第9夜
みんなが集まったところで、響は近辺の地図をテーブルの上に開くとトンとある場所を指差した。
「さて、仲間がくれた情報から考えようか。場所はここからだいたい北東。ウェアウルフの1人が、ある屋敷で男の吸血鬼がいるのを見かけたらしい。特徴は黒髪に紫のメッシュ…と、何やら心当たりがある人物が浮上したな」
「……響、もしかしてその人……」
「皆まで言うな。昔から何でもないように見えて厄介事に巻き込まれているからな。特に女絡みで。最近姿を見ないと思ったら、何をやってるんだアイツは。しかもこの屋敷というのも…まさかあそこじゃあるまいな」
ため息をつく響と千里に、怜亜も疲れきったような表情になった。僕は何の事だかさっぱりなので話に置いてけぼりである。
「知り合いだったのか?その吸血鬼」
「ああ。口は悪いが、根は優しい奴だ。女好きなせいかわからんが妙なもんに好かれやすいタチでな。だからか、よく厄介事に巻き込まれる」
「……稀に見る不幸体質」
ぼそりと哀れむように怜亜が呟いたが、言葉とは裏腹にその表情は嬉しそうだ。なんでそんなに嬉しそうなんだ、お前は。
『 何が厄介なのか理解できん。純血種が一般の人間に捕まるなど、滑稽な話だな。笑い者もいいところだ 』
「確かに彼なら助けなんて必要ないでしょうけど…。逃げられない理由でもあるんじゃないの」
「まぁいつもなら放っておくところだが、四の五の言っている場合ではない。今は仲間が多い方がいいからな。すぐに行くぞ」
なんだかみんなが冷たいような感じがするが、そいつは恨みでも買っているのだろうか。
*
その頃、ある屋敷の中を1人の男が走り回っていた。黒髪に紫のメッシュが特徴的だ。
「あー…くそ」
なんだってオレがこんな目に。ふざけんなよ、どこに逃げても追ってきやがって。バケモンかアイツは!!
「…どこ?どこに逃げたの?」
「!!」
どこからともなく聞こえてきた声にオレは立ち止まった。耳を澄まして場所を探る。
「私のかわいい黒羽ぁ…」
「……」
黙って聞いていると次から次へとおぞましい単語が聞こえてきた。誰がお前のだ馬鹿野郎。こうなったら外に逃げ出すしかない。オレは近くの窓ガラスに体当たりして勢い良く外へと飛び出した。
「いってぇ!あー…っ。でもこれで…」
ジリリリリリリ
「ぇえええ!!?何これ警報!?あー、もうめんどくせーな!!」
「今だ!!!」
「…え、」
何だと思うよりも早く、いきなり世界が逆さまになった。一瞬何が起きたかわからなかったが。…よく見ると宙吊りになっていた。
「対吸血鬼、黒羽様専用捕獲罠です!!!」
「やりましたね!これでやっと―……」
バキンッ
「あ」
オレは足元に巻き付いた鎖を素手で壊して取り払った。鎖をバラバラと落としながら地面に足をつけると、目の前で固まっている男たちを見つめた。
「……で?」
「ま、まだまだ!黒羽様の足元から1メートル先にも罠はあるんですよ!!そちらはなんと!先程の鎖よりもさらに強化された特別使用!!!」
自信満々のドヤ顔で言うもんだから、隣にいた男を捕まえると言われた通りその罠がある辺りにぶん投げてみた。その直後、先ほどのオレと同じように男も一瞬で宙吊りになってしまった。
「ぎゃああああ!?」
「それをオレに話してどうする。馬鹿かてめぇら。つーか、動き封じ込めたきゃ信仰があるもん用意するんだな」
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