第9夜



―翌日。

怜亜様と響、オレの3人で再びネアの屋敷へと向かっていた。あまり気分は乗らない。

「なぁ、本当にオレらが行くのか?オレその場にいたからわかるけど、あそこ純銀も神聖なもんもあるし…。何かあったらどうするんだよ」

「それはどの程度なんだ。動きや力に影響が出るのか?」

「いや、地下にあるらしくてよ。なんていうか…ほら、なんとなくぞわぞわするような…嫌な感じ?人間が何か嫌いなもの目の当たりにして、あーやだ気持ち悪い近づきたくないって思うのと一緒のやつ」

つまりは気持ちの問題か?んなわけない。とりあえず 動きや力に影響はなかった。とはいえ、わざわざ自分から弱点がある場所に足を踏み入れるなんてどうかしてる。

「…その程度なら、大丈夫。あまり、意識をそちらに向けるな」

「そ、そうか?まぁ…怜亜様がそういうなら…」

なんだかんだ言ってるうちにネアの屋敷についてしまった。やっぱり嫌な感じは…あれ?

あの気持ち悪さは前ほどではなくなっている。…遠ざけた?何のために。あいつらからすれば、いざというときのためにすぐ手の届く範囲に置いておきたいはず。…オレたちのため、じゃないよな?何にせよ警戒しておくに越したことはない。怜亜様はオレが守るんだからな!

「あ、あー…。こほん。おい、ネア!オレの姿見えてんだろ。話とやらを聞きに来たぜ」

大きな門の前に立ち、インターホンに向かって声をあげる。少し間があいて、インターホンから男の声が聞こえてきた。

『どうぞ、お入りください』

大きな門が音をたてて開き始めた。警戒しつつ、ゆっくりと歩みを進めていく。今のところ何か罠があるわけではない。…本当に何もないのか。いや、中に入った途端に通路を塞がれて、閉じ込められるかもしれない。可能性はゼロじゃない。やっぱりネアをオレたちの方へ呼び出した方がよかったんじゃないか?向こうから話を持ちかけてきたんだ。本来、話がある方が足を運ぶのは当然だ。

「…黒羽。警戒するのはいいけど、しすぎるのもよくないよ」

「でも…」

いや、そうか。そうだよな。大丈夫だ、落ち着け。

「黒羽様ー!」

声がする方を見ると、ネアが手を振りながら駆け寄ってくるところだった。直々にネアが出迎えてくるとは。ネアよりも少し下がった所には男の姿もある。

「よく来てくださいました、黒羽様!わざわざ足を運んでいただいて申し訳ありません。ですが、それは少なからず信用していただいたと受け取ってよろしいのですわね?」

「ちょっとな。ほんのちょっとだけ」

「ありがとうございます。そちらの方々が…。ああ、いえ。話は中でするとしましょう。仁科!」

どこかで聞いた名だ。そう、ネアが出掛けるときに残した、書き置きに記されていた名前。ネアの後ろについていた男が仁科と言うらしい。

「はい。それではご案内致します。こちらへ」

どうしても不安が拭いきれないが仕方ない。オレたちは互いに顔を見合わせると、屋敷の中へと足を踏み入れた。

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