第9夜



「いっ…てて」

なんだか最近、よく突き飛ばされている気がする。今年は厄年だろうか。わけがわからないまま起き上がろうとすると、何かが僕の上に乗り掛かった。

「い……狼?」

犬と思ったが顔つきが違う。しかもこんなにデカイ犬、まずいない。一瞬怜亜かとも思ったのだが、怜亜は黒狼だし首輪もつけている。こいつはそんなのつけてないし、毛も白か銀色のようだ。

『 動くな、死ぬぞ 』

「しゃべった…!?」

『 他の混血種と比べて人間の血が濃いな。…お前ははぐれか? 』

「違う!!!」

状況が理解出来ていないが、それを聞かれた僕は咄嗟に叫んだ。

「僕はっ…違う」

『 ………… 』

その狼は黙って僕を見つめていたが、やがてゆっくりと上から退いた。僕も上半身を起こしながら距離を取る。

『 ふん、冗談だ。お前のことは響から聞いている 』

「響?…じゃなくて!な、なんで狼が喋って…!!」

『 愚か者が、現実を見ろ。それにオレはただの狼ではない 』

突然のことに僕は頭をかかえた。ただでさえ吸血鬼のことで頭いっぱいなのに、次はしゃべる狼?も、もう嫌だ…。


べちんっ

「いたっ!」

いきなり前足で顔を叩かれた。猫パンチより遥かに痛い。頬をおさえながら顔を上げると、狼はふんと鼻をならした。

『 話を聞け。オレはただの狼ではなく、ウェアウルフだ 』

「ウェア…あっ!!」

思い出した!ウェアウルフ!!そう言えば響に話を聞いていたじゃないか!すっかり忘れてた…。喋る狼なんて間違いなくウェアウルフだ。

「悪い…。響から聞いてたよ。ウェアウルフもいるって」

『 聞いて忘れていたのか、馬鹿めが。しかし人狼といえど、オレは人の姿にはなれなくてな。いちいち人目を気にしなければ他人と会えん所が難点ではあるが 』

だろうな。こんなデカい狼(しかも喋る)が堂々と歩いていたら一発で見世物小屋行きだ。人間になれないウェアウルフもいるのか。ファンタジーの中では敵対してたり吸血鬼の下僕だったりするけど…。

『 …どうでもいいがいつまでも寝そべってないで起きたらどうだ。オレは響に呼ばれている。お前も帰るんだろう? 』

お前が突き飛ばしたくせに…と思ったが、口には出さずに砂を払いながら立ち上がった。……腰痛っ!なにこれ尾てい骨?こいつが突き飛ばしたせいだ。

「…まったく、これが現実でも夢でも最悪だ」

『 それは何故だ 』

「現実なら、僕は吸血鬼にされて大変な目にあっている。夢なら…僕は病弱なまま、いつものようにベッドの上で朝を迎えるんだ。いつか死ぬ時まで」

『 ……ふん、なるほど。そこで生きる選択をしたわけか。自分の道だ、己の目で確かめるがいい 』

…どちらがよかったんだろう。人として死ぬか、化け物呼ばわりされてまで生き抜くのか。

『 自己紹介がまだだったな。オレはティべリオ。ティオでいい。先に言っておくが、はっきり言ってオレは人間が嫌いだ。奴らがどうなろうが知ったことではない。共存などとアホな戯言をほざいている響には呆れるばかりだが…。はぐれの件に関しては奴等の行動は目に余る。それの始末に関しては響たちに手を貸してやってくれ 』

「あぁ……うん」

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