第9夜



「…やっぱ信用はできねぇな。お前ん家の玄関…この時点であの“嫌な感覚”がなんとなくする。地下だかなんだか知らねぇけど、武器庫でもあんじゃねぇの?そしてそこに信仰を込めた道具や純銀を使った武器がごろごろ存在している」

「あら…さすが吸血鬼。純銀や信仰があるものに対しては鋭いですわね。確かに何百メートルも下に武器庫がありますし、純銀も神聖なものもございます。やはり万が一ということもありますから。そこはあしからず」

まぁ、はぐれの吸血鬼も増えてきてるし、身を守るために必要と言われればそうなんだけど。でもやっぱ純銀があるんじゃ、あんまり近づきたくはないな。何されるかわかったもんじゃない。

「とにかくこのまま話してても埒があかねぇ。今日は帰る」

「そのようですわね。…黒羽様」

帰ろうとした矢先、呼び止められた。何だと思って再びネアの方へ視線を向ける。

「最初、あなたが吸血鬼だとは気づきませんでした。黒羽様を騙していたつもりはありません。それに、人間だろうと吸血鬼だろうと、今日黒羽様と過ごせて楽しかったですわ。そのお礼が言いたかったのです。ありがとうございます」

「……そうかよ」

オレも、とは言わない。いつもなら適当に女捕まえて、女の行きたいとこ付き合ってつまらない時間過ごして、それで警戒心解けたとこで血貰ってポイだけど。今日のは気まぐれだ。別に、オレもちょっと楽しかったかもなんて思っちゃいない。

「暗くなってきましたわね。ここからはあなた方の時間です。…それでは黒羽様、ごきげんよう」


*


「―それで?」

みんなで生活している屋敷へと戻ったオレは、先ほどあったことを話していた。屋敷といっても見た目は廃墟のようでそこそこボロい。だからこそ誰も近づかない。場所も山奥だし。

「その女はオレたち吸血鬼と手を組もうというわけか。反政府組織なんてものが存在していたとは。…あの場にいながら、オレも気づかなかったな」

目の前の男、桐生響が首をかしげつつ意味深なことを言った。別にたいしたことじゃないかもしれないが。

「どう思う、怜亜。反政府組織とやら、本当のことを言ってるなら願ってもないことだが、騙そうとしている可能性だってある。下手には動けまい」

響のそばで、ソファーに寝転がっていた怜亜様が閉じていた瞼をスッと開いた。

崩月怜亜。彼がオレの主だ。

「……そう。その女がそこまで言うなら、話だけは、聞いてもいいけど。…ただ、オレはお前たちの主でも、今の王は響だ。決定権はお前にある。好きにしろ」

自分の“子”である響に王権を託し、従っている…。いつ聞いてもちょっと特殊な会話と状況だな。本当なら、第一始祖の怜亜様が王であるべきなのに。ああ、それにしても怜亜様は相変わらず麗しい…。

「そうか。であれば、オレも話だけは聞いてみようと思う。敵とわかれば早めに手をうつ必要がある。味方なら状況は大きく変わるだろう。黒羽に案内してもらい、こちらから出向くぞ。とりあえず怜亜とオレ、黒羽の3人で行こう。…おい、黒羽。聞いてるのか?」

「へっ?あ、ああ聞いてる聞いてる!何かあったら怜亜様を守るんだろ?バッチリまかせとけ!!」

「そりゃそうだが…。ちゃんと聞いてないだろう」

聞いてなかった。いや…聞いてたよ。所々は。その時、怜亜様がソファーから起き上がりながら口を開いた。

「…心配するな。何かあっても、オレがお前たちを守ってやる」

あああ……怜亜様っ!一生ついていきます。

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