緒に何かをするっていう行為に、少しでも楽しさを感じて笑ってくれていたのかもしれない。せっかく知り合えたんだし、六路木さんとも笑って一緒に卒業出来るといいな。後で彼女の好きそうなものを交換してプレゼントしてみよう…。
.
6/6ページ